わたし、姫川琴音。 こーいち。 性格は、ちょっとお茶目で……って、わたしのことはどうでもいいの。 今は自分の事より、あの人のことを考えなくっちゃ。 そう、あの人……藤田浩之さん。 わたしの理想通りの人。 漫画や小説の中だけに存在して、現実にはとてもいないと思っていた人。 それが同じ高校にいたなんて、運命の神様のお導きだわ。 約束の時間まで、あと10分くらい…… 藤田さん、ちゃんと来てくれるかしら? いきなり見ず知らずの人間に呼び出されて、怒って帰っちゃったりしないかしら…… ううん、きっと来てくれる! 誠実そうな人だし、約束を破ったりしないわ!! でも、気になるのはあの噂ね。 幼なじみの人との噂…… ただの友達って言う話もあるし、それ以上の関係って言う話もあるし。 わたしの見たところだと、あの二人の関係は…… うん、藤田さんが来たら、まずそのことから聞いてみよう。 それで、もし……もし、わたしの予想通りだったら…… 思い切って言ってみよう! こんなこと男の人に言うの初めてだから、ちょっと……だいぶ恐いけど。 でも、心の中で思っているだけじゃ一歩も進めないわ。 あっ! 藤田さんだ!! 校舎の方から走ってくる……汗が光って綺麗……そんなこと考えてる場合じゃないわ。 どうしよう、ほんとに来ちゃう!!! あ〜ん、もうちょっと待って〜 中庭の木にたたずむ少女のもとへ、ようやく少年はたどり着いた。 「わりい、待たせちまったみたいだな」 「いえ、ちょうど約束の時間です……」 語尾がかすれるような小さな声で少女が答える。 「えっと、姫川琴音ちゃんだっけ? で、話ってなに?」 少年がなんの前置きも無しに、いきなり本題に入った。 「え?……えっと……その……」 少女はとっさに言葉が出てこない。 学年で1、2を争う美少女が、色白の顔を真っ赤に染め、潤んだ瞳で少年を見つめる。 健康な高校生男子ならば動揺せずに入られない状況にも関わらず、 少年はいつもと変わらぬ微笑みで言葉の続きを待つ。 よほど場慣れしているのか……それとも場の雰囲気を理解できないほど鈍いのか…… 「あの!」 ようやく決心が付いたのか、少女がかわいい握り拳を作って声を発した。 「うん?」 「あの、藤田さんってホモなんですか?」 ・ ・ ・ 少年の頭は真っ白になった。 「あの、幼なじみの佐藤先輩とは恋人なんですか? もしよかったら、モデルになってほしいんですが……」 オレは、琴音ちゃんがなにを言ったのかわからなかった。 いや、もちろん声は聞こえていた。 ……聞こえてはいたが、心が理解することを拒否したのだ。 もうろうとした意識のまま何とか琴音ちゃんに誤解だと伝え、そのまま家路についたが 完全に納得したとは思えなかった。 琴音ちゃんは、中学の頃から有名な「やおい」少女であり、そのせいでクラスでも浮いた存在である、 と志保から聞かされたのは次の日のことだった。 その後、雅史や橋本先輩が例の中庭の木に呼び出されたようだが、オレの知ったことではなかった。 ------------------------------------------------------------------------ 初めまして、福永と申します。 自分の作ったお話を発表するのは初めての体験なので、緊張しております。 もし、マナー違反などありましたらご指摘くださいませ。 ところで、この話は福永の実体験を元にしています。 (もちろんかなり脚色していますが) 事件のあった当時はさすがにショックでしたが、時と共に心の痕も癒え、 せっかく珍しい体験をしたんだからネタにしちゃえ、と勢いで書いてみました。 元々お話を頭の中で考えるのは好きでしたが、それを人に見せるなんて思ったこともありませんでした。 しかし、ここのSS作家のみなさんの楽しそうな様子についふらふらと引き寄せられてしまいました。 以後、よろしくお願いいたします。