星が消えた空 投稿者:ハイドラント

                     LF97

                  「星が消えた空」



 それは、ガディムが去り、ティリアたちも元の世界へと帰っていった、その夜の
ことであった。


「がっ・・・!」
 暗い部屋の中。
 低い喘鳴が壁に吸い込まれ、消える。
 ベッドに寝た姿勢のまま、耕一は、必死に顔を動かし、自分の喉に突き刺さった
ものを見た。
 傍らに立つ男の手から生えた、凶悪な鬼の爪を。
 耕一の顔を、いくつかの表情が駆け巡る。
 驚愕。苦痛。疑問。そして理解。
「や・・な・・・が・・!」
 怨念に満ちた声を絞り出し、じりじりと手を伸ばす。
 むき出しの憎悪を浴び、男は心地よさげに笑った。
 笑いながら、男は奴の頭を掴んだ。
「さらばだ・・・柏木耕一。」
 一息にねじ切る。
 首がちぎれ、血が噴水のように噴き出した。
「お・・おおお!」
 男は見た。
 この上もなく強く、美しく輝く、大きな命の炎を。
 失禁しそうなほどの快感。
 興奮に打ち震えつつ、男は次の獲物に思いを馳せた。
 ・・・そうだ。あいつがいい。
 藤田浩之という少年。
 あいつもきっと、美しい命の炎を見せてくれるだろう。
「ふ・・ふふ・・・ふ・・・」
 笑声をもらしつつ、男・・・柳川祐也は部屋を出た。
 そして、次の獲物に向けて、歩き出した。


 あの時。
 ラルヴァという怪物達に襲われ、体を乗っ取られたとき。
 俺は、本当なら抵抗できたはずだった。
 俺の中の鬼の力に比べれば、奴らの力など虫けらに等しい。
 だが、俺は見てしまったのだ。
 ラルヴァの後ろにあるものを。
 ガディムという、巨大な破滅の姿を。
 俺はそれに見入られた。
 そして、次に俺の意識が目覚めたとき、俺は耕一と戦っていた。
 耕一の攻撃を受けたことで、俺にとりついていたラルヴァの支配力が弱まったの
だ。
 その隙に、俺はラルヴァの意識を逆に押さえつけ、自分の体を取り戻した。


 ・・・ぐしゃっ。
「ん・・・?」
 金属がひしゃげる音に、浩之は目を覚ました。
 目をこすりつつ、隣に声をかける。
「どーした、マルチ? トイレか?」
 そして、それを見た。
 パソコンとマネキン人形を一緒にして潰したような、奇妙なゴミの山を。
「・・え・・・」
 それが、かつてマルチと呼ばれていたものだと、気付く時間があったかどうか。
 次の瞬間、柳川の腕が浩之の頭を叩き潰していた。


 あれから、俺は耕一達と共に、ラルヴァと戦った。
 ガディムという存在に心引かれるものはあったが、一時とはいえ俺の意識が支配
されていたという事が、どうにも不愉快だったからだ。
 だから最初は、俺の戦う理由は復讐心と殺戮欲だけだった。
 だが、それは次第に変わっていった。
 仲間と一緒に戦うということ。
 人に信頼されるということ。
 人を助けるということ。
 それらの喜びを、楽しさを、俺は知ったのだ。
 耕一達や、妙にたくましい高校生たちと肩を並べて戦うことは、一人で戦うこと
とは別の楽しさを俺に与えた。
 忌むべき鬼の力を持つ俺が、心強い味方として皆から頼りにされることは、新鮮
な喜びだった。
 窮地に陥った仲間を助けてやり、その仲間から感謝されると、俺はまるで助かっ
たのは自分であるかのように嬉しくなった。
 ・・・しかし、俺はそれらよりもっと楽しい事があることに、気付いていた。


「君は確かこう言ったな。あなたは星を見失っているだけだと・・・。」
 柳川は、目の前の少年に向け、呟くように言った。
 しかし、その少年・・・月島拓也は、彼を見てはいない。
 ただじっと、床の上にあるものを見つめている。
「確かにそうだったのかも知れない。
 君達と一緒に戦ううちに、俺の心の中には、奇妙に暖かいものが生まれてきた。
 仲間・・・・それが、俺が見失っていた星なのだろう。」
 月島は、聞いていない。
 呆然と、足元の肉塊・・・月島瑠璃子の残骸を見つめるばかりだ。
 柳川は、ゆっくりと腕を振り上げる。
「星の光は、美しい。
 眺めていると、心が安らぐ。
 ・・・だが、星が最も美しく輝くのは、消滅する瞬間だ。
 そうは思わないか?」
 腕を、振り下ろす。
 彼の手の中で、また一つ、命の炎が散った。


 それは、裏切ることだ。
 人の信頼や期待を、「裏切る」こと。
 それは、「応える」ことより、更に大きな喜びを俺に与える。
 裏切られた者が、俺に向ける感情。
 悲哀。絶望。怒り。憎しみ。
 それらをこの身に受けることこそ、最大の快楽なのだ。


 俺は、夜空を見上げた。
 星が、見えない。
 ここ、鶴来屋の屋上から見える星空は、観光客に評判の名勝だというのに。
 ・・・俺の心を、映し出したのだろうか。
「ふふ・・・」
 思わず笑ってしまう。
 やはり俺には、こちらの方が性に合っている。
 光のある世界より、全き闇の世界の方が。
 俺は今、この大地の全てを、俺の色で埋め尽くそうとしていた。
 ガディム。
 破滅の神を召喚する方法は、俺の頭の中にある。
 ラルヴァに支配されていたとき、俺と奴の意識はどこかで同調していた。
  破滅を望むという共通点のせいだろうか。
  そのため、ラルヴァの支配を断ち切った後、俺は次第にラルヴァの持っていた記
憶を思い出し、自分の知識にしていくことができたのだ。
 そして、もはやガディムを止め得るものは存在しない。
 ティリアとかいう女とその仲間は、元の世界へ帰った。
 あの女が言うところの、「この世界の勇者」たちも、もういない。
「ふふふ・・」
 再び笑う。
 俺は今、究極の裏切りをしようとしている。
 人類の全てを、いやこの世界の全てを、俺は裏切ろうとしているのだ。
 これが笑わずにいられようか。
 俺の胸は、期待に震えていた。
 世界が滅び、全ての命が散らされるとき。
 そこには、どのような命の炎が見えるのだろう。
「ガディム・・・」
 俺は、俺の神に、静かに語りかけた。
 恋人に、愛をささやくかのように。
「美しい炎を、見せてくれ・・・。」
 ・・・・・そして、俺は。
 神を、呼んだ。


 星の絶えた空が、再び真紅に染まる。
 柳川祐也に導かれ、破滅の神が、再びこの世界に降臨したのである。




                          END


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 柳川って、どう読むのでしょう?
 やっぱ「やながわ」か? 「やなぎかわ」ではないのだろうか? やながわって
読むと、なんかドジョウ鍋を連想してしまうから嫌なんですけど。
  それはともかく。
 続けてやってしまっただよ、ダークストーリー第二弾。
  最初の予定では、「前回ダークだったから、今度はギャグにしよう」と思い、柳
川を主人公にしてコメディタッチの話を書こうと思っていたんです。
  タイトルは「お約束劇場番外編  柳川刑事の奇妙な一日」。例の柏木家特産キノ
コを食った柳川のお話・・・になるはずでした。
  しかし、フタを開けたらご覧の通りです。うーむ・・・。
  私にはギャグの才能がないんだろうか?  よし、では一発、はらわたがよじれる
ようなギャグをかましてみよう。


  「アーモンドがない!
    あーん、もーん、どーしよ」


  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  「お前、ダ・サイダー以下。」(友人A)

  ・・・いーんだ。どーせ俺はこういう奴だよ。操の手桶以下だよ、俺は。(泣)
  では、感想+レス。

>健やかさん  「SS戦隊サクシャマン」
  うーん・・・ここには来たばっかりだから知らない名前が多い。でも面白く読ま
  せていただきました。
  しかし、SS作家って、こーいう人たちだったのか・・・。(誤解・・かな?)
>同氏  「月の幻惑」
  先輩は俺んだぁぁぁぁっ!!
  ・・・はっ。いかん、理性が・・・。
  それはともかく、ああいう終わりかたではどうしても続きが気になります。いず
  れ書いてください。気長に待ってますから。
>風見ひなたさん  「Lメモ外伝  百合の革命」
  では投稿仲間の先輩、ということで。これからよろしくお願いします。
  SSの方は・・・。
  そーか。ここは久々野さんが影番だったのか。あとで菓子折りでもメールで送っ
  ておこう。(?)
  ところで、「魍魎戦記マダラ」に出てきた八大将軍のナエとナロ、名前は「左」
  と「右」の字を分解したものなんだそーです。(関係なし)
>意志は黒さん  「雫  アナザー」
  一言で言いまして、雫らしい話だと思いました。
  裕介が、本編のイメージに忠実に描かれてますね。私のSSだと、どうしても自
  分の趣味が出てしまい、キャラのイメージが若干変わってしまうということが良
  くあるので、ああいう風に書けるのはうらやましいです。
>久々野 彰さん  「Lメモ超外伝SP5&6」
  前回が初投稿のはずです・・・多分。私が実は夢遊病で、眠りながらSS書いて
  たりしない限り。いや、もしかすると緑色の小人さんが・・・(謎)
  私と同じPNのSS作家、という可能性は・・ありますね。「オーフェン」最近
  富士見系小説の一番人気ですから。
  そういえば、久々野さんも読んでらっしゃるみたいですね。こんなところで仲間
  が見付かるとは、なんか嬉しいっす。
  ところで、「Lメモ」のほう。 
  おお!  やっぱりここの王は久々野さんだったのか。それにしては扱いがひどい
  ような気もするが。
  取りあえず、「SS王」として崇め奉ることにしよう。(108位の砂メダル的
  な称号だな・・・)
>kuramaさん  「俺のディナーを返せぇ!!」
  劇の台本のような書き方が、とても新鮮でした。
  それはともかく・・・
  途中まで、犯人は梓だと思ってた。それが・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・まさか、楓?
  楓は無実だあぁぁぁ! 違う、違うんだ!
  実は犯人は俺なんだっ!! 耕一、殺るなら俺を殺れぇぇぇ!!(意味不明)
>ゆきさん
  あ、そーか、あれがタケダテルオだったのか。
  ぬう、卑しくも痕マスターの称号を持つ者として、これは不覚であった。
  初心に帰り、もう一度痕をプレイすることにします。
>まさたさん  「シンデレラ」
  やった、期待通り柳川だっ!
  ・・え?  耕一が更に不幸?  どーでもいいです、柳川が面白ければ。(薄情)
>UMAさん
「十六の夢、一つの現実」で、耕一の言動が矛盾しているのは、つまり耕一が狂っ
  てしまっているからです。梓が言ったとおり。深読みではありません。
  そのあたりがうまく伝わっていなかったとすると・・・描き方が甘かったか。
  まだまだ修行が必要ですね。
  ところで、「某十八禁漫画家」って・・・なんか気になる。
>ひめろくさん  「五月雨の涙」
  俺が応えてやりたいっ!
  ・・・はっ。いかん、また理性が・・・。
  うーん、この作品読んでたら、私もセリオの話を一つ書いてみたくなりました。
  なんかネタないかな・・・。
>無口の人さん  「せばすちゃんとことり」
  最後のアレで、思わず椅子からずり落ちました。
  そのギャグの技、私に教えてください。  
>無駄口の人さん
  感想有難う御座います。
  耕一の夢は、エルクゥの共鳴現象のため・・そーか、そーいう見方があったか!
  なるほど、確かにそういうふうにも考えられるではないか。
  よっし、採用。読者の皆さん、耕一の夢は、柏木姉妹と彼の精神がシンクロした
  ために生み出された虚構です。私が決めた、今決めた。
  作者自身がそー決めたのだから、誰も文句など言えまい。はっはっは!
  ・・・冗談はともかく、「なぜ耕一がそんな夢を見たか」という理由は、漠然と
  しか考えてなかったので、ちょっと意表を突かれてしまいました。


 では、次の作品で。
 ・・・と言いたいところですが、現在ネタ切れ。次はいつになる事やら・・・。


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