鏡の中のいじめっ子・第三話 投稿者:夏樹@ウッドボール一号 投稿日:12月26日(火)00時30分
 噂が流れるまでそんなに時間はかからなかった。
 もともと岡田はそれなりに学年の中では有名だったのだ。性格の悪い女という嫌なレッ
テルではあったが。
 それでもそれなりに友達付き合いができたのは、岡田自身には行動力があったし、親友
として吉井がよくフォローしていたからだ。だいたい、性格が悪いというのももちろん嘘
ではなかったが、半分いいがかり的な評判だったので、そこまで敵を作らなかった。それ
だけのことだった。
 とにかく、岡田は性格の悪さでは有名だった。その性格がよくなったという噂は、それ
なりにまわりにおもしろおかしく流された。
 ただし、その噂されている本人は別にして、まわりの者はたまったものではなかった。
 特に親友の吉井と松本はかなりまいっていた。
 確かに、岡田は性格はよくなったが、今まで2人は性格の悪い岡田と付き合ってきたの
だ。あんな態度を取られては、拍子ぬけもいいところだ。
「藤田さん、あのときはごめんなさい!」
「お、おい、どうしたんだ、岡田?」
 今は放課後、人もまばらになったころに、今度は浩之が岡田の餌食になっていた。
 それを見ながら、吉井と松本はため息をついた。
「ほんと、岡田どうしちゃったんだろ?」
「私がわかるわけないじゃない」
 松本もさすがにもう面白がったりもしていなかった。少しの間は冗談として通じるもの
の、長い間あんな岡田を見てきてめいってしまったのだ。
「保科さんに意地悪した私をいましめてくださったのに私ったら…グスグス」
「ちょ、な、泣くなよ」
 あの浩之が今の岡田の前ではなすすべがなかった。
 それをやはり見ていて、2人はまた大きくため息をついた。
「1日であんなに人がかわるのかな?」
「でも、現実に変わってるし…」
 そんな2人の肩をぽんぽんと後ろからたたく人物がいた。
「ちょっとええか、2人とも」
「あ、保科さん…」
 困惑の表情をした保科が、2人の後ろに立っていた。
「ほんまになんや、あの岡田は?」
「何って言われても…ねえ」
「ねえ」
 吉井と松本はこまった顔でお互いに顔を合わせた。保科に説明できるようなことは2人
にはなかった。
「私達にも全然わかんないんだもん」
「あんたらが知らんわけないやろ。いっつもあんたら3人でつるんどるんやから」
「昨日までは全然そんな気配なかったんだけど…今朝からあんな調子だよ」
 松本の珍しく真面目な言葉に、保科は大きくため息をついた。
「…人をおちょくっとるんならまだ許したるから、ほんまのこと言い」
「そんなこと言われたって…私らが聞きたいわよ」
「…」
 じろじろと保科は吉井と松本の顔を見比べた。
「…どうも嘘ついてるようやないな」
「だから言ってるじゃない、ほんとに岡田は理由はわからないけど今朝から変なのよ」
 吉井のいつもより数倍こまった顔に、保科は2人の言葉を信じる気になったようだ。
「うちはてっきり藤田くんも文句言えん新手の嫌がらせかと思うたわ」
「…確かに、嫌がらせのように見えなくもないわね」
「当然やろ、今までいがみあっていたやつが、いきなり涙ながらに謝ってくるんや。まだ
納得してない顔で言われた方がこっちも納得できるってもんや」
「私も岡田とケンカして岡田の方からあやまってきたら気持ちわるいもんね〜」
 松本の言うことももっともだった。岡田は、素直でなかったし、性格も攻撃的ではあっ
たが、それが3人の知っている岡田なのだ。
「で、いきなりあんなに変わることはないやろから、何かあったのかあんたらに聞きたか
ったんやけど、知らんの?」
 保科の言葉は少し厳しい部分もあったが、吉井の見たところ、保科は単純に岡田のこと
を心配しているようだった。
「ヒック、ヒック、本当にすみなせんでした」
「い、いや、全然気にしてないから、泣くなよ、な」
 向こうでは3人の心配をよそに岡田が浩之の泣き落としを成功させたようだった。もち
ろん、しばらくは3人とも浩之を助ける気はなかった。
「ピンチ、藤田浩之」
「何変なこと言ってるのよ、松本」
「な〜んとなく」
「このさい藤田くんには時間かせぎしてもらっとくわ。で、ほんまに何があったのか知ら
んの?」
「ごめん、わかんない。と言うか、私らが理由知りたいぐらいよ」
「今朝からあんな感じなん?」
「うん、そうだよ。いきなり今朝会ったら名前にさんづけなんかしてくるから、私てっき
り岡田のしかえしだと思ってたんだけどね」
「しかえし?」
「うん、昨日、ちょっとしたパーティーに行ったんだけど、そこで男に逃げられて岡田、
かなりふてくされてたからね〜」
 松本の説明はかなり岡田の名誉を傷つけると判断した吉井がフォローを入れる。
「えーとね、松本に誘われて昨日3人でパーティー行ってきたんだけど、そこでけっこう
かっこいい男の人がいたから、私と松本が岡田をはやしたてて、岡田がむきになってその
男の人にはなしかけようとしたんだけど…」
「横から美人にさらわれたのよね」
「…その男の人は知り合いの女性と一緒にいっちゃったのよ。それだけ」
「で、それが何でし返しになるん?」
「松本がお金持ちの男がいるからって…」
「え〜、それにのったの吉井や岡田じゃない〜」
「…まあええわ。あんまり関係なさそうやしな」
「でも変わったことって言ったらそれぐらいしか私思いつかないよ」
 松本は頭をひねって何かなかったか考えているようだが、これと言って他には思いつか
なかったようだ。
「変わったことって言えば、パーティーから返るときに岡田、気分悪いって言ってたけど」
「てことは、病気か…」
 確かに、病気と言えば病気である。
「ううう、こんな私のためにそんなに気を使ってくださるなんて、いくら感謝しても足り
ません」
「い、いや、それほどのことでも…」
 …やはり病気だ、と3人は確認した。
「これは理由をつきとめんとあかんな」
 保科は、ぴんと人差し指をたてた。
「別に害はないやろうけど、あんな岡田気持ち悪うていかん」
「私も、気持ち悪い〜」
 ひどい言われようである、が、これは心配されているとも取れる。
「理由を突き止めるって言っても…どうやって?」
「それを今から考えるにきまっとるやろ」
「あ、そういうの探偵みたいでおもしろそ〜」
 保科と松本はかなり乗り気のようだ。吉井も、もちろんそれに反対する気はなかった。
乗り気かどうかは別にして、岡田がどうしてあんなになってしまったのか知りたい気持ち
はあったからだ。
「じゃあ、とりあえず私と松本が岡田と帰るから…」
「あのお…いいですか?」
 ビクゥッ!
 3人は3様の驚きの表情をしていた。どこからいたのか知らないが、岡田が横に立って
いたのだ。
「お、岡田、用事すんだの?」
 吉井が何とか驚きを隠しつつ岡田に訊ねた。
「はい、それで、大変申し訳ないのですが…」
「な、何?」
「今日は藤田さんと一緒に帰ることになりまして…今まで待ってもらったのに本当に申し
訳ないんですが…」
 ピキッ
 保科のこめかみに血管が浮き出る音を吉井と松本は確かに聞いた。
「先に約束していたのにこんなわがままを言うなんて本当は許されないことだとおもうん
ですけど…せっかくの藤田さんの誘いを断ることもできなくて…」
 ピキピキッ
 保科のほほの筋肉が引きつっているのを、2人は恐いので無視した。
「い、いいよ、それぐらい気にしなくても」
「そ、そうね、私達もこれからちょっと用事があったし」
「そうですか? それでは、お言葉に甘えます。本当に申し訳ありませんでした」
 岡田は2人に深々と頭を下げると、顔を上げて保科の方を見た。
「それでは、保科さんもさようなら」
 その態度が、いやみのように見えたのは保科のいいがかりと言ってもいいだろう。
 だが、もちろん保科の血管はプチ切れた。
「何、人のお…モゴモゴ!」
 あわてて吉井と松本が保科の口を押さえる。
「あのお、どうかしましたか?」
「な、何でもないのよ、岡田」
「そうそう、何でもない何でもない」
「はあ…それでは、さようなら、また明日」
「じゃあね〜」
「また明日」
 岡田は、もう一度頭を下げると、帰りじたくをすませた浩之の方に向かった。
 浩之と岡田が教室から出て、やっと2人は保科から手を離した。
「…ぷはっ、何すんや!」
 自由になった保科は2人にくってかかる。
「落ちついてよ、保科さん。ここは藤田君と岡田の後をつけてみるのがいいと思うのよ。
私達が一緒にいてもわからなかったけど、もしかしたら藤田君なら何か気付くかもしれな
いし、私達も客観的に見てればヒントが出るかもしれないじゃない」
 吉井は口からでまかせを言った。とりあえず保科を落ちつけないことには、話が進まな
いと思ったのだ。
「そうかもしれへんけど…」
「ね、だから今から2人の後をつければいいんじゃないかな?」
「…そうやな」
 何を思って浩之が岡田を誘ったのかも知りたかったので、保科は吉井の言葉に乗った。
もっと言うと、このまま自分の見ていないところで何をされるか分かったものではないと
考えたのだが。
「尾行なんて、ほんとに探偵みたい」
「あんまり人に言えることじゃないけどね」
 3人は、浩之と岡田の後を追うために、立ちあがった。


 あんなにニコニコしている岡田を、親友の2人さえも見たことがなかった。
 密かに浩之と岡田の後を追った3人だが、そこで見たものは、気持ち悪いを通り越して、
怪奇でさえある岡田の笑顔だった。
 2人は普通にただ一緒に帰っているだけなのだが、明らかに岡田の態度がおかしかった。
あんなうれしそうな岡田など、見たことがなかった。
 だが、まあ今日は見たことないことだらけであったから、それもその一つと割り切るこ
とも可能だった。吉井と松本にとってはだが。
「藤田くんのアホウ、あんなにくっついてからにっ!」
 影に隠れたまま保科はギリギリと歯軋りをする。どう見たって冷静ではない。それは自
分の好きな男が他の女の子と楽しそうに一緒に帰っていれば気が気ではないのは当然だろ
う。
「ほ、保科さん、落ちついてよ」
「そうそう、岡田のことなんて藤田君は全然相手にしないだろうしさ〜」
 フォローにまったくなってないんだけど、松本?
 吉井は心の中で突っ込んだ。
「それに藤田君っていっつも女の子と一緒に帰ってッモゴモゴ!」
 吉井はあわてて松本の口をふさぐ。
「ちょっと、松本ぉ〜、保科さんあおってどおすんのよ」
「あ、ごめーん、つい面白くて」
 小声で吉井は注意したが、松本はあっけらかんとしてそう言った。
「一応、岡田のためを思って後なんてつけてるのに、このまま浮気調査になったらどうす
るのよ」
「聞こえとるで、吉井さん、松本さん」
「「ひぃっ!」」
 後ろからの殺気に、2人は悲鳴をあげた。
「お、落ちついてよ、保科さん。別に保科さんと藤田君がどうとかは言わないから」
 完全に言っている松本のフォローは不可能と感じ、吉井は松本を見捨てることにした。
「ちょ、ちょっと〜、吉井助けてよ〜」
「ちょっとこっち来や、松本さん」
 あわれと言うよりは自業自得な松本は犠牲になってもらうとして、吉井は改めて岡田と
浩之を観察した。
 何か2人は談笑しているようだ。はたから見ても、仲むつまじい友人程度には見える。
 絶対おかしい、吉井は改めてそう思った。
 だって、見様によっては恋人同士にも見えなくはないのだ。そりゃあ保科さんも気が気
ではないというものだ。
「でも、ここからじゃあ何の話をしてるのか全然聞こえないね〜」
 どうも殺されたわけではなかかったらしい松本が、ひょこっと顔を出して言った。
「ここは、もうちょっと近づいた方がいんじゃないかなあ?」
「でも、これ以上近づくと気付かれると思うけど…」
 ただでさえ大人数なのだ、むしろこうやって騒いでいるのだからいつ気付かれてもおか
しくないのではと吉井は考えた。
「…いや、もうちょっと近づかな話にならんやろ」
 話の内容が誰より気になる保科は、そう言うと吉井や松本の了解も得ずにゆっくりと隠
れながら二人に近づいていく。
「あ、ちょっと、保科さん」
 吉井は保科を止めようとしたが、もちろん嫉妬に狂った女の子を止めれるわけもなく、
保科は岡田と浩之に近づいていく。
「ねえ、どうする?」
 どちらかと言うと傍観者をきどっている松本が、吉井のわきをつつく。
「どうするって…そりゃあ一緒に近づくしかないでしょうね」
 吉井は少し保科を連れてきたことを、まあどうしようもないことなのだが、後悔しなが
らため息をついた。
「んじゃ、決まり〜」
 松本は何が面白いのかいそいそと保科の後を追う。もしかしたらこういうデバガメ行為
が好きなのかもしれない、と吉井は勝手に邪推しながら、後を追った。


 浩之に言わせたって、岡田の変わりようはあまりにも不気味であった。
 あの岡田が泣き落しだもんなあ…
 言うまでもないが、浩之は泣き落としに弱い。というか女子の泣き落としに強い男子高
校生などいないような気もするが。とにかく、その攻撃は浩之に対してかなり有効だった。
 で、何とか落ちつかせたのはいいのだが、話の展開上何故か一緒に帰ることになってし
まったのだ。まさに浩之マジック。
 とにかく、いきさつはどうあれ、女の子を誘ってしまったからには仕方ない、浩之は覚
悟してこの不気味な岡田と帰路についた。
 しかし、こいつも変わったよなあ。
 浩之は、笑いながらとても楽しそうに浩之と会話をしている岡田を横目で見ながら思っ
た。
 おかしいと言うなら、岡田は朝から変だった、それは分かっている。しかし、こう、何
と言うか…
「どうしたんですか、藤田さん。難しい顔をして」
 岡田が、浩之に言わせれば別人の皮をかぶった岡田が、顔をのぞきこむように浩之を見
た。ほんの少し、会話が止まっただけなのだが。
「いや、何でもないって」
「そうですか、もしかしたら、私と話してるのが楽しくないんじゃないかと思って…」
「そんなことないって、だったら誘わないだろ」
「…そうですよね。ごめんなさい、私ったら変なこと言って」
 実際、そんなに楽しくないことはなかった。むしろ初対面の女の子と思えば、楽しくさ
えある。
 ただ、岡田は面識ある女の子で、さらに言えばかなり性格の悪い、言ってしまえばあま
りお近づきになりたくない女の子だったのだ。
「自分でも分かってるつもりなんですけど、どうしても気になってしまうんです。自分が、
本当はみなさんに迷惑ばかりかけているんじゃないかって…」
 その自虐的な言い方は、どう見ても岡田のものではない。
 …と普通なら思うんだろうなあ。
「この世の中で人に迷惑かけてないやつなんていないって、気にするなよ」
 浩之は、ありきたりの言葉で岡田をなぐさめた。ただ、いかにありきたり
であろうとも、それは正論だし、何より浩之自身がその言葉を信じていた。
「そうですか、そう言ってもらえると嬉しいです」
 また笑う。
 嬉しそうな笑い。
 本当に、嬉しそうな笑い。心の底から、嬉しそうに笑っている。
 不安で不安で仕方なかった、表情が物語っている。誰かに、それを言ってもらいたかっ
たと、その目が言っている。
「誰も、お前のことを嫌ったりはしてないさ」
「そう…ですかね?」
「ああ、そういうもんさ。お前が、岡田がまわりのやつらを好きになれば、誰もお前を嫌
いになったりしない。世の中ってのはそう単純にできてるもんなんだよ」
 だから、浩之はその腕一杯の、言葉と表情で、岡田を、この誰かも分からない女の子の
不安を解いてやる。
 もしかしたら、一端ぐらいは浩之のせいかもしれないのだから。
「誰も、嫌ったりしないし、誰も嫌う必要なんてないさ」
 ホロリ
 その言葉に、岡田は涙した。
 浩之は、優しく岡田の肩に手を置いた。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。ほんとに、大丈夫です…」
 岡田は、ゴシゴシと目をこすって、涙をその腕に消す。そして、泣き笑いの顔をして、
結局のところ笑った。
「ありがとうございます、藤田さん。私、ほんとにうれしかったです」
「いや、別に何もしてないけどな」
「いいえ、私、本当に嬉しかったんですよ。このことは、一生忘れません」
 岡田は、最後の涙を指でぬぐった。
「じゃあ、私はこっちなので、今日はサヨナラです」
「ああ、じゃあな、岡田」
「はい、また…いいえ、サヨナラ、藤田君」
 岡田は、浩之に背を向けると、走って行ってしまった。


 さてと…
 浩之は、こちらにゆっくりと隠れながら近づいてくる3人に目を向けた。
「で、あの岡田はなんだったんだ?」
「ふ、藤田くん…」
 まさか気付かれていないと思っていたのか、保科は狼狽していた。松本も狼狽していた
ようだが、吉井は「やっぱり」と大きくため息をついただけだった。
「私らが後をつけてるの知ってたん?」
「まあな、というか会話がこっちにも聞こえてたぜ。岡田は気付いてないようだったがな」
「かんにんな、私は吉井さんと松本さんに頼まれて岡田さんの様子がおかしいからその原
因を探って…」
「あ〜、保科さんひど〜い、私達のせいにしないでよ〜。後つけたのは同罪だもんね」
「まあ、見つかってないのがおかしいと思ってたけど…」
 松本は保科に講義し、吉井はまたまた大きくため息をついた。
「で、お前らは岡田が変な理由がわかったのか?」
「…まったくや」
「全然」
「分かってたら苦労しないんだけどね」
 十人十色の返事ではあるが、意味は全部同じだ。
「だろうなあ…まあ、気にすることでもなさそうだけどな」
「気にするほどのことでもないって…あんな岡田絶対変だよ」
 吉井は浩之の言葉に講義したが、浩之はあまり深刻には考えていないようだった。
「いいんだよ、きっと明日にはもとに戻ってるだろうから」
「?」
「ま、とにかく、今日はこれから遊びにでも行くか?」
「…藤田くん、思ってたよりも冷たいやっちゃな」
「だからさあ」
 浩之は苦笑した。
「心配することないって。明日には絶対もとに戻ってるって」
 3人が首をかしげる中、浩之は一人だけ納得していた。ただし、それを口に出してしま
うほど無粋ではないだけだ。
 俺には、変わってしまったと言うより…


 …昨日のこと…
 すでにパーティーは終わりに近づき、客もかなり帰った後のことだった。
「あ、あった!」
 その料理を見つけ、スーツドレス姿の梓は安堵のため息をついた。
「よし、よくやったぞ、梓!」
 耕一も梓の声を聞いてすぐに駆け寄る。
 その茸のリゾットは丁度料理と料理の間にはさまれるように置いてあったので、見つけ
るのにも苦労したが、ほとんど手をつけられていなかった。
 まさに不幸中の幸いなのだが、問題は、少しだけ、ほんの一口分だけではあるが、食べ
られていたことだ。
「何とか被害は最小限に押さえられたみたいだけど…」
「ああ、一口分か…」
 耕一はその鼻をくすぐるいい匂いのする茸のリゾットを見てハッと思い立った。
「このパーティーで人が倒れたってのは聞いてない。しかもこのリゾットのおいしそうな
匂い…もしかして、これってあの茸か?」
 思い出される悪夢に、耕一は体中に悪寒が走るのを感じた。
「おそらくね…」
 梓も国家の秘密を握ったように神妙な顔をして頷く。
「し、しかし、それなら死人は出ないだろうな。あの茸の効力も食べてから半日ももたな
いはずだから…」
「なるべく性格が悪い人が食べたのを祈るだけね…」
 耕一と梓は、お互いに顔を見合わせて、ゴクンとつばを飲みこんだのだった。


続く

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どうも、長らくおまたせしました。
自称修羅場SS作家こと、夏樹です。
伊勢さんとの競作、『鏡の中のいじめっ子』、第三話です。
何故か今回は書くのに時間がかかってしまった…伊勢さんに申し訳ない。
もっと早く書いて伊勢さんをこまらせる予定だったのに(笑)
というわけで、岡田です、とにかく岡田です。
「こいつは誰だ?」という質問はされても無視です(爆)
コンセプトは
「伊勢さんを苦しめよう、自分が4話目を書いてるつもりバージョン」
です(爆)
というわけでなるべく苦しんでください、伊勢さん(笑)

感想、質問、抗議、また、1話目、2話目を読みたいと言う方は、
私のHPのBBSか、メールに書いてください。
答えれるかぎりのことはさせてもらいます。
それでは、またいつかどこかで(つっても簡易チャットにいるけど(笑))

http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/4362/index.html