悩み多き年頃 投稿者: ふぁいあふらい
「まるちぃー、おせち」
「はーい、今持ってきます」

「まるちぃー、おはし」
「はーい、今持って…」

「まるちぃー、しょうゆ」
「はーい、今…」

「まるちぃー、ペンギン」
「はー…」

 そろそろくるぞ!と、俺はどきどきしながらその時を待った。
 この瞬間が、生きててよかったって感じる時だよね。
 そして…

「あわわわわっ…」
『どさっ。』
 予想通りに見事にコケる。
 俺はマルチが転ぶ前に、片手でだきとめた。
 うーん、このドジぶりが何ともいえずまったりとして…

「浩之さぁん…ごめんなさい。また…」
 俺はマルチが言い終わる前に、彼女を立たせ直して頭を撫でた。
 なでなで。
「うーん。今日は晴れ着だから仕方ない、気にするな」
 しょぼんとしてマルチがつぶやく。
「…すみません」
 ちょっとシリアスバージョンのマルチにたじろぐ俺。
  
 うーん、そうくるとは。
 予想していた23546通りのセリフに合致しない。
 どうしよう…
 まあ、ちょっぴりセンチもいいかな…いまさらだけど。

「なあ、マルチ。ここじゃ寒いからこたつで話そう。」
「あ、は、はい…」
 俺はマルチの背中を、片手で抱えながら居間へ向かった。


「で、どうしたの?」
「はい… 私って、いつまでたってもドジで、浩之さんのお役に立てなくて…」
「…」
「普通の人間なら同じ失敗は繰り返さない、か」
「えっ!」
 びくっとするマルチ。
 
 俺は、屠蘇をぐびっと飲みながら淡々と語る。
「で、どっちについて悩んでるのかな?」
「え?」
 困った顔をするマルチ。
「失敗をしたこと? それとも自分が人間でないこと?」


「…自分が人間でないことです」
 少女は実直すぎる質問に、心の奥にある刺を静かに見せた。
「ふう…」
 俺は酔ったせいもあって淡々と語る。


「ロボットは確かに作為的だね。人に作られたのだから…
でもどうだろう。悩むことは人に似ていると思わないかい?」

「でも人間のみなさんは、もっと大きなことで悩んでいます。
ほんとにいろんな事があって、つらくて…
私の悩みなんかよりずっと…」

「みんなそう思ってるんじゃないかな」
「えっ?」

「自分の悩みなんか、ってね。
そうやってくよくよしたり、どきどきしたり、ごまかそうとしたり。

形は違っても重みは同じだと思う。悩むということ… 心の痛みにおいてはね」

「でも…」
 そう言いかけたマルチを止めて、俺は言葉を続けた。
「ロボットの体と人間の体は違うって言いたいんだろう?」
「は、はい…」
 
 先に言いたい事を言われてマルチは戸惑っている。
 このあたりがチャーミングだよな。
 そんじゃそろそろ、たたみかけるか… うーん悪党だよな、俺。

「もし、マルチがロボットだってことで蔑視する奴がいたら、俺がそいつを笑ってやるよ」
「笑う?」

 きょとんとするマルチ。

「だってそいつは、神経の束にすぎない体にすがって、自分の心の弱さを隠してるんだから」
「そ、そんな言い方よくないですうー」
 マルチは困った顔をしている。
 うーん。チャーミング、ってそんなことより発言のヤバさに気づけよ、俺!

「いずれにせよ、心を痛めて悩みながら前進していこうとするマルチは、えらい、えらい」
 マルチのほっぺを、なでなでする俺。
 うっとりするマルチ。
 俺はマルチを胸に抱きとめた。ちょっと作為的。くすっ。



「…浩之さん?」
「何?」
「…私、できる限りがんばります」
「ああ。そうしろ、そうしろ」

 俺は自分の胸の中で小さくなっているマルチの肩を、ぽんぽんと優しくたたいた。
 うーん。この単純さがうまいよなあ。わかっちゃいるけど…らぶりーらぶらぶ、マルチ。


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はじめまして。マルチのおはなしが浮かんだので、突発的に書かせてもらいました。
小説を書くのははじめてなので、行き届かない所があるかもしれませんが、どうかお許しを。
内容は見ての通り、らぶらぶすとーりーです。
りーふの作品は良いですよね。みんなで共感できるというか…なんかほっとします。
制作者、経営者の皆様、これからもいい作品をお願いします。

http://www2.justnet.ne.jp/~firefly/index.html