何故か、矢島の家に遊びに行くことになり、今は奴と二人で下校している。 まあ、それは別に良いのだが、駅前にさしかかった頃から 矢島の行動に落ち着きがなくなったのが気になった。 「どーした矢島。なんかあんのか?」 「いや・・・・ちょっと今は会いたくない人が・・・」 「あー!とー君だー!!」 背後からかけられた声に、矢島の肩がビクッと跳ね上がった。 「・・・・れ、玲子さん・・・・」 振り返ると、ショートカットの活発そうなお姉さんが立っていた。 多分、俺達よりも一つか二つ年上だろう。 「最初に断っておきますが、違いますからね」 何が違うのか俺には解らなかったが、矢島はこれでもかと言うほど力を込めて断言した。 「えー、そんなの言われなくても解ってるよー」 玲子さんの言葉に何故かほっと肩をなで下ろす矢島。しかし、 「だって、二人ともあからさまに『攻め』タイプじゃん」 どんがらがっしゃーん!! 矢島はこけた。それもかなり盛大に。 ・ ・ ・ 「じゃあ藤田君、とー君。まったねー」 それから軽く話した後、玲子さんは現れたときと同様に、元気良く去っていった。 会話には、攻めだの受けだの上だの下だの、意味のよくわからん単語が連発されたが、 矢島の態度からなんとなく聞くのがためらわれた。 だからその辺は置いといて、再び歩き出しながら残った疑問をぶつけてみた。 「なんでお前が『とー君』なんだ?」 「んー、単純なあだ名だよ」 そう言いながら、一軒の小ぎれいな二階屋の前で立ち止まった。 「ほら、着いたぜ。ここが俺ん家だ」 その家の表札には只一文字 「矢」 とだけ書かれていた。