Azusaは南カリフォルニアの都市です 投稿者:第3接触 投稿日:8月30日(水)20時04分
 ──『あずさ』って名前、かっきーな。 
 ──えっ、そ、そうかな。
 ──おうよ。『ず』がいいんだよなあ、『ず』が。
 ──…『ず』?
 ──俺ってよお、『こーいち』ってへ−たんだろ、その点『あずさ』は『ず』がいーアクセントになってんだよな。
 ──アクセント?
 ──おうよ。だから『ちづる』ねーちゃんも『かえで』ちゃんもかっきーぞ。
 ──………。
 ──ありがとお、こういちさん。
 ──あー、お兄ちゃん、はつねは、はつねは?
 ──『はつね』ちゃんは…、ば、『ばづね』ちゃんにすればかっきい…。
 ──わ〜〜ん、ひどいよ〜、お兄ちゃんのいじわる〜〜〜!!
 ──くぉるわぁ、はつねをいじめるなあ、ご・ゔ・い゙・ぢ〜〜!!
 ──ま、待て、それは違…、ぐはぁっ!!


「ぷわははははははははははは〜〜〜」
「うぷぷ、お兄ちゃん笑っちゃ駄目だ…ぷっ、あははは」
 
 はっ、何だ夢か。うとうとしてたよ。夢、小さい頃の、耕一と始めてあった頃のことか。
 それにしてもあの頃の耕一って…ホント馬鹿だったよな。
 何がかっきーだ、濁点付けば何でも格好いいってか。あの年頃の男の子ってみんなあんなものかね?
 まあ、でも、あいつは…格好いいって言ってくれたんだよな。
 へへ、やっぱし嬉しいよな。あいつが誉めてくれたんだもの、一応だけどさ。

「おーい、梓ー。おっ、ここにいたのか」
 あ、そうだ。何だ、さっきの笑い声は。初音も一緒になってでかい声でさあ。

「何だよ、耕一。さっきの馬鹿笑いはさあ」
「ふふふ、それはこれを見れば分かる」
「駄目、お姉ちゃん、見ちゃ駄…うぐ」
 耕一は片手で初音の口を押さえ、もう片方から辞書を差し出す。
 にたにた笑う顔と初音の言葉が気になったが、このままでは話が進まないのでそれを受け取る。
 辞書─国語辞典の前の方に付箋が張ってある。ここを見れってか。
 耕一の方を見ると、相変わらずにたにたしながら顎をしゃくって先を促す。
 しょうがないねと、そのページを開くと…。

 バサッ

 思わず本を落としてしまった。な、何だ、今のは。
 嘘だ。そう嘘だ、見間違えだ、目の錯覚だ、誤植だ…
 耕一と初音が心配そうに覗き込んでいるが、あたしはショックで固まっていた。

「…え〜と、【梓】カバノキ科の落葉高木『よぐそみねばり(夜糞峰榛)』の別称…へ〜、そうなんだ。ふふふ」
「か、楓ちゃん、いつの間に。どうそれ、『よぐそみねばり』、久々のヒットだろ。わはははははははははは」
「本当、面白いですよね、選りにも選って『よぐそみねばり』だもの。うふふふふふふふふふふ」
「もう、二人とも梓お姉ちゃんが可哀想だよ、『よぐ…』、ぷっ、あはははははははははは」
「はは、どうだ、あず…」

 ドガスッ 「おぐわぁ!!」

 グシャッ 「ぎゃん!!」

「ひぃ、お、お兄ちゃん、お姉ちゃん!!」

 取り敢えず、手近にいた耕一を壁に張り飛ばし、楓を床に叩きつける。
 全く、どいつもこいつも…、人がいい夢見て気分良くしてんのによお。
 前言撤回。耕一は相も変わらず馬鹿だ、大馬鹿だ。そしてこいつらも…。
 あたしは最後の獲物、初音にゆっくり近づいていく。

「お、お姉ちゃん、お、落ち着いて、ねっねっ」
「くっ、くっくっくっ、は〜はっはっは〜〜、そうだよ『よぐそみねばり』だよ。悪いか?『梓』のことを『よぐそ
みねばり』と言って何か悪いのか〜〜!!」

「違う! 違うわ、姉さん!!」
 楓がムクリと起き上がる。朱に染まった顔を向け、真摯な瞳であたしを射る。
「か、楓」
 あたしは初音の目前で止まり、楓の目を見る。なんて真剣な輝き。
 あたしの中で何かが急速に醒めていった。ごめん楓、ついカッとなっちゃって…。

「『梓』のことを『よぐそみねばり』と呼ぶんじゃなくて、その逆。『よぐそみねばり』の別称が『梓』であって、
『よぐそみねばり』の方こそが主、真の名前な…、ぶっ、がっ、ごっ!!」
 
「あ、梓お姉ちゃん! 本当、落ち着いて! 『梓』は『よぐ…』のことだけを指すんじゃなくて、他にもそう、
た、例えば『アカメガシワ』とかがあるの!!」
「…ほお、『アカメガシワ』ってゆーのは……こういうことかあ〜〜!!」
 瞳孔が縦に裂け、瞳は緋色に輝く。
「ち、違うよお〜〜!! かはっ」 

「梓よ、知ってるか。『梓』というのは『木偏』に『辛い』って書くん…、ごばあっ」

「ね、姉さん。この場合『辛い』というのは『からい』ではなく『つらい』と読むのよ」
「そうかい、そうかい」
 幽鬼のように立ち上がる楓に指を鳴らしながら近づき、あたしは感じた。
 今日は一線を越えるかも、と。



 戦場と化した部屋で巻き上がる血風が件の辞書をめくる。
 【梓】の項は黄色の蛍光ペンに赤い波線のアンダーライン、おまけに花丸で飾られていた。
 そして最後のページには「1ねん3くみ かしわぎちづる」と書かれてあった。

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 どうも第3接触です。
 こっちに書くのは久しぶりです。ですから皆さん始めまして。
 それで梓誕生日SSです(笑)。
 このネタ多分知らないだろうと書いてみました。(知ってたらすみません)
 こういう一発ネタは、短くテンポよくやるものなのだろうと数行位でまとめようとしたのですが、なんかピンと来
ず、何度も書き直したのですが諦めて、結局こんな形になりました。
 ちなみに冒頭部の変な会話ですが、最近本屋で立ち読みしていた時、その辺の子供が大体こんな会話をしていたの
です。つまり実話です。で、書いてみたのですが、ライブで聞いたのと違ってそんなに面白くない、うーん、SSっ
て難しいです。
 あと、へんなタイトルですが気にしないで下さい。
 では今日はこれで。