春風を呼ぶとり 投稿者:ひめろく
「おはよう、ふたりとも」
長瀬主任が言った。
「おはようごさいます」
とセリオ。
「はい、おはようごさいます」
とマルチ。
「体の具合はどうだい?」
「はい、とっても元気です」
「特に問題はありません」
「そうですか、実は急な話ですが今日二人にある実験をしてもらうことになったん
です」
「実験ですか?」
「ええ」
「学校には行かなくて良いのですか?」
「ああ、それなんですが・・・」
彼は、いたずらっぽい目で言った。
「二人とも、お互いの顔を見てごらん」
「・・・・・」
「あっ、セリオさんがわたしになってます!」
「ちょっと必要なデータがあってね、今日一日だけ二人の体を入れ替えさせてもら
ったんだ。だから今日は、マルチはセリオの体でセリオの学校へ、セリオはマルチ
の体でマルチの学校へいってもらう。それが、今日の実験なんだ」

三時間目と四時間目の短い休み時間。
セリオは、山ほどの本をかかえて、廊下を歩いていた。
と、その時。
「マルチ、ストップ」
「はい」
セリオが立ち止まって返事をすると、本の陰から見知らぬ男子生徒が現れた。
「そんなに一度に持ってると危ないって言っただろ」
そして・・・。
「かしな、半分持ってやるよ」
本の山が低くなると、廊下の角から、金髪の女子生徒が出てくるのが見えた。
「あのまま行ってたら、そこで今のコとぶつかってたんだぜ」
その男子生徒は、セリオにそう言って笑った。

昼休み。
セリオは、充電のために図書室にやって来た。
いくつかのコードをノートパソコンに繋ぎ、画面をあやつっていく。
彼女が眠りに落ちると、すぐにそれはやって来た。夢。
記憶の整理をするコンピューターが見せる映像。
「春の風を運んでくる鳥の話を知っていますか?」
早瀬主任だ。これは、二人が作られて、まだ間もない頃の記憶。
「その鳥が鳴くと、春の風が吹くんです」
・・・・・・・。
「・・・で、浩之さんって方が、とっても親切にして下さったんです」
マルチだ。すごく楽しそうに話しかけてくる。
「浩之さんが・・・」
「それで、浩之さんに・・・」
「そして、浩之さんと・・・」
「浩之さん・・・」
・・・・・・・。
「半分持ってやるよ」
そう言って微笑んだのは、さっき廊下で会った男子生徒だった。

放課後。
下駄箱のところで、セリオは浩之に呼び止められた。
「よっ、マルチ。帰りか?だったら一緒に帰らねーか?」
「はい・・・。浩之さん」

長い下り坂を、二人は並んで歩く。
「なあ、マルチ」
「はい」
「おまえ、何か悩みでもあるんじゃねのーか?いつものおまえらしくないぜ?」
「そっか、だったらいいけどよ」
セリオを見る浩之は、とても優しい目をしていた。
「マルチ・・・」
浩之の顔がふいに近づく。
吐く息が顔に当たる。
セリオが目を閉じると、
唇が、ふれた・・・。
鳥がセリオの中で、きれいな声で鳴いた。
どこからか吹いてきた風が、浩之とセリオの髪をゆらした。                fin

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やっと、できたあー。
はじめまして、ひめろくといいます。
えー、ういうものを書くのは初めてなので、変なところがあったら、ごめんなさい。
電気仕掛けの体とゼンマイ仕掛けの心を持った女の子の話です。
セリオに心が生まれる瞬間はこんな感じかなぁ、と思って作りました。
すぺしゃるさんくす
久々野さんと、へーのきさんに。僕が、セリオファンになったのは、ふたりのおかげです。
読んでくれた人に。こんなつたない話を読んでくれてどうもありがとう。
それでは。