グラップラーな人々 投稿者:猫玉 投稿日:6月23日(金)01時53分
「言っとくけど……私のこと、普通の女の子とは思わない方がいいわよ?」

そう言って目の前の女……来栖川綾香は、オレに不敵な笑みを見せた。
ひょんなことから始まった、オレと綾香の真剣勝負。
きっかけは『綾香を元気づけたい』なんていう気持ちからだったりするが、今のオレには
そんなことを思っている余裕は全くない。
過去二回戦って、二戦ともオレの惨敗だったりするからだ。
男として、あまりにも不甲斐ないというか……情けねーぜ。
その悔しさをバネに、オレは一夜漬けながらも夜叉猿と闘い、死刑囚と闘い……死に物狂いの
猛特訓によって、以前の四倍は強くなって今日の戦いの場に立っているつもりだった。

「へえ……じゃあ、なんだと思えばいいんだ?」

オレは鋭い眼光で、綾香を威圧しようと試みる。
そう、戦いはすでに始まっているのだ! ……だが、

「うーん、そうねぇ……」

そんなオレに少しも動じることなく、

「『地上最強の生物』……かな?」

綾香のヤツは涼しい顔で、さらりとそう言ってのけた。



――ToHeart・SS『グラップラーな人々』――



……ゆらり。

綾香の闘気が陽炎のように渦を巻き、辺りの砂塵を吹き飛ばす。
まさに『地上最強の生物』の名に恥じない、圧倒的な威圧感だ。

「そ、そりゃまた……大きく出たな」

凄みを利かせたつもりだったが……情けないことに声が少し震えた。
くそう、飲みこまれるな! しっかりしやがれ、藤田浩之!!

「ま、そのうちそう思うようになるわよ。それじゃセリオ、合図をよろしくぅ♪」
「……わかりました。それでは……」

綾香の脇に立っていたセリオが、ふところから小さな太鼓を取り出す。
オレと綾香。二人の視線が激しくぶつかり合い、熱い火花が宙に飛び散った!

「開始(はじめ)いッッ」

――ドオオオオォォン!!

壮厳な太鼓の響きが、周囲にこだまする。
セリオの合図と同時に、綾香はすっ……と右拳を腰に構え、スタンスを大きく広げた
雄大な構えを取る。この構えは……

A.握撃だ! オレはバックステップで間合いを離した。
B.音速拳だ! オレは思い切り空気を吸いこんで、上半身を膨らませた。
C.合気だ! オレは『神の拳』を握った。



そう、この構えは……音速拳だ! 間違いない。
関節八個所の同時加速が生み出す、奇跡の拳。その拳は音速をも超えるといわれている。
天才・来栖川綾香だからこそ成し得る、近代空手の粋を極めた超必殺技だ。
しかし、いきなり切り札をぶつけてくるとは……
遊び好きの綾香が、今日は遊ばないつもりらしい。
それだけオレが強くなったってことか? どちらにしてもヤバイ状況に変わりはないが。
そんな事を考えるオレをよそに、じりじりと間合いを詰めてくる綾香。
……どうやら、『ただ待っているだけ』という気もないようだな。
だが! オレはこの技についての対処法は研究済みだ。
偶然にも先日読んだ格闘漫画に、完璧な攻略法が掲載されていたのだ!!

「すううぅぅーーーー…………」

オレはゆっくりと両手をあげて、おもむろに空気を吸いこみ始める。

「…………?」

怪訝な顔でオレを見つめている綾香。
へっ、今に見てやがれ。『油断大敵』って言葉を思い知らせてやるぜ!!
これ以上は無理ってなくらいに、肺一杯の空気を吸いこんだオレは、右手を
軽く握って口元に当てる。
照準は……眼前の来栖川綾香!!

(くらえ、空気弾!!)

心の中で叫びながら、オレは目一杯溜めこんだ空気を、思いきり噴き出した!!

――プゥーーーーーーーーーーーーー!!!!

「…………」
「…………」

…………シーーーーン。
――不発!!
何も起きない。足元に冷たい風が吹き、二人の間に気まずい沈黙が流れる。
しばらくの間、珍しい生き物を見るような目でオレを見つめていた綾香だったが、

「……あなた、何がしたいワケ?」
「…………」

――ズパパパパパパァァァァーーーーーーン!!!!

やがて、音速を超える無数の拳撃がオレを襲う。
……世界が白く染まった。
…………………………………………



「――はぁい、お疲れさま♪」
「…………」

気がつくと、いたずらっぽい笑顔でオレを見おろす綾香の姿があった。
……あーあ。また負けちまったか。
今日はいい所までいったんだけどなぁ……たぶん。
対処法は正しかったんだ。
だがあの『空気弾』って技は、それこそ黒曜石を素手でツルツルの球体にする……
通称『打岩』ができる位の腕が無ければできなかった。ただそれだけのことだ。
ちっ、こんなことならできるかどうか、昨日のうちに試しておくんだったぜ。

「んー、なんだかよくわかんないけど……とりあえずセリオ、今日の勝者は?」
「勝負ありッッ。……勝者、綾香お嬢様です」
「やっりぃ〜! 三連勝ね〜〜!!」

無邪気な笑顔を浮かべて、オレにブイサインを見せる綾香。

「あー、くっそ〜〜」

がっくりと肩を落とすオレ。ちっくしょー……マジでくやしーぜ。
そんなオレの肩をポンポン、と叩きながら、

「ほらほら、過ぎたことを悔やんでもしょうがないでしょ? というわけでぇ♪
今日のワンポイントレッスンのコーナ〜〜♪」

綾香のヤツは満面の笑みで、楽しそうに言った。
すでに日課となってしまった綾香のワンポイントレッスン。
その日の戦いの良かった所、悪かった所……そして知っていると役に立つ格闘知識を、
分かりやすく解説してくれる綾香の格闘技講座だ。

「……おう、頼む」

敵に塩を送られるのはシャクだが、この際なりふり構ってもいられねーしな。
オレは素直に頭を下げた。

「それじゃ、今日は『戦場格闘術』について教えるわね」
「せ……戦場格闘術ぅ!?」

綾香の口から飛び出した聞き慣れない単語に、オレは素っ頓狂な声を上げた。

「そう!! 今はこれが熱いのよぉ〜〜〜〜♪」

綾香はもう、『話したくってたまらない』という様子で、ブンブンと腕を上下に振り回している。
目を丸くしているオレをよそに、綾香は嬉々として語りだした。

「いい? 『噛付き』は戦場格闘術において、基本的な技術の一つでね……」
「……………………」 (おしまい!)


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ども、猫玉です!まずは私信から。
久々野彰さん、お久しぶりです。レス付けてくださって、どうもありがとうございます!!
『読んでくださってる方がいる』というのは本当に嬉しいもので……頑張りますので、
これからもよろしくお願いします!!
『最終兵器彼女』……切ない話ですよねぇ(T−T)。リーフ掲示板等で目一杯オススメして
きたんですが……結構話題になってて、本当嬉しいです。ちせちゃんとシュウジには、ホント
幸せになって欲しいんですけど……これだけハッピーエンドで終われる要素の無い作品も、珍しいって
いうか……バッドエンドだったらどうしよう……はぁ(T□T)。
――いかん!テンション上げていこう!!

それではさっそく、今回の作品紹介!!
今回のSSは、言わずと知れた板垣恵介先生作『グラップラー刃牙』がモチーフになって
います。未読の方は、34巻だけでも読んでおく事をオススメします(笑)。
場面は、PS版・綾香シナリオの中盤。こちらも未プレイの方は、綾香シナリオを遊んで
おきましょう。
さて、ここからは『バキ』話。本日はチャンピオンの発売日だったわけですが……
花山薫……もう、カッコ良すぎ(T∇T)。花山さんの喧嘩美学ってヤツには、男として
ホント憧れますよね!何でこんなにカッコイイかなぁ……はぁ。
……って、『バキ』読んでない人にはさっぱりですね。ホント、すいません。
週間少年チャンピオンにて連載中、『バキ』(旧題『グラップラー刃牙』)は、猫玉が
『日本で、今一番面白い格闘漫画』と太鼓判を押せるほどの作品です。
損はさせませんので、是非御一読ください!それでは今日はこの辺で!