タイトル 投稿者: 縄手
ネタばれになるかもしれません。///


今日でスタジオに篭って4日目になる。このスタジオを使うのは2年ぶりだ。

由綺ちゃんは私の新曲の音を掴みかけている。ずいぶん早くなったと実感する。

作曲者と歌手の関係はある意味で肉体関係に似ている。作曲者の心を綴った音に歌手は心をゆだねなくてはならない。

自分の心に対して無我にゆだねることに疲れた、そして最も近い自分の分身である理奈に代弁させることを選択した。

世の中は愚かで天才少女出現と騒いだものだ。
あれは私なのに。

由綺ちゃんは私と同じ環境で育ったわけでもなければ血もつながっていないのに何故か私の音と相性がよかった。だからプロデュ−スすることにした。

自分の楽器が増えるだけだった、なのに、なぜだろう、つらい。彼女は私の虚偽に満ちた音をホンモノにしてしまう。売れるように巧妙に計算され尽くされた数式を真っ白にクリアし、世の中をさげすんだ私の音を慈しむかのように温もりある音にしてしまう。そう、それは汚れきった水が蒸発し露結してできる降り注ぐ雪のようだ。

雪が降りやむ。由綺ちゃんは不思議そうに見ている。私は仮面をかぶりアドバイスをする。そしてまた雪が降り始める。

そういえば今日の晩飯は何にしよう。・・・。そういえば、このアルバムのタイトルきめてなかったな・・・。

(おしまい)