「父から二人に、祝福を」第三話 投稿者:ハイドラント


              第三話  陽光




>side.A  現実・・・あるいは虚構


 夢の意味に気付かせてくれたのは、楓ちゃんだった。
 俺には、夢の中で俺の愛した少女の姿が、楓ちゃんに重なって見えた。
 それはやがて抑えきれなくなり、俺は楓ちゃんにその想いを告白した。
 楓ちゃんは驚いたが、やがておずおずと言った。
 自分も夢を見ると。その中には、一人の男が出てきて、そしてそれは耕一だと。
 俺と同じ夢を、楓ちゃんも見たと言うのだ。
 だから・・・
 楓ちゃんは、顔を真っ赤にしながら告げた。
 俺の事を好きだと。
 それを聞いて、辛抱できなくなった俺は、楓ちゃんを抱きしめた。
 そして、俺達は結ばれ・・・・・
 俺は、前世の記憶を取り戻した。


 遥か昔。
 月の下、川のほとりで、俺と少女は出会った。
 美しい少女だった。
 俺は少女に、ここには鬼がいる、危ないぞ、と声をかけた。
 だが、その言葉は通じなかった。
 異国の者なのか、と俺は意味の取れない少女の言葉を聞いて思った。
 その美しさも、どこか浮き世離れしているように俺には見えた。
 俺は、通じないのを承知で、少女に語りかけた。
 お前は美しいな、と。


 燃え盛る炎。断末魔の絶叫。
 鬼の討伐に向かった俺達は、そこで地獄を見た。
 鬼の妖術、そして体力は、人間の力をはるかに凌駕していたのだ。
 鬼などと呼ばれていても、所詮ただの山賊程度に過ぎないだろうと思っていた
俺達は、殆ど一方的に殺されていった。
 そして、俺の前には、あの少女がいた。
 澄んだ瞳で、倒れた俺をじっと見つめて。
 ・・・この美しい鬼に殺されるのなら、それもいい・・・。
 そう思いつつ、俺は意識を失った。


 俺は死ななかった。
 少女は俺に止めを刺すかわりに、俺に自分の血を与えて命を助けたのだ。
 少女は語った。
 自分たちはエルクゥという名の、星から星へと渡って、そこに生きる命を狩るこ
とを生き甲斐とする種族であると。
 そして、俺にエルクゥの血を与える事で、俺を同じエルクゥ・・・つまり鬼に変
え、命を救ったのだと。
 俺は怒り狂った。
 よりにもよって、自分を忌まわしい鬼にしたとは。それならあのまま死んでいた
方が、余程ましだったのに。
 俺は怒りと・・・そして劣情に任せて、少女を組み伏せ、犯した。
 少女は抵抗しなかった。
 黙って俺に身を任せ、処女を散らされたときも悲鳴をこらえていた。
 そして、俺が少女の中で果てたとき・・俺は自分の少女に対する想いを認めた。
 少女の言葉を、受け入れた。


「エルクゥは、互いの意識を信号化して伝える事ができる。
 わたしがあなたを愛したのは、あなたがわたしを愛してくれたから・・・。」




>side.B  幻・・・あるいは真実


「街の案内?」
 柚那が転校してきてから、数日後の放課後。
 教室で、耕一は柚那に頼まれていた。
「ええ。まだこの街のこと、良く分かりませんから。
 明日の日曜日、よろしければ付き合っていただけませんか?」
 微笑みながら言う柚那。
 耕一は、少しどぎまぎしながら聞いた。
「えーと、それっていわゆる『デート』ってやつなのかな・・・?」
「はい。いわゆるデートというものです。」
 柚那は面白そうな口調で答えた。
 耕一はコホンと咳払いして言う。
「う、うん。まあ、いいよ。
 俺も少し街に用事があったし、付き合うよ。」
「有り難う御座います。では、明日の朝十時に駅前で。
 遅れないで来てくださいね!」
 そう言うと、柚那は微笑みを一つ残して教室から出て行った。
 入れ替わりに、祐也が耕一の席に来る。
「相変わらず、親しそうに話してたじゃないか。
 なに話してたんだ?」
 興味深げに尋ねる祐也。耕一は、出来る限りさらりとした口調で答えた。
「大したことじゃねーよ。
 明日、街の案内をしてくれって頼まれただけだ。」
「・・・それってつまり、デートに誘われたって事か?
 いやはや、兄妹そろってもてもてだな、お前ら。」
「別に、そんなんじゃ・・・」
 言いかけて、耕一はふと気付いた。
「兄妹そろって、てのはなんだよ?
 楓がどうかしたのか?」
 それを聞くと、祐也は呆れ顔になる。
「知らなかったのか、お前? 楓ちゃんは男子の人気が高いんだぜ。一年、二年、
三年、学年問わずにな。
 まあ、あれだけ可愛いんだから当然と言えば当然だけどな。何度か告白を受けた
こともあるみたいだぜ。」
「・・・へえ。あいつがねえ。
 それで、その、告白は受けたのか、あいつ?」
 平静を装って聞く耕一。祐也は首を横に振った。
「いや、それが、全部断ってるんだそうだ。
 それでも諦めずに、アタックを続けてる奴もいるけどな。」
「そうか・・・。」
 耕一は、ほっと息をつく。
(・・・て、何を安心してるんだ、俺は?)
 自問自答しかけて・・・耕一は、疑問を感じた。
「祐也、お前、何でそんなに詳しいんだ?」
「え?」
 言われて、祐也はぎょっとした。
「いや、ほら、噂ってのはどこからでも聞こえるもんだし。
 別に俺が楓ちゃんに注目してるとか、そういう事ではなくってだ、特に注意しな
くても聞こえてしまうというか・・・」
 慌てて、しどろもどろに言い訳する祐也。耕一は疑惑の眼を向けた。
「お前、まさか・・・」
「あ、俺もう部活に行かないと。
 じゃ、じゃあまたな、耕一!」
 祐也は、風のように教室から走り去って行く。
 残された耕一は、しばしその場で呆然としていた。
(あいつ・・・そうだったのか?)


「へえ・・・すごいね耕一くん、女の子からデートに誘われるなんて。」
 柏木家の居間、夕食の席。
 耕一の話を聞き、初音は感心したように言った。
「いや、別にすごくはないけどさ。デートって言っても、単に街の案内をするだけ
だし。」
 と言いつつも、耕一は得意げである。
 初音は、彼の姉だ。
 短大に通い、保母の勉強をしている。栗色の髪の、美人と言うより可愛いという
感じの女性だ。年齢は二十歳だが、童顔のせいで三歳は若く見える。
「さすが耕ちゃんね〜。ま、わたしの息子なんだから当然かな?
 母さんも、高校の頃はもてもてで、『隆山高のプリンセス』って呼ばれてたんだ
から。」
 笑いながら言う千鶴に、耕一と初音はちょっと沈黙した。
 千鶴の言う事は事実である。ただし、プリンセス・・・姫という呼び名は、単な
るお姫様という意味ではなく、実際はその前にもう一つ言葉が入る事を、彼らは知
っていた。
「隆山高の鬼姫」。
 本人の耳が届かない場所では、そう呼ばれていたのだと、叔母の梓から聞いてい
る。
 千鶴は、普段こそおっとりとした穏やかな美人だが、一度怒ると、まさに『鬼』
と化すのだ。
 子供の頃、耕一はいたずらが過ぎて母を怒らせ、その恐怖を直に味わった事があ
った。
 あれ以来耕一は、母の逆鱗に触れるようなことだけは、万難を廃して避けるよう
に心がけている。今でも時々あの時の事を夢にみて、うなされる事があるくらいで
あった。
「そ、そうだ、耕一くん、女の子とデートするなら、身だしなみには気をつけない
と駄目だよ。
 女の子は、そういうところを良く見るからね。」
 場を取り繕うように言う初音。耕一もそれに合わせた。
「うーん、やっぱりそうだよな。でも、俺ってあんまり自分のセンスに自信がない
からなあ・・・。
 姉さん、後でちょっと手伝ってくれないか? 明日着ていく服を選ぶの。」
「うん、いいよ。
 そうだ、楓も一緒に見ようよ、ね?」
 初音は、先ほどから黙って食事をしている楓に声をかけた。
 ようやく口を開いた楓は、不機嫌そうに言う。
「兄さんなんか、どうせ何を着ても同じよ。
 いっそのこと、パンツ一丁で行けば?」
 冷たい言葉に、思わず耕一は楓を睨んだ。
「お前な・・・なに怒ってんだか知らねーけど・・・」
「別に怒ってなんかいないよ。
 ま、明日はせいぜい楽しんで、姫路さんに兄さんの正体に気付いてもらって、す
っぱり振られてくるといいよ。」
「・・・なっ・・!」
「それじゃ、ごちそうさま。」
 言うだけ言うと、楓はさっさと居間から出て行った。
「ちょっと待て、おい・・!」
「まあまあ、耕一くん、抑えて・・・。」
 怒って立ち上がろうとした耕一を、初音が宥めた。
「でもよ姉さん、あの言葉は完全に暴力だぞ!
 あんな事言われて、怒るなって言う方が無理だろ!?」
「しょうがないんだってば。
 複雑な乙女心、ていうものなの。」
 苦笑しながら言う初音。
 耕一は訝しげに眉を寄せた。
「・・・乙女心?」
「そうよ耕ちゃん、女の子は色々と複雑なの。」
 千鶴も笑いを含んで耕一に言う。
 耕一は不満そうに声を募らせた。
「それじゃ分かんねーよ。分かるように言ってくれ。」
「もう・・・しょうがないわねえ。」
 千鶴は、一つため息をつくと言った。
「あの子・・・・・・・二日目なのよ。」
『は?』
 耕一と初音の声がハモった。
「んもう、鈍いんだから。生理よ、生理。
 女の子はね、あの日になるとすごく苦しくて、いらいらするものなの。
 それで、ついついそれを周りの人にぶつけちゃうこともあるってわけ。
 だから耕ちゃん、楓を怒らないであげて。ね?」
「うーん・・・まあ、そういう事なら仕方ないか・・・。
 でも、さすが母さん、娘の事を良く把握してるな。」
「もちろんよ。母親だもの。」
 感心する耕一と、得意げに胸を張る千鶴を見つつ、初音は思っていた。
 ニブい性格というのも、遺伝するものなのか、と。




                               続く




                次回予告


  彼が、わたしの心に触れた。
 そして、わたしの心は、揺れた。
 どうして・・・


 第四話 「白雲」


 雲が、次第に天を覆い隠してゆく。




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HY=ハイドラント
柚那=姫路柚那

HY:ふう・・・。やっとのことで第三話。折り返し地点まであと二話か・・。
      ぬう、最近生活ペースがめちゃくちゃなせいか、眠い・・・・。
柚那:眠気覚ましに、これでも飲みます?
HY:ん? ああ・・・って、ちょっと待て。
      一応確認しておくが、この液体はなんだ?
柚那:通りすがりの保母さんに貰った「園児の教育に最適・おしおき水」です。
      死ヌほど苦いそうですから、眠気なんか一撃で滅壊します。
HY:一緒に俺も滅壊するわっ!
      ・・・はう。なんか一層疲れてしまったが、取りあえずやるべきことは
      やっておかなくては。
柚那:side・Bの方の人間関係の整理ですね。
HY:うむ。この話で初音も登場したしな。
      ではまず、柏木一家。
      三人兄妹で、上から初音、耕一、楓。母親は千鶴。第一話で述べたとお
      り、父親は既に他界。
柚那:初音が一番上、てのは冒険でしたね。
HY:うむ。イメージが湧かなくて苦労したぞ。
      お陰であの夕食シーンを書くのに随分時間が掛かった。
柚那:でも、今後初音が登場する予定は無いんでしょう?
HY:まーな。予定が無いってだけで、どうなるかはまだ分からんけど。
      次、柳川家。
      祐也君は一人っ子です。母は千鶴の妹、梓。こちらは、父親もちゃんと
      生きてます。
      第一話でも書きましたが、耕一と柳川は従兄弟同士なんですねー、この
      話では。
柚那:これまた冒険ですね。柳川といえば悪役、というのが相場なのに、従兄
      弟でしかも親友なんて。
HY:・・・ふっ。甘いな柚那。
      原作の柳川も、「星が消えた空」の柳川も、そしてこの話の柳川も、俺
      の頭の中では同じ一人の柳川なのだよ。
柚那:・・・・・・・それは、つまり・・・
HY:その話はここまで。
      では、感想とレスを。


>「三校史演義」きたみちもどるさん
  登龍剣・・・「渡」ですか。当時小学生だった私はしっかり見てました。
  2と3は知りませんけど。虎王が一番好きだったかな。
  ところで、良かったら私も出しといてくれませんか? 設定は第二話のあとが
  きにLメモ用のを書いてありますので、アレンジして流用して下さい。
  一応楓陣営を志望しときます。いや、綾香と組ませてくれるなら浩之の方で
  もいいですけど(笑)。

>へーのき=つかささん
  >そーか、ハイドラントさんってこーゆー危ない人だったんだー(こら)
  >○○怪人って感じ?
  そーです。私は大体あーいう奴です。いや、マントと片眼鏡はまだ持ってま
  せんけど。アメ横で探してるんですけどね。
  というわけで、世田谷近郊には、全身黒ずくめで手に怪しい杖を持った男が
  時々出現します。見かけた方は、声をかけるか石を投げるか電波を飛ばすか
  してやってください。合言葉は「綾香、楓、芹香」です(笑)。

>「マルチちゃんとセリオちゃん 第三話」まさたさん
  相変わらずセリオが可愛いくていいっす。
  でも、洗濯機はまだしも、電子レンジの中に生き物を入れたりしないように
  ね、セリオくん(笑)。
  あの裁判、原告側が勝ったって聞いたけど、ホントかな?

>「セバスと耕平」UMAさん
  そう言えば、終戦直前の日本軍は、武器が不足したため、下級兵士は竹槍で
  武装したりもしたそうですが。
  なんでも、「それを投げて戦闘機を落とせ!」と命令した上官がいたとか。
  ・・・エルクゥでもなけりゃ無理だよ、そんなの。
  Wizのほう、頑張って下さい。

>「続痕」佐藤昌斗さん
  うーん、気になる終わり方ですねえ。続きに期待。
  それと、今回は読みやすくなってましたから安心して下さい。
  ところで・・・私のHNですが・・・。
  ハイドラ「ン」トです。英語でHYDRANT、消火栓という意味っす。

>「優しさの結末 三日目午後」智波さん
  あ、ダリエリじゃなかったんですか、彼の鬼。ぬう、裏をかかれてしまった。
  それはともかく。
  真奈美ちゃんとぶつかった時の耕一って、ひょっとして・・・すっぱだか?
  だから彼女、うろたえていたのかも(爆)。

>「らるう・らるう」kurochanさん
  勉強になるSSでした。
  今後も書き続けて下さい。

>「Lメモ超外伝SP12「ふんわりのんびり生きてます」」久々野彰「様」
  100本目、おめでとう御座います! これからも頑張って下さい。
  おお、名前が登場している! 有難う久々野さん。ちなみに二年生でOKです。
  私はミカンは下からむいて食べます。上からだと食べにくくないですか?
  ミグ・・・この名を聞いたとき、私は大魔王の次男しか思い付きませんでし
  た。
  ところで、「ざくざく」て何ですか? ごった煮の鍋みたいなものかな?
  
  
HY:ところで久々野さん、申し訳ありません。
      昨日、「敬称忘れてすいません」と書いておきながら、そこのところの
      久々野さんの敬称が抜けてる・・・。
      我ながら、実にアホな真似をしてしまいました。
柚那:「馬鹿とは、同じ失敗を繰り返す奴の事だ」って誰かが言ってましたけ
      ど、ほんとーですね。
HY:くっ・・・言い返せん・・・。いくら無茶な連載をしている最中とはい
      え、ここまで頭がボケていたとは。
柚那:ではボケ覚ましに、この「おしおき水」を・・・
HY:それはやめろっ!
      と・・ともあれ、これから私は水でもかぶって頭を覚まし、それから第
      四話を書き始めることにします。
      では、また明日お会いしましょう。
柚那:皆さんご心配なく。私が必ず一日で書かせますから。力づくでも。
HY:お前・・・その手に持った斧はいったい・・・。