犬をひろう 投稿者: ひづめ
   「つまり、この志保ちゃんが―――」
  志保と一緒に帰ったのがいけなかった。どうしてこうなったのかは、皆目見
当もつかないが、なぜか志保ちゃんの凄かった話(つまり、自慢)を延々と聞
かされることになっているのだ。
  俺はすっかり左うちわで、夕飯のことや、天使のブラの外人とかのことを考
えているのでまだいいが、終始にこにこしているあかりは、笑ったまま死んで
るんじゃないかと、少し心配してしまう。
  「そこで、この志保ちゃんが―――」
  「なあ、志保……。盛り上がってるとこ悪いんだけど……。まあ、この話は
無かったと言うことで……。」俺の言葉を聞いてかなりムッとしたのか、笑い
顔が突如として鬼の形相へと変わった。
  「なによヒロ、勝手に白紙に戻さないでくれる!しかも、使い方まちがって
るし!」
  「いや、でも……もう、十分話しただろ?」
  「これから、本題に入るとこだったんだから!それにあんた、完全に左うち
わで、私の話なんか聞いてなかったでしょーが。」志保もなかなか鋭いが、こ
こで引くわけにはいかない。意地の張り合いだ。
  「そんなことないぜ、俺ほど熱心なリスナーもそういないと思うぞ。」
  「じゃあ、私が喋ったこと、そのまんま言ってみなさいよー」
  「じゃあ、私が喋ったこと、そのまんま言ってみなさいよー」
  「き――悔しいー!!どうせあんた、夕飯のこととか、天使のブラの外人の事
とか、考えてたくせに―!!」
  「なんで、そこまでわかるんだよ!!」と、つっこんだところで、俺はある事
に気がついた。いつもはここいらで、止めに入るあかりがいないのだ。志保も
それに気づいたのか、不思議そうにしている。
  後ろを振り向くと、遥か後方にあかりの姿が見えた。
  「腹でも痛いのか?」
  「アレ、かしらねえ……?」
  「まだのはずだぞ。」
  「なんであんたが知ってんのよ」
  「さあ?」
  近づいてみると、あかりの横に子犬がいた。あかりに撫でられて、嬉しそう
にしっぽを振っている。
  「あかり、お前が産んだのか?」
  「おもしろくなーし。」不機嫌そうな志保の声。
  「はい、ヒロ君ワンぺナね。」
  「なんだよそれ。」
  「ワン、ペナルティよ。略してワンぺナ。」溜めると何かあるんだろうか。
  「あなた捨てられたの?」あかりが悲しそうに子犬の顔を覗き込む。はい、
そうです。と犬が返事をしてくれるのを待っているみたいだ。
  「はい、そうです。」俺は耳を疑った。喋れる犬!?なんてこった、このまま
話はファンタジーに進んでいくのか!?
  「私よ、私。志保ちゃんよ。犬が喋るわけないでしょ。まあこれは、SSと
いうメディアを巧みに生かした、騙しのテクニックと言えるわね。」
  「帰れよ、お前。」

    とまあ、かくかくしかじか、これこれうまうまで、あかりの意見を尊重し
て、小犬の飼い主を探すことになった。
  「でもねー、あかり。動物ってのは自然の中で生きていくのが一番幸せなの
よ。」この場合、保健所に連れて行かれると思うぞ。
  「浩之ちゃん家はだめでしょー。私のうちも、志保のうちもだめか……。」
  「雅史のうちもだめだろうなー。」
  「私の知り合いはだめねー。」志保はあっさりとあきらめる。
  「そうだなー、琴音ちゃんなんかは、犬飼ってたけど……無理っぽいなー」
  「うーん。来栖川先輩とかは、どうかな?」
  「生け贄にされるかもしれないぞ……。」いざとなると、犬を飼ってくれそ
うな奴なんて見つからない。
  「あんたって、ろくな知り合いいないのねえ。」志保が、小馬鹿にしたよう
にしみじみと言う。
  「お前だって、変わんねえだろ。大体なあ……。」
  「ストーップ。だめだよ、けんかしちゃ。」ここで、あかりが止めに入る。
若干、いつもより早いのは、テキストのサイズを気にしてだろうか。
  「どうしたらいいんだろ……。」あかりは、小犬をダンボール箱に座らせな
がら、半ベソをかいている。
  「うーん。」3人で考え込んでしまう。下手なギャグを言うとあかりが泣き
出してしまいそうなので、まじめに考えるしかない。
  そのとき、小さな女の子が泣きながら近づいてきた。その後ろには、母親ら
しき人がいる。俺達3人は目配せをして、物陰に隠れた。
  「きっと、あの小犬を捨てた子だな。」
  「ちびねこミッシェルみたいね。」
  「誰もわかんないって。」 俺と志保は、やっかいな話にけりがついたので浮
かれ出したが、あかりは寂しそうな顔をしている。
  「どうした、あかり。めでたし、めでたしだろ?」
  「う、うん。でも……。」どうやら、小犬に情が移ってしまったらしい。
  突然、女の子が大きな声を上げた。
  「あれ、ハリーどこ行くの!?」小犬は女の子の腕からすり抜けると、すごい
勢いであかりの前まで来ると、そこへ座って、ぺろぺろとあかりの足を舐めは
じめた。
  「さよならを言ってくれてるの?」
  「まあ、ま。すいません。」小走りに駆け寄ってくるおばさんに、俺と志保
は事情を話した。あかりは、やたらと照れまくっている。
  「……まあ、そうだったの。ごめんなさいね。私が最初、小犬を拾ってきた
んだけど、主人が怒ってねー。それでしかたなく、また捨てたら、今度はこの
子が……。」そう言っておばさんは、女の子の頭を優しく撫でた。人見知りす
る子なのか、大きなお尻の後ろに隠れて、スカートをぎゅっとつかんでいる。
  「あ、あの……。私……時々、小犬に会いに行ってもいいですか?」あかり
の不安そうな問いかけに、おばさんはにっこりと笑ってOKをくれた。
  「よかったなー、あかり。」
  「うん。」小犬はみんなの周りをくるくると走り回っている。
  「私……こういうのって弱いの……泣いちゃいそう。うえーん。」
  「しかたないなあ、志保は。」
  「って、あんたが言ったんでしょ!?」
  「これは、SSというメディアを巧みに……。」
  「もういいって。」

  女の子とおばさんに手を振って、俺達はまた歩き出した。にこにこしている
あかりをみると、なぜか俺もほっとする。
  「なあ、あかり。やっぱり、犬チックだと犬に好かれるのか?」あかりは困
った顔をしている。
  「あんたたちって、ほんと仲いいねえ。」志保が、深くうなずきながら言う。
  「うん。」あかりが元気よく答える。俺は否定しようと思っていたが、あか
りの答えを聞いて、
  「まあな。」と言っておいた。なんだか照れくさい。
  「さあ、帰るぞ。」
  「今、帰ってるとこでしょ。……ははあん、ヒロ、あんた照れてんのね。」
  「なんで、俺が照れなきゃなんないんだよ。」売り言葉に買い言葉。またい
つもの口げんかが始まる。
  「浩之ちゃんと志保も、仲がいいねえ……。」あかりが、にこにこしながら、
いらないことを言う。
  「なんで、こんな奴と!!」2人の声が、きれいに重なった。
  ♪おしまい♪
――――――――――――――――――――――――――――――――――― 
  はてさて、健康優良(?)小説、いかがでしたか?
  私も小学生のころは、女の子とよく口げんかしましたが、最近は私がすぐ折
れるので、あんまりやってないなあ……とか思いました。
   『感想ありがとうのコーナー』
  ひなたさん>私も、神戸人なんです。(今は違うけど)垂水に住んでました。
  無駄口の人さん>感想どうもです。やっぱり、皆さんリアクションがあるか
                  ら書いていられるんでしょうね。なんか言ってもらえると
                  嬉しいもん。
  と、いったところで……次回は不健康小説第2弾。雫編です。