もうひとりの能力者 第六話 投稿者: へーのき=つかさ
 ・・・体中が痛い。
 いつもはこんなふうにならないのに。
 やっぱり少し無理しすぎたのかな?
 でも、あの人達も私みたいにすごい動きしてた。
 あの人達も今すごい筋肉痛なのかな?

 ・・・違うな、たぶん。
 電波も使えないみたいだったし。
 一体何だったんだろう。

 ・・・あれ?
 なんだかふわふわしてきた。
 体が軽いような重いような・・・
 あ、目の前がだんだん暗くなってくる・・・
 どうしたんだろう、私・・・


 どさっ

                    ☆★☆

 あーあ、なんでよりによってこんな真夜中に買い出しに出なくちゃいけないんだろう。
 右手には、大きな買い物袋がひとつ。
 さっきコンビニに行って買ってきた物だ。
 はあ・・・
 溜息が漏れる。
 ・・・そりゃあさ、買い置きしてなかった俺も悪いよ。
 だからって、こんな時間にお腹が空いたなんて駄々こねるマナちゃんもマナちゃんだよなあ。
 以前に比べればだいぶ丸くなってきたんだけどね・・・
 まあ、マナちゃんの我が侭は子供特有のものだから、大人になればそのうち無くなるだろう。
 いや待てよ、よく考えたら彼女はもう高三じゃないか。
 高三にもなってあの状態だからな・・・もしかしたら一生あのままかもしれない。
 ・・・それはイヤだな。
 いっぺんガツンと言った方がいいのかな?
 でもそんなことしたら本当に泣きそうだし・・・
 いやいや、よく考えろ。
 由綺と結婚したらマナちゃんは義理の妹になるんだぞ。
 そう、一生のつきあいになるんだ。
 やっぱりここは心を鬼にして、一発・・・

 ガツンッ!

「どわっ!?」
 考え事をしていた俺は、道路に落ちていた何かにつまずいて盛大にこけた。
「やばっ!」
 俺はあわてて散らばった袋の中身を掻き集めた。
 幸い割れ物が無かったため、被害はほとんどないようだ。
「まったく、今日はついてないなあ・・・」
 俺は後ろに振り返った。
 そこには俺のつまづいた自転車が倒れていた。
 ・・・なんでこんな道路の真ん中に自転車が?
 いや待て!
 それ以前に俺はこの自転車を見た事がある。
 そして、視線を右にずらしてゆくと・・・
「・・・・・・・・・」
「はるか!?」
 そこには、死んだように動かないはるかがいた。

                    ☆★☆

 目が覚めた。
 あれ、ここどこだろう。
 えーっと、確か私は変な人達に襲われて・・・
 そうだ、途中で気分が悪くなって倒れたんだ。
 ・・・じゃあなんでベッドで寝てるんだろう。
 誘拐されたのかな?
「あ、目が覚めました?」
 誰だろう?
 可愛い声。
 声の方に目を向けると、そこには小学生ぐらいの女の子がいた。
 悪い人には見えない。
「ここ、どこ?」
 私が訊くと、その娘はにっこり笑った。
 結構かわいいかも。
「ここは藤井さんの部屋ですよ」
 藤井・・・?
「知ってるでしょ? 藤井冬弥、あなたの事友達だって言ってましたけど」
 ああ、冬弥か。
 誰かと思った。
「藤井さんたら、買い物に行っていきなり女の人連れてくるんだもの。恋人がいるのに女連れ込む女たらしなんだって誤解して5発ほど蹴りいれちゃった。まあ、確かめもしないで蹴りいれた私も悪いけど、誤解されるような事する藤井さんも悪いですよね?」
 どうなんだろ?
 でも、女たらしっていうのは当たってると思う。
 冬弥、由綺がいるのに美咲先輩とか追い回してるし。
 由綺がいるのに・・・
「御免なさいね。浮気相手と勘違いしちゃって」
 その娘、マナちゃんは、私に冬弥の事をいろいろ話したり聞いたりしてきた。
 そこである事に気づいた。
 なんで冬弥の部屋にこんな女の子がいるんだろう?
 この娘は冬弥とどういう関係なんだろう?
 親戚かな?
「マナちゃん、冬弥とどういう関係?」
「え・・・? 藤井さん?」
 私が訊くと、腕を組んで天井を見あげた。
「んー・・・」
 考えてる。
「う"ー」
 すごく考えてる。
「うーん、強いて言えばお兄ちゃんかな?」
 え・・・?
 その言葉を聞いたとたん、私は何も考えられなくなった。
 お兄ちゃん・・・?
 冬弥が・・・お兄ちゃん・・・?
 マナちゃんの言葉が頭の中をぐるぐる回る。
「どうかしましたか?」
 お兄ちゃん・・・・・・?
 寒くもないのに体ががくがく震えてくる。
「河島さん?」
 お兄ちゃん・・・・・・・・・?
 頭がちくちくと痛んでくる。
「え、ちょっと、あの・・・」
 そして、私の頭の周りには紫色の火花が・・・

 ちりちりちりちり・・・

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

                    ☆★☆

「ただいまマナちゃん」
 俺は自分の部屋の扉を開けた。
「あれ?」
 しかし、部屋には誰もいなかった。
 ふたりはどこ行ったんだ?
 病院だろうか?
 書き置きかなんかが無いかあたりを漁ってみたが、それらしき物も無い。
 まあ、待ってればそのうち帰ってくるだろう。
 そう結論付けた俺は、ベッドにごろんと転がってテレビを点けた。

 しかし、その日はとうとうふたりとも帰って来なかった。 

                                    続く・・・
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次回予告

 扉を開きかけたはるかを救うべく、瑠璃子はある計画をたてる。

 「あんたはオレと一緒だ!」