「父から二人に、祝福を」第二話 投稿者:ハイドラント


              第二話  行雲




>side.A  現実・・・あるいは虚構


 親父が、死んだ。
 千鶴さんからその連絡が届いたのは、一か月前の事だった。
 ほとんど絶縁状態だった親父の訃報に、俺の心は大した衝撃も受けなかった。
 だから葬式にも出なかった。
 だが、千鶴さんから「せめて四十九日の間くらいはそばにいてあげてください」
と懇願され、俺は数年振りに親父の故郷、隆山市に来た。
 そして、四人の従姉妹と再会したのだ。
 いつも穏やかで、俺をゆったりとした気分にしてくれる、長女の千鶴さん。
 美人で、家事が得意ではあるが、生意気で乱暴な次女、梓。
 その微笑み一つで家の中を明るくしてしまう、四女の初音ちゃん。
 ・・・そして、なぜか俺を避けようとする、三女の楓ちゃん。
 この美人の従姉妹たちの歓待を受け(楓ちゃんは除く)、俺は、来て良かったか
なという気持ちになっていた。
 しかし、この家に来てから、俺は奇妙な夢を見るようになっていた。


 一つは、恐ろしい夢。
 俺の中から、何かとてつもなく凶暴なものが這い出そうとする夢。
 ただの夢、として片付けてしまうには、その夢は余りに大きな不安感を俺に与え
ていた。
 その「もの」が現れたとき、俺は一体どうなってしまうのか。そう考えてしまう
ほどに。


 もう一つは、切ない夢。
 少女が、俺に向かって呼びかける夢。
 俺とその少女は、互いに呼び合うことしか出来ず、相手の体に触れる事もできな
い。
 この上なく強く、激しく、俺達は呼び合っているというのに。
 余りの切なさに、俺は夢の中で、泣いた。


 この二つの夢は、無意味なものではないのかも知れない。
 俺は、そう思い始めていた。
 そして、その意味は、程なく判明したのだ。




>side.B  幻・・・あるいは真実


「柏木君・・・あの、柏木君。」
「・・・・・・・・・・・ぅん?」
 名を呼ばれて、耕一は目を覚ました。
 四時間目は倫理だった。退屈きわまりない授業であるため、耕一は欲望の命ずる
 まま、睡魔に身を委ねていたのだが。
 ふわぁ〜あ、と欠伸を一つ。
「・・あれ? もう昼休みか。」
 周りを見ると、既にクラスの皆は、そこかしこに集まって弁当を広げたり、連れ
立って学食に向かったりしている。
「・・・たく。祐也の奴、起こしてくれてもいいだろうに・・・。」
「柳川君は、生徒会のご用事とかで、授業が終わるとすぐに出て行ってしまいまし
た。」
「そうか・・・って、え?」
 耕一はその時初めて、自分の隣にあの少女がいる事に気がついた。
 今日このクラスに来た転入生。
「あ、あれ? 姫路さん?」
「はい。お休みのところをお邪魔して、申し訳ありません。」
 と言って、丁寧に頭を下げる。
「あ、いや、こちらこそ、わざわざ起こして頂いて・・・。」
 耕一もつられて頭を下げた。
(何なんだ、一体・・・)
 我ながら妙な事をしてるなと思いつつ、耕一は眠る前の事を思い出した。
 姫路柚那。
 彼女は、なぜかは知らないが、耕一に大きな関心を抱いているようだった。
 席も、彼女は耕一の隣を選んだ。
 確かにその席は空いていたが、空いてる席なら他にも幾つかある。
 また、当然ながら、彼女は休み時間になると多くの生徒に取り囲まれたが(主に
男)、彼らとそつなく会話をこなしつつも、その合間に耕一に話しかけてきた。
 その態度はあからさまではなかったので、大半の人間は、彼女が耕一に注目して
いることに気付いてはいない。だがもちろん、分かる人間には分かるものである。
「柏木君、もしよろしければお昼を一緒にどうですか? そのあとで、学校を案内
して頂きたいのですけれど。」
「案内? えーと、そういうことは委員長の祐也に・・・て、ああ、そうか。」
「ええ。お忙しい様ですので。
 柳川君が言うには、『悪いけど、そこのヒマ持て余し男を使ってくれ』とのこと
でした。」
 くすくすと笑いながら姫路が言う。
「あいつは・・・」
(もしかして、気を回したつもりか?)
 耕一は、やや戸惑っていた。
 柚那は、誰が見ても美人である。むろん耕一もそう思う。
 その美人に積極的に近付かれて、嫌なわけはない。だが、理由が分からないとい
うことが、耕一を困惑させていた。
 それが顔に出たのだろう。柚那は少し悲しげに表情を曇らせた。
「やっぱり・・・ご迷惑ですか? でしたら・・・」
「あ、いや、そんなことないって!」
 耕一は慌てて手をぱたぱたと振った。
「突然誘われたから、ちょっと驚いただけだよ。
 えーと、学食に行く? それとも、弁当持ってきた?」
「お弁当を持ってきました。できれば、日の当たる場所で食べたいのですけれど、
いいところはあります?」
 ピンク色の弁当入れを掲げつつ、尋ねる柚那。耕一は少し考えて言った。
「そうだなあ・・・。屋上は、この時間だともう座るところなんかないだろうし。
 ・・・中庭でいいかな? あの、テニスコートの隣の。」
「はい。では行きましょう。
 ・・・ところで、柏木君もお弁当持ってきたんですか?」
「ああ。俺はいつも弁当だから・・・て、待てよ?」
(そういえば、今日は確か・・・・)
 耕一がふと気付いたとき。
「兄さーん!」
 教室の入り口から声がして、彼の妹がやってきた。
「遅れてごめんね。四時間目が体育だったから。
 ひょっとしたら、もう学食にでも行っちゃったかなって思ってたんだけど。ちゃ
んと待っててくれてたんだね・・・・て、あれ?」
 楓はその時ようやく柚那に気付き、眼をぱちくりとさせた。
「あ、えーと、これは俺の妹で、楓って言うんだ。
 で、こちらが・・・」
「姫路柚那です。今日この学校に転入して来ました。」
 耕一の後を引き取って柚那が言い、ぺこりと頭を下げた。
「あ、はい、柏木楓です。初めまして・・・。」
 楓も慌てて頭を下げる。
「あの、それで兄さん、お弁当持ってきたんだけど・・・。」
 何となく柚那の方を気にしつつ、おずおずと楓が言った。
「ああ。それで今、姫路さんと一緒に食べようって話をしてたんだ。
 構わないだろ?」
「う、うん。わたしはいいけど・・。」
 ぎこちなくうなずきつつ、ちらりと柚那を見る楓。
 そんな彼女に、柚那はにこりと微笑んだ。


「気持ちのいいところですね・・・。」
 弁当箱を開きながら、柚那が心地良さそうに言った。
 この中庭は、一面に芝生が敷かれ、辺りには木々が立ち並ぶ、とても清涼な空気
のもとにある。
「そうだね。午後の授業がなければ、速攻で昼寝するところだ。」
 こちらは早くも弁当をつつきつつ、耕一が言った。
「あら・・・」
 くすりと笑う柚那。
「さっきあれだけ寝ていたのに、まだ寝足りないんですか?」
「・・・兄さん、また授業中に寝てたの?」
 楓が呆れた口調で言った。
「『また』ってお前、学校で俺を観察してるわけじゃなかろうに・・・。
 言っとくがな、今日はたまたま寝ていただけであって、いつもは・・・」
「一日平均一時間は居眠りしてるんでしょ。
 祐也さんから聞いてるよ。」
「それは嘘だ。あいつはお前にある事ない事吹き込んで、尊敬されるべき兄である
俺のイメージを歪めることを、趣味にしているという男だからな。」
「『・・てなことをあいつは言うだろうが、騙されないように』とも言ってた。」
「・・・わ、技が深い奴・・・。」
 うめく耕一を見て、柚那がまたくすくすと笑った。
「本当に仲がいいんですね。柏木君と、楓さんと・・・柳川君は。」
「仲がいいかはともかく・・・うちと祐也の家は親戚だし、家も近いから、昔から
家族ぐるみで付き合ってたんだ。」
 メンチカツを頬張りつつ、言う耕一。
 それを聞くと、柚那は何かを思い出したように顔を上げた。
「そう言えば・・・・。
 たしか、柏木家と柳川家は、この地に古くからある家なんですよね。
 柏木家が本家で、柳川家は分家の一つだったかしら?」
「・・・よく知ってるね。」
 耕一は目を丸くした。
 今の話、耕一も昔祖父から聞いた事があるが、今の今まですっかり忘れていた。
 それが、まさか柚那の口から出てくるとは思わなかった。
 柚那は、少し照れくさそうに笑って言う。
「わたし、昔話や伝承とかを読むのが好きなんです。柏木家と柳川家の名は、『雨
月山の鬼』のお話を調べているときに知ったんですよ。」
「ああ、なるほど・・・。」
 納得した耕一は、記憶を掘り返して、その昔話を思い出そうとした。
 ・・・柚那の言葉を聞いたとき、楓がびくりと体を震わせていたことに、彼は気
付かなかった。


 雨月山の鬼。
  それは次郎衛門という侍が主人公の話である。
 時は室町時代の中頃、この地の雨月山に、どこからともなく現れた鬼の一族が住
み着いた。
 鬼は人々を殺し、また若い娘をさらい、暴虐の限りを尽くした。
 時の領主、天城忠義は、二度に渡って討伐隊を派遣したが、いずれも散々に打ち
破られた。
 次郎衛門は、この二度目の討伐隊に参加していた。
 彼は、強力な鬼との戦いで、瀕死の重傷を負ってしまう。
 だが、その彼を助けた者がいた。
 一人の、鬼の娘である。
 その娘は、次郎衛門に自らの血を与える事で彼を鬼に変え、命を救った。
 そして、二人は恋に落ちる。
 だが、娘のその行為は、一族の怒りを買い、娘は殺されてしまう。
 鬼に対する憎悪を更に激しくした次郎衛門は、天城忠義に掛け合い、三度目の討
伐隊を出させる。
 その討伐隊は内通者・・・あの娘の妹・・・の手引きにより、鬼たちを罠にかけ
ることに成功する。そして混乱した鬼たちの中に次郎衛門が切り込み、鬼の首領を
倒すと、他の鬼たちは散り散りになって逃げていった。
 その後、次郎衛門はかの鬼の娘の妹を妻にし、この地で生を終えた。
 鬼の血を伝える彼の子孫は、今でもこの地に住んでいるという。


「・・・それが柏木家だ、って言う説があるんだよな、確か。」
「ええ。他にも色々候補はあるみたいですけど。
 でも、もし本当に柏木家が鬼の子孫なのだとしたら、柏木君の中にも鬼の血が流
れている事になりますね。」
 冗談めかして、柚那が耕一に言う。耕一は肩をすくめた。
「鬼って言っても、どうせ実態はただの野盗か、いいとこ外国からの漂流民てとこ
ろが関の山だろ? 
 俺達の体の中に、鬼の血なんてものがあるわけないさ。なあ、楓?」
「・・・・・・・」
「楓?」
 耕一がそちらを見ると、楓は弁当を食べる手を止めて、じっとうつむいていた。
「おい、どうした?」
 耕一がその肩を揺さぶると、楓ははっと顔を上げた。
「う、うん、何でもないよ。ちょっと気分が悪くなっただけ。
 ・・・ごめん、わたし用事があるから、もう行くね。」
「あ、おい・・・」
 そう言うと、楓は弁当をしまい、校舎の方に走っていった。
 耕一が止める間もなく。
「何なんだ、いったい・・・?」
 訝しげに呟く耕一。
 彼の後ろでは、柚那がじっと楓の後ろ姿を追っていた。
 その瞳に、冗談の色は既になかった。




                                      続く




                                次回予告


 そうだったのか?
 お前は、あいつのことが・・・
 だが、俺は・・・
 俺は・・・・・・・・・


  第三話 「陽光」


 光は、まだ暖かい。




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HY=ハイドラント
柚那=姫路柚那

HY:というわけで、第二話! 公約通り一日で書き上げました。
      いやー、やれば出来るもんですね。偉いぞ俺。
柚那:東京都近郊の皆様にお知らせします。ただいま駄作作家の異常な行動の
      ため、大雨洪水雪崩稲妻セカンドインパクト警報が発令されました。
HY:・・・・・・・・・おい。
柚那:さ、わたしも早く避難しないと・・・・。
HY:何なんだその言い草は!? せめて「雨でも降るかしら」くらいにしろ!
柚那:とは言いましても。あなたほどの比類無き無能人間が、たかだか10K
      B弱とはいえ、一日で書き上げたんですから。
      雨くらいですむとは到底思えませんね。そうでしょう?
HY:・・・同意を求めるなよ、俺に。
      ま、いい。今の俺は機嫌が良いのだ。昨日の今日だというのに、早速感
      想のメールが届いているもので。
      皆様、有難う御座います。
柚那:いや、ほんと。こんなコミクロンの発明にも劣る駄作を量産するしか能
      のない百害あって一利なし男に、温かい言葉をかけてくれるんですから。
      世の中って、まだまだ捨てたもんじゃないですねー。
HY:前半分はともかく、後ろ半分は同感だ。
      礼儀を知らない輩が多い今の世の中なのに、相手の顔も見えないインタ
      ーネット上できちんと人に対する配慮がなされているというのも、考え
      てみれば随分奇妙なものですが。
      では、感想とレス。


>「続・千鶴さんの一網打尽レ・シ・ピ(ダイヤ)」春夏秋雪さん
  「悪魔の毒々プリン」よりはまし・・・か?
   よく生きてたね、耕一。凄いぞ。

>「射手座に願いをかけて」無口の人さん
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ。
   ぬぅ、思わず失神しそうになってしまった。これほどパンチの利いたギャグ
   を受けたのは久しぶりだ・・・。
  「ありがち」って・・・普通思いつかんと思いますよ、こんなネタ(笑)

>無駄口の人さん
  「魍魎戦記MADARA」です、あれは。
  マンガの方も好きですが、私としては小説「天使編」が一番好きですね。
  私の作風に多大な影響を与えたものですし。

>「What’s マルチュウ? 第七話」ARMさん
  デ、デカチュウって・・・まさか・・・
  電撃大王の、安永先生のマンガに出てきた、あの・・・・

>「優しさの結末 三日目午前」智波さん
  キレたキャラですねえ、浅水君。
  しかし、電波使いでしかも鬼・・・LF97に出たら反則ですな。

>「Lメモ俺的外伝3 あなたに、会いたい」ジン・ジャザムさん
  1980円でしたか・・・。冬コミのあの行列は一体何だったんだ。
  それはともかく、どうやらジンさんとはかなり趣味が一致しているようです
  ね。嬉しい限りです。
 「グレートガンバスター」は、そうま竜也先生が、昔コンプティークで連載し
  ていたマンガです。しかしとうとう完結しないまま・・・。面白かったのに。
  サンボルはともかく・・・ラ、ライフルマンですか。最高の機体ですな(笑)
  私は、フェニックスホークとバトルマスターが好きですね。最近では、それ
  ら中心領域のメックより、クラン・メックのごつごつしたスタイルに美を感
  じたりもしていますが(笑)。

>「ひなまつりだよね、楓ちゃん。Lメモ超外伝SP11」久々野 彰
  昨日の投稿で、久々野さんだけ敬称が抜けてました。申し訳ありません。
  この場にて頭を下げておきます。見えないけど。
  それはともかく、詳しい説明有難う御座いました。では早速、自己紹介SS
  を。ほんとの即興ですので、いい加減ですが。しかも文章借りてます(謝)。


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「くらぇぇぇぇっ!!。みかかミサイルゥゥゥゥ!!」
「うぎゃぁぁぁぁっ!!」
「ぐべぇぇぇぇぇっ!!」
 風見ひなたが隣にいた赤十字美加香の身体を投げつける事で、襲いかかって
きていた覆面をつけた男子生徒軍団を撃退する。
「勝利とて・・空しいものだ・・・・。」
「・・・だったら・・空しくない勝ち方を・・考えてください・・・・」
  静かに呟くひなたに美加香が言うが、当然聞こえていない。
  が、突然。
「・・・・・むっ!?」
  ひなたが、はっと辺りを見回す。
「? どうしたんですか?」
  尋ねる美加香に、ひなたはなお辺りを警戒しつつ言った。
「今、妙な気配がしたんだが・・・・。気のせいか。ただのしかばねと消火栓
しか見当たらんしな。
  いくぞ、美加香。 」
  ・・・・・・そして、彼らが去った後。
  傍にあった消火栓のフタが開き、中から一人の男が現れる。
  マントで体を覆った全身黒ずくめ。目にはモリアーティー教授のような片眼
  鏡。手には何故か仕込み杖。
  あまりにも怪しくて何が怪しいのかわからない男であった。
  その怪しい男が、怪しい台詞を呟く。
「ふふふ・・・。あれがSS不敗流か。素晴らしい、素晴らしいぞ。
  あの力、必ずや我が物にしてくれる。」
  ・・・悪役の義務、悪事の説明をしているようだ。
「さて、次は彼の師匠、西山英志だな。
  ・・・・・ぬぅっ!?」
  突然怪しい叫びを上げ、懐から懐中時計を出す。
「いかん、来栖川綾香の試合の時間だ。
  会場に急がねば!」
  そう言うと、彼は腰を沈め、クラウチングスタイルをとった。
  そして、叫ぶ。
「ポチョムキィィィィィィン!!」
  瞬間。
  土煙を残し、彼の姿は地平線の彼方に消えた。

  この日。
  SS不敗流と来栖川綾香を狙う男、ハイドラントが活動を開始した。

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  とまあ、取りあえずこんなん書いてみました。
  では、必要事項。

1.名前   ハイドラント
2.性格   怪しい行動にプライドをかける。
3.言葉づかい  普段は「私」ですます調。ただし、興奮すると「俺」エセ関
    西弁調。
4.交友関係を持ちたいキャラ
    1・綾香 2・楓 3・芹香 4・瑠璃子 5・初音
5・通常技    仕込み杖
    特殊      プアヌークの魔剣       
    必殺      殺戮電波
    超必殺技  ポチョムキンクラッシュ
  (技の内容は、書く人が適当にイメージして書いてくれればいいです。)
6.設定
    風見ひなた、西山英志をマークし、SS不敗流の奥義を盗もうとしている。

 ・・・とりあえず、こんなものでいいでしょうか、久々野さん、Runeさん。


HY:では、また明日会いましょう。
柚那:会えれば、ね。