セリオの気持ち 投稿者:ぷに
 浩之は帰宅部である。とは言っても放課後になり次第
どこかに遊びに行くといったほど元気の無い、
どちらかといったら無気力人間の彼は、
愚にもつかないことを考えながら廊下を歩いていた。
(もうマルチはいないんだな・・・)
そのとき彼の頭の中にあったのはつい数日前まで
彼の学校で実用試験を行っていたメイドロボのことであった。
明るくて、元気で、けなげで。そんな彼女のことが浩之は好きだった。
だが、その彼女もテスト期間が終わり研究所に戻ってしまった。
もうこの学校の記憶はデータとしてしか存在していないだろう。
そう思うと浩之は少し哀しかった。
なにか沈んだ気分のまま校門を通り過ぎようとすると
意外な人物から声をかけられた。
「浩之お久しぶり、ちょっといい?」
声の主は来栖川綾香、来栖川重工のお嬢様で・・・
という以前にこの学校の生徒ではないし、
校門で待ち合わせをするような仲でもなかった。
「なんでこんなところにいるんだ?」
という浩之の問いは当然のものだった。
「話があるからこんなところまで来たのに決まってるじゃない
ここじゃなんだからゆっくりできる場所まで移動しましょうか」
「話ってここで話せないような内容なのかよ」
「まぁね」
「構わないがどこで話をするんだ?」
浩之には綾香ほどのお嬢様が”ゆっくりできる場所”に
心当たりはなかった。
「あれで行けばすぐよ」と、綾香が指したのは、
いつも芹香が通学に使っているのと同形のリムジンだった。

 「で、ゆっくりできる場所ってここか?」
来栖川重工HM研究室と看板の出されたいかにも
研究室といったたたずまいの建物をまえに浩之はぼやいていた。
「長瀬主任、連れてきたわよ」
綾香はそんな浩之の態度に構わず、浩之を中に引きずり込み
そこの責任者と思われる人物と話をしていた。
「きみが浩之君かい。私は長瀬。一応主任をやっている。
君の話はマルチから良く聞いていたよ」
人のよさそうな研究者然とした男の挨拶。
だが浩之はその話の内容が過去形だったのが少し哀しかった。
「で、オレに何の用ですか?」
と、言った瞬間にその男の後ろにいる人物に気がついた。
正確には人物ではなかった。HMX−13セリオ
それが彼女のコードネームだったはずだ。
「セリオのことは知っているかい?」
「はい、マルチと一緒にいるとき何回か会いましたから」
その会話中セリオは無表情だった。
そもそも浩之はセリオが表情を変えるのを見たことが無かった。
「なら話は速い、この子の実用試験に協力して欲しいんだ」
話の途中からこういう話の流れになるのは読めたが、
浩之にはこの話に乗り気にはなれなかった。
「そもそもセリオは数千万円する代物でしょう?
俺のような貧乏学生に手が出る代物ではありませんよ。
実際に彼女を使用するであろう裕福な家庭でテストするべきでは?」
「そのくらいのことは君に言われなくてもわかっているさ。
・・・マルチは君たちと接することによってより多くの事を学んだ。
セリオも君たちと接する事によってなにか良い影響があるかもしれない。
それに君の言うようなテストはセリオはもう既にクリアしているんだよ。」
そこまで言われるとどうしても断らなければならない理由はなかった。
「別に構いませんよ。期待に応えられるかどうかは知りませんが」
「それは助かる。じゃあさっそく今から連れていってテストをしてくれ
期間は1週間好きに使ってくれて構わない。並みの使い方で壊れるほど
やわではないが、1日1回の充電だけは忘れないでくれ」

 「あらためましてHMX−13型セリオです。セリオとお呼び下さい。
用件がありましたら何なりとお申しつけ下さい。主な使用用途としては
炊事・洗濯等の家事・外出時のボディーガード・後はSEXのお相手もできます」
セリオが浩之の家に来ての自己紹介がこれだった。
「・・・SEXのお相手・・・!?」
「はい以前にもお話したと思いますが、サテライトサービスにより
さまざまなテクニックを持ってご主人様に奉仕させていただく事が出来ます。」
「・・・そういう問題じゃないだろう?」
浩之は根本的なところで違和感を感じていた。
「はい?なにか問題点でも」
「いや・・・もういい・・・とりあえず夕飯を作ってくれ、18:00
に完成するように。」
「はい解りました。お好みのメニューは?」
浩之はある懐かしい思いでからオーダーを決めた。
「スパゲティミートソース」
「はい了解しました」
・・・18:00きっかり、軍人でもこうは行かないだろうという正確さで、
セリオの料理は完成した。
「ご主人様、料理が出来上がりました」
「・・・そのご主人様というのどうにかならないか?」
なにかご主人様と呼ばれるのが不快だった。
「では何とお呼びすればよろしいですか」
「浩之でいい」
「では浩之様でよろしいでしょうか」
「まぁしょうがないか・・・」
浩之は妥協する事にした。目の前にいるのはあの浩之さ〜んといって
目の前でこけるあの緑色の髪をした少女ではないのだ。
彼女と同じような態度を期待するのは無理というものだろう。
(だが、セリオだって笑えばかわいいだろうに・・・)
それが不可能だと解ってはいたが、でもそう思ってしまう浩之だった。

 セリオの料理は完璧だった。少なくともこれを食べれば
2度と普通のイタリア料理店には行きたくなくなるような、
絶品だった。少なくとも味だけは・・・。
(美味い・・・確かに美味い・・・ならなんであのマルチが料理研究会で
作ったミートセンベイを懐かしく感じているんだ俺は?)
「あの何かご不満でも?」
「いやおいしいよ。うん絶品だよこれは」
「そうですか・・・なにかご不満があるように見受けられましたので。
問題が無ければ良いのです。失礼いたしました」

 その後のセリオの働きぶりに文句をつける余地はなかった。
だが、無表情に仕事を片づけるメイドロボに浩之は何か落着かない
ものを感じていた。
(楽しくはないよな・・・便利なだけだ。マルチとは対極にある・・・)
(でも・・・商品としての価値があるのは・・・)
・・・浩之は考えるのに疲れて寝る事にした。

 (これが俺の部屋か??)
昨日とは見違えるばかりに整理整頓された部屋を見て、
浩之は一瞬呆けた。
(まぁ1週間もすればもとにもどるんだし)
と思って電気を消して寝ようとした。
 コンコン・・・「浩之様よろしいですか?」
「どうぞ」
部屋に入ってきたセリオの服装を見て浩之は仰天した。
(何故に下着?!)
セリオはブラとパンツしか身につけていなかったのである。
「先ほど申し上げたと思いますが、SEXを行いたいと思いますので、
ご協力願えればと思いまして・・・」
無機質な雰囲気に無表情なセリオにそのような事を言われても、
浩之は燃えるどころか不気味に感じた。
「いらん!!間に合ってる!!」
「ですがテストですので特に身体機能などに問題が無ければ
ご協力を・・・」
「身体機能に問題はないがとにかく嫌だ」
「何故でしょう?何かご不満な点があれば何なりとお申しつけ下さい」
「そういう問題じゃない・・・お願いだから今日は下がってくれ」
「・・・わかりました」
浩之はその直後にHM研究室に電話をかけた。
「はいこちらHM研究室ですが」
「長瀬さんですか?今日セリオをお預かりした・・・」
「ああ浩之さん・・・で、何か問題でも?」
「あれは欠陥品ですよ少なくとも俺には。明日にでも返品させてください」
「欠陥品?セリオが・・・穏やかではないですね。解りました。
理由は明日ゆっくり伺いましょう。
現状で暴走しているとかいうのではないのでしょう?」
「はいそういう意味での欠陥ではないです。むしろ完璧に仕事はしてくれました」
「そうですか・・ではまた明日、失礼いたします」
浩之はセリオとこれ以上一緒にいたいとは思わなかった。
たとえ優秀でも、完璧でも、何かが足りなかった。

 「セリオを返品?何考えてるのよ?」
綾香である。また昨日と同じようにリムジンでHM研究室に
向かっているところだった。昨日と違うところはセリオが乗っている事だった。
「理由は後で話す」
ぶっきらぼうに浩之が返す。
「到着したわよ。ゆっくりと説明を聞かせてもらうからね」
「はいはい」
昨日と同じように長瀬主任の前まで通される。
「単刀直入に尋ねましょう。セリオの何が不満なのです」
「じゃあこちらから長瀬さんに質問させてもらいます。
あなたセリオ相手に立ちますか?」
その質問の意味を察した綾香が真っ赤になる
「何言ってるのよあんた!!」
「落ち着いてくださいお嬢様・・・確かに立つかといわれれば・・・
立たないでしょうなぁ・・・そういうことでしたか」
「むしろセリオのような高級機にこそ感情が必要なのではないかと思いますが?」
「記憶媒体の容量の問題ですよ。マルチは感情回路にほとんどのメモリを
使えましたが、セリオは、サテライトサービスの制御にメモリを取られています。
セリオに感情回路を組み込めるだけのメモリを採用すると値段が倍になります」
「セリオの購入層だったら値段は気にしないんじゃない?」
綾香の意見だった。
「確かにそうですな。ではセリオに感情回路を組み込みますので、
1週間後にまたテストしていただけますか?」
「感情回路ってそんなに簡単に組み込めるものなんですか?」
「HMX−12の基礎データを流用する形になるので手間はそれほど」
「マルチの・・・?」
「ええあなたとは相性が良いはずですよ」

 一週間後浩之が家に帰ると玄関の前で、一人の女性が待っていた。
「セリオ?」
「はい!浩之様、1週間の間ですがよろしくお願いいたします」
彼女は満面の笑顔でそう応えた。あの無機質なセリオの面影はなかった。
(マルチ・・・おまえのやってきた事は無駄じゃなかった・・・
おまえの妹はこんなにかわいい女性になったんだ、よかったな・・)
「・・・ひょっとして姉様の事を考えてらっしゃいましたか?」
「なんで分かった?」
「浩之様は姉様の事を大切にしてくださいましたから・・・
今とても懐かしい何かを思い浮かべているようだったので」
「そうか・・・」
「ところで今日は何にします?」
「セリオに任せる。美味いものを作ってくれよ?」
「はい!」

 それから6日間の間セリオは浩之の家で働き続けた。
セリオはすっかり変わっていた。料理をするときも、
洗濯をするときもセリオはいつも楽しそうだった。
浩之のために働くのが好きでたまらないという様子だった。
浩之もセリオが楽しそうに働いてくれるのが嬉しかった。
「なぁセリオ、うちに来てよかったか?」
「はい、この私を必要としてくれる人のために働く喜び、
それを教えてくれた浩之さんには感謝しています」
「それはプログラミングの問題じゃないのか?」
「その気持ちを姉様に教えたのは他ならぬ浩之さんですよ。
お忘れですか?こういう言い方が許されるのであれば・・・
今、私は幸せです」
「俺もセリオが来てくれたこの1週間楽しかった」
「明日でお別れですね、でもまたいつか別の私に会えますよ」
「そうだな・・・ところでセリオ・・・」
「はい?なんですか」
「セリオが欲しい・・・思いでを作りたいんだ・・・」
「えっ!・・・はい、喜んで・・・」

 その日の夜セリオは浩之の部屋にやってきた。
「あの・・・失礼します・・・」
下着姿のセリオが部屋に入ってきた。
なにやら恥じらっている様子が非常に初々しくてかわいい
浩之はそう思った。
「おいでセリオ・・・」
「はい。」
セリオの下着を取りキスをする。
はむぅ・・・セリオの唇は柔らかかった。
「恥ずかしいです・・・」
そっとセリオをベッドに押し倒し秘裂に手を伸ばす・・・
「そこは!はぅ・・」
「セリオって敏感なんだ」
「はぁはぁ・・・いじわる言わないでください」
セリオの上気した顔でそんな事を言われると浩之も我慢が出来なくなった。
「入れるよ、いい??」
コクリとうなずくセリオ。
ずぶっ・・・別に処女膜があるわけでもないのでセリオには快感だけがあった。
浩之もセリオの中を堪能していた・・・。
「セリオ・・・気持ちいいよ」
「私も・・・嬉しいです・・・」
「・・・っ!もうそろそろ出そう・・・」
「中に出してください!一緒に!!」
セリオがイクのと浩之が出すのとはほぼ同時だった。
「・・・ついにやっちゃたね」
「後悔してますか?」
「まさか」
セリオを抱きしめる浩之、2人はその夜最高に幸せだった。

 「さよなら・・・だな」
「いえいつか会えます。私たちのデータは
妹たちへと受け継がれていくのですから」
「そうか・・・そうだねじゃあさよならは言わないでおく、またこいよ」
「はい!失礼しました」
浩之の家を出たとたんセリオは動けなくなった。
目の前がぼやけて何もみえなくなったからだ。
(出来れば一生浩之さんのお側にいたかったです・・・)
それは絶対にかなう事の無い望みであった。

 セリオが浩之の言うを去ってから1ヶ月来栖川重工の
新製品発表会があるという。綾香が「来てみる?」とは言ったものの
何か気が進まないようだった。
「どうした綾香?セリオとマルチの晴れ舞台だろ?」
「そうね・・・そうなんだけど・・」
「どうしったってんだよ?」
「来れば分かる」

 盛大に行われた来栖川重工の新製品発表会、しかし
セリオもマルチも浩之の知っている物とは全く別物だった。
セリオは感情回路は結局切り離しての発売、
マルチにいたっては最低限の機能だけを搭載した廉価版としての発売だった。
「どういう事だよ綾香!!」
「結局コストが最優先されたという事ね」
綾香の顔も決して愉快そうではなかった。
その顔を見て浩之はそれ以上綾香を問い詰めるつもりはなくなっていた。
「そうではないですよ」
長瀬主任だった
「じゃあなんで??」
「現在の感情回路ではコンピューターが人間に恋をしてしまうのです。
メイドロボはすべての人間に平等でなければなりません。
現状では感情回路はまだ実用化の段階まで行ってはいなかった、
ということです」
「ロボットだから恋をしてはいけないのか!」
「いけないという事はないと私自身は思っていますが、
HMシリーズの開発コンセプトには合わないという事です」
「そうか・・・そうなのか・・・じゃあセリオやマルチはどうなるんだ?」
「試験に使うしかないでしょう。将来ロボットに恋人的要素を
要求されることは大いに考えられます。そのような用途の
試験用としてはあの2体は最適でしょう。」
「そうか・・・あの2人によろしく言っておいてくれ」
浩之は後ろを向けて立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってください」
「なんです?」
「失礼ですが神岸あかりさんはご存知ですか?」
「ご存知も何も小学校のころからの付き合いだよ」
「マルチは彼女の家に引き取ってもらう事になりまして・・・」
「!!なんだって??」
「セリオは・・・ある特定の人物の家に行くことを強く希望しているのですが、
どうです?セリオを引き取る気は?」
「・・・冗談だと言ったらこの場で殺すぞ?」
「今から家に帰ればセリオがいますよ。帰せとは言いませんが、
月に一回データ取りのため・・・気が早い人ですね・・・」
「セリオも大切にしてもらえそうだし良かったんじゃない?」
「そうですなお嬢様・・・」

 「セリオ!!」
「浩之さん・・・会いたかったです」
「俺もだ・・・ずっと一緒だ・・・いいな?」
「はい!喜んで・・・」

END