第七の狩猟者〜前編〜 投稿者:へーのき=つかさ
 「はい祐くん、どーぞ」
 「ありがとう・・・ってこれお酒じゃないか! うっ、酒臭い」
 「ぶれーこー、ぶれーこー」

                         それで隠れているつもりなのか?

 「初音ー、もうつまみがねーみたいだぞー」
 「本当だ、じゃあわたしが買って来るよ」
 「・・・わたしも」

                             感じるぞ・・・お前の気を!

 「にゃはははぁ〜〜〜、おシャケプリーズ」
 「そこら辺にしとけよレミィ」
 「うぷっ、気持ち悪い・・・」
 「くおらっ、志保! あかりには飲ませるなって言っただろーが!」

                              出てこい・・・そして・・・

 「いやー、すいませんねえ千鶴さん。お酌してもらっちゃって」
 「いえいえ、セバスチャンさんもいかがです?」
 「わ、わたしはお嬢様達を守るという使命が・・・」
 「あら、彼女達ならとっくに酔いつぶれて寝てるわよ」

                     わたしと共に狩りを楽しもうではないか!



                                     ☆☆☆



 「さてと、もうそろそろ帰らなくっちゃなー」
 「ええ〜〜〜っ!? もう帰るのぉ〜!?」
  オレが言うと志保は思いっきり不服そうな顔をしやがった。
 「なんでよー、あの事件のおかげでなんにも観光してないのよー。せっかく高い金払っ
 て来たのにい」
 「一銭も払ってないだろ、先輩達の招待なんだから! あのな、オレ達はすでに予定よ
 りかなり長く泊まってるんだぞ。千鶴さんの好意で追加の宿泊料はただにしてもらえた
 けど、いい加減に・・・」
 「なら一日二日延びてもたいして変わらないわね」
  まったく・・・へ理屈だけは一人前なんだからよ。
  オレが頭を抱えていると、委員長が口を開いた。
 「んー、やっぱりここは・・・」
  おう、言ってやれ言ってやれ。
  志保のやつをへこましてやってくれ。
 「せっかく来たんやからいろいろ見てみたいわ」
  へっ?
 「あの、わたし鬼を祭ったお寺を見てみたいです」
 「Oh! おテラ!」
 「わたしも見てみたいです!」
 「お寺ですかー」
 「浩之、たまには古いものも見てみようよ」
 「わたしは弟達におみやげ買ってあげないと」
  あ、あれ? ちょっと、みんな帰るんじゃなかったの?
  すがるような目であかりの方を見ると・・・
 「みんなもああ言ってるし、もう少しお世話になろうよ」
  うそ、あかりがそう言うとは思わなかった。
 「あかり、オレら余分な金持って来てないんだぞ? 今までは非常事態だったからしょ
 うがないとして、その宿代はどうするんだ?」
 「ただでいいですよ」
  千鶴さんから突然の申し出。
 「あと二日ぐらいならサービスしますよ」
 「え、いいんですか?」
 「はい、みなさんにはとてもお世話になりましたし、少しぐらいなら」
 「よっ、さすがかいちょー、太っ腹!」
  ぴくり
  志保の言葉に千鶴さんの笑顔が引きつったような気がしたが・・・たぶん気のせいだろ
 う。
  梓さん達が青い顔をしてるのも・・・・・・って、気のせいじゃない!
 「どーしたのよヒロ、なんか顔色悪いわよー。飲みすぎ?」
  てめーに言われたかねー
 「いいからお前は向こうに行ってろ」
 「ちょっと、なにすんのよ」
  にこにこ
 「早く向こうに行けー!」


                                     ☆☆☆


 「なんだ祐介、お前達ももう少し泊まる事にしたのか?」
 「うん、千鶴さん達には悪いと思ったんだけど・・・みんないろいろ観光したいって言う
 から」
 「まあまあ、みんなが数日ただで泊まったって鶴来屋にとっちゃ雀の涙だって」
  僕達は、耕一さん、梓さん、楓ちゃん、初音ちゃんの案内で、鬼を祭っている寺へ向
 かっていた。
  千鶴さんは、仕事が溜まっているらしくて朝早くから会長室に閉じこもっている。
  休みだからこそいつも以上に頑張らなくちゃいけないんです、と言っていたけど、な
 んか不憫だ。


 「ほら、着いたぞ」
 「へー、思ったよりさびれてるのねえ」
  着いたとたん長岡さんが問題発言をした。
  そして、いつも通りのどつき漫才が始まる。
 「でも確かに小さいよねー。ここの観光名所でもあるんだからさ、もっと大規模に・・
 ・」
  沙織ちゃんは、そこではっとして耕一さん達の方に振り返った。
  耕一さん達はあいまいな笑みを浮かべている。
 「そ、そうですよね。ただの伝説ならともかく実際にあった事だし、あんまり有名にし
 すぎると耕一さん達の正体がばれちゃうかもしれないし・・・その、すいません! 無神
 経な事言っちゃって! わたし、そこまで頭が回らなくて・・・」
  マシンガンの様に詫びの言葉を乱射しながらぺこぺこ頭を下げている。
 「いや、いいって、そんな・・・」
  耕一さんは勢いにすっかり押されている。
 「そうだよ、あんたが気に病む事じゃないよ。ここへは観光で来たんだからさ、楽しま
 なきゃ嘘だよ」


  それから、住職さんの話を聞いたり、次郎衛門の刀や角を見せてもらったりした。
  今僕は、ひとりで次郎衛門の墓の前にいる。
  柏木家の祖となった次郎衛門。
  彼はどうして子孫を残そうとしたのだろう。
  鬼が人間社会に適応できないのは分かっていたはずなのに
  何か理由でもあったのだろうか・・・
 「長瀬ちゃん・・・」
 「瑠璃子さん」
  いつのまにか後ろに瑠璃子さんがいた。
 「長瀬ちゃん、ぐにゃぐにゃした電波がでてたよ」
  ぐにゃぐにゃした電波・・・僕の難しい思考を、瑠璃子さんはそういうふうに感じたの
 だろう。
 「なんでもないよ、個人的な事」
 「そう・・・」
  そう言うとあっさり引き下がってしまった。
  心配していろいろ訊ねてくると思ったのに・・・
  いまひとつ瑠璃子さんの行動は分からない。
  ま、それはそれで置いといて・・・
 「さてと、暗くなってても仕方ないし、僕も楽しまなきゃ」
  僕はみんなの所へ戻る事にした。
  その時だった・・・
 「!?」
  ただならぬ気配を感じて僕は立ち止まった。
  何かがいる・・・しかも普通の人ではない。
  しいてあげるなら『鬼』といったところだろうか。
  僕は急いで耕一さん達の元に走った。


                                     ☆☆☆


 「・・・耕一さん」
  振り向いてみると、楓ちゃんが真っ青な顔をして立っていた。
 「ど、どうしたの楓ちゃん!? 顔色が悪いよ、気分でも悪いの?」
 「違うんです・・・感じたんです! 感じたんですわたし!」
 「落ち着いて!」
  あの冷静な楓ちゃんが動揺している。
  俺がなんとか落ち着かせようとしていると、

  ぱたたたた・・・

 「・・・・・・・・・」
 「芹香ちゃん?」
  驚いた、あの奥手でおとなしい芹香ちゃんが自分から話しかけて来るなんて・・・
 「・・・・・・・・・」
 「え、なにか邪悪な気を感じるって? 本当に!?」
  こくこく
  この娘が魔法の力を持っているのは知っている、また、嘘がつけない性格なのも・・・

 「耕一さ〜〜〜ん!!」

 「祐介!?」
  そう言えば、祐介も『力』を感じ取る能力に秀でてるんだっけ。
 「耕一さん、鬼らしき気を感じました! もしかしたら僕の思い過ごしかもしれないん
 ですけど・・・」

  ・・・間違いない、この近くには鬼がいる・・・それも俺達に敵意を持つ
  俺達に敵意を持つ鬼と言えば・・・
 「耕一さん、この感じは柳川さんではありません」
  柳川ではない、つまり俺達の知らない鬼ということだ。
 「みんな、その気はどっちから感じる?」
  俺の問いに、三人は市街地の方を指差した。
  まずい!
 「芹香ちゃん! 浩之と一緒にみんなを集めてくれ。俺達は一足先にその鬼を追う」
  こくり
 「行くぞ、祐介! 楓ちゃん!」



 「感じる・・・」
  市街地に降りて来ると、俺でも鬼の気配をビンビン感じた。
 「あっ!」
  人が倒れている。
  俺達はその人に駆け寄った。
 「うう・・・」
  幸いまだ息がある、まだ助かりそうだ。
 「楓ちゃん、早く救急車を!」
 「は、はい!」


  俺達は鬼の気を追っていた。
 「鬼の寺の方に向かっているように感じるのは気のせいでしょうか?」
 「気のせいであってほしいな」
  さっきの人はそれほど深い傷ではなかった。
  普通の鬼なら一撃で殺していたはずだ。
  手加減をしたとは考えにくい。
  恐らくまだ覚醒し始めで力がでないのだろう。
 「・・・あっ」
 「気が・・・消えた」
  突然気が消えた。
 「人間に戻ったのかな」
 「いえ、それは無いと思います」
  祐介の意見を楓ちゃんが否定した。
 「襲われた人を見れば分かるように、わたし達の追っている鬼はまだ覚醒しきっていま
 せん。そんな状態では自分の意志で人間に戻る事はできません。もし人間に戻ろうもの
 なら、気を失って倒れているはずです。」
 「ならどうして・・・」
 「・・・・・・・・・」


                                     ☆☆☆


 「おーーーい! レミィィィィィィ!!」
  ちくしょう、どこ行っちまったんだ。
  オレ、先輩、綾香、葵ちゃんは林の中でレミィを捜していた。
  先輩に言われてみんなを集めたのだが、レミィだけが見つからなかったのだ。
  恐らく、またハンターモードになって鳥かなんかを追いかけてるんだろう。
  それはそれでいいのだが(あんまりよくないと思うぞ)・・・もし、レミィが先輩の言
 っていた『鬼』に会ってしまっていたら・・・
  そう考えてオレは青くなった。
  いつものレミィならいざ知らず、ハンターモードのレミィなら逃げるどころか逆に追
 いかけるだろう。
  そんな事をすれば逆に狩られるのがオチだ。
  まずい、まず過ぎる・・・


 「センパイ! こっちにはいませんでした」
 「浩之、一度みんなの所に戻ってみない? 案外戻ってるかもしれないわよ」
  こくこく
 「そうだなあ、じゃあ戻・・・」

  ガサッ

 「!!」
 「聞こえた?」
 「ああ・・・」
  確かに聞こえた。
  誰かが近づいて来る・・・
 「先輩、鬼の気配はする?」
  ふるふる
 「じゃあ人か、最悪でもイノシシね」
  ふるふる
 「え、力を制御した鬼は完全に気配を消す事ができるって? あ、そうか、コーイチさ
 ん達も普段は人間と一緒だもんな」
 「じゃあ今近づいて来るのは鬼かもしれないってことですね」
 「そういう事になるな・・・」


  がさがさ・・・

  謎の物音はさらに近づいて来る。

  がさがさ・・・

  ごくり・・・
  嫌でも緊張が高まって来る。

  ざっ

 「あっ!?」
  ついに物音の正体が姿を現わした。
 「な、なんであなたがここにいるの?」
  綾香が動揺するのも無理はない。
  そこにいたのはオレ達の良く知っている・・・しかし、こんなところにいるなんて思っ
 てもみなかった人物だった。
 「ふっ、そんな事はどうでもいいだろう」
  そうクールに言い放ったのは・・・・・・気を失ったレミィを抱えた柳川だった。



 中編へ続く