怪談 投稿者:ひめろく
 夜の学校を、あかりはひとり歩いていた。
 薄明かりに照らされた廊下。
 リノリウムの床に靴の底の擦れる音が何だか、いつもより大きく聞こえる。
 胸元で堅く握っている手が汗ばむのもかまわずに。
 …闇が、恐くて仕方なかった。
 生まれつき恐がりなのに加え、小さな頃から、怪しい怪談話を聞かされ続け
たせいだろうか?

(浩之ちゃん・・・浩之ちゃん、どこに行っちゃったんだろう?)

 あかりは思う。
 いつも彼女の側にいた人の事を。自分をそんな恐がりにしてしまった男の子
の事を。大切な、大好きな、幼なじみの事を。そして、自分が今探している人
の事を。
 そして彼は今・・・あかりの側にはいないのだ。

(浩之ちゃん・・・)

 どこに行ってしまったのだろう?

(・・・浩之ちゃん)

 今、学校には得体も知れない化け物がうろついているというのに。
 何人もの生徒が、人間(ひと)の仕業とはとても思えない無惨な姿で発見さ
れているのだ。

(・・・浩之ちゃん、浩之ちゃん・・・まさか・・・!)

 あかりの脳裏に、一瞬犠牲者の姿が浮かぶ。
 苦悶に歪む表情(かお)。食い荒らされた身体。
 いけない事を考えそうになって、あわてて頭を振る。
 そんな、そんなはずはない。もう既に、彼が化け物の餌食になっているなん
て。そんなはずは、ない。・・・そう、決して!
 あんな事になる前に、浩之を必ず探し出さなければ・・・。

『かたん・・・』

 ふいに、物音がして、あかりは足を止めた。

『かたん・・・』

 すぐ近くの教室から、それは聞こえた。

(浩之ちゃん・・・?)

 あかりは、おそるおそる近いて、半分だけ開いた戸から、そっと顔だけ出し
て覗き込む。
 ・・・だれも、いなかった。月明かりが薄く中の様子を照らし出しているだ
けだ。
 あかりが引き返そうとした、その時。

『かたん・・・』

 机の一つが、動いて音をたてた。

「・・・だ、誰?」
「・・・・・・ぐすっ、ぐすっ・・・浩之さん、浩之さぁん・・・」

 ・・・聞き覚えのある声。
 机の影に緑色の後ろ頭が見え隠れしているのに気付く。
 ・・・マルチだ。
 きっと、あかりと同じようにみんなとはぐれてしまったのだろう。
 あかりは、ほっ、と胸をなでおろして歩みよった。
 人一倍寂しがりで、恐がりこの娘の事だ、きっとすごく悲しい思いをしてい
たに違いない。

「マルチちゃ・・・」

 ・・・と、その歩みが止まる。
 床に座り込んだマルチの向こうに横たわる月明かりに照らされる『モノ』を
見て。
 あれは・・・人だろうか?
 そして、緑の髪の少女がゆっくりと振り返る。
 紅くベトベトした液体で汚れたその口元。虚ろなその瞳。
 マルチの向こうに横たわる血塗れの人物。

               その顔は・・・

「浩之ちゃん、浩之ちゃん浩之ちゃん・・・いやあああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああ!!!」

・
・
・

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああ!!・・・・・・って、おい! お前ら!」

 オレは、目の前の2人を見て言った。
 あかりは、耳を押さえてうずくまってるし、マルチに至っては、頭から布団
かぶっていやがる。

「・・・・・え? な、なに? 浩之ちゃん」
「・・・・・え? 何ですか? 浩之さん」
「・・・・・・・・・・あのな」

 オレは、あきれ顔で言ってやった。

「人がせっかく恐い話してやってるのに、耳ふさいでたら意味ないだろ!」
「ご、ごめん・・・」
「はい、すみません・・・」

 まったく、本当にしょうがない奴らだぜ。

「・・・じゃ、今度はちゃんと聞いてろよ?」

 今度こそ2人がちゃんと聞いている事を確認してから、オレは再び話し始め
た。

「・・・『怪談シリーズ第6話』・・・一方その頃・・・」

・
・
・

 こうして、夏の夜は更けてゆく・・・。


                  −幕−


 LF97の宿泊イベントです(笑)。


 こんにちは、このBBSでは始めまして。
 ひめろく、と申します。
 えー、この話ですが…何を言っているか全くわからない…なんて、事はあり
ませんよね?
 それが、凄く不安なんですが…。
 ともかく、読んで下さった皆様、本当にありがとうございました(ふかぶか)