強者達の宴 投稿者:はむらび
 生温い風が吹いていた。肌にまとわりつくような嫌な風だった。だが、それ
を意にも介さない者達もいた。
 「…ここなのね? セリオ」
 目の前にある建物を見上げて、少女は連れに問いかけた。少女の名は来栖川
綾香。総合格闘技エクストリームの大会において高校生女子部門のチャンプ。
「女王」の肩書きが相応しい。そういわれるくらいに強く、そして美しさも備
えていた。
「――はい、綾香お嬢様」
 綾香の問いかけに応えた少女の名は、HMX−13型。通称セリオ。セリオ
はメイドロボと呼ばれる介護用ロボットの一種である。しかしセリオには他の
メイドロボには無い、ある機能が備わっていた。それはサテライトサービスと
呼ぶ。来栖川の人工衛星を経由して様々なデータを受信する機能である。これ
により、いかなるプロフェッショナルの技も、瞬時にして自らのものにする事
が出来るのである。
「セリオ、準備はいい?」
「――はい、必要なデータのダウンロードは終わりました」
「OK。じゃ、行くわよ」
 二人は建物の中に入った。
 建物の中にある舞台は、今日も今日とて宴が繰り広げられていた。いつもは
己を鍛える事を目的とする者達がたむろするそこは、今は様々な人間が入れ替
わり立ち替わりで、己をさらけ出している。舞台に上がる者、そして彼らを遠
巻きに眺める者。彼らは皆、一時の宴に酔いしれていた。
 だが、綾香は怯まなかった。むしろ綾香の顔は自信に満ちていたのである。
 綾香達は黙って列に並んだ。そして、自分たちの番が来るのを待つ。
「…セリオ、行くわよ」
「――はい、綾香お嬢様」
 やがて二人の番がまわってきた。二人はそれぞれの担当する筐体の前に立つ。
そして、まずセリオがBM2DXの筐体に200円を入れる。ついで綾香がD
DRの筐体に200円を入れた。それから綾香はモード選択画面を出し、迷わ
ずダブルプレイを選んだ。
「いいわよ、セリオ。始めて」
「――はい。それではいきます」
 それに応えて、セリオもダブルプレイのコマンドを入力する。

 『受付完了』

 こうして、クラブバージョンによる「二人ともダブル」プレイが始まった。

 さて、遊び終わった二人は少し休憩していた。
「やっぱりダブルで遊ぶときは、1クレジット100円設定の台じゃないとね。
 200円設定の二倍はお得だし」
「――……」
「にしてもセリオ、いつも悪いわね。いつもBM2DX側を任せちゃってるし、
 今度は100円設定の台を探すのも手伝ってもらっちゃって」
「――……」
「そうだ! セリオ、今度はあなたがDDR側でやってみる?」
「――……」
「…どうしたの? セリオ。さっきからずっと黙っちゃって」
「――綾香お嬢様、先程のプレイ中の事なのですが」
「何? 何かあったの?」
「――…綾香お嬢様のスカートの中が見えていました」
「…マジ?」
「――ハッキリと」


 おしまい。



http://www1.neweb.ne.jp/wa/hamurabi/