第七の狩猟者〜中編〜 投稿者:へーのき=つかさ
「とりあえず、今分かっている事を整理しましょう」

  今、オレ達は鶴来屋で作戦会議を開いている。
  まさかまたこんな事で話し合うはめになるとは、トホホ・・・
  あっちの方では、志保と委員長と太田がふてくされて愚痴をこぼしあっている。
  しょーがねー奴ら、気持ちは分かるが他の人に迷惑かけるんじゃねーぞ。



 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「・・・はあ」
  会議の方はすっかり行き詰まっていた。
  コーイチさんの話によると、鬼の気配が突然消えたらしい。
  とゆーことは、人間に戻ったという事になるのだが・・・その鬼はまだ力に目覚めてか
 らあまり経っていないらしいのだ。
  そんな状態では、自分の意志で人間になったり鬼になったりできない。
  もし人間に戻ったとしても、急激な意識と体の変化に耐えられず気絶するというの
 だ。
  しかし現場には人の姿はなかった。

 「そういえば、なんであんなところに柳川がいたんだ?」
  そういえばそうだ、オレ達とは別行動だった柳川がなんで・・・
 「同族の気を感じたから狩りに来た。それだけだ」
  さらりと恐い事を言ってくれる。
 「しかし、その場所に着いた時には既に気は消えていた。さすがの俺もそれでは捜しよ
 うが無い。仕方なく辺りを適当にうろついていたら、あの女が倒れていたというわけ
 だ」
 「柳川でも駄目か・・・」
 「情けない話だがな・・・」

  その時だった

  ドンッ!

 「な、なんだ?」
 「隣の部屋だ!」
  隣の部屋っていうと・・・おい、レミィが寝かされてる部屋じゃないか!
  オレ達はすぐ駆けつけた。
  そして、部屋の中を覗くと・・・
 「こ、これは・・・」
  部屋の隅で、レミィの看病をしていたあかりと初音ちゃんが震えている。
  その前には、セリオが二人をかばうように立ちはだかっている。
  セリオの横では、心配そうな顔のマルチが、うずくまる量産マルチをさすっていた。
 「あっ!」
  量産マルチの右腕が肘の辺りから引き千切られている。
  ロボットとはいえ、外観が人間に似ているため痛々しい。
  ・・・ってそんな事考えてる場合じゃない!
  レミィはどうしたんだ!?
  オレは部屋の反対方向に視線を向け・・・凍り付いた。
  そこにはレミィが立っていた。
  しかし雰囲気が尋常じゃない。
  青く輝いていた瞳は、赤く染まり、狂気の光を放っている。
  そして、ハンターモードの時とも違う、黒くねっとりとしたオーラを発している。
  その様子はまるで・・・
 「鬼だ・・・」
  コーイチさんが呟いた。
 「うそいいや・・・なんでレミィが鬼なん?」
  委員長の言葉にもいつもの覇気がない。
 「耕一さん、この気は・・・」
 「ああ、信じたくないけど・・・」
  祐介の言葉にコーイチさんが頷く。
 「あの時の鬼だ!」



  部屋の中は戦場と化した。
  コーイチさんと千鶴さんがレミィを追う。
  梓さんが通路側、柳川が窓側を守る。

  千鶴さんが一気に踏み込む!
  しかし、レミィは横に飛び退き爪は空を切る。
  すかさずコーイチさんがつかみかかるが、それもするりと抜ける。
  レミィは攻撃せずに逃げに徹している。
  スピード、反応の速さはかなりのもので、一撃もくらっていない。
  このままでは埒があかない。
  コーイチさん達にも疲れが見え始めた。
 「止まれっ!」
  突然の月島兄の声と共にレミィの動きが鈍くなった。
  毒電波か!? ナイス月島兄!
  レミィを挟む形で対峙していたコーイチさんと千鶴さんが動く!
  決まった・・・・・・・・・と、誰もが思った。

  ごっちーーーん

  すごくいい音をたてて、コーイチさんと千鶴さんが頭から激突していた。
  レミィは紙一重でふたりの攻撃を避けている。
  頭を抱えて崩れるふたり・・・
 「な、なにやってんだ耕一! 千鶴姉ぇ〜〜〜!!」
  今ので一気に緊迫感が無くなった。
  オレも含めた全員が白くなる・・・

 「ひ、浩之・・・」
  コーイチさんの声で我に返ると、レミィが目の前に迫っていた。
  まずい、殺られる!
 「だめぇぇぇぇぇ! ひろゆきさぁぁぁぁぁぁん!!」
  マルチの絶叫
  それと同時に、普段マルチの力をセーブしていたリミッターが外れ、高圧電流が流れ
 出した。
  それはまるで意思を持つかのように、レミィに向かって襲い掛かった。

  バチッ、バチバチバチ!!

  レミィは慌てて後ろへ跳んだ。
  なんとか助かった・・・
 「さ、サンキューマルチ」
 「ううっ、大丈夫ですか、浩之さん・・・」
 「あ、ああ、マルチのおかげで大丈夫だ」
 「よ、よかったですぅ〜〜〜」
  安心して緊張の糸が切れたのか、ぐすぐす泣き出した。
  マルチらしいと言えばマルチらしいのだが・・・
  ちなみに、電撃の余波であかりと初音ちゃんが痙攣し、セリオと量産マルチのブレー
 カーが落ちているのには全く気付いていない。
  一方レミィは、電撃に恐れをなしたのか、踵を返し窓に向かって跳んだ。
  しかしそちらには柳川がいる。
  そう簡単に突破する事はできないだろう。
 「逃げるのなら俺を狩ってからにするんだな」
  キザなセリフと共に構えをとる。
  しかし!
 「ぶわっくしょん!」
  突然くしゃみをした。
 「馬鹿っ! なにやって・・・」
  レミィは柳川の頭上を飛び越え、外に向かって跳躍した。


                                     ☆☆☆


 「・・・柏木家の人間は、皆、鬼と人の意識を持ってこの世に生を受けます。幼い頃は人
 の意識のみが表に出、鬼の意識は心の奥底で眠りについているのです」
  楓ちゃんは、みんなからの要請で詳しく鬼の力について解説していた。
 「そして、ある程度鬼の意識が強くなると、人の意識との融合が始まります。女性の場
 合、鬼の意識がそれほど強くないので、人の意識が鬼の意識を取り込む形になります。
 しかし・・・男性の場合は、鬼の意識が強いため・・・」
  そこでいったん言葉を切る。
 「逆に鬼に取り込まれてしまう事が多いのです・・・」
  シーンとなる部屋・・・

  ややあって
 「まあ、仮にレミィが柏木の血を継いでいたとするで・・・・・・それでや、なんで女のレミ
 ィがああなってしもうたんや。今の説明だけじゃさっぱり分からないやないの」
  智子ちゃんの厳しいツッコミ。
 「・・・え、その・・・」
  困惑する楓ちゃん。
  そりゃそうだ、俺の知る限りでは鬼を制御できなかった女性はひとりもいない。
 「なんでや?」
 「・・・う、ううっ・・・」
  楓ちゃんはすがるような目で俺の方を見ている。
  ごめん楓ちゃん・・・俺って鬼の戦いは結構自信あるけど、鬼の知識はさっぱりなんだ
 ・・・楓ちゃんに分からないのなら当然俺にだって分からないんだよ・・・
  いや、意外と柳川が知ってたりして・・・
  しかし柳川は仏壇の前の千鶴さん状態になっていた。
  さっきの無様な自分が相当ショックだったらしい。
 「なーんーでーや! 納得いくように説明してみい!!」
 「・・・ううっ、こういちさ〜ん・・・」
  あ、とうとう泣き出した。



  結局レミィの暴走の原因は分からず、なんの進展も無いまま会議はお開きになった。
 「はあ・・・」
  ちら
  楓ちゃんの方を見ると、部屋の隅で、こちらに背を向け膝を抱えて小さくなってい
 る。
  やれやれ・・・
  俺が慰めてやろうとした時だった。
 「コーイチさん、ちょっといいですか?」
  浩之だ、彼にしては、珍しく真剣な顔をしている。(←失礼な奴)
 「レミィの暴走の件なんですけど・・・少し心当たりがあって」


 「レミィが何よりハンティングが好きなのは知ってますよね」
 「うん、知ってるよ」
 「レミィはアメリカにいた間、しょっちゅうハンティングに行ってたらしんです」
 「うんうん」
 「もしかしたら・・・それが鬼の意識を増大させてしまったんじゃ・・・」
  なるほど、そういう風に考えられなくもない
 「そう考えると、ハンターモードも鬼の意識の影響なんじゃないかって思うんですよ。
 ハンターモードの時の記憶は元に戻ると同時にきれいに消えちゃうし」
  ふむふむ・・・って、え?
 「いや、それは違うと思うぞ」
 「え? どうして」
 「人の意識も鬼の意識も記憶は共有しているんだ。もし、ハンターモードが鬼に支配さ
 れた姿だとしても、その時の記憶が無くなるなんて事は考えられないよ。だいいちその
 時の彼女からは鬼の気配が感じられなかったし」
 「そ、そういえばそうっスよねー」
 「「はあっ・・・」」
  ふたりの溜息が重なった。


                                     ☆☆☆


  ぶつぶつぶつ・・・
  通路を歩いていると、誰かがぶーたれてる声が聞こえた。
  たぶん志保か太田だろう。
  声のする方に行ってみると・・・やっぱりそうだった。

 「まったく、いったいどうなってんのかしら」
  と、いかにもだるそうに志保
 「正体不明の鬼が現れたと思ったら、それがレミィだったなんて・・・」
  と、疲れた顔をした太田
  こいつらすっかり愚痴り仲間になってやがる・・・
 「それにしても・・・どーして現代まで鬼の血筋を守り続けてきたのかしら」
 「子供が欲しかったからじゃないのぉ〜?」
  やや真剣な口調になった太田に対し、相変わらずぐた〜っとした志保
 「そうかしら、だって男性は暴走する確率が高いって分かってるのよ? それに暴走し
 たら自分達でなんとかしないといけない訳だし・・・・・・なんか理由でもあるのかしら」
 「んなもん無いでしょ」
  ・・・ふたりの会話を聞いてると、実に頭の構造の違いが分かる。
 「どんな理由なのかしら・・・」
 「知りたいですか?」
  ふたりははっとして振り向く。
  オレはすかさず物陰に隠れる。
 「千鶴さん・・・」
 「知りたいですか?」
  太田の呟きに再度同じ質問をする千鶴さん。
 「あ、迷惑で無ければ・・・」
 「では、説明しますね。これはお父さまから聞いた話のですが・・・」
  千鶴さんの表情が真剣になる。
 「わたし達柏木家は、鬼を狩るために存在しているのです」
  なんだって!?
 「血の拡散を防ぐ婚姻の制限、子供の間引き、暴走した鬼の駆除。それが、本家である
 柏木家の使命にして、存続させなければならない理由なのです」
 「そ、そんな・・・」
 「もっとも、今では暴走した鬼の駆除しかしてませんけどね」
  そう言うとくすっと笑った。
  な、なんでこんな話を笑ってできるんだ!?
 「あ、そうだ・・・」
  思い出したかのように千鶴さんが言葉を続けた。
 「今の話、妹達には内緒にしておいて下さいね」
 「え?」
 「どうしてですか?」
 「妹達を苦しめたくはないんです・・・」
  ・・・・・・そうか、今の笑みはみんなを必要以上に苦しめまいとして意図的に作ったもの
 だったんだ・・・
  ・・・いつもにこにこしてるけど、心の中ではどんな表情をしてるんだろう。
 「なんか湿っぽくなっちゃいましたね。それでは、わたしは用があるので・・・・・・あ、本
 当に妹達には言わないでくださいね?」
  そう言って志保と太田に頭を下げ、次にこっちを向いて頭を・・・って、ばれてたの
 か!? 隠れてたの・・・


  ぼけ〜っ
  とりたててやることもなく、さっきの話のおかげで遊ぶ気にもなれないオレは、自室
 に閉じこもりひとり夜空を見上げていた。
  あーあ・・・世間一般の人達は、こんな事が起きてるなんて夢にも思ってないだろうな
 あ。
  のんきに遊んで、飯食って、風呂入って、いちゃいちゃしてるんだろうなー
  せっかく周りにたくさん女の子がいるのに・・・どうしてオレはこんな目にあわなくち
 ゃならないんだ。
  なんか腹がたってきたぞ。
  そうだよ、なんでオレ達ばかりこんな事に巻き込まれるんだ。
  あー、むかつく!
 「ヒロユキ、ナニ怒ってるノ?」
  オレの呪われた運命にだよ・・・ってなにっ!?
  後ろを向くと、心配そうな顔をした金髪の女の子
  オレは恐怖のあまり声を発する事もできなかった。
 「ドーしたの? アタシの顔にナニかついてる?」
 「れ、れ、れ、レミィィィィィィィ!?」


                                     ☆☆☆


  本日三度目の会議が開かれた。
  正確には事情聴取だが。
  しかしそれも無駄骨だった。

 「て事は、レミィは何も憶えてないんだな?」
 「ナニもって、アタシさっきまでおテラで寝てたヨ」
 「寺で?」
 「Yes、ミンナが起こしてくれないから・・・」
 「夢かなんか見なかったか?」
 「ゼンゼン」

 「・・・あの、鬼が目覚めている感じはしませんが」
 「え、彼女からなんにも感じないの?」
  こくん
 「わたしも感じません」
  千鶴さんまで・・・

  どーなってんだ?


                                     ☆☆☆


  ひゅ〜〜〜っ
  気持ちいい風が吹き抜ける。
  しかし、僕はそれさえもうっとおしく感じた。
 「はあ・・・」
  おもわず溜息が漏れる。
  これで屋上に来てから何度めだろう。
 「くすくす、長瀬ちゃん、さっきから溜息ばかりだね」
 「そうだね・・・」
  一体どういう事なんだろう。
  耕一さん達の話によれば、女性はまず鬼に目覚めないという。
  仮に浩之のハンティング説が正しいとしよう。
  だが、まだ問題がある。
  記憶が共有されていない事だ。
  彼女は鬼になった時の記憶が無い。
  人の意識と鬼の意識が融合する前でも、記憶だけは共有されているはずなのだ。


 「長瀬くん」
 「月島さん・・・」
  いつのまにか月島さんがいた。
 「悩んでるみたいだね」
 「はい・・・」
  隠してもしょうがないので正直に答えた。
 「実は僕もどうなってるのかさっぱり分からなくて悩んでるんだ」
 「月島さんもですか」
  そこでしばし沈黙
 「長瀬くん」
 「なんですか?」
  ふいにこちらを向いた月島さんの目は、なにやら危なげな光りを放っていた。
 「このまま考えてても埒があかない」
 「そうですよね」
 「どうせなら、彼女に直接聞いた方が早いと思わないかい?」
  彼女に聞いて分からないからこうして苦労してるんだけど・・・
  はっ、まさか!
 「月島さん、それって・・・」
 「そう、心に直接話しかければいいんだよ。僕を助けてくれた時のように」



 後編へ続く