神岸家の暴走『超一流の花嫁』 投稿者: へーのき=つかさ
◎超一流の掃除の修行


 神岸あかりは走る。
 モップを携え、高層ビルに向かって走る。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 気合一閃!
 彼女はそのままビルの壁を駆け上った。
 もちろんモップで壁を磨きながら。
 僅か数秒で屋上に辿り着く。
 すると体の向きを入れ替え、今度は道路めがけて駆け下りる。
 もちろん壁なので傾斜90°だ。
 しかし彼女は壁にギュッとモップを押し付けたまま走る。
 そして道路に着くと再び助走を付けて駆け上る。

 もう何十回繰り返しただろうか。
 彼女は最後の下りを全速力で駆け下りるとそのまま道路を突っ走った。
 目の前に白い線がある。
 あそこが…

「タイムオーバー!」
 すぱーん!
 彼女はダッシュ中に足場らいを喰らってキュルキュルスピンしながら近くのブティックに突っ込んだ。
「駄目よあかり、こんなタイムじゃ超一流の主婦にはなれないわよ!」
「ううっ、頑張ったのに…」
「この世界、結果が全てなのよ! 泣いている暇があったら、罰としてあと5セットやってきなさい!」
「はい、お母さん…」



◎超一流のお肉を見分ける修行


「ンモ"ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 すれ違うふたつの影…
 ズズンッ!
 ザザァッ!
 牛とあかりは立ち止まると再び向かい合った。
 もうこれで何度目だろうか…
 あかりの額に汗がつつーっと流れる。
 長期戦になればなるほどこちらの方が不利になる。
 次で決着を付ける!
 ダッ!
 あかりがダッシュする。
 牛もあかりめがけて角から突っ込んでくる。
 しかし牛には隙がない。
 仕方が無い…こうなったらいちかばちか!
 あかりはいきなりスライディングで牛に突っ込んだ。
「ンモ"ッ!?」
 驚いた牛が下を向く。
 その瞬間だった。
 牛の足の間を潜り抜けながら、あかりの包丁はザックリとその首を薙いでいた。
「……………!!!」
 鮮血を散らしながら、声も無く倒れる牛。
 あかりはすかさず止めを刺すと、牛の解体に取り掛かった。

「お母さん、上カルビ!」
「………」
「お母さん…?」
「駄目ね…牛の選別、倒し方はなかなかのものだったわ………でも捌き方がまだまだ未熟ね…」
「………」
「こんな事では超一流には程遠いわ。今度はもっと丁寧にいきなさい」



◎超一流の料理の修行


「はあ、はあ、はあ、はあ………あっ!?」
 あかりは手に持ったさいばしを落としてしまった。
「料理中に何をしているの!」
「あうっ!」
 母親の容赦無い愛の鞭があかりを打ち据える。
「そんなギブスのひとつやふたつで料理ができないようでは、超一流の主婦として失格よ!」
「うん…」
 じゃらじゃらと鎖の音を立てながら、特別性のバーベル付きフライパンを振るう。
「………!」
「ほら! たかが20Kgよ、それくらい片手でやりなさい!」
 あかりは涙を流しながら料理を作り続けた。

「………」
 母親は一言も口を利かず、もくもくとあかりの料理を味わっている。
 かちゃ
 全て食べおわり箸を置くと、ゆっくり彼女の方へ向き直った。
「よかったわよ…」
「え…!?」
 ぶるぶる震えながら下を向いていたあかりは、ゆっくりと顔を上げた。
 彼女の母親は…本当に何時ぶりだろうか…優しい笑顔を向けていた。
「良く頑張ったわね。料理の出来は合格。あとはもう少し手際が良くなれば満点よ」
 あかりの顔がぱあっと輝いた。
「お母さん…お母さんっ!」
 あかりは母親の胸に飛び込むと、今までの辛さを吹き飛ばすように大声で泣き出した。
「偉いわよあかり…本当に良く頑張ったわ…」
 母親はあかりの頭を優しく撫でた。




 かたん…
 ここはあかりの寝室。
 彼女の手にはひとつのフォトスタンドがあった。
「浩之ちゃん…きっと、きっと私、超一流の主婦になるからね…」
 ちゅっ
 あかりはその写真にキスをすると、電気を消して布団に潜った。
 今日はいい夢を見られそうだ…


 彼女の修行の日々はまだまだ続く。
 時には全てを投げ出してしまいそうになる事もあるだろう。
 しかし、彼女には愛する者がいる。
 自分を愛してくれる者がいる。
 その愛がある限り、彼女は決して挫けはしないだろう。
 戦え神岸あかり!
 君こそ未来のキング・オブ・主婦だ!



                    <完>

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なんじゃこりゃ…(汗)
ちなみに元ネタは某駅前留学のCMです(笑)