桜の季節を振り返ってみれば     第1話   「ヒロ雪国」 投稿者: 葉岡 斗織
桜の季節を振り返ってみれば
     第1話   「ヒロ雪国」

 トンネルを抜けるとそこは…。

 3月初め。
 大学も決まり卒業式も終えたオレは、最後の悪あがきをしていた。
 悪あがき…。
 思えば3年なんて一瞬だ。
 まったく、オレは何をやっていたんだ。
 このイベント、チャンスは冬にしかやってこないってのに。
 限られたチャンスを生かせず、オレはまだ未体験だ。
 だが、しかし。
 オレはこのイベントを、高校生のあいだにぜひ達成しておきたい。
 無論、そこに意味はない。
 意味はないが、意義は…意義もないな。
 まあいい。
 とにかくオレは、達成したいんだ。
 卒業式が終わったとはいえ、3月のあいだは高校生。
 そう、高校生なんだ。
 まだ、大学生じゃない。
 よーし、オレは体験してやるぜ。
 文学の世界ってヤツをな。
 カタン、コトン。
 カタン、コトン。
「浩之ちゃん、4人で旅行なんて初めてだよね」
 ああ、そうだな。
 だが、違う。
 違うんだぜ、あかり。
 オレが体験したいのは、そいつじゃないんだ。
 たしかに、このメンツだけで旅行ってのは初めてだ。
 だが、オレが体験したいのはもっとカクチョー高いんだ。
 ん、カクチョー。
 なれない言葉は使うもんじゃないな。
 字がわからん。
(おいおい、“格調”だよ)
 しょーがねえな、もう現役じゃないんだから。
 あと1ヶ月もすりゃ大学生なんだ。
 使わねー字を忘れもするさ。
「ヒロってホントにガキね。
 さっきから窓の外ばっか見ちゃって。
 電車から見える景色が、そんなに珍しいの」
 うるさいぞ志保。
 このイベントはな、決定的瞬間が大切なんだ。
 気がついた時に偶然景色が変わってましたなんて、洒落にもならねー。
 そうとも。
 文学ってヤツは、一瞬の気も抜けないバトルなんだ。
 ほら、うだうだいってるとイベントが始まるぜ。
 ゴゴォォォーーーーーーーーーー。
「うわあ、トンネルだ。
 ねえ浩之、窓は閉めとこうよ」
 雅史がでかい声で叫んでる。
 だが、ここはあえて無視だ。
 いいか、ここからが正念場なんだ。
 この後が、一番大切な瞬間なんだ。
 ほーら。
 そろそろトンネルを抜けるぞ。
 そうすれば、そこは…。
「落ち着けーーーーーーーーーー」
 オレは思わず叫んでいた。
 ふふん、文学の世界ってヤツも奥が深いぜ。
 いきなりフェイントでくるとはな。
 あかりと志保と雅史が、突然叫んだオレをみつめてるが…。
 大丈夫、オレは冷静だ。
 落ち着けって叫んだんだ。
 そう。
 さっきのあの一瞬。
 初体験を確信しかけた瞬間。
 オレはまだ冷静を保っていた。
 いわゆる、一瞬と永遠ってやつだ。
 さすがは文学。
 強烈な一撃だったぜ。
 そういうフェイントもありとはな。
 だが、チャンスはまだある。
 そうとも。
 まだまだ始まったばかりだからな。
 コゴォォォーーーーーーーーーー。
「ちょっと、ヒロ。
 雅史の言ったこと、聞こえなかったの。
 窓、閉めなさいよ」
 そら、次がおいでなすった。
 志保のヤツがなんか叫んでたが、今のオレにはそんなもんは聞こえん。
 そうこうしているうちに、近づくんだ。
 決定的な一瞬の世界が。
 志保の相手をしてうっかりしてましたなんて、末代までの恥だ。
 そら、近づいてきたぜ。
 いよいよ…。
「泣くなーーーーーーーーーー」
 あっ、あぶねー。
 まさか、連チャンでフェイントとは…。
 こいつが文学の世界か。
 いよいよ、気が抜けねーな。
 まさに、真剣勝負だぜ。
 初体験もなかなか大変だ。
「浩之ちゃん…、大丈夫。
 ひょっとして、熱とかない」
 あん。
 何いってんだ、あかりのやつ。
 オレはこのとおり、ピンピンしてるぜ。
 今は相手してやる時間ないけどな。
 まあ、もうちょっと座ってろ。
 多分、次が本番だ。
 3度目は直々っていうしな。
(それをいうなら“3度目の正直”)
 うん、あれだな。
 いかにも、らしいトンネルだぜ。
 間違いない。
 あいつが本命だ。
 今に電車があそこへ吸い込まれて…。
 ゴォォォーーー。
「あれ」
 み…短かったな。
 身構える間もなく、トンネルが終わっちまった。
 うーん。
 ま、まあいいか。
 幸い、今回もフェイントだったしな。
 次だ、次。
 待ってろよー、文学。

「ねえ、ヒロどうしたの」
「もう隆山に着いたのに、浩之元気ないよね」
「浩之ちゃん、やっぱり熱あるんじ…」
「ないない。ヒロが風邪なんかひくわけないって」
「志保…」
「浩之に悪いよ」
「でも、さっきまで元気あったじゃない、ヒロの奴」
「そうだよね。浩之ちゃん窓の外ずっと見てて」
「あ、それで気分悪くなったんじゃ」
「だったら自業自得よ」
「う、そう…なのかな」
「浩之ちゃん」
「浩之、大丈夫かな」
「だあああぁぁぁ」
「きゃあ」
「うわ、今度は志保がおかしく…」
「あかり! 雅史!」
「はい」
「はい」
「あんたたち2人は、ヒロに甘い」
「ええ!?」
「そもそも、ヒロが窓をずっと開けてたから…」
「志保、ちょっと待って」
「何よ、雅史。人の話しは最後まで…」
「ほら、あそこ」
「あ、梓さんだ。浩之ちゃん、梓さん、迎えに来てくれたよ」
「本当。ずいぶんひさしぶりじゃない」
「へー、梓さん免許取ったんだ…」

「…さて、土曜日の今日は、ひっさしぶりの青空でーす。
 気温も20度近くまで昇っちゃて、4月中旬の陽気って感じ。
 これって暖冬ってやつのせい。
 ま、もう3月だもんね。
 あっちこっちでいつもより早く、花が咲いたって連絡が来てるよ。
 鹿児島じゃ、もう桜まで咲いちゃったんだって。
 早いよねー。
 私もお花見したーい。
 それじゃ、次の曲いくわよ。
 次は…ええと匿名希望くんから。
 春になるといつも聞いてしまう、思い出のあの曲をお願いしますだって。
 それじゃいくよ。
 タイトルは、ブランニュー…」

「なんてこった」
 あかり達のいつもの喧燥。
 何気ないラジオのBGM。
 いや、そんなことがいいたいわけじゃない。
 ありか、そんなの。
 はあ。
 がっくりと黄昏るオレの背中に、春の日差しは優しい。
 暖冬で、このあたりは雪に縁がなかったらしい。
 オレの文学は、終わった…。


******************************


「今回は何の話なの」
「えっ、ああ綾香ですか」
「何の話」
「To HeartのSSです」
「…………」
「痕の続きですか」
 コクコク。
「もちろん、書くつもりですよ」
「じゃあさ、斗織」
「はい」
「これって、ちょっとネタにつまったから気分転換ってアレ?」
「うわーい」
「ちょっとちょっと、遠い目をしないでよ」
「…………」
「そうそう、作家にはよくあるんです」
「威張らないでよ、まったく」
「…………」
「ですよね。無理しちゃいけないですよね、先輩」
「また、姉さんは斗織を甘やかす」
「…………」
「そんなことあるの」
「…………」
「ある」
「…………」
「はあ、わかった。姉さんは甘やかしたりしてない」
 コクコク。
「じゃあさ、斗織。次は姉さんとわたしを書いてよ」
「え?」
「だから、姉さんとわたし」
「まあ…いいですけど」
「それじゃ、決まりね」


* *****************************


 久々野さん、お返事のレスありがとうございました。
 私も古参になれるようがんばります。
 ところで、久々野さん執筆ペース早すぎです。
 きっと、アイデアの塊のような人なんでしょう(笑)。

 UMAさん、お返事レスありがとうございました。
 実は、梓はかなりお気に入りのキャラなんですよ。
 んで、梓は肉じゃがなしでは語れないと…。

******************************

 というわけで、今回の作品。
 楽しんでいただけましたでしょうか。
 執筆遅い・読むのも遅い私ですが、これからもがんばります。
 現在、図書館制覇率12%ぐらい…(冷や汗)。
 メールアドレスは、明後日ぐらいに取得できそうです。
 日本がアルゼンチンに敗れて残念。
 阪神が再び定位置に。
 今日の晩御飯は中華。
 ってなところで、今回は失礼しまーす。