クライング・ゲーム 投稿者:日進月歩 投稿日:6月22日(木)22時35分
  『蠍と蛙』
 あるところに、大きな河の向こう岸へ渡りたがっている蠍がいた。
 だけど蠍は泳ぐことが出来ないだろ?だからそいつはとても困ってた。
 そこへ偶然、一匹の蛙が通りかかったんだ。
 蠍は天の助けとばかりに、河の中を気持ち良さそうに泳ぐ蛙に話し掛けた。
「蛙君、蛙君。私を君の背中に乗せて、向こう岸まで運んで貰えないだろうか」
 それを聞いた蛙の反応は、当然ながら良いモンじゃなかった。
 何でか?
 そりゃお前、普通、猛毒を持った蠍を進んで自分の背中に乗せたがる奴はいないだろうよ。
 蛙も蠍の奴にについてはよく知ってたから、顔をしかめてこう答えた。
「嫌だよ。だって君は僕の背中に乗ったら、その鋭い毒の尻尾で僕を刺してしまうだろ?」
 すると意外なことに、蠍は気分を害した風でもなく、笑顔でこう言ったんだ。
「心配することないよ、蛙君。もし河で君のことを刺したら、背中に乗ってる私まで溺れ死んでしまうじゃないか。いくら私が蠍でも、そんな馬鹿なことはしないよ」
 蛙はその言葉に強い説得力を覚えた。確かに蠍の言う通りだったからな。
 納得した蛙は、蠍を河の向こう岸まで運んでやることにした。
「なるほど。わかった、蠍君。背中に乗りなよ」
「どうもありがとう」

 こうして蠍を背中に乗せた蛙は、河の対岸を目指して泳ぎ始めた。

 ところが河の中ほどまでさしかかった時、蛙は背中に鋭い痛みを覚えたんだ。
 慌てて振り返って見ると、何と蠍が自分に鋭い猛毒の尻尾を突き立ててるじゃないか!
 蛙が驚いた時にはもう遅い。瞬く間に全身に毒が回ってしまった蛙は泳ぐことが出来なくなり、そのまま冷たい河の底へと沈んで行くしかなかった。
 蛙は徐々に薄れていく意識の中で、隣で同じように蠍が溺れているのを見かけた。
 そりゃそうだよな、蠍は自分じゃ泳ぐことが出来ないんだから。
 え?じゃあ蠍は何でそんな馬鹿なことをしたのかって?
 その疑問はもっともだ。蛙も当然、同じことを感じてただろうからな。
 だから蛙は最後の力を振り絞って、蠍に質問したんだ。
「蠍君、何で君はこんな馬鹿なことを…?自分も溺れ死ぬって分かってた筈なのに…」
 すると蠍は、悲しそうにこう答えた。


浩之「『ごめんよ、蛙君。でも刺さずにはいられなかったんだ。だって私は蠍だから…』ってな」
あかり「ふ−ん…」
浩之「つまりだ、あかり。この話の教訓はな、どんな生物も己の持つ性(さが)には逆らえないという…」
あかり「浩之ちゃん」
浩之「は、はい」
あかり「浮気の言い訳はそれでお終い?」
浩之「……」
あかり「じゃあ、もうこの世に未練はないよね?(にっこり)」

 その日、とある男子高校生の身も凍るような絶叫が街中に響き渡ったとか響き渡らなかったとか。

 つるかめ つるかめ
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 初めてSSってヤツを書きました。こんな感じで良かったのでしょうか?
 タイトルは『蠍と蛙』の話のネタもとになった映画より。