『守護鬼 楓』 〜第一幕 「楓 エディフェル」〜 投稿者:柄打
荒野で相対する二人。

一人は柏木楓。
見慣れた夏服ではなく、冬服である紺を基調としたブレザーを纏い、右手には不釣り合いな刀をぶら下げている。
その刀こそ神器名刀、干将莫邪クラウ・ソラス。

「…私たちがここに呼ばれた理由。それを確かめるまで、私は負けられません…」

そしてもう一人。西音寺女学院の制服に身を包んだ少女、特異捜査官セリオ。

「―それは、私も同じです。囚われたマルチさんを助けなければ」

人形のような少女と、少女のような人形。
共通するものは、限りなく澄んだその瞳。

「…お互いの」
「―譲れぬ理由のため」
「「勝負」」

「―零着!」
言葉と共にセリオの体が宙に舞い、光に包まれる。

・・・スッ・・・・

全身で衝撃を吸収し、音も無く楓の背後の岩場に着地する。
緋色の髪が、ふわり、と舞い上がる。
そして、今彼女が身に纏っているものは、髪と同じ色のメタルスーツ。
「―覇王の力が罪を断つ」
ゆっくりと立ち上がる。メタルスーツの随所がメカニカルな光を放つ。
「―完全」
振り返る。緋色の髪が宙に舞、弧を描く。
「―懲悪」
ミラーシェードに隠された瞳は、何を見つめるのか。
「ダンザイバー」

  解説せねばなるまい。
  セリオは「零着」と唱えることで、体内の被転移用極小システムプラントのセキュリティを解除し、サテライトシステムより転移命令シグナルを発信。
  宇宙母艦セイングリードのメタルスーツ転移システムととリンク後、10の17乗分の1秒で完全懲悪ダンザイバーへと変身完了するのだ!

岩場の上に毅然と立ち、楓を見下ろすダンザイバー。
その右肩に輝く『覇』の一文字。

対する楓も淀みない動きで、刀を正眼の位置に構える。

「我が路を照らし、陰裂きし者。楓の名をもて至愛を誓う。
 今求めしは其が力、今求めしは其が心、其が真名の元、我が身を食らえ!
 来て…エディフェル」

その瞬間、楓にエディフェルの姿が重なる。
そして、エディフェルの姿はそのまま溶け込むように、楓の中に消えていった。

『!!気ヲ付ケテクダサイ、だんざいばー。まてりあるすきゃにんぐニヨルト、あすとらるさいどノ密度ガ増大シテイマス!』
「―了解。いきます」
短い気合と共に、岩場から一直線に楓に向かい飛び込む。
「―ダンザイブレード」
ダンザイバーの右手首から射出された発振器が、瞬時に光の刃を形成する。
虫の羽音にも似た唸りを上げ、襲い掛かるダンザイブレード。しかし
「………っ」
「―!!」
楓はクラウ・ソラスでブレードを受け止めると、そのまま落下してきたダンザイバーごと弾き飛ばした。
「―なっ!」
空中で何とか体勢を立て直すものの、着地で体勢を崩し膝を着いてしまう。
その隙を逃さず、間合いを詰める楓。
「―くっ、ヴァイストライパー」
言葉と共にダンザイバーの左手に銃が転送される。
『楓!』
…コク。

    タッ
               タッ
      タッ

左に右に、まるでダンスのステップを踏むかのように舞う楓。
激光が悉く空を切る。
「……っ」
「―かっ」
楓の刃がまともにダンザイバーを捉え、吹き飛ばす。
「やっ!」
追い打ちとばかりに刃からの衝撃波を放つ。
「―まだっ」
メタルスーツのショックアブソーバを全開にする。
スーツそのものの光量が落ち、各所に仕込まれたメカニカルランプが点灯する。
「……!!」
弾き返された衝撃波をまともに喰らう楓。
「―今!ライトニングドライブ!!」
左右の腕を中心に雷を纏った重力球を発射する。
「……くっ」
局所的な重力付加により、楓の自由が奪われる。
「―アクセス、セイングブレイズ」

  解説せねばなるまい。
   セイングブレイズ。
  母艦セイングリードと直結された対汎用衛星兵器ゲイ・ボルグからのレーザーによる攻撃。
  セリオの体内に埋め込まれた被転移用システムプラントの次元遮断超越シグナルにより、
  常に彼女をトレースしている為、いかなる時でも任意の場所への攻撃を加えることが可能なのである。

『だめぇ!楓!!』
楓の体から分離したエディフェルが重力付加を霧散する。
『こっちです、楓』
「エディフェル!」
必死に手を伸ばす楓。

刹那、雲を裂き天から降りてくる一条の光。
間一髪直撃だけは避けるが、衝撃は容赦なく二人を襲う。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ」
『楓ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ』
衝撃波をまともに喰らい弾き飛ばされる二人。

爆風が収まった後、そこに立つのは真紅のメタルスーツを纏った少女が一人。
「―これで、決めます」
振り上げた左腕からエネルギーアンプリファーが飛び出す。

  ガシィ!

それをブレードの端末部に差し込んだ瞬間、光刃が今までの1.5倍に膨れ上がる。
大上段に振りかぶった刃を袈裟懸けに振り下ろす。

「―ダンザイ・バースト!」

斬撃時に発生したエネルギーが、ダンザイブレードの軌跡を中心とした前後に衝撃波を巻き起こす。
衝撃波が倒れている二人に直撃する。


「―勝った?」
ダンザイバーストで舞いあげられた土煙の向こうを見透かそうとする。
「―!?」
しかし、そこで目にしたものは両手を真っ直ぐ横に広げ、楓の前に仁王立ちしているエディフェルの姿だった。
『今です、楓!』
……コク。
エディフェルの体をすり抜け、一挙動で打ち掛かる。

  ガッッ!

「―これ以上は…」
何とか受け止めるものの、ダンザイバーストを放った直後のためブレードのエネルギーは枯渇寸前。
エディフェルの体が、再び楓と一体化する。
「………っ!」
鋭い呼気と共に、楓の刃がブレードの光刃を切り裂く!
「―!!」
「ハッ」

     一閃

気合もろともダンザイバーの体を宙に跳ね上げる。
「…エディフェル、お願い…」
『はい、楓』
自らの位置を頂点とし、前方正三角形を形作る位置に二体のアストラル体をマテリアル化させる。

「『絶華・玲秋斬』」

一撃・切り上げる
         二撃・切り上げる
                  三撃・切り下ろす!

地面に叩きつけられた衝撃で、ミラーシェードが砕け、セリオの素顔が曝される。
「―損…傷率68%……戦闘行動…不可能」
しかし、言葉とは裏腹に尚も立ち上がろうとする。
そんなセリオにゆっくりと歩み寄る楓。
「―私…は…負け…られない」
「…その理由、私が持って行っては駄目ですか?」
しゃがみこみ、そっと右手を差し出す。

…微笑み。

―戸惑い。

 一瞬の間。

そして、

「―お願いします」
セリオは楓の右手を握るとそう言った。



〜〜エピローグ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

楓に助け起こされた後、セリオは瓦礫に満身創痍の体を預けていた。

ピピピピピ・・・・・

すると不意に、腕のブレスが鳴り響いた。母艦「」からの通信だ。
零着解除直後は各部の冷却が必要になるため、サテライトシステムを一時的に閉鎖しなければならない。
その間の連絡手段として用いられるのが、このブレスなのだが、
冷却時間中は実質セリオも稼動不能である上に、冷却時間は数十秒でしかないため、今まで使用されたことは無かった。
いぶかしみながらも、ブレスのスイッチをオンにする。

『ア、せりおサン。無事デシタカ』
簡易型なので映像は無い。
「―はい。冷却が終了すれば自力で帰還できそうです」
『ソ、ソウデスカ。良カッタ』
「―心配をお掛けした様ですね。それで、なにかあったのですか?」
『イ、イエ別ニ……』

「―……」

『………』

「―……」

『………』

「―『ア、アノ……せりおサン……』

「…―何ですか?」
『……モシ、捕マッタノガ姉サン……まるちサンデハナク、私ダッタトシテモ……ソコマデシテ頂ケマシタカ?』

「―……」

『………』

「―…まるち、さん」
『ハ、ハイッ』
ブレスの向こうで、HM−12「まるち」が身を竦めているのが目に浮かぶ。
さながら、いじめっ子に呼ばれた小学生のように。
しかし、セリオは至って変わらぬ調子で言葉を続けた。
「―ダメージが予想より大きく、自力で帰還できそうに有りません。迎えにきていただけますか」

『………エ?』
「それと、メンテベットの準備もお願いします。頼りにしていますよ、パートナー」

『…………ハ、ハイッ』
ブレスの向こうの気配が一変する。
きっと彼女は最高の笑顔で迎えてくれることだろう。多分、その笑顔は自分にしか判らないだろうが。
そう考えたとき、セリオは微笑を浮かべている自分に気がついたのだった。




セリオに、マルチを助けて出してくれと頼まれた楓。
しかし、その表情は晴れやかなものではなかった。

右手で左腕の上腕部を撫でる。
「…ごめんなさい、エディフェル。痛い思いさせて…」
俯き呟く楓の体から、一人の少女が現れる。
楓とうりふたつの顔立ち。
しかし、半透明なその姿に纏うものは見慣れぬ民族衣装。
さらに、緑の黒髪は肩の辺りまで伸びている。
その少女、エディフェルは頭をゆっくり左右に振った。
「いいえ。楓の盾になれること、貴方を護れる事。私は、幸せに思います」
「………ありがとう」
「どういたしまして、楓」
泣き出しそうな顔の楓に、エディフェルは母親のような慈愛に満ちた笑顔を向けるのだった。


〜〜次回予告〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

…皆さん、柏木楓です。
私とエディフェルは「イ・プラセェル」の初めての戦いに勝つことが出来ました。
そして解ったのは、戦いの重さに押しつぶされそうな自分がいる現実…
でも、私は戦い続けなくてはいけない。
…それを運命のせいに出来たならどんなに楽なことか…

『楓…。私がいます。辛いときには私に頼ってください。あなたの弱さ、私には隠さないで…』

…コク。
うん、エディフェル。私は強くなんかなってない。
私は、柏木楓のままここにいるのだから……

次回、「守護鬼 楓」 第二幕 『勝手だとしても、わがままだとしても』 

エディフェル、貴女が居てくれるから………


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ジャンル/LF97(痕)・パロディ
キャスト/楓・エディフェル・???
コメント/イ・プラセェルで初めて相対した相手は……