藤田家子育て戦記 その5 投稿者: へーのき=つかさ
               MISSION 10 風呂に入れよ



   時間は・・・・・・7時か・・・
   あかりは実家(といっても歩いて数分)に出向いている。
   マルチは床の間の掃除をしている。
   そして、セリオは台所で食器を洗っている。
   ・・・イヤなパターンだな。
   このままだとマズイ!
   オレの本能がそう告げている。
   父親の勘、とでも言おうか。<嘘八百
   まあ、とにかくマズイ。
   今のうちに逃げるか・・・
   幸い真瑠は、例のハデ雑巾でテーブルを拭くのに夢中になっている。
   オレは新聞を畳むと、音を立てないようにゆっくりと立ち上がった。
   真瑠は気付かない。
   よっしゃ、いい感じ!
  「──浩之さん」
   ・・・何時の間にかセリオがオレの背後にいた。
   オレとした事が・・・真瑠に気を取られていてセリオの接近に全く気がつかなかった・・・
  「──頼みたい事があるのですが・・・」
   くそっ、なんてこった・・・アレだけは勘弁してほしいのに・・・
   いや待てよ、まだアレだと決まったわけじゃない。
   違う事かもしれないじゃないか。
   そうだ、そうに違いない!
   ・・・だが、こういう時に限ってイヤな方の予想が当たる物である。
  「──お嬢さん達をお風呂に入れてもらえませんか?」
   当たったよ・・・
   すると、テーブル拭きに没頭していたはずの真瑠がこっちに振り返った。
  「おー?」
   ううっ、期待に満ちた顔でこっち見てるよ。
   ちなみに、このぐらいの歳になれば、子供は大人達の言ってる事をほとんど理解できる。
   言葉を喋れない=言葉を理解できないというのは大きな間違いである。
   まあ、そんな事はどうでもいい。
  「おー、おー」
   真瑠はこっちにチョコチョコと歩いてくる。
  「・・・・・・・・・」

   ダッ!!

  「──あっ!?」
   オレは逃げた。
   オレはまだ、捕まるわけにはいかないのだ。
  「──浩之さん、待ってください!」
  「うー?」
   セリオと真瑠の声が聞こえたが、オレは無視して逃げた。


   階段の下へとやってきた。
   どうやらセリオ達が追ってくる様子はない。
   やれやれ、ひと安心だ。
   オレは柱に寄りかかると安堵の息をついた。

   ウチの娘達は、みな風呂好きだ。
   まあ、それはそれで大変ありがたい事なのだが、オレが入れるとなれば話は別だ。
   ちなみにウチでは、ベビーバスなんて高尚な専用器具は使わない。
   一緒に風呂に入るのだ。
   オレは覚えてないが(当然)、ウチの親はオレにそうやっていたらしい。
   で、あかりはおふくろからその話を聞いて、「子供達も親と一緒に入った方が嬉しいよね」とか言って、そ
  の方式に決めてしまった。
   まあ、あかりはいいんだろう。
   自分で言い出したんだし。
   セリオも結構喜んでやっている。
   マルチも・・・少々危なっかしいものの、ちゃんと風呂にいれている。
   でも、オレはイヤだ。
   メシをやるのはいい。
   おむつを換えるのもいい。
   添い寝して寝かしつけるのもいい。
   でも・・・・・・
   風呂に入れるのだけはイヤなんだ!!
   せめて風呂ぐらいは、ひとりでゆっくり浸からせてくれ。

   ぽふっ

   オレが頭の中で父親の主張をしていると、右足になにか柔らかい物が・・・
  「えー、うーおー」
   ひかりだ!
   三人の中で一番パワフルなひかりだ!!
   ひかりはしばらくオレの右足にしがみついていたが、今度は引っ張り出した。
  「おいおい、どこに連れて行こうってんだよ」
   なんか一生懸命引っ張るので、ひかりに引かれるままについて行くと・・・・・・風呂場に着いた。
   聞いとったんかい、こいつ
  「おー」
   ひかりがオレの方を向く。
   が、そのとき既にオレの姿は無かった。
  「うお?」


   バタン!

   ふう、寝室にいれば大丈夫だろう。
   念のため鍵も閉めておくか。

   さーて、後はマルチかセリオが三人を風呂に入れちまうのを待つだけだ。
   それまでオレは、ベッドに転がってますか。
   オレはベッドの方を向いた。
   その時・・・

   もぞっ

   ・・・布団が動いた。
   いや違う、誰かが布団に潜っているのだ。
   誰だ?
   セリオは違う。
   マルチも掃除中だ。
   真瑠は居間にいたし、ひかりは風呂場の前で振り切った。
   まさかあかりがいるわけないし。
   じゃあ、ここにいるのは・・・

   ひょこっ

   芹菜だ。
   よりによってなんでこんなところに芹菜が・・・
  「おおーあん、おうお」(訳:お父さん、お風呂)
   しかも風呂に入る事知ってるしぃ。
   さすが、一番早く言葉を喋れるようになっただけはある。
   歩けるようになったのは一番遅かったが・・・
  「あいおー?」(訳:入ろー?)
   うう、なんかキラキラした目でこっち見るし。
   駄目だ、コイツの目をみちゃ駄目だ!
   ヤツの眼力はクマをも睨み殺す。<RED嘘
   目・・・目を逸らさなければ!
   しかしオレは動けない。

   にぱっ☆

   もう駄目だ・・・
   芹菜の無垢な笑みに、オレは負けを認めた。
   だが、不思議と敗北感は無かった。



  「ほいよ、じゃあひかり上げるぞ」
  「──ひかりさん、体を拭きましょう」

   ふう、やっと三人を洗い終えたよ。
   さてと・・・んじゃあ、ゆっくり風呂につかりますかね。

   ガチャッ

  「──あの・・・」
  「ん、どーした?」
   オレは開いたガラス戸からセリオを見て・・・・・・絶句した。
   なんと、彼女は素肌にタオルを巻いただけのあられもない姿をしていたのだ。
  「な、なんだその姿は・・・」
  「──その・・・久しぶりに一緒に入りたいと・・・」
  「ああっ! セリオさんなにしてるんですか!?」
  「──ま、マルチさん」
   ・・・マルチまで来るし。
  「浩之さん、私も一緒に入りますぅ!」
   こら、ちょっと待て!
   脱ぐなっ!!
   まだ一緒に入るとは言ってない!!
   それに子供達の面倒は誰が・・・
  「あかりさんがさっき帰ってきましたよ」
   さいですか。


   結局、マルチとセリオと一緒にはいる事になった。
   ・・・言っておくが、アレな事はしてないぞ。
   アレな事はちゃんとベッドで・・・ってなに言ってんだオレは
   さらに、ふたりが出た後あかりも入ってくるし・・・
   のぼせるぅ〜
   ああやべぇ、鼻血でそう・・・


   その日の風呂はえらく疲れた。

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へーのき「さて、久々に『藤田家子育て戦記』をお送りいたします」
マルチ 「みなさん憶えてましたかぁ〜?」
みなさん「おぼえてな〜い」
へーのき「シクシク・・・」

綾香  「それにしても随分時間かかったわね」
へーのき「ネタはあるんだけどね・・・・・・それを話に仕立て上げるのが難しくて。
    3、4歳ぐらいになれば子供の視点って手法も使えるんだけど・・・」
綾香  「だったらさっさと成長させちゃえば?」
へーのき「幼児期しか書けないネタもあるんだから・・・(それに綾香は幼稚園編に出す予定だし)」
芹香  「・・・・・・・・・」(怪訝な目)
へーのき「べ、別に何も隠してませんって!」
綾香  「?」

いろいろ忙しいのでレス&感想は勘弁!!

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