境目のない世界 投稿者: ひづめ
   気がつくと、俺は薄暗い教室にいた。
  古い木の椅子に座っている、俺の目の前に黒い塊がある。
  薄暗い教室にさした西日で、何かが逆光線を受けているのだろう。
  「浩之さん。私、浩之さんとずっと一緒に居たい。」目の前にあった黒い影
が、唐突に言葉を発した。
  黒い影はにわかに現実味を帯び、俺に近づいてくる。
  『HMX−12型……マルチって呼んでください……。』あれは、いつ聞い
た言葉だっただろうか……。
  「浩之さん……。私を抱いてください。どうか、愛してください。」塊は、
マルチになり、塊になり、俺に近づいてきた。
  「マルチ……。」俺は、やたらときしむ椅子から腰を上げた。
  マルチを抱き寄せる。
  抱きしめる。
  強く。
  強く。
  『私、浩之さんと、もう会えなくなるんです。』
  さっき聞いたその言葉。
  「離したくない……。」マルチが、俺の腕の中で大きくうなずく。
  「もし、2人が金属の塊になれたら、ドロリと溶け合えば1つになれますね。」
  「金属に?」
  「ええ。バースデイとケーキのように、老女優と舞台のように、私と浩之さ
んも一つになれるんです。すてきじゃないですか?。」
  「1つになれば、離されることもなくなるな。」
  「離れられないんです。境目がありませんから。」マルチがうっとりと笑う。
  いくら強く抱きしめても、一つになっていると口に出してみても、俺が俺で
マルチがマルチであるという境界線は拭い切れない。その寂しさに、マルチは
気づいているのだろうか。
  「あ、浩之さん。見てください。」マルチが嬉しそうに廊下側の壁を指差し
た。
  「2人の影が1つの塊になってますよ。」見ると、白い壁に大きな黒い影が
1つ、ぽっと映し出されている。 
  「ホントだ、よかったなー、マルチ。」
  「ええ、でも……。」マルチの顔が曇る。
  「あの影がまた2つになって、別々のおうちに帰るんですよね。」
  「ああ……。」俺がそう答えると、マルチが俺の腕をぎゅっとつかんだ。
  「浩之さん。もっと、強く……ずっと……私を抱き続けてください。あの影
が、2つにならないように、ずっと1つであり続けるように。」
  俺は、マルチがいとおしくてたまらなくなり、マルチの体を抱きしめた。
  強く。
  強く。
  二人が一つであり続けるために。彼女を愛し続けるために。
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  みなさん、こんにちはー。このSSは元ネタ、というか背景になってる歌が
あるんですが、わかってくれる人はいるんでしょうか。タイトルもそこから取
りました。そういうのをカッコ良く言うと、パクったと言うそうです。
  ちなみに、ナイト雀鬼はドラのみであがれるよ。
感想のお返し。
  風見 ひなたさん>
落ち?それって食えるの?私は最後の締めが苦手なんです。どんな話にしろ。
  そして、ついっと壁際を指差す。 一同はごくっと唾を飲み込んだ。>
まことちゃんを思い出しました。ぐわし、さばら!私、高校生だけどね。

  ハイドラントさん>
でも、私のあのSSを鉄道少年が見たらどう思うんでしょうね。差別的だから
出すのやめようかとも思ったんですが、まあいいか。