夢で逢えたら-3- 投稿者:春夏秋雪
『夢で逢えたら』
第3章  虚無というヤミの中で

深き闇を彩る朱
混沌の夜に
奏でる獣の淫かな声
踊る美しい四肢
すべては幻想的で美しい

何を怯える?
何を恐れる?

狂っている・・・
私が狂っているのではない・・・
私以外の凡てが狂っている。
殺せ
犯せ
食らえ
私たちはは淫靡な獣

何故戸惑う?
何故躊躇う?

今宵は満月
命の炎でこの闇を彩ろう・・・
朝日が此の美しさを
かき消す前に・・・
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もう春だというのに陽が落ちるとまだかなり寒い。
もう一枚着てければ良かったかな・・・?
俺は小さな寺の境内の中にいた。
人気の全く感じられない漆黒の闇の中に、月の光を浴びた本堂がぼんやりと浮き上がって見える。
俺は辺りを見回すと、本堂の左手にある暗がりに向かって歩き始めた。
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俺は『俺』の墓のある場所に向かう。様々な大きさの墓石が建ち並び、戒名が書かれた板や、
蝋燭を入れるための灯籠などが、奇妙な圧迫感を俺に浴びせる。
静寂。
無常。
沈黙。
墓地特有の雰囲気が支配する空間に、俺の足音だけが闇に響く。
 間もなく、俺は墓地の一番奥まったところにある、『俺』の墓に来た。
ひっそりと慎ましく立っているはずのソレは大きな存在感を持っていた。

『ソコヘ行ケバ奴ニ逢エル。』

『刻ハ満チタ。』

『果タサレヌ想イ叶エヨ。』

『私ニ会イニ来イ。』

『――ガ、待ッテル。』

凡ては、ここで分かる・・・そんな気がした。
千鶴さんたちも来ると言っていたが何が起きるか分からないため、家でまっていてもらった。

千鶴さん、楓ちゃん、初音ちゃんは心配そうだったし、梓は絶対行くと言って聞かなかったが、
「大丈夫、いざとなったら『鬼』の力だってあるし・・・」
この一言でみんなも渋々納得した。(まぁ、梓は最後までうるさかったけど・・・)
・・・・・・・もちろん、デマである。正直言ってもう『鬼』の力を使いたくはなかった。
『あの事件』の時、無我夢中で使った『鬼』の力・・・。
本当に俺は使いこなせたのだろうか?
実は今も俺の中の『狩猟者』は虎視眈々とスキを狙っているのではないだろうか?
もし、俺が『鬼』の力を制御できなかったら、地上最強の殺人鬼を世に放つことになる。
もしそうなったら、もう誰にも止められない・・・・。
そうなる前に―――――

スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・・

「!!!!」
俺はとっさに身構えた。
辺り一面の空気に緊張が走り、恐ろしいほどの殺気が満ちる。
静寂が『無』に変わる。
闇夜が『虚』に変わる。
その一瞬で『虚無』が生まれる。

―――来ル。
――――――上ダッ!!

俺はその場から飛び退く!!
一瞬の間をおいて俺のいたところに銀の閃光が空を斬る。
あと少し反応が遅かったら、空ではなく俺が斬られていただろう。
そして、そこには・・・・・・
『あいつ』がいた。
ビシッとしたスーツを着こなし、月の光で怪しく光る眼鏡。
そしてその奥にあるは狂気を潜めた瞳。
「・・・・柳川」
『鬼』の力に堕ちたモノがそこにはいた。
「ククククククク・・・・久しぶりだなぁ、柏木耕一」
「そ、そんな・・・お前は」
俺が殺したはずだ・・・
そう、言いたかったが声が出なかった。
いや出せなかった。

ジリッ・・・

一歩後ずさる。

「さぁ・・・。あの時の決着をつけよう・・・」

メリメリリリィィィィィィッ!!

そう言うや否や、柳川の体が一回りも二回りも大きくなる。

「「「グオオオオオオォォォォォオォォォオオォォォオオォォッ!!!!」」」

最凶最悪の獣――鬼――が、叫ぶ。
そして次の瞬間、奴は俺に向かって襲ってくる。
「うわぁっ!!」
情けない声を上げながら逃げる俺。
しかし、相手が悪い。

ヒョウゥゥゥゥ・・・・

たった一蹴りで柳川は俺の頭上を遙かに飛び越え、俺の目の前に立ちはだかる。

ドクンッ!
ドクンッ!!
ドクンッ!!!

鼓動が高まる。俺の中の『鬼』が眠りから目を覚ましかける。
駄目だ!起きるな!

ドコッ!!

柳川の拳が俺の腹にめり込む。
そのまま数メートル吹き飛んでしまう。
「がっ!ごぶっ!ごふっ!!」
熱い固まりが喉元からこみ上げてくる。
やばい。このままだと待っているのは
『死』だ・・・・。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

「・・・・・・ドウシテ、力ヲ使ワナイ?」
柳川は俺に尋ねる。
「・・・・・・・・」
何も答えられない。
「ドウシテ、力ヲ使ワナイ?」
俺は無言のままでいた。
「使イコナセナイノカ?」
俺は無言のままでいるしかなかった。
「ククク・・・ハーハッハッハッ!!ソウカ、オ前ハ力ヲ使イコナセナイノカ ッ!!」
柳川の哄笑が響く。
何も言えない・・・・事実、俺は『力』を使いこなす自信がない。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

しかも、俺の中の『鬼』をおさえるものもう限界らしい・・・・

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

「ナラバ、オ前ト殺シ合ッテモショウガナイ・・・・」
柳川は俺に興味を無くしたようだった。
・・・・・・?
何故、俺を殺すことに興味をなくす?
「アイツラヲ殺シテ楽シモウ!!」
「!!」
その台詞を聞いて俺が顔をあげて見たモノは
千鶴さん達だった。
な、何でここに!!
柳川は俺を殺す事に興味を無くしたのではなく、興味が俺から千鶴さん達に移ったんだ!
やめろ!
逃げろ!
声を出したくても声が出ない。
「耕一っ!!」
「耕一さんっ!」
梓と千鶴さんが俺を見つけて走ってくる。

「「「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」」」

そこに柳川が二人目がけて襲ってくる。
「「!!」」

ドコォォォォッ!!

二人は完全に不意を付かれて柳川の攻撃を食らう。
2・3メートル吹き飛び倒れる千鶴さんと梓。
「お姉ちゃんっ!!」
倒れた二人に近づく初音ちゃんと楓ちゃん。
「ううぅ・・」
「くっ・・・」
どうやら、まだ生きているみたいだ。
しかし、一難去ってまた一難。
千鶴さん達の前に柳川が立っていた。
「ひっ!」
「・・・!」
怯えながらも千鶴さん達を庇おうとする初音ちゃんと楓ちゃん。
やめろ!

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

柳川がゆっくりと手を掲げる。
やめろ!やめろ!やめろ!

ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!
ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!

柳川の目に狂喜が宿る。
そして、奴の腕が振り下ろされると同時に俺は叫んでいた。

「「やめろおおおおぉぉぉぉぉおおおぉぉぉおおおぉぉぉおぉおおぉぉぉぉぉっ!!!」」

                     《続く》
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《あとがき》
そう言うわけで、お久しぶりです。春夏秋雪です。
『夢で逢えたら』の第三章をお送りします。
しかし、この話は苦しかったです。
本当は柳川は出てきませんでした。
これを書いている途中で、他の人のSS読んだら似たようなEDなので急きょ変更しました。
一応、次の話で終わる予定です。(予定は未定!)

あと、レスですがあまりにも多すぎてパスです。
けど、全部読んでます!!

ではこの辺で!!(ぺこり)