命令 投稿者:ハイドラント
 いきなりふっかぁぁぁぁぁぁつ!!!
 いや、ネタが思い付いてしまったもので。
 というわけで、ハイドラントの短編三作目です。
 久々野さん、読んで下さっていますか?
 これは、「なぜメイドロボに生殖器があるか」という疑問に
対する、私の「答えになってない答え」です。

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                       「命令」



「ふぁ・・・」
 大きく欠伸をしながら、俺は外に出た。
 朝日が気持ちいい。
「たまには早起きもいいもんだ・・・。」
 時間は、まだ六時。
 何故か今日は早くに目が覚めてしまったのだ。
 マルチが起きて、食事の支度を始めるにはまだ時間がある。
「新聞でも読むかね・・・」
 俺は郵便受けから新聞を抜き取った。
 その時、一つの記事が目に止まった。


「どうしたんですか、浩之さん。今日は食欲がないんですか?」
「あ、ああ。ちょっとな。」
 気遣わしげに声をかけて来たマルチに、俺は曖昧な返事をした。
 マルチとの付き合いも、いい加減長い。
 俺がこういう態度を取るときには、あまり深く追及するべきで
はないと、マルチは分かっている。
「あ、そう言えば、今日新聞が来てませんでしたね。
  どうしたんでしょう?」
 話を変えようとするマルチ。
 だがそれは、俺にあの事を思い起こさせた。
 それでも俺は、何とか平静を装う。
「・・・たまにはそういうこともあるんだ。配達人の手違いとか
でな。」
「そーなんですかー。」
 ・・・辛い。
 マルチの笑顔を見るのが、今は辛い。
 俺は早々に食事を済ませ、自分の部屋に逃げた。


 それは、二面記事の一つだった。
 大して大きい扱いをされていたわけではない。
 どこかの団体が来栖川を非難した、というだけの事。
 良くある事だ。一般人から見れば。
 だが、俺にとっては「良くある事」では済まなかった。
 非難の内容が、「なぜメイドロボに性交機能をつけたのか」と
あっては。


 なぜだろう。
 なぜ、長瀬さんたちはメイドロボに・・・マルチにそんな機能
をつけたのだろう。
 ・・・それはつまり、俺はなぜマルチを抱いたのか、というこ
とにも繋がる。
 性交。
 それは、本来は子孫を作るための行動だ。
 だが、メイドロボをいくら抱いたところで、子供など出来はし
ない。
 メイドロボを抱くということは、例えばHゲームを前に自慰を
するのと同じなのかもしれない。
 ・・・いや。
 人間とて、子供を作る為だけに体を重ねる訳ではない。
 愛。
 人間は、互いの愛を確かめ合う為に、性交という手段を取る。
 そして俺は・・・マルチを愛したから、抱いた。
 メイドロボのマルチを。
 ・・・違う。
 俺は、マルチの事をロボットとは思っていなかった。
 そう思っていたのは、出会った最初の頃だけだ。
 俺はずっと、マルチを人間と思って扱ってきた・・はずだ。
(何故・・・?)
 それは、マルチに心があるから。
 人の手で作られたものとはいえ・・・人と同じ心を持っている
から。
 心のないメイドロボ・・・量産型マルチたちに関しては、来栖
川は「ダッチワイフを大量生産した」と言われても仕方あるまい。
 だが、マルチは違う。
 マルチは心を持つ「人間」だ。
(そうだ・・・。長瀬さんたちは、きっと人間を作りたかったん
だ。そして、人間として愛されるために、性交が出来るようにし
たんだ・・・。)
 俺は、心が晴れていくのを感じた。
 答えを見つけたと思ったからだ。
 ・・・だがそれも、次の疑問が芽生えるまでの事だった。


 マルチは・・・本当に人間か?


 体の構造がどうこう、という意味ではない。
 ロボット三原則、というものがあると聞く。
 その中に、「人間の命令には絶対に従う」というものがなかっ
たろうか。
 マルチのプログラムにも、その原則は組み込まれているのだろ
うか。 
 組み込まれていたら・・・
(マルチは人間じゃ・・・ない。)
 人間であれば、他人の言う事を聞くか否かは、自分の意志で決
める事が出来る。周囲の状況によって服従を強制されることが
あっても、最終的な決断を下すのはやはり自分だ。
 マルチはどうなのだろう。
 これまで、マルチが俺の言う事に逆らった事は・・・ない。
 ベッドの中でも。
 人間の女であれば、嫌な時は嫌と言うだろう。口に出せない性
格でも、態度で表すだろう。
 例え相手が愛する男であっても・・・抱かれたくない時という
のはあるだろう。
 マルチは、今まで一度も俺を拒否した事はない。


「あいつは・・・俺の命令に逆らう事が、出来ないのか・・?」
 ・・・確かめる方法は、ある。
 マルチが、量産型たちと本当に違うのか。
 マルチは、人間として作られたのか。
 俺は、「人間」を愛して、抱いたのか。
 それとも、命令を良く聞く可愛いロボットを(忠実な犬を愛す
るように!)愛して、抱いてしまったのか。
 ・・・確かめる方法は、ある。


 それから数日間、俺は悩み続けた。
 こんなことはもう忘れて、今まで通りの生活を続けよう。
 何度もそう思った。
 だが、俺の心に巣食った陰は、次第に大きくなってゆく。


 そして、ある日・・・・。
 俺は、一人の友人に電話をかけて、呼び出した。
 メイドロボを持っている・・・そしてメイドロボをダッチワイ
フ代わりに使っている奴を。


 マルチは今、テーブルを整えている。
 友人が来ると聞いたので、茶の用意をしているのだ。
「・・・・・・・・」
 俺は、そのマルチをどこか冷えた目で眺めていた。
(こいつは、どんな顔をするだろう・・・)
 奴は、もうすぐここに来る。
 奴が来たら、俺はマルチに命令するのだ。


 この男に抱かれろ、と。


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「答え」というより、「新しい疑問」ですね。
 なんか、久々野さんの「どう天」を粉々に踏み砕いてしまったよ
うな気もします。すいません、私はこういう奴です。
「浩之は絶対にこんなことしない!」という方。
 実は私もそんな気がしてます。(笑)
 オリキャラで書いた方が良かったかな、やっぱり。


 マルチは果たして、浩之の命令に従うか、否か。
 皆様、どう思われますか?