故郷戦隊過疎レンジャーR 投稿者:へーのき=つかさ
                     第十五話
                            激闘! 隆山温泉を救え!



 ぐ〜〜〜っ

 純日本風の居間に、おなかの鳴る音が響く。
「おねえちゃ〜〜〜ん・・・おなかすいたよぉ・・・」
「・・・・・・・・・」
 そこにはふたりの少女がテーブルに突っ伏していた。
「・・・できたよ・・・」
 元気の無い声と共に、ふたりの姉である梓がご飯ののったおぼんを持ってきた。
 しかし、やけに軽そうだ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 突っ伏していたふたりは、おぼんを覗き込んでためいきをついた。
 少ない・・・
 小盛りのご飯に小さな魚、あとは具の殆ど無い味噌汁。
「悪いなふたりとも・・・・・・こんな食事しか出してやれなくて・・・」
「ううん、そんな事ないよ!」
 うなだれる姉に、末っ子の初音は精一杯の笑みを浮かべた。
「会社の経営が波に乗ればまた前みたいな生活ができるって、千鶴お姉ちゃんが言ってたじゃない」
「・・・・・・・・・」
 梓は初音の顔を見上げた。
「ね、だからそれまでのしんぼうだよ。がんばろうよ!」
 その言葉で、何かが吹っ切れたようだった。
「そうだな、くよくよしてるなんてあたしらしくない! もっと前向きに考えなくちゃ!」
「・・・・・・・・・」こくこく
「よし、じゃあ飯でも食うか!」
「「いっただっき・・・」」
「た・・・だ・・・い・・・まぁ〜〜〜〜〜・・・・・・」
 三人が食べ始めようとしたまさにその時、玄関から死期の近い病人のような声がした。
 そのただならぬ様子に慌てて玄関に出る。
「ど、どうしたんだ千鶴姉!?」
 そこには、精根尽き果てた、長女の抜け殻が立っていた。

「なんだって!? 鶴来屋を売り渡す!?」
 千鶴の報告に、三人は取り乱した。
「ど、どうしてそんなことを・・・・・・ただちょっと不景気なだけだろ?」
 梓の言葉に千鶴は首を振った。
「ごめんなさい・・・・・・みんなには黙っていたけど・・・本当は・・・もうどうしようもないほど赤字が出て
るの・・・・・・もう手後れなの!」
 言葉の最後は絶叫だった。
 もう声も出ない。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・・・」
「そんなことないよ!」
 初音が突如立ち上がって叫んだ。
「お姉ちゃんは頑張ったよ! 毎日毎日夜遅くまでお仕事して、みんなが遊んでる時でも書斎で仕事
して・・・・・・がんばったよ! おねえちゃんは・・・ひっく・・・・・・がんばったよ・・・」
「初音・・・」
「そうだよ、それに、たとえ鶴来屋から追い出されても、まだうちにはそれなりの貯えがあるじゃ
ないか・・・・・・いっそのことサテンでも開いたらどうだ? 『柏木美人四姉妹の店』男がわんさか来るよ」
「梓・・・」
「わたしたち姉さんと一緒にがんばるから・・・」
「楓・・・」
 千鶴は涙を流していた。
 懺悔の涙ではない、嬉し涙だった。
「ありがとう、みんな・・・・・・ほんとうにありがとう・・・」

                                       ☆☆☆

 赤い長い絨毯が敷かれた真っ暗な部屋
 そこで、ド派手で悪趣味な椅子に座った男が、目の前にひざまづく若い男を見下ろしていた。
「計画の方はどうなっている」
「ははっ、すべて順調でございます!」
 その報告に、椅子に座った男は、にやりと満足気な笑みを浮かべた。
「あそこを奪えば、かなりの打撃になるだろう・・・・・・ふ、ふ、ふ・・・」

                                       ☆☆☆

 とうとう鶴来屋を売り渡す日がやってきた。
 会長室には、会社の重役達が集まっている。
 皆の視線の中、千鶴は、今日で最後であろう会長の椅子に腰をかけ、感情の無い目で机を見つめ
ていた。
 目の前には契約書が一枚。
 これにサインをすれば、鶴来屋は売り渡される。
 自分が会長の座を失うのは別に辛くは感じなかった。
 ただ、鶴来屋を育ててきた今は亡き父と叔父を思うと、心が張り裂けそうだった。
「早くしてくれませんか? こちらもいろいろと忙しいので」
 契約書を持ってきた弁護士が、冷たく言い放った。
 いろいろ考えていても状況が変わるわけではない。
 観念した千鶴は、改めて契約書に目を通し・・・
「!? なんですかこれは!?」
 千鶴の指したその行には、小さい字でこう書かれていた。
『なお、鶴来屋の従業員は全員解雇する』
 ざわざわざわ・・・
 あたりが騒がしくなった。
 男に対し、説明を求める声が会長室に響く。
「どういうことなんですか! 解雇された人達は一体どうなるんです!?」
 千鶴の必死の叫びにも男は動じない。
  逆に笑みさえ浮かべて言い放った。
「そんなのはうちが決める事。あんた達にどうこう言う権利はこれっぽっちも無い」
「そ、そんな・・・」
 千鶴は机に崩れ落ちた。
「さあ、サインしてもらいましょうか」
 弁護士は契約書を千鶴に押し付け・・・

 シュパッ

 契約書はシュレッダーにかけたかのように粉々になってあたりに散った。
「誰だ! 邪魔をするのは」

 バンッ!

 会長室の戸が乱暴に開け放たれ、五人の男女が現れた。
「さっさと正体を現わしな、スタールの怪人め!」
 リーダー格らしい男の言葉に、弁護士の顔が青くなった。
「くそっ!」
 ガシャーン
 男は、窓を突き破り数十メートル下の地面に飛び降りると、何事も無かったかのように走って逃げ
出した。
「大変だ、逃げちゃうよ!」
「センパイ! 早く追いましょう!」
 中性的な顔つきの青年と、ショートカットの活発そうな少女が叫ぶ。
「よし、急ぐぞ! おくれんなよ!」

                                       ☆☆☆

「はぁ、はぁ、はぁ・・・まさかあんなところに現れるとは・・・・・・こうなったら実力行使だ!」
「そうはさせるか!」
 その声と共に、先ほどの五人が現れた。
「しつこい奴らだ・・・どうやら本気で死にたいようだな。ならばお望みどおり殺してやるよ!」
 男の体が黒い霧のようなものに包まれたかと思うと、まがまがしい装飾を施された鎧のようなもの
に変化した。
 鎧からは紫電が放たれ、あたりに焦げた匂いが充満した。
「ふふ、この電波怪人ツキシーマがキサマらの精神を破壊してやる!」
「・・・おい、あいつただ者じゃないぞ」
「んな事おまえに言われるまでもなく分かってる」
「ひでえ・・・」
 リーダーに邪険に扱われちょっとかっこいい系の男は落ち込んだ。
「ねえ、変身しよう。向こうが攻撃してきてからじゃ間に合わないよ」
 ほんわかとした、こういう戦いの場には似つかわしくない少女がリーダーに進言した。
「よし、いくぞ!」
「「おーーーーーー!!」」
 リーダーの掛け声に他の四人が答える。
「とうっ!」
 五人が華麗に宙を舞った。

 カッ!

 眩い光が溢れる。
 ザッ!
「過疎・レッド!」
 タッ
「過疎・ブルー!!」
 ズンッ!
「過疎・ブラック!」
 タンッ
「過疎・グリーン・・・」
 ズルッ
「きゃっ・・・過疎・ピンク!」
 五人が決めポーズをとる。
「故郷の過疎化はオレ達が阻止する!」
「「故郷戦隊、過疎レンジャーR!!」」
 ツキシーマは、勢いに押されあとずさる。
「むむむむっ、過疎レンジャーめ・・・これでもくらえ!」
 ツキシーマの周りに凄まじい濃度の電波が発生した。
「壊れて・・・しまえっ!!」

 キィィィィィィィィィンッ

「ぐ、ぐわああああああああ!!」
 電波をまともにくらったレッドとブラックが頭を抱えてのた打ち回った。
「センパイになにをするんですか! 必殺、百歩進拳!!」
 ブルーの掌から青白く輝く光の弾が打ち出される。
 光の弾は鎧を直撃し、電波の放出が止まった。
「うう・・・」
「だいじょうぶ? ねえ、痛くない? レッド・・・」
「少し頭がくらくらする・・・」
「わかった、わたしに任せて!」
 ピンクの両手から暖かい光が溢れ、レッドを優しく包み込んだ。
「・・・サンキュー、だいぶ楽になったよ。・・・・・・いつもありがとな」
「そ、そんなことないよ・・・・・・わたしはただレッドに元気でいて欲しいだけで・・・」
「お、俺は・・・?」
 ブラックはひとり取り残されていた。

 ブルーとグリーンはツキシーマと交戦中だ。
「タイガーシュート!」
 ツキシーマはグリーンの足から放たれた衝撃波を軽々と避けた。
「てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ブルーの必殺の拳ですらかすりもしない。
「グリーンさん、このままじゃ埒があきません」
「どうしようか・・・」
「こうなったら奥の手を使うぞ!」
 ふたりの背後からレッドが現れた。
「センパイ! 大丈夫なんですか!?」
「無理してない? レッド」
「ピンクのおかげで大丈夫だ。それより・・・」
「わかってます。アレですね!」
「そうだ、いくぞ!」
 五人は、腰のホルダーから過疎ガンを取り出すと、お互いに重ね合せた。
 ウィィィィィィン・・・
 機械音と共に、五つの過疎ガンが変形、合体し、ひとつの大型の銃・・・いや、大砲に変化した。
「くらえ! 必殺! 過疎バズーカ!」

 ギュォォォォォォォォォン・・・

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
 それが、電波怪人ツキシーマの最後の言葉だった。

                                       ☆☆☆

「いらっしゃいませー」
「遠いところからわざわざお疲れさまです」

「よかったですねセンパイ。鶴来屋がまた元どおりになって」
 五人は鶴来屋の前で、忙しそうに働く従業員達と膨大な数の観光客を眺めていた。
「あの美人な会長さんを泣かせたくなかったからな」
「もうっ」
 ピンクの少女が、しょうがないなーという顔をしてレッドの青年の顔を見上げた。
「ねえ、いつかまた、みんなでここに来たいね・・・」
 レッドに寄り添い、呟くような声でささやいた。
「そうだな、今度は戦いじゃなくて遊びにな」
 それに力強く答えるレッド。
「そのためにも・・・」
 ブルーが表情を引き締める。
「スタールを倒さないとね」
 グリーンが落ち着いた声で続けた。
「ああ・・・・・・そしていつか・・・四人で、遊びに来ような・・・」

 新たな決意を胸に秘め、次なる戦いに臨む戦士たち。
 そんな彼らに、風はどこまでも優しかった。



「お、俺はどうなったの?」





                                次回予告!

 ある小さな町に、町おこしコンサートのためやってきた大物歌手、森川由綺
 しかし、スタールの妨害により、会場である市民会館が破壊されてしまう。
「わたしはお金のために歌ってるんじゃない! みんなにわたしのこころを分けるために歌っている
のよ!」
 過疎レンジャーは、怪人を倒し、コンサートを成功させる事ができるのか!?
 次回、過疎レンジャーR、第十六話『こころのうた』
 来週も、みんなの故郷を守るため頑張るぜ!



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あとがき
 ふう、やってしまった・・・
 とりあえず、みんなの意表をつけれれば成功です(何が?)
 あ、ちなみにこれは続き物じゃありません。
 これで完結なので、続編を期待しないでください。(要望があれば書くかもしれないけど)

 さて、読めば分かると思いますが、これはリーフファイト97の宿泊イベントに出てくる
『故郷戦隊過疎レンジャー』を元にしています。
 過疎レンジャーの面々からどこかで見たような感じを受けるのは、たぶん気のせいです。(笑)
 ほんとうは巨大ロボットのプロットもできてたんですが、長くなりそうだったのでやめました。

 なお、この話を書く際に、ARMさんの『東鳩王マルマイマー』と、Kageさんのページ
(http://www2s.biglobe.ne.jp./~KageLeaf/)のリレーSS『ブラックマルチ』を勝手に参考に
させていただきました。
 では、またいつかお会いしましょう