もうひとりの能力者 第一話 投稿者: へーのき=つかさ
 このSSは、以前ここで発表した、拙作『第七の狩猟者』の続編にあたります。
 『第七の狩猟者』の致命的なネタばれを含むため、前作を先に読んでおく事をお勧めします。

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 朝か・・・
 窓の外から鳥のさえずりが聞こえる。
 今日もいい天気だ・・・寒いけど。
 ・・・まだ早いし、寝るか。
 オレが二度寝をしようと布団をかぶった時だった。
「浩之さーん! おきてくださーい」

 ぽふっ

 可愛らしい声と共に、布団の上に柔らかい感触。
「おきてくださーい」

 ゆさゆさゆさ

 布団の上から優しく揺られる。
 うーん、今日は大学無いから昼まで寝かせてくれって言ったはずなんだけどな・・・
「見てください! 浩之さんに手紙です」
 手紙・・・?
 めんどくさそうに頭を向けると、手紙をこっちに突きつけ上機嫌のマルチがいた。
 ホント、どんな些細な事でも幸せのタネにできるのはうらやましい。
 ・・・それはそれで、一体誰からだ?
 志保・・・・・・は、手紙なんか出さないな。
 アポ無しでいきなり押しかけてくるはずだ。
 ・・・ってなに考えてんだオレ、差出人を見ればいいんじゃないか。
 自分の馬鹿さ加減に苦笑しながら封筒の隅を見ると、そこには綺麗な楷書で『柏木千鶴』と書かれていた。
 柏木千鶴・・・・・・・・・あっ!
 忘れもしない、オレはほんの数ヶ月前に起きた大事件を思い出していた。


 来栖川先輩達の招待でやって来た隆山温泉。
 もちろんオレ達は保養に来たわけだが、どういうわけか黒い化物達と戦う羽目になってしまった。
 戦いはエスカレートし、終いには異世界の神が降臨する始末。
 まあ、勝てたからいいんだけどね。
 しかし、話はそれだけで終わらない。
 戦いが終わり、改めてオレ達は観光を始めたわけだが、なんと今度は正体不明の鬼が現れた。
 まあ、こっちの方も無事解決したけどね。
 柳川・・・?
 別に知ったこっちゃ無い、黒幕だったんだから。
 でもまさか、レミィに鬼の血が流れてるとは思いもしなかった。
 らしい素振りは何度も見て来たけどね・・・


「浩之さん、浩之さん」
 夏の思い出に浸っていたオレは、マルチの急かす声で我に戻った。
「なんて書いてあるんですか?」
 まだ封も切ってないって・・・
 オレは手でびりっと破り、中の手紙を引っ張り出す。
 すると何かがはらりと落ちた。
「あっ、落ちました!」
 マルチが落ちた二枚の紙片を拾い上げた。
「えーっと・・・・・・わあ、コンサートのチケットですぅ」
「コンサート・・・? おおっ、森川由綺じゃねえか!」
 す、すげぇよ・・・
 それほど芸能界に詳しくないオレでも、どれくらいの価値があるのかぐらいは分かる。
 彼女は最近人気急上昇中で、オレの友達などはチケットが取れなかったって嘆いていた。
 千鶴さん、オレ達のために取ってくれたのか?

「ひろゆきちゃーん!」
 オレ達がチケットをまじまじを眺めていると、外から大きな声で呼ばれた。
 まあ、誰なのかは確認するまでも無いが。
「たいへんだよー! すごいのがとどいちゃったー!!」
 外で言うな、外で。
 苦笑しながら玄関に向かった時だった。
「あのね、千鶴さんから森川・・・」
 馬鹿っ!!
 オレは慌てて飛び出すとあかりの口を押さえて家の中に引きずり込んだ。
 傍目には嫌がる女を連れ込むように見えたかもしれないが、近所の人達はオレ達の仲を知ってるから多分大丈夫だろう。
「もごもごもご・・・」
 あかりは涙目で手をブンブン振っている。
 自分がしそうになった事の重大さが分かっていない。
 やれやれ・・・


「あらためて思うんだけどさ、千鶴さんってすごいよな」
 オレ達三人は、手紙とチケットをもてあそびながら当日の事を思いはせていた。
「由綺ちゃんって結構好きなんだ、私」
「わたしも楽しみですぅ」
 あかりもマルチも嬉しそうだ。
「またあの時のメンバーが集まるのか・・・騒がしくなりそうだな」
 根暗そうだけど意外と行動派の祐介。
 爽やかそうだけどスケベ、でも頼れるコーイチさん。
 まあ、ティリア達は流石にいないだろうな。
 雀鬼一家も何処かでバイトに明け暮れている事だろう。
「楽しみだな・・・」


 だが、『二度ある事は三度ある』とは良く言ったものである。

                                   続く
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