しんじあえるということ 投稿者: ひづめ
    アイコンタクトという言葉がある。目と目を合わせただけで、ぴぴっと疎
通がはかれるというあれだ。
  「長瀬ちゃん、アイコンタクトがどうしたの。」気付いたら、後ろに瑠璃子
さんが立っていた。
  「また、俺の考えている事がわかったんだね。」俺がそういうと瑠璃子さん
は、かすかに笑った。
  これは、アイコンタクトと呼べるのだろうか。もしかしたら、瑠璃子さんがいつ
も言うように、俺達の間で電波がやり取りされているのかもしれない。
  しかし、それはいつも一方通行で、俺には瑠璃子さんの考えている事は、さっぱ
りわからないのだ。
  「それでいいんだよ。長瀬ちゃん……。」瑠璃子さんが静かにそう言った気がし
た。

    青々とした広葉樹の並木を横目に、2人で歩く。桜はもう咲いているだろ
うか。まだ3月なのに、暑いくらいに暖かい。
  「なあ、瑠璃子さん。」俺の呼びかけに応じて、彼女は首だけをくるりとこ
ちらに向けてくれた。
  「本当に俺の考えている事がわかるのか?」彼女はしばらく奇妙な顔をして
いたが、少し歩みをゆっくりにし、小さくうなずいた。
  「そうか……。」なんだろう、考えがまとまらない……。
  「長瀬ちゃん、いや?」彼女は心配そうに俺の顔を覗き込む。
  俺には瑠璃子さんが、本当に俺の事を心配しているのかわからない。もちろ
ん彼女が演技をしていないことはわかっている。しかし……。
  「長瀬ちゃん。小西書店……寄るんでしょ。」突然呼びかけられて、少し驚
いた。俺達はいつのまにか、なじみの古本屋の前まで歩いていた。
  「ああ、ごめん。そうだったね。」瑠璃子さんを疑った事に、彼女は気が付
いただろうか。

    本屋の中は、古本の匂いで充満していた。前に沙織と来た事があったが、
あのときは『くさい』を連発して大変だった。
  「これ、長瀬ちゃんの好きな作家さんだよね。」沈みがちな俺に気をつかっ
てか、瑠璃子さんは1冊の本を、俺に手渡した。
  「あ、サンキュ」
  本を読んでわかった気になっても……本当に作家が伝えたい事は読み取れな
い。作家だって、伝えたい事が、伝わらないジレンマは感じているはずだ。
  乱暴にページをめくりながら、叫び出したい衝動を必死に押さえる。
  「長瀬ちゃん。大丈夫だよ。」瑠璃子さんが優しく語りかけてくる。
  「俺は、君の事をわかったつもりでいた。……でも本当は何もわかっちゃい
ないんだ。」瑠璃子さんが『こまったなあ』という顔になった。
  「長瀬ちゃんは、私の事をたくさん知ってるよ。」
  「でも、もしそれが嘘だったら……。全て嘘かもしれないだろ。」俺が吐き
捨てるようにそういうと、彼女はしばらく黙ったあと、思い出したようにまた
語り始めた。
  「私は――嘘なんてつかないよ……。相手が電波を送ってくれたら、相手の
本当の気持ちがわかる。言葉や、行動にとらわれないホントの気持ちが。」
  「じゃあ、俺は……。それが出来ない俺はどうすればいいんだ?」
  「長瀬ちゃんだけじゃない。みんなそうだよ。だから、相手の事を信じるこ
とが大切なんだよ。」信じる?どうしてそんな幼稚な事が大切なんだ?
  「大切な事だよ。みんな、不安を何かを信じる事で埋めようとしてる。」
  信じる……俺は一体、いくつの事を信じられるだろうか。俺には、わからな
いことが多すぎる……。信じるなんて……。
  「長瀬ちゃん。電波を送ってよ。」俺の思考を遮るように、瑠璃子さんがつ
ぶやいた。
  「送ってよ。電波……。」その言葉に応えるために、俺は目をつぶった。
  相手の事を本当に思っていても、意思はいつもすれ違う。完璧な調和などは
ありえない。もし、電波で心が通い合うのなら……それは、本当に2人が1つ
になれたということではないのだろうか。
  (それは違うよ、長瀬ちゃん。)瑠璃子さんの意思が心に入り込んでくる。
大切なのは電波なんかじゃない。何かに依存してはダメだよ。ただ、心から相
手を信じて……そして相手が自分を信じてくれれば、すれ違いの隙間はきっと
埋まるはずだよ。
  俺にはそれが正しいのかどうかはわからなかった。ただ、瑠璃子さんのこと
を信じたかった……。

  目を開ける。
  「瑠璃子さん……。電波とどいたよ。」どこかで聞いたような台詞。くすく
すと瑠璃子さんが笑う。
  「人を心から信じることができたなら、何も心配しなくていいんだよ。そう
すれば、その人もあなたをを信じてくれる。すれ違ったっていいんだよ。別の
人間なんだから。大切なのは、すれ違ってもあきらめないこと。」
  瑠璃子さんの優しい瞳を見ていると、落ち着いた気持ちになれる。大切なの
は、人を疑う事でも、言葉で惑わすことでもないんだ。ただ……。
  俺は何も言わずに、右手を体の横に開いた。その手を瑠璃子さんが、きゅっ
と握りしめる。
  手を差し出せば握ってくれる。そう思える事こそが、相手を信頼していると
言う事ではないのだろうか。差し出した手が空を切る事もあるだろう。しかし、
そこで傷つのではなく、相手が手を握れるようになるまで、握ってくれるまで、
待ち続ける、そんな事が大切なのだろう。
  俺は黙ったままで、瑠璃子さんの瞳を見つめていた。
  「さあ、そろそろ行こうか。」
  「うん。」
  瑠璃子さんの迷いのない笑顔。
  俺は胸に込み上げる幸せを噛み締めながら、つないだ手が離れないように握
り直し、ゆっくりと木洩れ日のある小道へと出ていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
  さて……。どうなんでしょうね……。削ったらわかんなくなっちゃいました。
まあ、こういうのもアリってことで。
  感想くださった方、ありがとうございます。御返事を……。

UMAさん。>替え歌、濃いですねえ。最近はあんまり歌わないけど、昔の日
本には春歌というのがあって……。って、誰も知らんか。
長くなってきたんで泣く泣く削除(T_T)>という姿勢には好感を持ちました。や
っぱWeb上の文章は、簡潔でなければ。(私の意見ですが) 

無駄口の人さん。>旦那さんが犬だと、毎晩、獣姦ですね♪(嬉しくないか)
ところで、千鶴さんのファンなんですか?

ところで、ここってタグは使えないのかな?試してみよう。
<B>テスト</B><I>テスト</I><BR><CENTER>テスト</CENTER>
だめかな?次回は、なんかまた明るいのを……。それでは。