鬼狩り師〜「かくれんぼ」 投稿者:西山英志
 もういいかぁい。
 ‥‥まあだだよ。
 もういいかぁい。
 ‥‥まあだだよ。
 もういいかぁい。
 ‥‥まあだだよ。
 もういいかぁい。
 ‥‥もういいよ。

 夕方。
 日は既に落ちて、紅い夕闇が空へ沈殿している。
 もういいかぁい‥‥。
 声が、聞こえた。
「かくれんぼかぁ」
 その声を聞いて、一人の少女が振り向く。
 神岸あかり。
 それが少女の名前、だった。
 顔には笑みが浮かんでいる。
 子供の頃でも、思い出しているのだろうか。
 もういいかぁい‥‥。
 また声が、届く。
「なんだか、懐かしいよね」
 あかりは隣にいる長岡志保に、言う。
「何、ノスタルジックになっているのよ」
 志保は興味なさそうに、呟く。
「‥‥‥志保ったら」
「ねえねえ、それより知っている?例の女子高生の連続蒸発事件」
 志保の瞳が、探求心で輝く。
「‥‥うん」
 あかりはぎこちなく、頷く。
 ここ数日。
 数名の女子高生が突然前触れもなく、蒸発をしていた。
 年齢。
 素行。
 成績。
 学校。
 蒸発する女子高生に一切、共通点はない。
 その為、地元の警察も捜査に迷走している。
 あかり達の住む町で起こっている事件だ。
「あかりも気をつけないとね。あんた何時でもボンヤリしているんだから」
「ありがと、志保」
 二人は、そんな事を話しながら、帰宅の途についていた。
 もういいかぁい‥‥。
 また、声が聞こえる。
 しばらく、して。
 あかりの前の道が、分かれる。
 右が志保の自宅へ。
 左があかりの自宅へと、続いていた。
「それじゃあね、あかり。また明日」
「うん‥‥‥それじゃあね」
 志保は一度振り向いて手を振ると、右の道を走りだした。
 あかりは、左の道を歩き出す。
 空は更に昏くなり、夕日はまるで血の様な紅色を、映す。
 もういいかぁい‥‥。
 もういいかぁい‥‥。
 声は未だ、聞こえていた。
 おかしい。
 あかりは、異変に気が付いた。
 鬼の子供の声しか、聞こえないのだ。
 その時。
 もういいかぁい?
 声が、聞こえた。
 あかりの後ろ、で。
 耳元で囁かれた様な、声。
 振り向く。
 しかし誰も、いない。
 もういいかぁい?
 また、聞こえた。
 更に近くに、聞こえる。
 あかりは、走り出した。
 恐怖。
 その感情が、あかりを前へ走らせていた。
 もういいかぁい?
 耳を塞いでも、聞こえた。
 あかりの走る速度が、更に速くなる。
 心臓が早鐘を、打つ。
 呼吸が、苦しい。
 足が、痛い。
 それでも、走る速さをあげようと、する。
 もういいかぁい?
 まだ、聞こえる。
 気が、狂いそうだ。
 叫び声をあげたかった。
 突然。
 あかりの右腕が、引っ張られた。
 ひっ、
 喉から声にならない叫びが、漏れる。
 強い力で、物陰に引っ張られる。
 あかりの頬に柔らかい物が、当たる。
「‥‥‥‥じっと、して」
 女の声、だ。
 とても優しい声、だった。
 目の前に美しい瞳が、ある。
 はっ、と息をのむ様な美女で、あった。
 二十歳位だろうか。
 気が付くとあかりは、その女性の胸に顔を埋めていた。
 その横には、男の姿があった。
 大きな、男だ。
 躰が、がっしりとしている。
 年の頃は、二十五、六といった処か。
 もういいかぁい?
 声が、闇に響く。
「‥‥‥耕一さん」
 あかりを抱き締めた美女が、男の名を呼んだ。
「楓ちゃん、その子を頼む」
 そう言うと、耕一は夜の路上へ歩き出す。
 もういいかぁい?
 声が聞こえた。
 耕一の後ろ、で。
 もういいかぁい?
 耕一の前、で。
 もういいかぁい?
 耕一の頭上、で。
 もういいかぁい?
 耕一の足下、で。
「‥‥もう、いいぜ」
 耕一がそう呟いた、その時。
 ごうっ、
 風が、吹いた。
 ふいに、耕一が動く。
 耕一の目の前に、爪が現れた。
 巨大な爪、だ。
 耕一の右足が、跳ね上がった。
 ぱきぃんっ、
 硝子を折る様な、澄んだ音。
 耕一の頭上を、影が走り抜けた。
 影が耕一の後ろに、着地する。
 耕一が、振り向く。
 左手には黒い爪が、握られている。
 それは、途中で折れていた。
 耕一が折った、のだ。
 ふっ、
 ふっ、
 ふっ、
 僅かな、獣臭。
 目の前の影の、呼吸音。
 獣の呼吸、だった。
 その瞳は金色に、輝いていた。
「‥‥‥何者ダ、貴様」
 影が言葉を、吐く。
 人間が出す声、ではない。
 獣が無理に人間の声を絞り出す様な、声だ。
「お前達を‥‥‥狩る者、だよ」
 静かに耕一が、言う。
 口元には不敵な笑みが、浮かぶ。
 その瞳は、目の前の影と同じ金色に輝いていた。
「‥‥‥ソうカ、オ前が我らが同胞ヲ、‥‥‥‥‥」
 ぐっ、
 ぐる、
 ぐるぅっ、
 影の喉が、獰猛な音をたてる。
「‥‥‥あんたは、人を殺しすぎたんだ」
 ぼそり、と耕一が呟く。
 夕闇が、夜空に消えていく。
 影が、動いた。
 巨体に似合わぬ、速さで。
 耕一の腰が、沈む。
 がつんっ、
 衝撃が、疾る。
 耕一の腕が、影の爪を受け流す。
「ひゅっっ!!」
 耕一の唇から、笛の様な呼気が奔った。
 靴の爪先が影の躰に、襲いかかる。
 ふわり。
 と、影が後方に跳んだ。
 道の草の上に着地し。
 次の瞬間。
 耕一に向かって影が、跳ね飛んだ。
 影の手足が旋風の様に回って、耕一の躰を襲う。
 秘中。
 章門。
 背梁。
 人中。
 牙顎。
 人体の急所と呼ぶべき処を、正確に狙っている。
 その攻撃の全てを、耕一は外へ跳ね飛ばす。
 しかし、攻撃する余裕は、ない。
 にいっ、
 影が、嗤った。
 凶悪な、嗤いだった。
 ごつん、
 と、耕一の背に堅い物が、当たる。
 コンクリートの壁、だった。
「死ねェぃッッ!!」
 疾風の速さで、影が襲いかかる。
 影の爪が、風を薙ぐ。
 刹那。
 耕一の躰が、動く。
 右手が、閃いた。
 閃光の如き、速さで。
 影の喉を捕らえ。
 ごっそり、と肉を抉り取っていた。
 ぶつん、
 何本もの弓の弦が切れる様な音が、した。
 ぷしっ、
 血が、吹き出す。
 数歩進んで、影は地面に倒れ込んだ。
 地面に血の池を、作り出す。
 ひゅうひゅう、という呼吸音と痙攣が影の躰に、疾り。
 直ぐに、消えた。
 耕一はその時、白い炎が美しく揺らめくのを、見た。
 命の炎、だ。
 何よりも美しい輝き、だった。
 耕一は大きく息を、ついた。
 肩が、上下している。
「‥‥‥耕一さん」
 楓の声が、聞こえた。
 耕一はようやく楓の腕の中で震えている、あかりに目を留めた。
 あかりの瞳は、怯えていた。
 耕一の口元に笑みが、浮かぶ。
 不快な笑みでは、ない。
 魅力的で、見ている人を安心させる様な、笑みだった。
「‥‥‥あ‥‥、あの‥‥‥」
 あかりが、ようやく口を開く。
「‥‥美人だな、あんた」
 耕一が、ぼそり、と言う。
「やっと今、そのことに気が付いたんだ‥‥‥」
 そう言って、耕一は再び、微笑った。
 夜空に、上弦の月が昇っていた。

                 鬼狩り師〜「かくれんぼ」<了>


   あとがき〜又の名を戯れ言。

はう、やってしまいました。(笑)
読んで気が付いた方もいらっしゃると思いますけど、この「鬼狩り師」は私の尊敬する
夢枕獏氏の「闇狩り師」が元ネタになっています。(自爆)
あ、あと秋葉凪樹氏の「月下に鬼影、集うの縁」(葉っぱ系・再に収録)も参考にさせ
ていただきました。
設定としては、初音EDの後日談みたいな内容です。
EDで遙か星の海からやって来たエルクゥ達は、人間達の世界に潜んで殺戮をくり返し
ます。それを耕一達、柏木家の一族が退治していくというストーリーです。
なんて、安直な‥‥‥(笑)
しかも、何故かあかりが出ているし。(オリキャラはあんまし出さない様にしたいので・苦笑)
しかし、私の大好きな格闘描写が書けて、嬉しかったです。(苦笑)
ま、いろいろ暇を見ては書いていきたいシリーズですね。
今回は耕一君と楓ちゃんしか出していませんけど、次回(あるのか?)には梓や初音ち
ゃん、千鶴さんも出したいですね。

レスです。

アルルさんへ
貴方が去って行かれる事を聞いて、私も他の方と同じくショックが隠しきれません。
貴方は、ある意味、私の目標の人でした。お世辞じゃありません。本気でそう思ってい
ました。
貴方が去っていく事を聞いて、私も「SSやめようかな」と昨日の夜、思いました。
でも、それでは只の「逃げ」になると、私は思いました。
ですから、いつか帰ってきてくれる貴方を迎える為に精進していこうと思います。
最後に‥‥‥‥‥さよならは、言いません。絶対に。

風見くんへ
‥‥‥‥ふっふっふっ、ようやく楓細胞に犯されてきたか。(をい)
しかし、ペースが落ちないねぇ。(ちょっと、感心)
私と君との馴れ初め‥‥‥‥、こんなんだったんかい。(笑)

dyeさんへ
「天使集散」‥‥‥‥こんな展開になるとは。以外でした。
そうか、植物にも『エルクゥ』の血って有効なのか〜。このネタ、私の方でも使えるかも
(おいおい)

まさたさんへ
SS専用HPですか‥‥‥‥。確かに私も、欲しいな、と思っていました。
是非頑張って下さいね。私も出来るだけ協力します。

へーのきさんへ
やっぱマルチは胸がない方が良いと、私も思います。(自爆笑)
しかし、本当にほんわかとしてしまいますね。貴方の作品は。

kuramaさんへ
なんだか、ドラマの脚本みたいで、新鮮な感じがしますね。
また、今度某HPのチャットでお会いしましょう。(笑)

緑さんへ
う、うおおおおををををっ!楓SSSだぁっ!!(<誰かコイツを止めろ)
短い文章に、気持ちが入っていて、とっても素直に読めました。
今度は初音ちゃん辺りでやってくれると、嬉しいです。

久々野彰さんへ
インターネット導入は順調ですか?
梓SS4本も没にしたんですか?ううっ、なんかもったいない。
私はどんなくだらないネタでも、利用するというのに‥‥‥‥‥。
つまり、ボキャブラリーが足りないんだよね、私。(更に自爆)

それでは、また次回で‥‥‥‥‥。