もうひとりの能力者 第四話 投稿者: へーのき=つかさ
 とうとうやってきた・・・ここはあの緒方英二さんの自宅の前だ。
 みんなの顔にも緊張が走る。
 もしかしたら彼が真犯人かもしれないのだから、当然だ。
 ちなみにメンバーは、代表の綾香さん、電波対策の僕と瑠璃子さんと月島さん、情報収集の為のセリオさん、大人の耕一さんと千鶴さんの7人だ。
 長岡さんは最後まで一緒に行くとごねていたんだけど、みんなに取り押さえられて簀巻きにされてしまっていた。
 なにもあそこまでしなくてもいいと思うんだけどね・・・
 浩之は「志保のしつこさは一級品だ。なめるとおおやけどするぜ」と言ってたけど。

「ほら、何ぼーっとしてるのよ。祐介、いざという時はあなた達が頼りなんだからね」
 今朝の事を回想していたら綾香さんに叱られてしまった。
「じゃ、行くわよ・・・」

 ピンポーン

 ごくっ・・・
 返事が返ってくるまでの時間がやけに長く感じられた。
『はい、どなたでしょうか?』
 永遠とも思えるような、でも本当はわずか数秒の後、インターホンから返事が返ってきた。
 綺麗な、それでいてはきはきした女性の声だ。
「すみません。私、来栖川綾香と申しますが、緒方英二さんはご在宅ですか?」
『兄ですか・・・? 兄は現在外出中です』
 兄・・・って事はいま応対してるのはあの緒方理奈か・・・・・・・・・って、何だって!?
 英二さんはいない!?
「え・・・? き、昨日こちらへ伺うと約束したはずなのですが」
 綾香さんも焦っている。
 もしかして・・・逃げられた・・・?
「──!?」
 その時だった、突如セリオさんが玄関のドアに向かい・・・

 ドガンッ!! メキメキメキ・・・

「セリオっ!? 何してるの!」
 彼女はドアを突き破ると玄関に飛び込んだ。
 中から理奈さんの悲鳴が聞こえる。
「まだ犯人と決まったわけじゃないのよ! やめなさい!!」
 僕達はセリオさんを追って家の中に飛び込む。
 あっ!
 彼女は居間にいた。
 へたり込む理奈さんの前にすっくと立っている。
「セリオ、あなたがこんな乱暴なことするとは思わなかったわ! 見損な・・・」
「──テレビを見てください」
 そこで、綾香さんの表情が凍り付いた。
 テレビには臨時ニュースが流れていた。

『緒方英二、暴行魔に襲われ重傷』

                    ☆★☆

『私は何も知らないんだ・・・』


 俺達が英二さんの運び込まれた病院に着いた時、彼は言葉も喋れない状態だった。
 だが、幸いな事に命に別状なく、意識も残っていた。
 そこで、芹香ちゃんが魔法で直接心を読む事になった。

 その結果分かった事。
 それは、彼が犯人ではない・・・いや、むしろ被害者だったという事だ。
 電波を受けなかったのは、ただたまたま彼だけがドーム内のスタジオにいたためだった。
 スタジオだけは、音も電波も通さないようにできていたのだ。
 彼は、自分の作り上げたステージを破壊された事で大きなショックを受けていた。
 そこへ、俺達からの電話。
 どうやら彼は、俺達の事をコンサートを潰した犯人グループだと思っていたらしい。
 だが、重要なのはその後だった。
 俺達の電話のすぐ後、犯人を知っているという電話がかかってきたというのだ。
 精神的に追い詰められていた英二さんは、それをいとも簡単に信じてしまい、その人物に会いに行ってしまった。
 その結果、彼は暴行を受けて病院送りに。
 しかも、ご丁寧に犯人の外観等に関する記憶は電波で消してあった。


「これで振り出しに戻ったわけか・・・・・・くそっ、犯人は一体誰なんだ!」
 俺達は英二さんの部屋を出た。
「あれ・・・?」

 ヒック、ヒック・・・

 しゃくり上げる声。
「緒方・・・さん?」
 彼女は、部屋の前のベンチで下を向き、声を押し殺して泣いていた。
「あの・・・大丈夫ですか?」
 とても大丈夫そうでは無かったが、一応そう訊ねてみた。
「あ・・・」
 彼女はようやく俺に気付いたらしく、ゆっくりと顔をあげた。
 うっ!?
 こちらを力無く見つめる空ろな目、溜まった涙、小刻みに震える肩。
 そこには、ブラウン管ごしに見るアイドル緒方理奈の面影は微塵も無かった。
 触れただけで壊れてしまいそうな、弱々しい女の子に過ぎなかった。
 嫌でも保護欲が掻き立てられる。
 でもみんな(特に千鶴さん)の前でそんなことしでかした日には・・・・・・考えたくも無い。
「えっと・・・」
 とりあえずその場を誤魔化すため、そっぽを向いて頭を掻いた。
 その時だった、理奈ちゃんが、がしっと俺の腕を掴んできたのだ。
「お、緒方さん!?」
 彼女は何も言わない、俯いているので表情も分からない。
 みんなも何が始まるのかとハラハラしている。
 一分ぐらい経っただろうか?
 彼女が口を開いた。
「・・・るの?」
「え?」
 何か言った様だったが、声が震えていたためうまく聞き取れなかった。
「犯人を知っているの?」
 今度ははっきりとした口調で言った。
「ねえ! 知ってるの!? どうなの!?」
「・・・誰が犯人なのかは分からない。でも、手がかりはある」
 感情的に叫ぶ彼女に、俺は正直に答えた。
 誤魔化してもしょうがないと思ったからだ。
「・・・じゃあ」
 再び彼女が口を開いた。
 そして、目の色が変わった。
「絶対犯人を捕まえて! 兄さんをあんな目に合わせた奴を絶対に捕まえて!! そして・・・私のところに連れてきてよ・・・・・・一発殴ってやらないと、気が済まない!!」
 こ、恐い・・・
 本当にさっきまでしくしく泣いていたのと同一人物なのか・・・?
「絶対よ!」
「は、はい・・・」
 その、有無を言わせない凄まじい勢いに押され、俺は思わず頷いてしまった。
 一通り言いたい事を言い終えたのか、彼女は再び俯き、俺の腕をしっかりと握り締めたまま、大声で泣き出した。
 どうしよう・・・
 助けを求めるような目を向けると、千鶴さんは、しかたありませんねといった風に溜息をついた。
 俺は、理奈ちゃんが泣きやむまで胸を貸してあげる事にした。
 絶対に犯人を引き連れてくるからね・・・絶対に・・・
 彼女の泣き声を聞きながら、俺は決意を固めていた。

                    ☆★☆

 どうやら英二さんは犯人じゃなかったらしい。
 綾香達は、ホテルに戻ってくるなり黙り込んでしまった。
 らしくねえなあ・・・・・・たしかに犯人像が分からなくなっちまったのはイタイだろうけどな。
 ちょっくら励ましてやるか。
「おい綾香、なにシケたツラしてんだよ。美人が台無しだぜ?」
「ちょ、ちょっと浩之! 何言ってんのよこんな時に!!」
 よしよし、まだ怒るだけの元気は残ってるみたいだな。
「あーあ、暗い綾香相手にしててもつまらないから先輩のとこにでも行くかな」
「あ、あなた・・・」
 のってきたのってきた。
 さあ、ここで一発かまして・・・
「ふざけるんじゃないわよ!!!」

 ばきっ!

「あう・・・」
 違う・・・・・・かますのは拳じゃ無くて・・・ってもう遅いか。
 あああああ・・・目の前が暗くなっていく・・・

「ひ、浩之!? ご、ごめんっ! 誰かぁー!!」


 その後、オレの活躍(?)によってみんなある程度元気を取り戻した。
 でもまだまだだ。
 そこで、オレの提案で今日はもう自由に遊んでさっさと休み、ストレス発散と疲労回復に努める事になった。

 時は過ぎ、今は夜10時
 普段ならまだ起きてる時間だが、みんな早めに寝てしまっている。
 んで、まだ眠くないオレ達はこうしてトランプをやってるわけだ。
「そりゃ、ハートのエースだ」
「エースか・・・パス」
 始めてから20分ほど経ち、勝負が白熱してきた時だった。
「・・・私、次の勝負休むね」
 そう言って、月島が席を立った。
 そのまま部屋のドアへ向かう。
「瑠璃子! どこに行くんだ?」
 月島兄が慌てて立ち、呼びかける。
 シスコン全開だ。
 まあ、こんな事件の最中だから心配なのも分かるけどね。
 しかし、オレ達を本当に驚かせたのは次の月島の言動だった。
「・・・おしっこしてくるの」
「・・・・・・・・・」
 全員固まった。
 そ、そういうこと言うかね、あんたは。
「瑠璃子さん・・・」
「そ、そうか・・・じゃあ早く行ってきなさい。ははは」
 月島兄と祐介でさえ対応に困ってるもんな。
 ホント、よく分からん奴だ。


 そわそわそわ

 月島がトイレに行ってから約5分、月島兄がそわそわし始めた。
「な、なあ・・・瑠璃子のトイレ長いと思わないか?」
 そうか?
 オレはそうは思わないぞ。
「そんなに心配だったらあんたが様子見に行けはいいじゃないか。あの娘なら嫌がったりしないだろう?」
「そうだよな・・・よし、じゃあ僕は瑠璃子の様子を見てくるから」
 梓さんの言葉で決心がついたのか、さっさと部屋を出て行ってしまった。
 ・・・やっぱり彼は、キング・オブ・シスコンだ。

                    ☆★☆

「えっと・・・女子トイレはこっちか」
 拓也はホテルの案内図を見ていた。
「まさか瑠璃子に電波で聞くわけにもいかないし・・・」
 それはそうだろう。
 とにかく、トイレの場所を確認した拓也は廊下を歩き始めた。
「おや?」
 行く先に、ひとりの人物が突っ立っていた。
 こちらを見ている。
 拓也は不信に思い、話しかけてみた。
「すみませんが・・・」

 どすっ!

「ぐふっ!?」
 拓也は強烈なボディーブローを受け、後ろの壁に叩き付けられた。
「ぐっ、キサマ・・・」
 彼は呻き声をあげながらも、電波を集め始めた。
「喧嘩を売る相手は選んだ方がいいぞ・・・壊れてしまえっ!」
 拓也の放った電波が相手に突き進む。
 しかし、
「何っ!?」
 電波は相手の目前で掻き消えた。
「キサマも電波使いか!? そうか、コンサートを破壊し、緒方英二を襲ったのはおまえなんだな!」
「・・・・・・・・・」
 相手は無言で拓也に近づくと、脇腹に蹴りを入れた。
「ぐぅっ!?」

 バキッ! バキッ! バキッ!

「ひっ・・・」
 殴られ続け意識がもうろうとする中、拓也は誰かの息を呑む声を聞いたような気がした。
「る、り、こ・・・?」

                    ☆★☆

「瑠璃子さん!?」
 突然、頭の中に瑠璃子さんの悲鳴が響いた。
 僕はなりふり構わず部屋を飛び出した。
 廊下を全速力で走る。
 はあ、はあ、はあ・・・
 もう息があがってきた、自分のひ弱な体が恨めしい。
「瑠璃子さん!!」
 電波の発生源に着いた。
 そこには・・・
 ずたぼろにされて動かない月島さん。
 壁を背にして脅えている瑠璃子さん。
 そして・・・ 
「おまえか・・・こんな事をしたのは」


                                    続く・・・
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次回予告
 ついに犯人の正体が明らかに!
 だが、やはりただの電波使いではなかった。

 「ユーをHUNTするネ。この『鬼の矢』でネ!」