帰ってきた緒方家の暴走『なんか前回の予告編と違うしね』 投稿者: へーのき=つかさ
 このSSは大変危険です。
 お読みの際は、精神科医の指導の下、斜めにお読みください。
 なお、このSSを読んで扉を開いてしまっても当方は一切の責任を負いません。

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 はーいっ! 私よ私、り・な・ちゃ・ん☆
 今日は私からみんなにビッグでビュティホーなお知らせがあるの。
 私のお兄ちゃん、緒方英二なんだけどぉ…
 なんか頭にアンテナ刺したら電波送受信できそうだと思わない?
 髪白いしねっ!
 それじゃ早速ためしてガッテン!


 翌日、頭にテレビアンテナを生やした緒方英二がK−1グランプリでピーター=アーツとキックの応酬をしていた。


「由綺さん! 理奈さんの凶行について何かおっしゃりたい事は!?」
「ありません」
「実は理奈さんと恋人を奪い合っていたという噂がありますが…」
「ほっといてください! どうして…どうしてプライベートにまでズカズカ踏み込んで来るんですか、あなた達は!」


 理奈が程よく壊れて回復の見込みが見受けられず、医師団は脳死と判定し臓器移植に踏み切る事となりました。
 しかしこの判定法には専門家から疑問視する声が多く出ており、近々会見が行われる模様です。


「判定法の順序が逆だったとか…」
「現在調査中です」
「実は賄賂をもらっていたという話があるのですが」
「記憶にございません」


 このお役所のお約束言葉「記憶にございません」
 あまりにも乱発するものでとうとう国民が竹槍持って国家総動員。
 鬼畜米英もついに核の使用を辞さないとの決定を下す。
 僕らの神国大日本帝国はどうなってしまうのか?
 さあ、よいこのみんな、彼らを呼ぶんだ!
 「「「愛国戦隊 大日本!!!」」」

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「と、言うわけでな…」
 英二はエレガントにコーヒーカップを置くと、直後に飛んできた理奈の低空ドロップキックを顔面に食らって血反吐吐きながら錐揉みダウンした。
「まったく、年中お祭り男が…」
 だくだくと赤く染まってゆく物体をベランダから放り出すと、理奈はやれやれと肩を竦めた。
「でもお祭りっていいよね」
 ほえほえとした笑顔で由綺が語り掛ける。
「まあね、でもお願いだから私の部屋でマサイ族の正装はしないで」
「楽しいのに…」
 由綺は心底残念そうに衣装をカバンに仕舞った。


「それはそれで置いといて…」
 理奈は真面目な顔になると由綺に向き直った。
「実は由綺に頼みたい事があるの」
「だ、駄目だよ!」
 しかし由綺は首をぶんぶんと振った。
「テストの答案を見せろだなんて! そんな事したら怒られちゃうし、何より理奈ちゃんのためになら…」

 とすっ

 理奈の指が由綺の眉間に突き刺さった。
「いたいいたいいたいいたいいたいいたいよ〜〜〜!!!」

 ごろごろごろ…

 結構出血しているが、まだまだ余裕がありそうだ。
「あのね由綺、私学校行ってないから別にテスト見せてもらう必要ないのよ」
「あっ、そういえばそうだね。ついつい自分の視点で物事を考えちゃって………見せてもらいたいのはテストじゃなくてドラマ収録の時のカンペだよね?」

 さくっ

「ささってるささってるささってるよ〜〜〜!!!」
 由綺は頭にドライバーを突き立てたままアクロバティックに部屋中を飛び回った。
 十分にスピードの乗ったダッシュからバク転3回、そこからムーンサルトを決め、着地と同時にトリプルアクセル2連発。
 金メダルはキミの物だ!
「いや、別に私はあなたに体操選手になってもらいたい訳じゃないんだけどね…」
「回転は腰じゃなくて胸でするんだよ〜!」


 ちっとも本題に入らないのでしばらく時間を進めます。


「とゆーわけでね…」
「K点超えたよ理奈ちゃん」
「もうそれはいいっちゅーの」


 もうちょっと時間を進めます。


「実はね、兄さんがまた悪巧みしてるみたいなのよ」
「悪巧みって?」
「また変な番組の企画考えてるみたいなの…」
 理奈は両手を組んではあ、と息を吐いた。
「そういえばこの前ゲテモノグルメツアーに行かされたよね」
「そーよ! なんで私があんな物食べに行かなきゃならないのよ!」
 理奈はその時の事を思い出したのか真っ青になり、すぐ真っ赤になると近くにあった机を正拳で叩き割った。
 相当怒っているらしい。
 机はノコギリで切ったように真っ二つに割れている。
「あの時のヘビの丸焼きおいしかったな…」
「何か言った?」
「ううん、何にも」


「それで具体的にはどんな番組を作ろうとしてるの?」
「それがね…『どきっ! 女ばかりの寒中水泳大会 チラリ続出か!?』だって」
「ぽっ…」
「なーに赤くなってんのよ!」
 理奈の正拳が今度はクローゼットを叩き潰す。
 現在の部屋の崩壊率、58%
「だって水着なんて恥ずかしい…それにチラリなんて」
 真っ赤になっていやんいやんと首を振る。
「やんなくていいのよ! んなもん」
「え? でも英二さんがファンサービスは大切だって…」
「あんのドスケベ兄貴がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 キレた。
 ついにダークフォース発動!
 理奈はスーパーアーマー状態になった。
 これで連続攻撃でなければ攻撃食らっても仰け反らないぞ!
 でも誰も攻撃してこないから意味ないぞ!
 ゲージ一本まるまる無駄遣いだねっ!
「悪かったわね」
 理奈は元の状態に戻った。
「とにかく兄さんを止めないと! 私達のあられもない姿が全国に放映される前に!」
「そういう事なら私も協力しましょう」
「わわっ!?」
 何時の間にか弥生が天井からぶら下がっていた。
 彼女は足を天井から離すと、そのまま体を捻ってきちんと足から着地した。
「やっぱり弥生さんはすごいよ! 私と一緒に体操界の星を目指そう!」
「その話題はもういいって言ってるでしょ!」
「とにかく…まずは英二さんを探しましょう」
 髪を掻き揚げ弥生が提案する。
「英二さんは…どこだっけ?」
「あ」
 さっき捨てた。
 ベランダから、何気なくポイと。
「しまった逃げられた!」
「逃がしたのはあなたです」
 冷静にツッコミを入れる律義な弥生。
 ちなみに英二さんの体を気遣う者はひとりもいなかった。
 やはり日ごろの行いは大切だ。


                   ☆★☆


「こちら理奈、現在ターゲットはD地点を北上中」
「それにしても…なんで英二さんに発信機なんかがついてるの?」
 いきなり呼び出された冬弥は、英二の探索を手伝わされていた。
「兄さん、毎日のように夜遊びするから…」
 理奈は悲しそうな目をすると、ぼつりと答えた。
「よ、夜遊び?」
「そう、近所のゲーセンでは夕凪ジャッキーのふたつ名で恐れられてるわ」
「あ、ゲーセンか」
「何だと思ったの?」
「女遊び」
 ずばっしゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!
 会心の一撃!
 冬弥を倒した。
 1の経験値と128円を手に入れた。
「冬弥君ってやっぱり経験値低いのね………って倒してどうするのよっ!」
 冬弥の出番終わり。
「仕方ないわね…」
 理奈は携帯を取り出した。
「もしもしジャーマネ? ちょっと来てもらえない?」
 ちなみにこのジャーマネは12分後に冬弥と同じ運命を辿る事になる。


「あーん、ここはどこぉ〜!」
 由綺は迷っていた。
 理奈の指示と180°違う道を突き進んだのだから当然だ。
 もちろん本人は道を間違えているなどとは夢にも思っていない。
「えーっと…一度元の場所に戻ろう」
 懸命な判断だ。
「たしかこの辺りに赤い車が…あれ? ないなあ。そうだ、たしか屋根に鳩がいっぱいとまってる家があって…」
 道を歩く時、動く物を目印にするのはやめましょう。
「どうしよう…帰れなくなっちゃった」
 由綺がそろそろ泣き出しそうになってきた時、自分のいる路地裏に飛び込んで来る影があった。
「あ、すみませーん。ここは何処だかわかりますか?」
 由綺はその人物に道を尋ねた。
 帽子にグラサンにマスク、手には包丁とパンパンになった重そうなカバンを持った人物に…
「貴様っ! 待ち伏せしてやがったのか!」
「え? あなたと待ち合わせの約束なんてしてましたっけ?」
 待ち伏せであって待ち合わせではない。
「うーんと………あ、その変な格好からすると、ドラマの収録今日だった?」
 しかも激しく勘違いしている。
「何訳わかんねぇ事言ってやがるんだ! 貴様は人質だ!」
「え…? きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「あら?」
 モニターを見ていた理奈は、由綺が突然すごいスピードで移動を始めたのに気がついた。
「迷子になったからタクシー拾ったのね。彼女にしては賢明な判断だわ」
 なんか納得している。
「でもタクシー代は自腹だからね」
 しかもケチ臭い事言ってるし。


「うーん…ここは?」
 由綺は体中に痺れを感じ目を覚ました。
「あっ!?」
 彼女は荒縄で椅子にがんじがらめに縛られていた。
 身じろぎひとつできない。
「気がついたか」
 声のした方を向くと、人相の悪い『いかにも悪役です』的な男がニヤニヤと笑っていた。
「えっと…」
 男は何をするでもなく、腕を組んでこちらを見下ろしている。
 由綺は迷っていた。
 『あの事』を言うべきかどうか…
 時間は刻々と過ぎてゆく。
(言うしかない!)
 由綺は勇気を振り絞って声を出した。
「すみませんっ!」
「は?」
 男は突然謝られて間抜けな声を出した。
「私まだ台本読んでもいなくて、この場面でなんて言えばいいのか全然憶えてないんです! すぐ役作りしますから台本貸して下さいっ!」
「ドラマじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
「あああ済みませんっ! バラエティー番組だったんですね! 私てっきり刑事物だと…」
「それも違うわぁぁぁぁぁ!!!」
 男は額に青筋浮かべ、由綺の胸座を掴んだ。
「いいか? これはお芝居なんかじゃねえ。あんたは俺に誘拐されたんだ」
「え、誘拐!? じゃあ早く警察に電話しないと!」
「誘拐した側が警察にタレこんでどうするぅぅぅぅぅ!!!」
「違ったっけ?」
「貴様…気が変わった。やっぱり今すぐ殺してやる!」
「駄目だよ! 人質を殺す前に警察との駆け引きをしなくちゃ! 視聴者が納得しないよ!」
「だからドラマ違う言っとるだろううがぁぁぁ!!! 殺す! 今すぐ殺す!」
 男が包丁を振り上げた、その瞬間!
「待ちなさい!」
「!?」
 部屋の中に凛とした声が響いた。
「誰だ! 出てきやがれ」
 男は慌てて周りを見まわす。
 しかし声の主は見当たらない。
「私の右手が真っ赤に燃える、敵を倒せと轟き叫ぶ!」
「ちょっと待て! 登場時はまず口上を述べるもんだろ!?」
「お約束を理解しない人間にそのような事を言われたくはありませんね…食らえ! 愛と、怒りと、哀しみの…鉄拳! ロケットパァァァ─────ンチ!!!」
 何かが違っている必殺技が炸裂した。
「俺は何の為に出てきたんだぁぁぁぁぁ!!!」
 もちろん殺られるためです。
「んな理不尽なぁぁぁぁぁ…」
 こんな理不尽なSSでまともな展開を望む方がどうかしている。
 嫌なら他のSSに出なさい。
 ま、所詮想像物に過ぎないキャラクターに拒否権もクソもないのだがね…ふっ。
「由綺さん、大丈夫でしたか?」
「あなたはいったい…」
 紫色の覆面を被った弥生は由綺を縛っていた縄を解いた。
「では私はこれで…」
「待って! どうして私を助けてくれたんですか!?」
「私は悪人が好き勝手にしているのを許せなかっただけです」
 覆面した弥生はフッと微笑んだ。
「せめて名前だけでも…」
「名前ですか? それでは『仮面の忍者 シノヅカー』とでも呼んで下さい」
「シノヅカー…あなたは本当に誰…?」
「今は知る必要はありません。いずれ時が満ちた時…私は真の姿であなたの前に現れるでしょう」
「待って!」
「ではさらばっ!」
 覆面弥生はベランダから華麗に飛び降りた。
 ちなみに下にはちゃんとクッションが置いてあるから安心だ。
「シノヅカー…」
 ひとり残された由綺は、座り込んだままぽつりと呟いた。
「ここが何処か訊くの、忘れちゃった」
 由綺はまた迷子になった。


                   ☆★☆


 ちなみに、英二は夕食の時間にちゃんと自宅へ戻って来た事を付け加えておく。



                                    〜続く?〜

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