12月24日 森川由綺のコンサート当日・・・
祐介、耕一、浩之たちはコンサート会場にやって来ていた。
☆★☆
「うわー・・・おっきいねぇ、祐くん」
「本当だね。僕はこんなところに来たのは初めてだよ」
僕達の前には、巨大な銀色のドームがそびえている。
ここが森川由綺のコンサート会場だ。
それにしても本当に大きい。
暗いせいかもしれないけど、なんだかひとつの小山のように見える。
なんだか不気味な迫力がある。
さっき沙織ちゃんに言ったとおり、僕は今までこの手の施設に来たことがない。
ちゃんとチケットを持っているんだけど、なんだか入るのに躊躇してしまう。
「なにぼーっとしてんだよ。ほら、後ろがつっかえてんだ、さっさと行けよ」
「わわっ、ちょっと押さないで」
止まっていると、背中から浩之に押された。
会うのは久しぶりだけど、少し乱暴なところは相変わらず変わってない。
普段ならむっとするところだけど、彼だとなんか逆に嬉しくなってしまう。
あ、神岸さんに小言いわれてる。
浩之、そんか顔でこっち見ないでよ・・・押したのはそっちなんだから。
再び立ち止まっていると、太田さんと連れ添った瑞穂ちゃんに袖を引っ張られた。
「祐介さん、行きましょう」
「うん」
席につく。
しかし、やっぱり人の多いところは落ち着かない。
いいかげんに慣れなきゃな・・・
「どうかしましたか?」
きょろきょろしていたら、千鶴さんに話しかけられた。
「いえ、別になんでもないです」
「お手洗いならあちらへ行って右ですよ」
いや、何でもないって・・・
聞いてないな、この人。
「千鶴姉、トイレは右じゃなくて左。右にあるのは自販機」
しかも間違ってるし・・・
「もう、梓! 人の揚げ足とらないで!」
「何言ってんだよ。私はただ間違いを訂正しただけで・・・」
「キーッ!」
・・・何やってるんだか。
「お、お姉ちゃん。人が見てる・・・」
「・・・姉さん、コンサート始まるわよ」
「こっちはコンサートどころじゃ無いのよ!!」
・・・コンサートを見に来たんじゃないのか? あの人は・・・
耕一さんもあっちで苦笑している。
大変だろうな、あの人も。
やがて、コンサートがはじまった。
「すごいね・・・」
「うん・・・」
沙織ちゃんの呟きに、僕は相づちを打つしかできない。
観客は総立ち。
音楽も、舞台効果も、全てが一体になって僕の体の中に流れ込んでくる。
舞台の上の由綺さんの歌、踊りが僕の思考を痺れさせる。
実のところ、僕は森川由綺のファンではない。
歌番組自体ほとんど見ないので、トーク番組に出ているのを少し見ただけだ。
その時は、なんかとろそうな人だな、ぐらいの印象しか無かった。
でも、今は違う。
なんだかよく分からないけど、彼女はすごい。
その証拠にだんだん頭が痛くなって・・・・・・・・・痛く?
え!?
本当に頭が痛くなって来た。
何かで頭の中をかき混ぜられるような・・・・・・・・・ってまさか!?
僕は瑠璃子さんと月島さんの方を見た。
ふたりとも、真剣な顔をして頷く。
電波だ・・・
間違いない、今ここには僕達三人以外の電波使いがいる。
そして彼、いや、彼女かもしれないけど、そいつは僕達に敵意を持っている。
なんとかしないと!
だが、その時だった。
「あうっ!」
突然、歌っていた由綺さんが頭を押さえて屈み込んだ。
ざわめく観客達。
しかし、次の瞬間、彼らも頭を抱えて苦しみだした。
観客席は大混乱し、悲鳴や怒号が飛び交った。
「まずい!」
僕は急いで周囲に電波の防壁を作り出した。
これで僕の周りだけだがはしばらくの間大丈夫なはず。
防壁が効いているその間に、電波の発生源を絶つ!
しかし・・・
「祐介なにやってんだ! これ電波だろ!? 早くなんとかしてれ!!」
「分からない・・・」
「え?」
「一体どこから流れてきてるんだ・・・」
電波は、濃度は低いものの、巨大なドームいっぱいに満たされていた。
全てを掻き集めたら、とてつもない量になる。
さらに、その範囲の広さと薄さが電波の流れを分かり難くしていた。
「──祐介さん、あそこに犯人らしき人影があります!」
セリオさんに言われた方を見ると、非常口の陰にひとり、この電波の中、平然と立っている人物がいた。
あいつが犯人に間違いない!
僕はすかさず攻撃の為の電波を集め始めた。
しかし、それより早く・・・
「URAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
ズドォォォォォォォン!!
「へ?」
いきなり非常口が爆発した。
「な、なんだ今のは!? 長瀬くんの電波ではないよな?」
月島さんも訳が分からずうろたえている。
耕一さん達も唖然としている。
ただ、浩之達だけは様子が違う。
「レミィ、町中でやるなって言ったろーが」
「HAHA、非常事態だからノープロブレムネ!」
レミィ・・・?
今の爆発はレミィがやったっていうのか?
「デモ惜しいネ。ドーヤラ逃げられちゃったみたいヨ」
「何だって!?」
とりあえずレミィの件は後回しだ。
犯人が逃げたためドーム内に充満していた電波は霧散し、他のみんなも自由に動けるようになった。
僕達は犯人を捕まえるべく外へと飛び出した。
☆★☆
頭が痛い・・・
一体何なんだ?
突然頭痛がして、目の前が真っ白になって・・・
気合でなんとか目を開くと、あたりにはドーム中の観客達が重なるようにして倒れていた。
なんだこれは・・・もしかして毒ガステロ!?
よりによってなんで由綺のコンサートで・・・
はっ!?
由綺は・・・・・・由綺はどうしたんだ!?
俺は痛む体を起こすと、全速力で舞台に向かった。
だが、足元がおぼつかない。
「くそっ!」
震える腕に力を込め、なんとか舞台によじ登る。
そこに由綺はいた。
ステージの上で、死んだように倒れていた。
「由綺っ!!」
近づこうとする意思に逆らうように、足がもつれ、盛大に転んだ。
痛てて・・・・・・いや、そんな事はどうでもいい!
とにかく早く由綺の安否を確かめなくちゃ。
言う事を聞かない手足で這いずり、由綺に近づく。
「由綺っ! 由綺っ! しっかりしろ!!」
座った状態で抱き起こすと、声をかけながらゆさゆさとゆすった。
「頼む! 目を開けてくれ! おい、いつもみたいに笑いかけてくれよぉ!!」
言葉の最後は涙声になっていた。
しかし、俺の願いも空しく、由綺の意識は戻らなかった。
俺は、由綺をきつく抱きしめ、泣いた。
だらりと垂れ下がった由綺の手は、固くマイクを握り締めていた・・・
それが、無性に悲しかった。
続く・・・
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次回予告
謎の電波使いを探す祐介達。
彼らは挙動に不審がある緒方英二との接触を図る。
「だてに来栖川を名乗ってないわよ」