「マルチ…」
休日の午後、公園のベンチで一人寂しく昼食にありついていた俺は、ふと手を止めて溜息をついた。
マルチとの別れから早数ヶ月。
当初よりはだいぶマシな状態になったと言える俺だが、それでも時々、どうしようもなく落ち込んでしまう。
そんな時は、口をついて出てくるのも溜息ばかり。
いい加減、あかりたちにも心配かけてるし、早く立ち直らなけりゃあとは思うのだが…。
「はぁ…」
本日ちょうど20回目となる溜息を付いた俺は、のろのろと昼飯を再開した。
と、手元に影が落ちる。
人の気配を感じると同時に、なでなでと手のひらが頭を撫でてくれる感触。
そのお馴染の感覚に、驚きつつも俺は笑顔になって顔を上げた。
「せん…」
「やあ、藤田君」
ブフ――――ッ!
思わず昼食が逆流する。
俺の目の前に立っていたのは、顔中俺の昼飯まみれになった馬…じゃなくて、マルチの生みの親である長瀬のおっさんだった。
「な、長瀬さん!」
「久し振りだね、藤田君」
「心臓に悪いことしないでくれよ!」
「……」
そんな、藤田君…。
「だからやめいっつーの!」
「似てなかったかな」
「真剣に聞くな!…ったく。それより何でこんな所にいるんだよ」
「ご挨拶だなあ。いや、マルチのことで君が落ち込んでると、セリオやお嬢様方が心配しててね」
「セリオたちが?」
「そうだよ。罪な男だねぇ藤田君?よ、このMMK!」(モテてモテて困っちゃう)
「おっさん…」
「それで、じゃあ私がいっちょ元気付けてやろうと、こうしてプレゼントを持って馳せ参じたわけさ」
セリオ達が心配…。
ははは…まいったねこりゃ。カッコ悪すぎるぞ俺。
いつまでもウジウジと皆に迷惑かけて。
ったく、ガラじゃねーよなー。
「ま、思いのほか元気そうで何よりだ」
そう言って、笑みを浮かべる長瀬さん。
何だか心情を見透かされたような気がして、俺は慌てて話題を変えた。
ったく、食えねーおっさんだぜ。
「んで、俺にプレゼントって何?」
「ああ、そうそう、そうだった」
おもむろに白衣のポケットに手を突っ込む長瀬さん。
「これなんだけど」
そう言って彼が嬉しそうに取り出してみせたモノは、握り拳大のオレンジ色のガラス玉だった。
中央には赤い星型が見える。
「これは某大陸に伝わる伝説の品でね、これと同じモノを七つ全部揃えると、その人の心底からの願望を神竜が叶えてくれると言う…」
「ド○ゴン・ボールかい!」
「はっはっはっ。…それでね、実は既に七つ全部揃ってるんだ。あとはこの球に向かって願い事を強く思い描くだけで良い。簡単だろ?」
俺の突っ込みを物ともしない長瀬さんは、残りのド○ゴン・ボールをぞろぞろとポケットから取り出して見せる。
どうやって全部揃えたんだ?
これって本物?
ってゆーかおっさんの白衣は四次元ポケットか?
あぁ、突っ込みどころが多すぎて何処から手をつければ良いのか分からねー。
長瀬さんは俺が混乱してる間も話をドンドン進めていく。
「但し叶えられる願い事は一つだけ。ズルはなし。これが私から君へのプレゼントってわけだ」
「……」
「ん、どうしたんだね?」
はぁ。俺は諦めの溜息をついた。
わかったよ。ホントかどうか知らんけど、付き合おうじゃねーか。
「長瀬さん。スッゲーありがたい話なんだけどさ、長瀬さんはいいのか?何でも願い事が叶うんだろ」
「構わんさ。何しろ本物かどうかも分からない品だからね」
「ふーん…」
そんなもん俺にプレゼントすんのかよ。
「じゃ、まだ仕事があるから私はこれで行くよ。もし願い事が本当に叶ったら教えてくれ」
そう言うと、長瀬さんはタケコプターを頭に付けて…もとい。
ゆっくりとした足取りで公園から歩き去って行った。
うーん、謎だ。(あーみん)
一人公園に残った俺は、しばらく長瀬さんが置いてったド○ゴン・ボールもどきを見てた。
「心底からの願い事が叶う、か」
もしその話が本当なら、俺が叶えて欲しい願い事は一つだけだ。
『マルチにもう一度会いたい』
それだけ。
俺が心底から願うこの願望を、こんなガラス球が叶えてくれるとはとても思えない。
だけど。
もし叶うなら。
マルチにもう一度会わせてくれ。
球に向かって、俺は願った。
そして、何か変化が起こるのをじっと待つ。
10秒…20秒…。
…って、なに固唾を飲んで見守ってんだよ、俺。
さらに1分…2分…。
そして5分が経過したところで、俺は溜息をついた。
やはり何も起こらない。
玉は光ったりしないし、竜も飛び出しては来ない。何も変化なし。
「ま、そりゃそうだよな」
俺は少しでも真剣になっていた自分に対して、言い訳でもするかの様に呟くとベンチに腰を下ろす。
思った以上に落胆していることに、我ながら驚いた。
「…やれやれ」
ベンチの背もたれに体重を預けて、苦笑い。
そのまま、俺はしばらくボーっとしていた。
結局、ガラス球を回収して公園を後にしたのは、夕暮れ近くになってからだった。
その夜。
ベッドに横になって、昼間のことを考えていた。
結局、あのド○ゴン・ボールもどきは願いを叶えてはくれなかった。
「……」
…待てよ。
『マルチに会わせてくれ』
あの球にそう願った時、俺は「いつにしてくれ」という言葉を入れ忘れてたんじゃないか?
ちょい待ち。
っちゅーことはだ。
ひょっとしたらこれから先、願いが叶う可能性が残ってるかも…ってことか?
明日か、もしかしたら十年後かもしれんけど。
おいおい。と自分の冷静な部分が突っ込んでくるのが分かる。
アホな考えだと、自分でも思う。アレが本物だと言う保証は何処にもないのだから。
でもよ。
偽モンだっつー証拠も無いじゃねえか。
…俺の願いはきっと叶う。
いつかマルチと再会できる。
希望は、ある。
ポジティヴ・シンキングは俺のモットーだぜ?(いや、よう知らんけど)
とにかく。
そう考えると、マルチとの別れ以来、ずっと胸の内を覆ってたモヤモヤが、少しばかり晴れたような気がした。
「サンキュー、長瀬さん」
俺は心の中で、あの食えない馬面のド○えもんに手を合わせた。
明日学校で、先輩たちにも礼を言っとかねーとな。
目を閉じる。
良い夢が見れそうな気がした。
そして。
翌日の朝。
目が覚めたら突然、俺は11人の嫁さんを娶っていた。
まさに『ハーレム革命』状態。
俺ってヤツぁ…。
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…展開が強引なうえ、オチが分かりにくいでしょうか?
自分の作品はよく分かりません。
うーん?