日本一(?)昔話 第三話「悪夢の夜」 投稿者:ヒトシ


  ここは河原、耕一と初音は花火をして夏の余韻を楽しんでいました。
「よし、次はこれだ。」
 耕一はそう言うと花火の入った袋の中からネズミ花火を取り出しました。
「あ、それ、私あんまり好きじゃないなぁ・・・。」
 初音は言いました。
「どうして?」
「だって、きれいじゃないし、パンってなるし・・・。」
 耕一はそれを聞くと持っているネズミ花火のすべてに火をつけ、ニヤリと笑いました。
「あ、や、やめて・・・。」
 耕一が何をしようとしているのか気づいた初音はおびえました。
「それ!」
 しかし、耕一はおかまいなしに初音の足元へネズミ花火を放ちました。ネズミ花火達はまるで
 戒めを解かれたかのように暴れまわりました。
「きゃー!」
 初音はあまりの恐怖に逃げ出しました。
「あ!初音ちゃん!そっちは!!」
「きゃっ!!」
 ドッボーン、とまるでマンガのような音をさせ、初音は川に落ちてしまいました。
「はつねちゃーん!!」
 耕一は叫びました。
「今助けるからなー!!」
 そう言うと耕一はTシャツを脱ぎました。しかしその時耕一の耳に懐かしいあの声が届いてきました。
(耕一、耕一。)
「この声は・・・。」
 すると川が輝き出し、その中に人影が現れました。
「お、親父・・・!!」
 そうです、現れた人影は耕一の父、柏木賢治氏でした。
「な、なんで・・・。」
 耕一はあまりの驚きに少しもらしました。しかしそのことは秘密です。
(私はおまえの父ではない。川の女神だ。)
「親父!女神は無理があるぞ!」
 耕一の言うとおりでした。
(まぁ、それはいいとして・・・。)
「よくないぞ。」
(おまえが落としたのは、この普通の初音か?)
「ふ、普通?」
(それともこの性格が反転した初音か?この色っぽい初音か?)
「な、なんで三人も?」
 三人の初音は耕一を見つめると次々に言いました。
 1.「お兄ちゃん!」(普通)
 2.「耕一!」(はすっぱ)
 3・「耕一さぁーん。」(夜の蝶)
 耕一は悩みました。そして・・・、
 「・・・、3.」
 耕一も男でした。しかし、その選択はバットエンドに一直線です。
(それではこの普通の初音をおいていこう・・・)
「何!」
 賢治氏は耕一の選択を全く無視しました。
(さらばだ!)
 そして、二人のイレギュラー初音を連れて消えていきました。
 そこには耕一と初音(普通)が残されました。
「うっうっ、ぐすん。」
 初音は涙ぐんでいました。当たり前のことでしょう。
「・・・あの、初音ちゃん?」
 耕一はぎこちなく声をかけました。すると、
「うわあああああああああん!!」
 初音は堰を切ったように泣き出しました。
「こ、耕一さん!初音!」
 するとそこに様子を見に来た千鶴が現れました。
「ち、千鶴さん!」
 上半身裸の耕一、泣きじゃくる初音・・・。
「耕一さん、なんてことを・・・」
「違うんだ、千鶴さん、信じて、信じてくれぇぇぇ。」
 その叫びは、どこまでも、どこまでも悲しく響きました。
(おわり)

 SGYサンへ  「鶴の恩返し」いただきます。