桜の花の咲いた理由(わけ) 投稿者:ひめろく
「桜、やっぱり咲かないね」
 校門前で、あかりが言った。

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 学校前の坂道を、マルチと一緒にてくてくと下りていく。
 マルチがこの学校にやって来て−−何だかんだ世話を焼きつつも、彼女と一
緒にいるようになって、一週間が過ぎようとしていた。
 吹き抜ける冷たい風に、家路を急ぐ他の生徒達は、みな一様に身を縮めるよ
うにして早足で通り過ぎていく。
 緑色の髪と白いセンサーが、すぐ横でゆれているのを横目に、オレはマルチ
に話しかけた。

「なぁ、マルチ」
「何ですか? 浩之さん」
「お前、何か欲しい物とかないか?」

 いきなり言われて、マルチはきょとんとした顔をした。

「欲しい物…ですか?」
「そ。オレからの卒業祝いって感じかな?」

 マルチの運用テスト期間は7日間。つまり、明日で彼女ともお別れである。
この一週間の間、一生懸命頑張ってきたマルチに、何かご褒美でも…と思った
のだ。

「そ、そんな、いけません、浩之さん!」
「気にすんなって」
「で、でも…」
「いいからいいから、なあ? 何かないか?」
「そ、そうですか? え、えーと…」
「何でもいいぜ?」
「…うーん」
「物じゃなくても、何かオレにしてもらいたいお願いとかでもいいし」

 マルチはしばらくの間、うんうん唸っていたが、やがて顔を上げ、

「…本当に何でもいいんですか?」
「おう、まかせとけ! 男に二言はない!」
「えーと…じゃあ…」
「おう、何だ?」
「あの…さくら、見てみたいです」

 遠慮がちに言った。

「え?」
「桜です。あの、開発者の方からお話を聞いたことがあって、とっても綺麗だ
とおっしゃっていたので…」
「…そっか」

 マルチの頼みだ、そりゃオレだって、桜ぐらいすぐに見せてやりたい。
 これがいつもの年ならば、今頃、桜なんて、それこそ掃いて捨てるほどある
に違いない。
 だが、春はいまだその気配を見せない。吹く風は冷たく、花は堅く蕾を閉じ
ている。
 数年に一度の異常気象。
 確か、テレビではそんな事を言っていたと思う。
 日本全国この調子なのだ。
 ゆえに今、桜は咲いていないし、桜前線の足音さえ聞かない。
 考え込んでしまったオレを見て、マルチが言う。

「…あの、やっぱり…ダメ、ですよね?」
「う〜ん…」

 まぁ、写真とかでも桜を写した物は沢山あるだろうけど、でも…。
 満開の桜、そして風に舞うピンクの花びら…あの美しさは実際に実物を見て
みないと味わえるもんじゃないしなぁ。

「あの…浩之さん。いいんです。一度…見てみたいなって、思っただけですか
ら」

 マルチはそう言ってにっこりと微笑んだ。
 う〜ん、さくら、何とかマルチに見せてやれないもんだろうか…

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 中庭で、来栖川先輩に会ったのは、次の日の2限と3限の間の休憩時間のこ
とだった。
 陽が出ているとは言え、この寒いのに外に出ているとは、なかなかの強者で
ある。

「よっ、先輩!」

 オレが声をかけると、先輩はいつものようにゆっくりと振り向いた。
 2、3言、言葉をかわす。…といっても、オレが何か言ったことに対して、
先輩は頷いたり、聞き取れるか聞き取れないかくらいの小さな声で返事をして
いただけだが。
 先輩が何か反応する度に、彼女の艶やかな黒髪も、その動きに合わせて小さ
くゆれる。

「…ところでさ、先輩」

 しばらくしたところで、本題を切り出すことにした。
 先輩は『…何ですか?』と、応じる。

「魔法でさ…その…」

 どうしても、多少歯切れの悪い言い方になってしまう。

「…桜の花を咲かせることって、できないかな?」

 実は、昨日マルチと別れてからずっと考えていた。
 テレビや新聞で調べてみたり、志保の奴に聞いたりと、いろいろとやっては
みたのだが結果は言うまでもない。全く、役に立たない奴らである。まあ、異
常気象の名も伊達ではない、と言ったところだろうか?

「………」
「え!? 『あります』って? ホント? どーすんの? それ」
「…え? 薬を振りかけるだけだって? すごいじゃん、それ!」

 先輩は照れたのか、ちょっと恥ずかしそうな顔をする。

「でさ、ものは相談なんだけど…その薬、オレにちょっと分けてくれない?
 …え? あいにく切らしてます、って!?」

 先輩は申し訳なさそうに言い、そして、『…でも、すぐに作れますから』と
小さな声で続けた。

「ホント!? やたっ!」

 よし! これでマルチに桜の花を見せてやることができるぜっ!
 思わず舞い上がるオレの制服の端を、先輩がくいくいと引っ張った。

「…へ? でも、材料がないって?」

 …こくん。

 先輩の話だと、たいていの材料はそろっているが、1つだけないものがある
という。それも、一番大事な物だとか。

「…せ、先輩、何なの!? その材料ってのは!? 何ならオレが持ってきて
やるからさ…」

 とは言ったものの、あんまり変なモノでも困るけど…。
 来栖川先輩は、しばらく考えるようにしていてから、

「………」

 …と小さな声で言った。
 オレは思わず聞き返す。

「………へ?」
「………」

 ………。
 それって、ひょっとして…。

「………あ、あの…先輩」
「?」
「そのぉ…ひょっとしたらオレの聞き違いかも知れないんだけどさ…」
「…?」
「その、今…犬、って言わなかったか?」

 …こくんと頷く。

「やっぱし、生け贄かああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 そして、オレの悲痛の叫び声が、中庭に響きわたった。



「…あ、浩之ちゃん!」

 玄関の所で、あかりに見つかってしまった。

「どうしたの? もうすぐ次の授業始まるよ?」

 何か、間が悪いというか、良いというか…。
 ちょうど、外履きに履き替えようとしていたところだったのだ。

「あー、あかり。実は、その事なんだが…」
「え? 何? 浩之ちゃん」
「うむ、実は…風邪で熱があって今にも死にそうだから、家に帰ることにした
んだ」

 オレは口からでまかせを言うことにした。
 マルチが帰るまでに、何とか生け贄用の犬を探してこなければならないから
だ。
 これが平日ならば昼休みにでも探して、十分間に合うのだが、今日は土曜な
ので、あと一時間で授業は終わり。だから、そんな悠長なことは言っていられ
ないのだ。

「えっ!?」
「…と、言う訳なので、次の授業には出れないのでよろしく」
「よろしくって…」
「さらばだっ! あかり!」
「ちょ、ちょっと、浩之ちゃん!」

 うしろで、あかりが何かを言っているのが聞こえるが、オレは無視して走り
出した。

「浩之ちゃん、風邪ならちゃんと寝てないと…」

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 『イヌも歩けば棒に当たる』とは言ったものの、捜し物は一向に見つからな
い。
 いつもならここに来るまでに犬の1匹や2匹出会っていてもおかしくないは
ずなのに、だ。いろいろ心当たりを駆け回って探してみたのだが、こういう時
に限って全く見かけないのはどういう訳なんだろう?
 気付くと、いつの間にか学校に戻ってきていた。もう3時間目も終わろうか
という時間になっている。
 この寒い中歩き回ったため、身体はすっかり冷え切ってしまっている。
 くぅ〜、結局、何の収穫もないまま戻って来てしまった。
 …授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
 仕方なく、オレはとぼとぼと学校に入っていった。
 くそっ、来栖川先輩に何て言えばいいんだよ〜。

 …と、中庭にマルチの姿を見つけた。
 しゃがみ込んで、どこからか入り込んだ子犬の頭をなでている。
 結局マルチに桜を見せてやることはできないのだろうか?
 たった1人の女の子のお願いも聴いてやれないなんて、自分がひどく情けな
て仕方ない。
 ああ、どこかにいないか? 犬は………って、ちょっと待てっ!
 …中庭では、マルチがイヌとしゃべっている。

「…これだああああああああああああああああああああ!!」

 よっしゃあ! 棒に当たった!
 オレは叫ぶが早いか中庭に飛び出した。

「よっ! マルチ!」
「…あ、浩之さん」

 マルチはパッと顔を輝かせる。

「どうしたんですか?」
「…あ、いや、その犬に用があったんだが…」
「わんわん!」
「…おわっと!」

 何を思ったのか、子犬は嬉しそうにオレにまとわりついてきた。

「浩之さんの飼われているイヌさんだったんですか?」
「…へ? あ、えーと…ま、まぁ、そんなもんかな?」
「そうだったんですかー。私、浩之さんみたいなご主人様に飼ってもらえる犬
さんがうらやましいですー」

 マルチはそう言って、子犬の頭をなでた。

「わんわん!!」

 子犬も嬉しそうに吠えている。
 う〜ん…分かってんのか、こいつらは…?

「…じゃあ、浩之さん、私、もうそろそろ行かないと…」
「え? もう帰るのか!?」
「いえ、今日は、今までお世話になった感謝を込めて、一生懸命お掃除をしよ
うと思ってるんです」
「あ、そうだったのか?」
「はい」

 あぶねぇ、あぶねぇ。せっかくイヌを捕まえたのに、桜が咲く前にマルチが
帰ちまちゃあ意味ないもんな。

「…じゃあ、失礼しますね。イヌさん、さようなら」
「わんわん!!」

 マルチはにっこり笑顔で、手を振った。

「………ふぅ」

 オレはため息をついた。

「………さて、行くか」

 何かいろいろあったが、これで、マルチのお願いを叶えてやることができる。
 子犬を抱きかかえる。薬を作ってもらうために、来栖川先輩の所に行かなけ
ればならない。

「クゥン、クゥン…」

 子犬は、オレに甘えるように鼻をこすり付けて鳴いた。クリクリとした小さ
な瞳がオレを見つめている。…温かくて柔らかい。
 きっと、これからどうなるかなんて、これっぽっちも理解していないのだろ
うろう。
 そうだよな。当たり前だ。知る由もない。
 その、何も知らない子犬を、オレはこれから来栖川先輩の元に連れて行こう
としているのだ。
 やっぱりこいつ…生け贄になるんだよなぁ…。

『浩之さんの飼われているイヌさんだったんですか?』
『そうだったんですかー。私、浩之さんみたいなご主人様に飼ってもらえる
イヌさんがうらやましいですー』

 さっきほどのマルチのセリフが甦る。
 あいつの、友達なんだよなぁ…。
 自分の願いを叶えるために、この子犬が犠牲になったなどと知ったら…。あいつ何て思うだろうな?

「クゥン、クゥン…」

 子犬は相変わらず汚れのない瞳でオレのことを見つめている。

「……………」

 オレは子犬を再び地面に降ろした。

「行けよ…」

 だが、こいつは何を考えているんだか、オレの足にまとわりついて離れよう
としない。

「行けよ! オレはお前を生け贄にしようとしてたんだぞ! わかってんのか!
?」

 拳を握りしめて、叫ぶ。しかし、子犬はきょとんとした目でオレを見つめて
動こうとしない。

「行けって言ってるだろ!?」
「キャン!」

 痺れを切らしたオレが蹴飛ばすと、そいつは、悲鳴を上げてやっと少しだけ
遠ざかった。

「さっさとどこかに行きやがれ!!」

 オレは、足下の石を掴んで、そいつの方へと思い切り投げつけてやった。



「…先輩」

 先輩は、オカルト部の部室の前でオレを待っていた。
 オレが声をかけると、『…どうでしたか?』と小さな声で言った。

「…先輩。やっぱ、ダメだった」
「………」
「…こんな時に限って見つからなくてさ…ははは、タイミング悪いよなぁ」

 すっと、先輩の手が伸びた。

「…え?」

 なでなで…

「……あ、あの、先輩?」

 なでなで…

「………あ、あの、恥ずかしいんだけど…」
「………」

 『元気が出ましたか?』と、小さな声で言う。

「…あ、ああ。先輩、ありがとな」

 先輩は、こくんと頷くと、何やら紙袋のような物をオレに差し出す。

「? 先輩、これは?」
「………」
「…え? 『…桜を咲かせる薬です』って!? で、でも…材料がなかったん
じゃないのかよ? …え? 『ですから、効果は期待しないで下さい』…って
?」

 …こくん。

「…せ、先輩」

 オレは感動で胸が締まりそうになった。

「ありがとー、本当にありがとう! 先輩〜〜〜」

 思わず抱きついてしまった、オレの頭を、先輩はちょっと困った顔で、なで
なでしたのだった。



 さて…オレの記憶が正しければ、マルチは掃除をしてから帰ると言っていた。
 つまり、マルチの掃除が終わるまでに、来栖川先輩からもらったこの薬で桜
の花を咲かせなければならない。
 薬は直接木の枝に振り掛けるようにするのだそうだ。
 オレは、まず用務員室に向かった。梯子を借りようと思ったからだ。
 ………よし、梯子ゲット!
 よし、校庭に行くか。



 放課後の校庭は家へ帰る生徒達であふれかえっていた。
 土曜日。今日はいつにも増して賑やかな感じがする。
 …こんな所で、桜の木に梯子掛けて登らなきゃなんないのか?
 少し人が減ってから、という手もあるが、早くしないとマルチが掃除を終え
て帰ってしまう。
 …ええい、ままよ!
 オレは用務員室から担いできた梯子を、校庭の桜の木に立て掛けた。
 さっそく、何人かの視線が集まってくる。
 足をかけて梯子を登る。

「…おい、あれ、何やってんだ?」
「…何か始めるのかしら」

 風に乗って、そんな声が聞こえる。
 校庭にいきなり梯子を担いで現れ、桜の木を登り始めた男子生徒に、みんな
興味津々なのだ。
 ええい、くそ! 人の苦労も知らないで。
 やがて、梯子を登り切って、上から見下ろす頃には、まわりには人だかりが
できていた。校庭にいる全ての生徒が、みなオレの一挙手一投足を見守ってい
る。
 くぅ〜、花坂爺さんにでもなった気分だぜ。
 木の上は、心なしか風が、下よりも強く感じられる。オレは、寒さに一瞬大
きく身震いをした。
 まぁ、いい。見てろよ? 思いっきりびっくりさせてやるぜ!
 オレは先輩からもらった紙袋を開く。
 灰色で、さらさらとした感触がする。本当に花坂爺さんの灰みたいだ。
 中に手を突っ込んで、その灰を、手の平に一杯握る。そしてそれを、桜の枝の
まだ堅い蕾に向けて思い切り投げつけるように振り撒いた。
 ………灰は、風に乗って枝と枝の間へと消えていった。
 ………桜は、咲かない。
 蕾のふくらむ気配もない。
 くそっ、掛け方が足りないのか?
 もう一度、紙袋から灰を取り出して枝へと振り掛ける。
 ………やっぱり、咲かない。

「…ねえ、あれ、本当に何やってるの?」
「頭、おかしいんじゃねーの?」

 ええい、こうなりゃ、ヤケだ。

「えい、えいっ、咲け、咲け、咲けってば! …くそっ、やっぱり、イヌがな
いと効かないのか!?」

 オレは、無茶苦茶に灰を投げつけた。

「ええい、咲けよ、咲け! くそっ、何で咲かなーんだよ!?」

「…浩之ちゃん!?」

 突然、取り巻き達の無責任な囁きに混じって、聞き覚えのある声が聞こえた。
 …あかり?
 …その時、それまで向こう側に向かって吹いていた風が、いきなりその方向
を変えた。

「…うわっ!」

 自分の投げた灰が目に入ってしまった。
 幹にしがみ付いていた手が、思わず、離れる。そして…
 重力の消失。体が宙を舞う。
 一瞬の後…

 …どしんっ!

 背中から地面に落ちた衝撃と痛みに、一瞬息ができなくなる。

「浩之ちゃん!!」

 あかりが人混みの中から飛び出して駆け寄ってくる。
 目に入った灰がしみて、涙が出た。

・
・
・

「…じゃあね、浩之ちゃん」

 帰り道、あかりはオレに何も聞かなかった。

「なぁ、あかり」
「なあに?」
「オレって、何なんだろうな?」
「…」
「自分なりに一生懸命やってみたつもりだったのに…結局、何にもならなかった。1人の女の子の最後のお願いすら叶えてあげられなかった…」
「…浩之ちゃん。…あれ?」

 あかりが、いきなり、オレに手を伸ばす。

「浩之ちゃんの頭に付いてるのって…」

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・
・

 校門前。
 生徒達は、もうすっかり帰ってしまっていて、辺りはしんと静まり返ってい
る。
 先ほどまでの賑やかさが、まるで嘘のよう…。
 そんな中、来栖川芹香は、1人ぽつんと立っていた。迎えの車を待っている
のである。
 彼女は何をするでもなく、ただ、ぼぉっと独り待ち続ける。人気の消えた校
庭で。
 …ふと、何かが髪にふれた気がして。彼女は振り返った。
 …振り向いた先には、誰もいない。
 向き直る彼女の髪の上に、また、何かがふれる。…上から?
 芹香が、ゆっくりと空を見上げたちょうどその時…。
 …風が、吹いた。



 その少女は、自分の身体を抱きしめるようして木の根本に座り込んでいた。
 彼女の啜り泣く声が辺りに響く。
 近くの木の枝に吊した、サンドバックが小さく揺れている。
 学校の裏手にある、小さな神社。
 もう、何を奉っているのかさえ、分からないような、そんな古い神社だ。
 そこは、彼女の練習場所だった。
 空手をやめ、独り異種格闘技戦を目指し、尊敬する人を追いかけて。
 少しでも、その人に近づきたくて、でも、誰にもわかってもらえなくて。
 それでも、不安を押し隠すように練習を続けてきたのだ。
 でも…もう、足が動かない。
 試合の日が近づいてくる。
 もっと、もっと、練習しなくては絶対に勝てはしないと言うのに。
 こんなでは絶対に好恵さんに勝てない…。
 悔し涙があふれる。嗚咽が漏れる。
 焦りだけが、彼女の中で大きくなっていく。
 そんな彼女を包み込むように、大きな風が吹いた。
 涙で歪んだ視界の端に、何かが写ったような気がして彼女は顔を上げた。
 何か薄紅色の小さな物が、ひらひらと風に舞いながらゆっくりと舞い落ちて
くる。
 少女は一瞬自分が泣いている事さえ忘れ、その名を呟く。

「…さくら?」



 風が吹く、春の風が吹く、それを舞上げ運び去る。
 その日、それは遅すぎた春を乗せ、街中を駆けめぐった。
 降る、それが降る、ひらひらと風にもてあそばれながら。
 それは、街中に全ての人の上に舞い降りた。


 塾帰りの成績が落ちたことを憂う少女の元に。
 貧しい家族のために必死に働く少女の元に。
 この国の最後の見納めに思い出の木の元に訪れた少女の所へ。
 言えない力のため、いつも独り孤独な少女の所へ。
 恋に恋するうわさ好きな少女の元へ。

 それは、ひらひらと舞い降りた。

 そして…

 ゲームセンター前のバス停留所。
 マルチはいつものようにバスを待っていた。
「セリオさん・・・これで、この風景ともお別れなんですね」
 感慨深げなマルチの問に、いつものようにセリオが応える。
「−−そうですね」
 8日間のテスト通学も今日で終わり。
 マルチ達試作機は、それで役目を終えることになっていた。
 もう、これが世界の見納めかも知れなかった。
「桜…今年は咲きませんでしたけど…でも、来年は咲きますよね?」
「−−はい、きっと…」

 −−ブロロロロロロ・・・

 バスが来る、短かったけれども楽しかった日々との別れ。
 一歩踏み出しかけて、立ち止まり、そして、もう一度振り向いてみる。
 満開の桜、いつか自分の妹たちが生まれてきた時、その時は、きっと見せて
くれますよね?
 その、マルチの瞳に…

 風に乗って、ひらりと何かが舞い落ちる。

「…?」

何だろうと、目を凝らす彼女の瞳に、

 それは、ひらひらと
 ひらひらと
 ひらひらと
 次から次へと舞い降りてくる…。

「…セリオさん、セリオさん!! 桜です! 桜が…咲いてます!!」
「−−…よかったですね、マルチさん」

 セリオが優しい目で言う。

「はい、とっても…とってもよかったです!」

 マルチは、その乱れ舞う中に身体を躍らせた。

・
・
・

 あかりが振り向く。

「私、知ってるの」

 そして、にっこりと微笑んで言う。

「浩之ちゃんが本気になれば、何だってできるってこと!」



 …fin



 こんにちは、ひめろくです。
 えーと、この話ですが、10ヶ月くらい前に考えた話です。
 で、ずっと、書けない書けないって、頭抱えて悩んでました。
 一度に2行か3行くらいずつのペースで無理矢理書いて。やっと、少し出来
てきたかなって思うと、気に入らなくて最初から書き直してみたり(笑)。
 こんな事を繰り返していたんですが、先日やっと全部書き終わりまして。
 で、読み返してみて、愕然としましたね。
 だって、面白くないんですもん。
 文章めちゃくちゃだし、ストーリーは稚拙だし、やりたい事は分かるんだけ
ど、見事に失敗してる。
 …はぁ。
 まぁ、でも、これ以上どうして良いかも分からないし、誰だって最初は下手
なはずだから、思い切って投稿する事にしました。
 投稿する事に意義がある…そう、信じたいです、はい。
 こんな話を読んで下さった皆様、本当に本当に感謝します。ありがとうござ
いました。
 で、もしよろしければ、「ここはこんな風にした方がいいよ」とか「ここは
こうじゃなくてこうだろ?」とかアドバイスをいただけないでしょうか? 
(何か凄くあつかましいお願いしてるよ、自分(汗))
 それでは、またお会い…できるといいなぁ。