晴れた日は電車にゆられて。 投稿者: ひづめ
    一定のリズムで左右にゆれながら、電車は進む。窓の外の景色は、大きな
変化を見せることなく、田んぼや畑を俺に見せ続ける。
  俺は、バッグの中からハンディカムを取り出し、自分に向けた。 
  「みなさんこんにちは。柏木耕一です。青春と書いて、あおはると読む。も
ちろん嘘です。」
  と、いうわけだかどうだかは知らないが、俺と柏木四姉妹は、春休みを利用
して旅行に出かけることになった。
  ただ、俺はたしか免許を持っていなかったし、経済的問題点とも折り合いを
つけた結果、青春18切符を購入し、鈍行で旅をすることになったのだ。
  「あんた、何で自分なんか撮ってるのよ。」後ろから、いつもの品のない声
がする。ショートカットに、わんぱくそうな太い眉。こいつが、俺のいとこに
あたる梓だ。まあ、口が悪いが憎めない奴だ。
  「ちょ、あんた。なに勝手に紹介してるのよ。しかも、わんぱくで憎めない
奴って、なんか頭悪そうだし」怒鳴り声をあげる梓の後ろから、小さな頭がひ
ょっこりと覗く。
  「耕一お兄ちゃん、私18歳じゃないけど、この切符使っていいの?」少し
不安そうに、初音ちゃんが質問する。
  「ん、大丈夫なはずだよ。初音ちゃんも、俺のメモリアルビデオに出演する
かい?」少し、はにかみながら、初音ちゃんが首を横に振る。きっと、恥ずか
しがりやな初音ちゃんのことだから、OKということなのだろう。
  「さ、撮るよー、笑ってー。」
  「え、私いいから……。ホント、お兄ちゃん……。いいって。」
  「ファインダー越しに見る初音ちゃんは、いつもより初音ちゃんだなあ。」
  「なあ、馬鹿耕一……。」
  タランティーノでさえも、裸足で逃げ出す撮影風景に、梓がチャチャを入れ
た。
  「お前も写りたいのか?まあ、俺のカメラはかなり長い間撮れた上に、おっ
さんがくるくると踊る例のヤツだからな、お前も撮ってやるよ。」梓が鬱陶し
そうに、頭を振る。
  「いや、そうじゃなくて……私たちどこへ行くんだ?」………………。
  少しの間。梓も初音ちゃんも、少し離れた座席に座っていた2人も、不安と
呆れが入り交じった不思議な顔で、俺を見ている。
  「これは、ずっと電車に乗ってられる切符だろ?」真顔の俺に、真顔の梓が
食って掛かる。
  「1日中、電車に乗って居たって、つまらないだろ!」俺は、正直言って面
食らった。まだ見たことはないが、きっと鳩が豆鉄砲をくらったような顔をし
ていたに違いない。そんな俺を弁護してくれるつもりなのか、千鶴さんがゆっ
くりと立ち上がった。
  「梓、耕一さんは……鉄道少年なのよ。」その言葉を聞いて、梓の瞳が何か
大切なものを壊してしまったような、そんな悲しげな色へと変わった。
  「すまん、俺が鉄道少年であるばっかりに……。お前らにいらん苦労を……。」
  「あ、いいんだ、気にすんなよ耕一」梓も、このときばかりは優しくしてく
れる。柏木四姉妹が俺のまわりに集まってきた。
  「耕一お兄ちゃん。強く生きてね。」
  「………………。(<楓ちゃん)」
  「耕一さん、負けちゃだめよ。」
  なんてみんな優しいんだろう……。これが、家族というものの温かさという
ものなんだろうか……。鉄道少年駄目耕ちゃんと呼ばれた時代さえもが、懐か
しく感じられるほどだ。
  俺はとりあえず、もう一つの趣味である切手収集には触れないことにした。

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  いやー、いつもに輪を掛けて変な話でした。と、他人事のように言ってみたり。
こんにちはーひづめです。
  パソコンをするときは、部屋を明るくして、画面からできるだけ離れてね。
  時間がなんかないのだ。というわけで、そろそろ。
  感想くださったみなさん。私がSSをかけるのは、あなたがたのおかげです。
いつもありがとうございます。それでは、また。