たとえばこんな休日  投稿者:柄打


トゥルルルルル・・・トゥルルルル・・・ト

 あ、佐藤さんのお宅ですか?私、綾香と申しますが・・・
え?あ、雅史。うん、そう、私。ねえ、天気も良いし、今日何処か出かけない?

『ごめん。今日は浩之と約束してたから』

 私の休日は、そんな電話から始まった。


〜〜たとえばこんな休日〜〜


 天気は快晴。
 冷たく乾いた空気が頬に気持ち良い。
 多分、絶好のデート日和。
 なのに何故かショッピング街のアーケードを一人で歩く私がいた。

 大体なんで彼女からの誘いより、友人との約束をとるのよ、あいつは。
 まったく、そんなんだからホモじゃないかなんて根も葉もない噂が立つのよ。
 ・・・まあ、その噂を学校の子から聞いたとき、一瞬本気で驚いて
しばらく自己嫌悪に陥ったのは私だけの秘密だけどさ・・・・・・・

 はぁ・・・・

 思わず、溜息がこぼれる。
 っと!いけない、いけない。このままじゃ、どんどん気が滅入ってしまうわ。
 とりあえず、手近な総合デパートに入ることにした。
 
 特に目的があるではなしにぶらっと眺めていたら、一着のジャケットが目に付いた。
 確か雅史も似たようなの持ってたわよね・・・
 今月のお小遣いの残高を頭に思い浮かべる。

 この辺よく勘違いされるのだが、私の一ヶ月のお小遣いの額は
平均的女子高生のそれから、大きく逸脱してはいない。
 なぜなら私の所有する高価な品々は、状況に応じて『与えられた物』であり、
私自身が望んで入手した物ではないし、させてもくれない。
 一応いざというときのために、限度額がそれこそ一般常識さえ超越しているような額の
カードを持たされてはいるが、こちらの支出はに関しては厳しく管理されている。
 従って、こういった私的な買い物は、
適度に与えられたお小遣いから捻出するしかないのだ。

 だから私と買い物をすると、程度の差こそあれ皆例外なく意外そうな顔をする。
 でもたった一人だけ、全くいつもの調子で「へぇ」とだけしか反応しなかった人がいた。
 ふと手にしたジャケットに視線を落とす。
 それを着てそいつの隣に立つ自分が、ふと頭に浮かんだ。
 ・・・
 いいや、買っちゃえ。
 思わず、顔がほころぶ。頬が軽く上気しているのがわかる。
 そんな自分の反応を楽しみながらレジに向かう途中、見知った顔を見つけた。
 つい先刻想像していた人物だけに、思わずドキッとしてしまった。

 咄嗟に物陰に隠れ、そっと様子をうかがう。

 そういえば、服を見に行くとか言ってたっけ。新しいの買うのかしら?

 あ、うん、それ良い。今手に持ってるやつ。

 こ、こら浩之!変なもの勧めるんじゃないわよ。

 あーん、焦れったいわねぇ。右よ右。絶対にそっちの方が似合うわよ。
私が良いって言ってるんだから、右に決めちゃいなさいよ。

「で、どっちにするんだ?」
「うーん、そうだね。こっちにするよ」

 ・・・・・・・・・・・・・


〜〜そして1週間後〜〜

「ね、ねえ。なんだか怒ってない?」
「別に!」
「???」