マルチその後・・・ 投稿者: 那岐
みなさん色々と書き込んでいるようなので
僕も書き込んでみようかな、と。
それでわ
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―――あれから数十年、浩之はあかりと結ばれた。
浩之は父になり、祖父になった。それでも変わらず彼の側に
常にいる存在があった。
―――HMX−12 それが彼女の正式名称。
彼女はマルチと呼ばれている。 ´´´´
マルチとはいわゆる通称である、だが彼女にとってはそれが名前、
彼女にとって大事な人に呼ばれる為ただ一つの名前。


季節は春、浩之とマルチが初めて出逢ってから何十回目かの春。
マルチは家から続く長い桜並木を車椅子に乗った浩之と共に歩いている。
穏やかな陽射しと桜の花弁の中を歩いているとマルチが
思い出したように話し掛ける。
「浩之さん? この前古いんですけど良い歌を教わったんです」
浩之の肩にストールをそっと掛けながら話し掛ける、
「そうか・・・どんな歌だい?良かったら聞かせてくれないか?」
浩之は静かに言葉を返すと肩に添えられているマルチの手に自分の手を重ねる。
マルチは浩之のその言葉を待っていたのか、嬉しそうに返事をする。
そして、軽く空を仰ぎ、散り落ちる桜に向かうように
優しい声で歌を紡ぎ出した。
「『切手のない贈り物』っていうんです」
肩に添えた手を抱きしめるようにしながらマルチは朗々と歌う。

『私から貴方へ この歌を届けよう』
―――有り難う御座います、浩之さん

『愛する事の喜びを くれた貴方に』
―――私に、機械だった私に心をくれて

『私から貴方へ この歌を届けよう』
―――だから、届けたい、この想いを

『広い世界で たった独りの 私の ―――』
―――でも・・・駄目。

歌声はそこで急に止んだ、
「・・・・・・マルチ?」
浩之は自分を抱きしめている、昔から変わる事のない少女に優しく語り掛ける
「・・・続きは・・・・・・無いのかい?」
「・・・ぅっ・・・・・・っく・・・」
泣いてるのだろうか?
機械であった存在は心を持ち人になった、
同時にどうしようもない、一生叶わない望みがある事も知ってしまった。
「・・・っく・・・歌えません。 歌えないです、私では」
浩之の首筋で彼女の鳴咽が零れる、 ´´´
「・・・・・・」
「私では歌えないんです、私は・・・私は歌ってはいけないんです」
浩之を抱きしめる手に少し力が入る、
浩之は自分を抱きしめる手を静かに外すと、
マルチを目の前に周らせ、そっと髪を撫でる。
浩之は彼女を、マルチを見つめていた。
いまのマルチとむかしのマルチ、変わる事の無い彼女を見つめ、
静かに呟く。
「有り難う。・・・今まで済まなかったな。」
マルチは静かに浩之の手を外す、
「さ、浩之さん、部屋に帰りましょう?随分長くなってしまいました」
もうマルチはマルチに戻っていた、
さっきまでのあのか細く、脆い少女はもういない、
それがマルチ、彼女は機械、そして人、どちらでもない、どちらにもなれない。
彼女は流れる時を穏やかに見つめつづけてきた、これまでも、そしてこれからも。
浩之は微笑んでいた、変わることのない少女を見つめ、
彼女と過ごした時を桜の花弁の中に見つめ静かに微笑んでいた
「そうだな、帰るか、そろそろ冷えてきたしな。」
「ええ。」
マルチは車椅子を浩之の家へと向ける。
「浩之さん、今日の夕飯は浩之さんの好きな物をつくりましょう」
マルチは微笑んでいた。
「・・・」
「何がいいかなぁ・・・あっ、この前作った煮物お好きでしたよね?」
「・・・・・・」
「そうそう、この前頂いたさくらんぼを後で・・・」
「・・・・・・」
「浩之さん?」
マルチは浩之の顔を覗き込む。
「・・・浩之さん?どうしたん・・・」
しかしそれに応える声は無かった。

彼女は理解した、何故彼が応えないのか、

彼女は知っていた、人の死を、

彼女は初めて知った、それでも泪を流せない自分を。

「・・・ふふっ、機械ってやですね、こんな時でも―――」
彼女は泣いていた、とても静かに、泪を流すことなく泣いていた。
「―――こんなに悲しくても・・・泪も流れないんです」
彼女はそっと目を閉じる、泪を流せない自分を責めながら
「でも、やっと歌えます。」
そう言うと浩之の髪を指で遊びながら歌い出す、
『私から貴方へ この歌を届けよう
愛する事の喜びを 教えてくれた貴方に
私から貴方へ この歌を届けよう』
そして浩之の目をそっと閉じさせる、
『広い世界でたった独りの 私の好きな貴方へ・・・』
歌は終わり、そして彼女は独りになった。
「浩之さん、私でも夢って見れますか?もし見られるなら」
何十年振りかの、軽くふれあうだけの口付けを二人は交わす。
「ただ、貴方の夢だけを―――」


桜の花弁が二人を隠すかのように一層強く舞う、
それが晴れたとき二人は静かにお互いの歩みを止めた。
機械も夢を見るのだろうか?
心を持ってしまった彼女は夢を見られるのだろうか?

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ども、以上です(^^;;
ものすごく下手くそ〜な文章ですがほんの少しでも
お暇を潰せれば幸いです。
良かったらご意見等いただけるとありがたいなぁ、と思います。
そりでわ。

那岐 でした。