epsode.1 『緑葉の花嫁』 キーン、コーン、カーン・・・・・・・。 静かに予鈴が鳴り、今日の授業の終わりを告げる鐘が、鳴る。 俺は大きな欠伸を一つ、つく。 ゆるりと席を立ち、鞄に教科書を無造作に詰め込み、教室を出た。 そういや、今日はあかりのヤツ一度も来なかったな。 ふと、そんな考えが浮かぶ。 朝の登校の時も、来なかった。 ホームルームの休み時間、にも。 昼休み、にも。 そして、もう放課後だった。 「また、風邪でも引いたのか・・・・・・?」 だとしたら、見舞いにでも行ってやるか・・・・・・。 そう思いながら、俺は下駄箱の蓋を、開ける。 そこには、 『本日、放課後、「決闘広場」にて待つ。』 と、いう簡素なワープロ文字で書かれた、カードが入っていた。 「・・・・・・来たか」 にいっ、 俺の口元に寂しげな笑みが、浮かぶ。 カードを取り上げて、手の中で、ぐしゃり、と握りつぶす。 「浩之さん・・・・・・」 後ろから、声が聞こえる。 振り向くと、其処には小さな少女が立っていた。 深い、緑色の髪。 抱きしめれば、折れてしまいそうな細い躰。 緑葉の花嫁。 彼女をそう呼ぶ者も、いる。 彼女の名は、マルチといった。 「また、決闘ですか?」 「・・・・・・ああ、俺は『デュエリスト』だからな」 俺は、ゆっくりとマルチの手を取る。 「・・・・・・行こう、決闘広場へ」 学校の裏山に、着く。 俺の目の前には、巨大な扉があった。 緑色の石造りの、扉。 その表面には大きな、緑葉の彫刻が刻まれていた。 リーフの刻印。 確か、そんな名前だったと思う。 扉の取っ手に、手を掛ける。 がこおおおおぉぉぉっっんっっ、 大きな音を立てて、扉が開く。 決闘広場への、扉が。 BGM:『絶対運命黙示録』(合唱 リーフ・スタッフ) 決闘広場へ、着く。 空には、巨大なビルが蜃気楼のように、浮かんでいた。 リーフの城。 アクアプラスの城とも、言われる。 夜になると、 「デバックはもういやあぁぁっっ!」とか、 「マスターアップが間に合わーんっっ!」とか、 意味不明の悲鳴が、聞こえて来るという。 そして、あのビルには『リーフ』の力が眠るという。 この世界を革命する力。 『電波』の力。 『鬼』の力。 なんか、最近では『ホワイト〜』なんとか、という力もあるらしい。 何だか、意味不明。 ・・・・・・話を、戻そう。 俺は広場に視線を、疾らせる。 決闘広場には、今回の決闘相手が待っていた。 その姿は、俺の良く知っている、姿だった。 「・・・・・・・・あ、あかり」 そう、 其処にいたのは、俺の幼なじみ、神岸あかりだった。 その手には、熊のシャーペンが握られている。 全長2メートルの。 ・・・・・・多分、決闘の武器なんだろうなぁ、アレ。 殴られたら、死ぬカモ・・・・・・。 「浩之ちゃん・・・・・・・・」 あかりが、哀しそうに俺を見つめる。 「ど、どうしてなんだよ、あかり・・・・・・?」 「・・・・・ご免、浩之ちゃん。何も言わずに、私と決闘して!」 あかりの瞳は、真剣だった。 迷いは、無い。 「・・・・解った」 そう言うと、俺は『緑葉の花嫁』のマルチに向き直る。 「マルチ、頼む」 「・・・・・ふにゃ?、は、はいいぃぃっっ」 ・・・・・・・マルチ、立ちながら寝るなよ。 俺とあかりの胸に、緑の葉っぱが飾られる。 コレを散らされたら、負けである。 「気高き、緑の葉よ・・・・・」 マルチの周りが、光り輝く。 「私の中に眠る、『リーフ』の力よ」 光が、胸の辺りに、収束する。 「我が主に、答えて、今こそ示せ・・・・・」 光球が、輝きを増す。 そして、 柄が、現れる。 俺が柄を、握る。 光の中から、俺の武器が現れた。 それは、 まばゆく輝く、「モップ」だった。 「・・・・いつも、思うんだけど・・・・・」 「はい?」 俺の言葉に、マルチが答える。 「・・・・・・なんか、この武器って、気が抜けるよな〜っ」 溜息、一つ。 「ううっ、すみませ〜んっっ」 「ま、いいか」 なでなで。 泣き出した、マルチの頭を俺は優しく、撫でてやった。 決闘広場が、変化した。 闘いに相応しい様に。 広場の地面から、何かが生えてくる。 それは・・・・・、 「・・・・・・くま?」 それは、熊だった。 虚ろな目をした。 如何にも、怪しさ大爆発の。 たしか、「初ない」のパッケージにも載っていた。 それは、熊のぬいぐるみ、だった。 鐘が、鳴った。 決闘の始まりを告げる、鐘が。 BGM:「天使創造すなわち光」(合唱 即興小説作家オールスターズ) 「どうしてなんだよ、あかりっ!」 俺が、叫ぶ。 頭上から、巨大シャーペンが振り下ろされる。 俺はモップでそれを、受け止める。 がっきいいぃぃっっんっっ!! 鈍い衝撃が、腕を痺れさせた。 なんて、力だよ。 俺は驚愕した。 「くそっ!」 巨大シャーペンを受け流して、俺は反撃に転ずる。 一撃、 二撃、 三撃目、 しかし、全て、あかりは弾き飛ばす。 ならばっ! 俺は、あかりの足下へ蹴りを、放つ。 「きゃっ!」 あかりが尻餅を、つく。 すかさず、俺はモップをあかりの胸の葉へ、奔らせる。 しかし、あかりが巨大シャーペンを目の前に突き出す。 俺の動きが、止まる。 「・・・・・・絶対に、負けないんだから・・・・・」 あかりが、呟く。 「・・・・あかり?」 「浩之ちゃんだけを、ずっと見てきたんだから・・・・・・」 あかりの声が、震える。 「・・・・ずっと、ずぅーっと、見てきたんだから」 頬に光るモノが、落ちる。 「・・・・・だからね、絶対に渡さない。マルチちゃんにも、他の誰にも・・・・・」 それは、涙だった。 「渡さないんだからぁぁぁぁっっーーーっ!!」 あかりが激しく、打ち込む。 まるで、俺への想いをぶつけるかの様に。 激しく。 激しく。 さらに、激しく。 何時の間にか、俺は決闘広場の端に追い詰められていた。 あかり。 小さい頃から、俺を見ていた、あかり。 いつも、笑っていた、あかり。 俺が我が儘を言うと、困った顔しながらおろおろしていた、あかり。 それなのに、俺は・・・・・・。 いいか、このまま負けても。 そんな考えが、頭をよぎる。 その時。 「浩之さあぁぁっっん!」 声が、届いた。 マルチ? 俺は、マルチの方へ向く。 「・・・・・負けないで下さいぃぃぃっっ!!」 マルチの瞳にも、涙があった。 そうだ。 俺は、約束したんだ。 あの時・・・・・・。 「・・・・・・マルチ」 「はい?」 「いつかきっと、『リーフ』の力を手に入れて、お前を人間にしてやるからな」 「・・・・・はいっ」 ふごおおおおぉぉぉぉっっ!! 決闘広場の熊のぬいぐるみが、叫ぶ。 目から光が、放たれる。 「えっ?なに、これ・・・・・・?!」 あかりが、驚く。 光は上空の、リーフの城に注がれる。 城が、輝く。 そして、城から幻が、降臨する。 それは、俺の躰へ降り立つ。 俺の躰に、力が漲る。 これが、『リーフ』の力。 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっーーー!!」 俺は、立ち上がり、あかりに向かって、疾る。 手のモップが、輝く。 俺はモップを振り上げ、 渾身の一撃を、放った。 その時、 懐かしい光景を、見た。 幼い頃の、思い出。 あかりが、泣いていた。 そして、俺を見つける、あかり。 涙で、くしゃくしゃの笑顔で・・・・・・・・・。 「ひろゆきちゃん、みーつけた・・・・・・」 鐘が、鳴った。 決闘の終わりを告げる、鐘が。 「浩之さん・・・・・・」 マルチが俺に、駆け寄ろうとする。 「・・・・・来るな」 俺の声は、震えていた。 足下には散らされた緑の葉が、あった。 あかりの、だった。 「・・・・・頼む、今はそっとして置いてくれ」 そう言うと、俺は床に倒れるあかりを抱き上げる。 ゆっくりと、俺はあかりの躰を抱えたまま、決闘広場を後にした。 「やっぱり、ダメだったか・・・・・・」 決闘広場、浩之とあかりの決闘の一部始終を見ていた男が、呟く。 一目見ると、女性の様な顔をしているがその雰囲気からは、危険な香りを漂わせていた。 学生服の胸元が、はだけており、白い肌を惜しげもなく見せつける。 名前を雅史、と言った。 「あかりくんでは、やっぱり、役不足って事さ・・・・・・」 雅史の後ろで、声がする。 雅史の後ろには、何故かダブルベッドがある。 ベッドの上にも、もう一人男が、寝そべっていた。 着衣は、乱れており、まるで情事の後の様な、気怠い雰囲気を放つ。 怪しい。 ハッキリ言って、怪しさ核爆発である。 「小さい頃から、知っている君には、容易に予測できたんじゃないのかい?」 「まあ、でも浩之の力を見極めるには、良い咬ませ役だったと思いますけど?」 「ふふっ、悪い、男だな・・・・・・」 雅史はベッドに倒れ込み、熱い吐息を、つく。 「・・・・・・次のデュエリストは、どうします?」 「なあに、焦ることはないさ、お楽しみはこれから、さ・・・・・・」 男は笑いながら、雅史を抱き寄せる。 静かな部屋に、ただ、ベッドの軋む音だけが、響いていた。 <to be continued ・・・・・・・な、わけないって> <次回予告> 浩之「今度の対戦相手はオカルト研究会の来栖川センパイ」 マルチ「ええっ、私怖いですぅぅっっ」 浩之「でも、最近センパイ、なんか悩んでいるみたいだね」 マルチ「妹さんのことでしょうか?」 浩之「さあね、次回、東鳩革命マルチ『召還せし庭〜プレリュード』」 マルチ「・・・・・・絶対運命黙示録」 ・・・・・・・・以上、冗談ですってば。(大汗) 1997.12.17.UP