せりかとでーと 投稿者: ひづめ
赤い車が俺の前を横切った。これで普通乗用車は237台目、そのうち赤い
車は25台だ。

「おかしい……やっぱり迎えに行こう……。」ゲームセンターの前の
通りを、男に手を引かれた少女が笑いながら行き交う。約束の時間を30分以
上過ぎているのに、芹香先輩はまだ現われない。
セバスチャンにでも捕まっているのだろうか?行き違いにならないように、
周りを見回しながら道を急ぐ。
「先輩、いいアイデアがあるって言ってたのになー。」(今考えると、先輩
の『いいアイデア』なんて、ちょっとアテになりそうもないけど)
角を曲がると目の前が桃色になった。行儀よく植えられた桜が、もうすでに
花を付け始めている。明日辺りからもう、上着はいらないかもしれない。
「これが全部、先輩ん家だもんな。」人がいないのを確認して、塀を乗り越
え、桜の花びらの舞う庭へ降り立つ。別に門から入ってもいいのだが、やはり
重要なのはシチュエーション。気分を出さねば。
「桜……。俺、進級できたのかな?」少しリアルな不安が、頭をよぎった。

先輩は、思いのほか簡単に見つかった。シチュエーションに凝りたい俺とし
ては、お屋敷の最上階にでも幽閉されていて欲しかったが、先輩はのんきなこ
とに庭に穴を掘っていた。
「先輩、金魚でも死んだの?」俺が話し掛けると、ゆっくりと顔を上げ、ふ
るふると首を振る。
「え、何?ここからトンネルを掘って、外に出るつもりだった?」先輩はこ
くりとうなずいたものの、地面を見ると少し肌が掘り返されただけのようだ。
「まあ、とにかく俺が外に連れ出してやるから。えっ、どこに行くのかって?
先輩がゲーセン行きたいっていったんでしょ。え?ああそうだったって。」先
輩と話していると、「おかあさんといっしょ」のしんすけお兄さんになった気
分だ。
「ほら、手ぇのばして。しっかりつかんでなよ。」俺は塀の上に登り、先輩
を引き上げることにした。
「どうしたの、先輩?……私のことはいいから、早く行ってくれ?馬鹿なこ
と言っちゃいけないよ。先輩がゲーセンに行きたいんでしょ。え?ああそうだ
ったって?………私は門から出ます?………………。」これは落語に近いかも
しれない。

「ほら、あれがゲーセンだよ。先輩がボケるから、かなり時間が過ぎちゃ
ったよ。」入り口の近くまで来ると、今まで後ろにくっつくようにしてついて
来ていた先輩の足が止まった。
「あれ、どうしたの?……何?入り口は方角が悪いから裏から入ろう?」い
つから風水をやりだしたんだろうと思いつつ、2人で裏口へ回る。ゲーセンの裏
口にはいかにも『裏』という汚さがある。
店内に入るなり、ゲームサウンドの不協和音が耳に飛び込んできた。少し心
配だったが、先輩は平気そうな顔できょろきょろしている。
相手が初心者の場合、無理にビデオゲームを薦めるより、大型筐体やメダル
ゲームで遊んだ方が、盛り上がる事が多い。幸いオラタンが入ったばかりなの
で、他の大型筐体は空いている。
「先輩、何からやろっかー。あの、スケートボードのゲームとかどう?……
グラ2?先輩シューターなの?……え、昔はよくベーマガに名前が載った?嘘、
言っちゃいけないよ。」話が、思わぬ方向に進んでしまった。
「ふぁみっ子大集合でマイケルにも勝った?……俺にはちょっとわかんない
けど。」少し不安になってきたが、俺は先輩の目が、あるゲームに釘付けにな
っている事に気がついた。
「先輩、あのお馬さんのがやりたいの?」先輩がこくりとうなずく。
「あれはメダルゲームだから、先にメダルを買わないとね」
そうだった。俺は落語をやりにきたんじゃない。これは、デートだ。ラブコ
メなのだ。すなわち、ラヴ&コメディー。
「20枚買って、10枚づつ分ければいいよね。えっと、1枚…2枚…3枚…4枚…
5枚…6枚…7枚…先輩、今何時?ああ3時。…4枚…5枚……お後が宜しいようで。
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はじめましてー。なんかしりつぼみになった感じで申し訳ないです。
(なんてたって、即興だもん)また、書いてきまーす。りべんじ、りべんじ。