『さよなら……』 投稿者: 悠 朔
「終わりなんだね……」
 僕は静かに呟いた。
 僕の前に立つ瑠璃子さんが悲しげに見えたのは……僕の願望だったろうか。
 ……終わり?
 なにが終わったというんだろう?
 なにも……終わってなどいない。
 始まってさえいないものが終わりを迎える事なんて無い。
 なのに、僕はそれにさえ気付いていなかった。
「長瀬ちゃん……」
 瑠璃子さん。
 色を失った世界で、僕が見つけた光。
 でもそれは、色あせた世界をよりいっそう強く意識させるだけだった。
 彼女が必要としていたのは"僕の電波の力"であって、決して"僕自身"ではない事に
……気付いて……しまったから。
 結局彼女が求めていたのは兄、月島先輩が救われる事……。
 僕はそのための手段でしかなかった。
 僕に近付いた事も。
 救いの手を差し伸べた事も。
 身体を許した事さえ……手段の一つだった。
 僕が"電波"を得る為の。
 月島先輩を止める力を得る為の。
「僕はいったい……今まで何をしてきたんだ………………」
 狂気と正気。
 その境に立つ少女に、僕はずっと弄ばれてきたんだ……。
 不意に怒りが込み上げる。
 純粋な、憤り。
 涙が零れそうな、悲しいほどの、怒りが。
「壊れて……しまえばいいんだ……」
 悟ったように、意識せずに声が零れた。
 そうだ……どうして気付かなかったんだろう?
 壊れてしまえばいい。
 悲しみと、苦しみから救いたい……そう思った事もあった。
 けれど……。
 チリチリチリチリ……チリリリリリリリ……。
 頭を駆け巡る、電波の渦。
 小さな電気の、微粒子。
 "それ"が形を為す。
 僕の妄想と狂気が生み出した
 新型の。
 世界を燃やしつくし。
 破壊しつくす。
 爆弾。
 僕の周りにある、膨大な量の電波。
 それを目の当たりにしても、瑠璃子さんは抵抗しようとも、逃げようとさえしなかった。
 月島先輩を止める事さえできなかった瑠璃子さんが、防ぐ事など出来るはずもない。
 抵抗が無意味な事ぐらい、瑠璃子さんだってわかったはずだ。
 でも……瑠璃子さんは逃げようとしなかった。
 ただ、静かに……僕を見つめるだけ。
 濁った、扉を開いた者の、狂気の扉を開いた者の瞳。
 今ならわかる気がする。
 彼女の瞳は鏡だ。
 覗き込んだ者の瞳の色を写す、鏡。
 彼女はその瞳で、ずっと人の本質を見つめてきたのだから。
 僕は愚かだ。
 彼女が自分の兄を止められない事をどんな思いで見つめていたか。
 僕の叫びをどんな思いで聞いていたか、知っていたはずだったのに!
 それなのに僕は、想いを勝手に推し量り、こうして打算と疑惑に凝り固まってしまった。
 もう……戻れない。
 結局僕は、世界も、自分自身さえ愛する事が……出来なかったんだ。
 瞳が濁っていたのは……僕の方だ。
「さよなら……瑠璃子さん」
 ――愛して……いたよ。
 そして僕は、自分自身に向けて"爆弾"を放った。

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朔 「ど〜も〜。はじめまして……とか言っても誰もツッコんでくれないような気がする
  読みが難しい……というか間違われる事おびただしい(笑) "はるか はじめ"で
  〜す。
  久々に出すのに悩んだ挙げ句、今回は『儚く、脆く、壊れやすい祐介』というコンセ
  プトでまとめてみました。これってダーク……なのかな? どうも最近ダークの意味
  がよくわからなくなってしまってますが……私の認識ではどれだけ頑張っても祐介は
  こんな奴ですので、悪しからず(笑) ……では、また機会がございましたらここで
  お会い致しましょう。でわでわ…………」