『こみパマスターみずき』 第1話「魔法少女は大学生!?」(Bパート) 投稿者:はむらび 投稿日:2月20日(日)23時22分


 人間やれば出来る。
 結局、ペン入れとべた塗りとトーン張りと仕上げと表紙はあたしがやった。
 それでも、何とか原稿は完成した。
 三日間徹夜した甲斐があった。さすがに作業が金曜日の昼過ぎまでもつれ込
んだ時は、もうダメかと思った。
 でも、今はこのこみパ会場にいる。生きてここにいる。
 だけど……。
「柳川さん、……あたし、もう、疲れちゃった……」
「こらこらまいしすたぁ、こんな天下の往来で向こう側への扉を開くでない」
「……うっさい」
 反論する元気はまだ戻ってなかった。ジャムおじさん、新しい顔をください。
「それはそうとまい同志、吾輩の入手した情報によれば、色白い姉妹が行動を
 起こすのは昼過ぎだそうだ。それまでは自由に行動しても構わんぞ」
「……はーい」


 結局お昼まで休んでた。
 そのままぼーっとしてると、

 ピンポンパンポーン。

 呼び出しの館内放送が入った。

『会場のお客様にご連絡します。サークル色白い姉妹の方、サークル色白い姉
 妹の方。こみパマスターみずき様が「世界征服のジャマはさせない」と臨戦
 態勢でお待ちです。至急コスプレ会場までお願いします――』

 どどどどどっ!

 目標をコスプレ会場に発見。
「おおまいしすたぁ。そんなに急いでどうし……」
「この……、バカーーーーーーーッ!!!!!!!」

 どばきぃっ!

「げふぅっ!」
 力一杯ぶん殴った。
「な……、何なのよアレはっ!?」
「ごふっ、お、落ち着けまいしすたぁ。さすがの吾輩も色白い姉妹の刺客が何
 処にいるかが判らなかったのでな。呼び出しをかけてみた」
「呼び出しの放送聞いてノコノコやってくる秘密組織の手先がいるかぁっ!」

『たんめん、きしめん、びびんめん!
 らーめん、にゅーめん、ひやそーめん!』

「えっ?」
 その時、どこからともなく妙な呪文が聞こえてきた。
 声が聞こえた方を見てみると、これまたひらひらした服を着た女の子がいた。

『魔法の声優アイドル、マスターピーチ!
 呼ばれて飛び出て……、じゃなくて、リクエストに応えて、ただいま参上!』

「ほれみろ、敵がやって来たではないか」
 ……バカばっか。
「こみパマスターみずき! わざわざそっちから呼び出すなんて、ずいぶんと
 命知らずですね!」
 わざわざやって来るのもどうかと思う。
「どこにいるんですか? 隠れてないで出てきなさい!」
「さぁ同志瑞希よ! お前もこみパマスターみ――」

 ボゴッ!

「……いちいち殴るな、まいしすたぁ」
「大声で正体をバラそうとするなぁっ! だいたい、こんな所で変身したら一
 発でバレちゃうでしょうが!」
「ならばどこか適当な人目の付かない所で変身してくるがよい。なお、変身後
 はこみパマスターのスーツから常に洗脳電波が放出されるので、正体がバレ
 ることは無い。安心したまえ」
「はいはい」
 ちょっと考えてから、トイレで変身することに決めた。
 トイレに入り、人がいないのを確認してから適当な個室に入る。
 ところがその個室に、不審なバックが置き去りにされていた。
 ファスナーがちょっと開いていたので、あたしは恐る恐る中を覗いてみた。
 中に入っていたのは……、
「……着替え?」
 誰かがここで着替えたみたいだった。

(会場内のトイレでコスプレの衣装に着替えるのはダメですよ。
                            by 牧村南)


 気を取り直して、例のボールペンを握って呪文を唱えた。

『らーめん、れいめん、ぱーこーめん!
 たんめん、そーめん、ちゃーしゅーめん!』

「こみパマスターみずき! どこにいるんですか? まさか、逃げ……」
「ちょっと待った!」
「えっ?」

『こみパマスターみずき! ちょっとはずかしいけど、ただいま参上!』

「とうとう現れましたね、こみパマスターみずき!」
 そう言って、マスターピーチは手に持ったマイクあたしにを突きつけた。
 それにしても……。
「……ちょっと大志?」
 沸き上がった疑問が気になったので、大志に意見を求めようとした。
 しかし、いつの間にか大志の姿は周りには無かった。
「大志?」
「ここだ、こみパマスターみずき」
 声のした方向にに振り返ると大志がいた。
 ただし、着ぐるみを着て。しかもミッ○−マウスの。
「……ちょっと、それ何?」
「知れたことを。魔法少女のお供は『奇妙な生物』というのはデフォだろう。
 とりあえず着ぐるみで代用してみたが、いかがかな?」
「……そうじゃなくて、そのキャラクターはヤバイから他のにしなさいよ」
「むぅ、無念……。では、このヘモヘモ着ぐるみにするか」
「それよりさ、大志、あのマスターピーチって桜井あさひちゃんに似てると思
 わない?」
「何を言うかまいしすたぁ。あれはどこから見てもあさひちゃんに決まってい
 るだろうが。この吾輩が、あのあさひちゃんのお顔を見間違える事など無い」
「えっ? あっ、き、きゃあああああっ!!」

 ゴスッ!

 今のは、机で大志の頭を殴った音である。あさひちゃんが。
「あああ、あ、あたし、さ、桜井あさひなんかじゃありませんっ! た、ただ
 の通りすがりの魔法少女ですっ!!」
「……さいですか」


「こ、こみパマスターみずき! あなたには死んでもらいますっ!」
 あさひちゃ……もとい、マスターピーチはマイクを持って構えた。
 そしてマスターピーチにエネルギーが集まり出す。
 何かが、……来る!?
「ミラクルボイス!」

 ドガァッ!

 見えない固まりが床にぶつかり、床が大きくひび割れた。
「な……、何よこれ……?」
「うむ、どうやら声を破壊のエネルギーに変化して飛ばしているようだな」
「……いつの間に復活したのよ、大志。ひょっとして、あんた自分を改造して
 ない?」
「失礼な。吾輩は生まれてこの方、自分の身体はいじっておらん。しかも生ま
 れてこの方、医者の世話になった事も無い。もちろん風邪などひいた試しも
 無いぞ」
 そんなことまで聞いてない。
「それより、あの攻撃をどうにかできない?」
「……まい同志、お前は大事なことを忘れているぞ」
「な、なにが?」
「うむ、あのマスターピーチとやらは、桜井あさひちゃんであるぞ」
「それが?」
「つまり、こういう事だ」
 すると大志は、いきなりマスターピーチの方へ歩き出した。
「な、何をする気?」
 そしてマスターピーチのそばまで行き、やおらこっちを向いて声高らかに、
「さぁ、どこからでもかかってくるがいい!」
 と言いきった。つまり裏切った。
 ……く、
「くぉらっ! 何バカな事やってるのよ! さっさと戻ってきなさいっ!!!」
「断る。吾輩は常に桜井あさひちゃんの味方だ」
「あ、あの……、今は、マスターピーチなんです……」
 ……あとであのバカシメてやる。


「さぁマスターピーチ! 今こそトドメをさすのだ!」
 大志のヤツ、完全にその気だ。
「えっ? は、はいっ!」
 再びマスターピーチが構えた。大きなエネルギーが彼女に集まりだす。
「トドメよ! こみパマスターみずき! 必殺! ミラクルボイスエクストラ
 バージョン!!」

 ドシュゥッ!

 さっきのとは比べ物にならないほどの強力なエネルギーが襲いかかった。
 やられる! そう思った時、

 ヒュン! バシュッ!


 どこからともなく一輪のバラが投げられ、それはエネルギー体を突き破り、

 ガツッ!

 そして床に刺さった。
「これは……?」
「だ、誰?」
 バラが飛んできた方向を見ると、タキシードに身を包み、マントを羽織って、
シルクハットを被り、しかし素顔のままの千堂和樹が立っていた。
「私の名はカズキード仮面」
 いや、仮面つけてないでしょ。
「……和樹? あんたまで何やってんの?」
「ち、違う! 私は千堂和樹というナイスガイとは何の関係もない、ただの通
 りすがりの乙女の味方だ!」
 ……自分でナイスガイってよく言えるわね。Leafゲーム前代未聞の野外
をやってのけたくせに。
「……で、カズキード仮面、あなたは何者?」
「カズキード仮面様」
「……」
「カズキード仮面様」
「……カズキード仮面様?」
「うむ、こみパマスターみずきよ、私は君の味方だ」
「……で、正体は謎。ってわけ?」
「ご名答」
 それなら顔を隠しなさいって。


「さて、こみパマスターみずきよ、お前の後ろにある電光掲示板を見よ」
「え?」
 その通りに、あたしの後ろに電光掲示板があった。
 その電光掲示板には、

『ピーチ(カズキード仮面の方を向き)
 「あ、あなたは何者? なぜこみパマスターみずきを助けるの?」』

 と表示されていた。
 そしてマスターピーチはカズキード仮面の方を向き、
「あ、あなたは何者? なぜこみパマスターみずきを助けるの?」
 と一字一句間違えずに喋った。
「……、これって……」
「そうだ。彼女は電光掲示板をカンペ代わりに使っている。さあ、あの掲示板
を壊すのだ! こみパマスターみずき!」
「わ、わかったわ!」


 あたしはステッキを強く握りしめた。
 するとステッキが光り輝きだした。そして、
「マジカルブーメラン!!!」
 そう叫んで、思いっきりステッキを投げた。

 ガシャーン! パキーン!

 見事電光掲示板に命中。跡形もなく破壊された。
「あっ! う、うそ……」
 とたんに、マスターピーチは糸が切れたようにへたりこんだ。
「あ、あの、その、え、えっと、あの、その……」
「な、何よ?」
「あ、あの、け、掲示板壊されちゃったら、その、あ、あたし、その、だ、台
 本が無いと、う、うまく喋れなくて、あの……、……ひっく、ぐすん……」
「安心したまえあさひちゃん! この九品仏大志が代わりに――」

 どかばきぐしゃ。

「……今のはさすがに痛いぞまい同志」
「……いつまでもふざけてないで、さっさと裏切ったフリは止めなさいっての」
「失礼な、吾輩はいつでも真剣だ」
「なら、さっきは本気で裏切ったんかい!」

 どすぼこどかばき。

(しばらくお待ちください)


 マスターピーチ、いや、あさひちゃんはもう戦意を失っていた。
「……さて、あさひちゃん、どうしてこんな事をしたの?」
「あ、あの、ブラザー2がこみパを支配して、そ、それから、ぷ……」
「ぷ?」
「ぷ、ぷに萌えメイドさん本を閉め出すって、その、色白い姉妹の人にきかさ
 れて、それで……。うっ、ひっく……」
 いや、そんな話しを真に受けるなんてどうかと思うし、こんな所で泣かれて
 も困るし。
「そんなことはないぞ! あさひちゃん!」
「えっ?」
 突然大志が割り込んだ。
「ぷに萌えメイドさん本こそ男のロマン! いや、全人類のロマン! 例え我
 等がこみパを支配しても、ぷに萌えメイドさんモノを排除するなどという事
 は無い。むしろ、メイドさんオンリーイベントを開催する予定だ」
「そ、そうなんですか?」
「吾輩に不可能はない。そしてこの件に関しては嘘はつかん」
 この男ならやりかねないと思う。
「そ、そんな……。そ、それじゃあ、あ、あたしは……」
「うむ。不憫だが、色白い姉妹にそそのかされていたのだよ」
「そ、それじゃ、あ、あたしはどうすれば……」
「いや、どうやらそうものんびりしていられなくなったようだ」
「えっ?」


「あっ、あの人達です! さっきから暴れているコスプレイヤーは!」
「おーし、お前ら! そこから動くんじゃねぇぞ!」
 見れば、警官達が駆け足でこちらに向かって来ていた。
「むぅ、誰かが通報したようだな」
「ちょ、ちょっと! こんな所で捕まったら、あたしの一生おしまいじゃない
 の! どうするのよ?」
「あ、あの、あたし、つ、捕まるわけには……」
「安心したまえまいしすたぁ達。九品仏家、いや、ジョースター家には伝統の
 戦い方があってな」
「な、何?」
「えっ?」
「それは……」
「「それは?」」
 大志は回れ右をしてこう言った。

「逃げる!」

「やっぱりーーーーっ!!!???」
「あ、あたしもーーー!!??」


 逃げた。あたしは泣きながら走った。
「ううぅ……、何であたしが犯罪者にならなくちゃいけないのよ……」
「気にするなまいしすたー! 我々が世界を征服した暁にはそんなささいな事
 を気にしなくてもよくなる」
「あぁ……、あたしに普通の大学生の生活を返してっ!!!」


「あ、あの、あ、あたしはどうすれば……」
「うむ、こんな事をしでかした以上、今止まればあさひちゃんも捕まるだろう
 な。それが嫌なら息が上がるまで逃げるのだ!」
「そ、そんなぁ……」


 一方その頃、準備会のスペースでは……。

「あの……、マスターピーチが失敗したみたいです……」
「あらあら。それじゃあ彩ちゃん、次はあなたがやってくれる?」
 ……こくこく。
「お願いね」
「……あの」
「なぁに?」
「マスターピーチは、……どうしますか?」

「一週間おやつ抜き、ね」


 なお、こみパ会場の屋上では、

「だあぁーーーっ!!! 仮面付けるの忘れてたぁっ!!!???」

 千堂和樹が今さら、素顔であることに気付いて悶絶していた。



                               つづく。



 ■■■次回予告■■■

 瑞希『いきなり魔法少女に改造されちゃったり、世界征服を企む組織と戦う
    ハメになったり、おまわりさんにに追っかけられたり……。えっ?ま
    た新しい敵が現れた? もぅヤダ! あたしに普通の大学生活を返し
    てっ!!!』 

 次回! こみぱマスターみずき第2話! 【あの子は無口な女王様】!

 彩『……ひざまづいてわたしの足をおなめ、ポチ』

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