香奈子さんの憂鬱 投稿者:灘火 三笠
 みなさま初めまして。
 これまでずっとROMしていた灘火 三笠(なだび みかさ)と申します。
 前々からこの図書館に投稿される方々の即興小説を拝見して自分にもこんな面白い物が
書けないものかと常々思っておりましたが、一ヶ月ほど前に風見ひなたさんの「外道SS
の書き方」という物を読んで「そうか、これさえ読めば私にも皆様のような小説が書ける
のだな」と思い、拙いながらも筆を執った次第です。
 殆ど小説も書いたことのない若輩者の駄文ですが、我慢してごらんになって貰えれば身
の震えんばかりに光栄に存じます。
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 『香奈子さんの憂鬱』

 僕の目の前で……香奈子さんはフェンスを突き破って落ちていった。
 凍り付いたような時間の中で僕は唖然としてそれを見つめていた。
 まるでスローモーションのようにゆったりと香奈子さんは落下して行く。
 僕はただそれを見ていることしかできなかった。
 観察のようなそんな冷静な物ではない。
 僕はたった今の今まで当事者だったのだから。
 そう……ついさっきまで僕に迫っていた香奈子さんが……。
 彼女が居なくなれば、僕はどうなるんだろう?
 『お願い』によってもうこの世界には僕と彼女しか居なくなってしまっていた。
  この上彼女までが居なくなれば僕は…たった一人になってしまうのではないか。
 その瞬間になってようやく僕は強烈な恐怖にみまわれ、慌ててフェンスの穴から地上を
見下ろした。
 果たして、香奈子さんの遺体はそこに…なかった。
 …………………………………あれ?
「あー、いたたたたたたたたたたっ」
「っっっ!?」
 僕はびくうっ!として飛び上がった。
 横で声を上げたのは紛れもなく香奈子さんだった。
 ただし服はぼろぼろに千切れて肌はくすんでそこらじゅうに傷が出来ていたけど。
 僕は震える手で香奈子さんを指さした。
「お、お、太田さん!?」
「やだやだ太田さんなんて他人行儀な。香奈子さんって呼んで☆」
 口元に手を当ててぶりっこする香奈子さん。
 いや、呼べっていうんなら香奈子さんとでもかなりんとでも呼んであげるけどっ!
「な、何で生きてるんだっ!?」
「だって心臓止まってないもの」
 あっけらかんと答える香奈子さんに僕は詰め寄った。
「心臓止まってないもクソもあるかっ!五階建ての校舎の屋上から落ちたら普通の人間は
死ぬもんだよっ!」
 香奈子さんは、んーっ、としばらく呻ってからぽんっと手を叩いた。
「だって香奈子さんだもんっ☆」
「答えかっ!?それが本当にお前の答えかっ!?」
 何となく説得力のような物を感じつつも僕はそれを振り払わんばかりに彼女に詰め寄っ
た。はっきり言って……今僕の確固たる価値観がこの女の非常識によって揺るがされてい
るっ!
「ああああっ、いやだぁぁぁぁっ!神様にお願いして世界中の人間消してしまう上に不死
身な女と世界に二人っきりなんていやだぁぁぁっ!」
 僕が頭を押さえて絶叫すると香奈子さんは、しょうがないわねぇとでも言うように頭を
振った。
「まぁいいわ。長瀬君には教えてあげる……実は私は吸血鬼だったのよっ!」
 ばばーん、という効果音がどこからともなく響いた。
 僕は彼女をじっと見つめると、やがてがんがんがんがんと屋上の床に頭をぶつけ始めた。
「これ以上僕の現実を破壊するなぁぁぁぁっっ!」
「落ち着くのよ長瀬君!これこそが現実なの!」
 香奈子さんの言葉に僕はだくだくと流血する顔を上げた。
「これ以上ないくらい説得力が希薄な言葉で説得するなぁっ!神様にお願いするようなサ
イコ女って時点で無理があるのにっ!」
「そ、そんなこと私に言われてもっ!とりあえず長瀬君、この状況を打破するために私達
がやらねばならないことがあるわっ!」
 そう言うと香奈子さんはぐぐっと拳を握りしめた。
 心なしかざっぱぁぁぁんと背景に荒波が見える。
「血ィ吸わせてっ!」
「やだ」
 ………………………………………………………………………………………………。
 即答した僕を一瞬で押し倒すと、香奈子さんはぎりぎりと力を込めて抱きしめてきた。
「ああっ、血を吸って仲間を増やさないと仲間の吸血鬼達に馬鹿にされちゃうんですぅぅ!」
「やめい!大体1992年に出たゲームパロなんて古すぎて誰もわからんぞっ!?」
「大丈夫よ、アルルさんや久々野さんはきっと分かっていらっしゃるわ!」
 意味不明なことを叫びながら僕たちは取っ組み合いになった。
「血液なんて旨くないぞ!鉄錆の味がするだけじゃないか!」
「愛する人の血を吸うのは吸血鬼にとって最高の愛情表現なのよっ!」
「いらんわそんな愛っ!」
 僕は心の底からの本心をぶちまけながら香奈子さんの腕を引き剥がした。
 香奈子さんはウルウルした眼で僕を見つめている。
「ああっ、普通の人はここらで諦めて血をくれるのに……やっぱり長瀬君はみんなとはど
こか違うのね!」
「奥さん奥さん、普通は嫌がりますってば」
 僕はぱたぱたと手を振って否定した。
 香奈子さんはきらりと牙を光らせて僕を見つめる。
「大丈夫、痛くしないから大人しくしてっ!」
「信用できるか吸血鬼のくせにっ!」
「本当に大丈夫よ。だって私……」
 香奈子さんはそこでにこっと笑った。
「優しい吸血鬼だもんっ☆」
 そ……そのフレーズはっ!?
 予想通り、次の瞬間北極圏もかくやというくらいの冷たい風が屋上に吹き荒れた。
 ちょっと離れたところから虚ろな目をした水色の髪の少女がこちらを見つめていた。
 腕に拓也君人形を抱きしめた瑠璃子さんだ。
「またお会いしましたね、吸血鬼美……」
「アニパロはもーえーちゅーんじゃぁぁぁっっっ!!!!!!!」
 皆まで言わせず香奈子さんの一撃が瑠璃子さんをフェンスを打ち破り屋上から叩き落と
した。

 ………ぐちゃっ。

「あのぉ、香奈子さん?今何か凄く危険な音がしたんですが」
 おそるおそる声をかける僕に香奈子さんは首を振って見せた。
「大丈夫よ、アニパロは不滅だわ。エ○ァのアニパロが未だに続くようにあとからあとか
らいくらでも出て来るのよ」
 それはそれで意味不明だった。
「そ・れ・よ・りっ☆」
 香奈子さんの目がきゅぴーんと輝く。
「長瀬君血を吸わせてーーーーーっ!」
「どひいいいいいいいいっ!?」
 あああっ、やっぱし忘れてないんだなっ!?
 だが僕だってやられてばっかりだと思うなよっ!
「うりゃああ、アンデッドには炎っ!」
 僕は情け容赦もなく香奈子さんの顔面に向かって火炎放射器をぶちかました。
「あぢゃぢゃぢゃぢゃっ!?」
 香奈子さんはごろごろと転げ回る。
 流石だ、どこから取り出したかわかんない火炎放射器一号!
 がばあっ!
「何てことするのよ、火傷するかと思ったじゃない!」
「って、生きてる香奈子さんも香奈子さんだよっ!」
 僕は何事もなかったかのように怒り出す香奈子さんにツッコミを入れながら火炎放射器
を床に叩きつけた。
 その瞬間、強烈な一撃が僕のどたまを殴り飛ばした!
「違うっ!そんなものはツッコミと違うんやぁぁぁっっ!」
 突然いきなり現れて僕をブチのめした眼鏡っ娘は怒りのあまりぷるぷると震えながら血
を吐かんばかりにそう口走った。
 僕はコンクリートの床に陥没しながら眼鏡っ娘を見上げる。
「あ……あんたは一体………?」
「通りすがりの神戸人やっ!それよりあんたっ!今のはツッコミと違う!ツッコミはっ…
ツッコミはもっと美しくエレガントな芸術であるべきなんやーーーっ!」
「いきなり出てきて人の彼氏をぶん殴ってんじゃねーーーーーーーーっっっ!」
 香奈子さんの怒りの一撃が謎の眼鏡っ娘を思いっきりぶっとばし、またまたフェンスか
ら追い落とした。
「そ、それやぁぁっ!それがツッコミなんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜」

 ぶちっ。

「あのー、ドップラー現象起こしながら潰れたような気が…」
「いいのよっ!所詮名もなき通りすがりっ!いわばエキストラAよっ!」
 香奈子さんは断言すると、僕の頭を優しくなでさすった。
 通りすがりの人に殴られた場所がずきっと痛み、僕は眉をしかめた。
「いたっ……」
「可哀想に……痛かったでしょ?」
 そう言う香奈子さんの目は限りなく優しく潤んでいた。
「香奈子さん……心配してくれるんだ?」
「馬鹿ね。当然じゃない」
 僕はそんな香奈子さんになにか安らぎのような物を感じ、ゆっくりと眼を閉じると…。
「みなさんなっていませんっ!飛び降りとはっ!屋上からの飛び降りとはもっと美しい…」
「馬に蹴られて死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」
 再び繰り出された香奈子怒りの鉄拳は紫色の少女を屋上から消した。
「皆さん、見てっ!これが……これが私の飛び降りぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!」

 ぶちっ。

 香奈子さんはぜいぜいと息を切らせて血塗られた拳を握りしめた。
「ぜ……全員消したはずなのに何故次から次に邪魔が入るの?」
「一匹見たら三十匹って言うからねー」
 僕がそう相槌を打ったのと……階下からここめがけて三十人のキャラクター達が出番求
めて駆け上がってくる大音響が響いたのは、ほぼ同時だった。
『出番〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!』
 香奈子さんの眉がぴくりと跳ね上がる。
 わなわなと肩が震え、そして拳が固く固く握りしめられた。
「ふ……ふふふ………」
「あ、あの〜香奈子さん?」
「壊してやるっ!あたしの邪魔をする奴はどいつもこいつも壊してやるぅぅぅっ!!」
 そんなこんなで、香奈子さんの戦いは始まる。
 そして僕は香奈子さんに血を吸われる恐怖に身を震わせながらその戦闘を見つめ続ける
のだった。
 香奈子さんの憂鬱な一日は、まだ終わりそうにない。

               おしまい

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 ふう、小説を書くという作業がこんなに疲労する物だとは思いもしませんでした。
 皆さんはこんな苦労をして毎回即興小説を書かれているのですね。
 全く感服することしきりです。
 それにしても我ながら下手くそな文章ですね。
 話の筋も見え見えですし、いやお恥ずかしい限りです。
 こんな物を皆様にお見せするのは若干心苦しいのですが、見逃してやって下さい。
 それでは私もこの駄文を送ることにしましょう。
 最後にこの作品の良い教科書であり、私に最高のインスピレーションを与えて下さった
風見ひなたさんとその作品にここで改めて感謝の意を表すことにしましょう。
 風見ひなたさん、ありがとうございました。
 あなたの作品はここに私のような人間を一人産みだし―産み―。
 ふぁぁぁぁぁL。
 ね、ねMい。
 なんだKあ誤字脱字Gあ多いようなきがしまづ。
 うLうっ、しかTあ有馬せん。
 ここは一度眠ってまた痕で書き直すことにし〆


 お夜食お持ちしましたよー。
 あれ?
 もー、ひなたさんったらパソコンの前で居眠りなんかしちゃって。
 電気代だってただじゃないんですよぉ?
 あっ、SSが画面に出てますね。
 なーんだもうとっくに完成してるじゃないですか。
 ここはパートナーの私が送って置いてあげましょう。
 ……………何?この投稿者名の所の『灘火 三笠』ってのは?
 ひなたさんのアナグラム……ですよねぇ。
 きっと何か考えがあってのことなんでしょう。いいや、送っちゃえ。
 ありゃりゃ、よく見たら文末がタイプミスだらけ。
 まぁ読めないこともないですね。
 それじゃ送っちゃいましょっと。
(かちっ。かちかちっ)
 さて、これでよし、と。
 それじゃあひなたさんお休みなさい。風邪、引かないで下さいね。
 あぁ私ってば何て有能なパートナーなのかしら☆


 後日、美加香が風見にこっぴどくしかられたことは言うまでもない……。

                  完