もうひとりの能力者 第七話 投稿者: へーのき=つかさ
「まいったなあ…」
 オレはとあるマンションの前にいた。
 本当にこんな事で全てが丸く収まるのかねぇ?

                    ☆★☆

「藤井冬弥? 誰それ?」
 ホテルに帰ってぼーっとしてると、オレは一枚の紙切れを渡された。
 そこには藤井冬弥という人物の簡単な紹介と、住んでいるマンションの簡単な地図が書いてあった。
「で、誰なわけ?」
 オレは紙を渡してきた綾香に訊いた。
「さあ?」
「さあってお前…」
 知らずに渡したんかい、コイツは。
「詳しい事は月島さんに訊いてよ。私はただ詳しい事を調べてくれって言われただけなんだから」
「調べただけってね……一体誰かぐらいはさ…」
「それとも名前だけを手がかりに自分で調べた方がよかった?」
「ありがとう綾香」
 とりあえず月島に訊こう。
 どこいった?


 ドンドンドン!
「月島入るぞー」
「浩之ちゃん、病院なんだから静かにしないと…」
 そういやそうだ。
 オレは月島拓也と書かれたプレートを再び確認すると、バンとドアを開けた。
「だから静かに…」
 そこは二人部屋だったが、入院しているのは月島兄だけのようだった。
 月島兄は頭や腕に包帯を巻いてベッドに横たわっている。
 どうやら眠っているらしく、ピクリとも動かない。
 …死んでねえだろうなあ。
 それでそれでいいとして、肝心の月島の方だが…
「ごめんね、お兄ちゃんのためなの……痛い? どんな風に痛いの? そう、くすくすくす…」
 りんご剥きながら何不気味な事言ってんだよ、オイ。
 はっきり言って恐すぎる。
 もしかして同室者のいない理由はこれなんじゃないだろうな。
「月島、この男の事なんだけどさ」
 オレは綾香からもらった紙を見せた。
「行ってきたの?」
「行ってきたも何も…オレはこいつに会わなきゃいけない理由をまだ聞いてないんだぜ?」
 そう言うと、月島は天井を見上げた。
 5秒経過、
 10秒経過、
 15秒経過、
 20秒経過、
 そして、顔をオレに向け…
「いけないいけない、忘れてたよ」
 何をだよ! 何を忘れてたんだ!?
 はっきり言ってオレには付いて行けん。
 …もしかしてこれが瑠璃子ギャグなのか?
「藤田君が藤井君に会わなきゃいけない理由だったよね」
 月島はそう言うとあかりに目を向けた。
「あかりちゃん、悪いけど席外してくれるかな?」
「え? うん、分かった」
 あかりは戸を開けると廊下へ出て行った。
 何か話し難い事なんだろうか?
「あかりちゃんは幼馴染みなんだよね?」
「え…あ、ああ、そうだぜ」
 唐突に切り出してくるから対応に困る。
「あのね、藤井君とはるかちゃんは幼馴染みなの」
 幼馴染みね…
 なるほど、だから幼馴染みと結ばれたオレに白羽の矢が立ったわけか。
 月島は藤井とはるかについて語りだした。

                    ☆★☆

「はるかを止められるのは藤井しかいない、か…」
 マンションの階段をゆっくり登ってゆく。
 うーむ、どう切り出すべきだろうか。
 いきなりあんたの幼馴染みは電波使いだなんて言うわけにはいかないし…
 やっぱ、面倒だけど1から全部話さないと駄目なんだろうか。
 考えているうちに目的の部屋の前に来た。
 まだ考えがまとまってないんだけどなあ…
 …よく考えたら、電波使いを連れて来た方が説得力があって良かったんじゃないか?
 しまったな、どうするか?
 ………よし、一度戻ろう。
 そう決心して足を踏み出そうとした時だった。

 がちゃっ
 がい〜ん!

「ぐはっ!」
「あっ、大丈夫ですか!?」
 突然勢いよくドアが開き、角が頭にクリーンヒットした。
 さすがにこれは効いた。
 薄れる意識の中、オレはドアを開けた人物、藤井冬弥の顔を見た。

                    ☆★☆

 目が覚めるとベッドの上だった。
 横には心配そうな顔をした藤井がいる。
「大丈夫? なんかかなり強打したみたいだけど」
 お前のせいだろうが…
 思いっきり恨みを込めて睨んでやったが、肝心の藤井は既に背中を向けていた。
「はあ…由綺のコンサートが潰れたと思ったらはるかが道路で倒れてるし、看病してやったらマナちゃんと一緒に失踪するし…そしてこんどは見知らぬ人に怪我を…」
 何?
 …って事は、あの戦いの後はるかはここに来たのか。
 そしてマナとかいう奴と一緒に失踪…
 一緒に失踪…
 一緒に…?
「まずい!」
 オレは布団を跳ね除け飛び起きた。
「ど、どうしたんだ? 何か急ぎの用でも…」
「藤井さん、あんたに重要な話がある」

                    ☆★☆

「まさか…そんな事が…」
 彼は俺にいろいろ話してきた。
 はっきり言って、俺には理解できない話だった。
 まあ、分からないところ、その電波とやらは置いといてだ…
「はるかが俺を河島先輩…はるかの兄さんと重ねてるってのは本当か」
「そうだ」
 彼は大きく頷いた。
「でも俺は河島先輩じゃない」
「それぐらい向こうだって分かってるだろ。でも頭で分かってても、こうなんか…納得できないというか…割り切れないってものがあるだろ?」
「それはそうだけど…」


 ざっ…
 突然浩之君が立ち上がった。
 俺の事をじっと睨んでいる。
 反応が無いから怒ったのか?
「あんたはオレと一緒だ! 今までの心地いいぬるい関係でいたいだけなんだ」
「は?」
 浩之君は声を荒げた。
「オレにも女の幼馴染みがいてな…そいつとは、つい最近まではただの友達だった」
「………」
「でもな、そう思ってたのはオレだけだったんだ! あいつはずっと、ほんとうに小さい頃からオレの事を異性として意識してたんだ。もうひとりの幼馴染み…そいつは男なんだけどな…あと喧嘩友達、そいつらもあいつがオレに惚れてる事に気付いてたんだ。オレだけだったんだよ! あいつの気持ちを知らなかったのは!」
「………」
「今思えば、あいつには随分辛い思いさせてきたと思ってるよ。だからオレは少しでも今までの分を取り戻してやろうと…って何のろけ話してんだオレは」
 そうまくしたてると、自分でもわけが分からなくなったのだろう、後ろを向いて頭をかきむしった。
「でも俺にはすでに恋人がいるんだ」
「馬鹿かあんたは、あんた達とオレ達は違うんだぞ」
「………」
「あかりは…オレの幼馴染みなんだけどな、そいつはオレに恋心を抱いてた。でもはるかは違う」
 そうだった…
 これは俺とはるかの問題だ、自分でなんとかしなくちゃいけないんだ
 …でもどうすればいい?
 それが分からなければ、俺が出て行ってもなんの解決にもならない。
「君の言ってる事は分かった……とりあえず考える時間をくれないか?」

                    ☆★☆

「ふう、なんとか説得できたかな」
 オレは藤井に連絡先を渡すとマンションを出た。
「おや?」
 何か白い物が降りてくる。
 雪だ…
 どうやら寒くなりそうだな、早く戻ろう。
 オレは小走りに道路へ出た。
 ドシンッ!
「きゃっ!」
「あっ、わりい…ってあかり!?」
 目の前でぺたんと座り込んでいたのは、紛れも無く、オレの幼馴染みのあかりだった。
「なんでこんなところにいるんだ?」
「え、えっと…ひ、浩之ちゃんが帰ってくるのが遅いから心配して…」
「そうか」
 あかりが嘘を言っているのはすぐに分かった。
 でも、オレはそれ以上何も聞かずに歩き出した。
「あ、待ってよ浩之ちゃん」
「ほれ、急がねーと体冷やすぞ」
 オレはきゅっとあかりの手を握った。
「あっ…」
 あかりの顔が赤く染まる、心なしか目も潤んでるような…
「行くぞ」
「うん」
 手を繋いで雪の中を歩く。
 なんか映画のワンシーンみたいだな…
「ねえ、浩之ちゃん」
 もじもじと、少し俯きながらあかりが話しかけてきた。
「ん、なんだ?」
「あのね…私、嬉しかったよ」
「そうか、そりゃよかった」
 全てを分かり合える今、オレ達の間にはそれだけで十分だった。


「う〜っ……何よ、のろけちゃってさ。なんで私がこんなもの見せ付けられなきゃいけないのよ」
「あかりちゃんを付けようって言ったのは志保ちゃんだよ」
「うるさいわねっ! 止めないあんたが悪いのよ!」
「そんなぁ…」

                                    続く・・・
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次回予告

 ついに冬弥ははるかを止めるべく立ち上がる。
 彼の声ははるかの心に届くのか?

 「俺はここにいる!」