To Heart WDASH7(6)  投稿者:闘魂秋吉


前回までの荒筋(3点)
葵とマルチがオルゴールを聞いて、
浩之達はVIP客に歌を聞かせに向かった。
…こんなもんか?


第6話 戦場のオルゴール(後)


「よう市長、元気か?」
「………」
「おう元気か、良かった良かった」
「君が藤田浩之君だね?宜しく」
芹香と浩之が話しているときに研究者が割りこんできた。
浩之はちょっとムッとしながらも、「ああ、どうも宜しく」と答えた。
浩之は小声で、「コイツがVIP客なのか?そうは見えねえぞ」と綾香に尋ねたが、
綾香もVIP客が誰かは知らず「さぁ?」と答えるしかなかった。
しかしそれが聞こえたのか、研究者は「残念ながらVIP客と言うのは私ではないよ。
見たまえ」
そう研究者が言うと、隣の部屋を監視できるシャッターが開いた。そこには―――――


敵襲中のバトナナ艦は非情に慌ただしい。
「マルチ早く乗って!セリオは出撃準備いい?」
「はい、隊長。」
「はわわわ、出撃準備できましたぁ〜。」
葵はそのとき、ふと見たマルチ機のコクピットの中にさっきのオルゴールが入っているのを見た。
「マルチ、そのオルゴール持ってくの?」
「あ、ハイ!なんだかこれがあると本当に浩之さんが側にいるみたいで安心できるんですよ」
葵はそれを聞き微笑を浮かべながら、「よし!アメジストフォース出撃します!」
とオペレーターに宣告した。

「野郎ども!入れ食いだぜ!!」
キギルは不気味な笑みを浮かべ部下にそう言い放った。
(コレだけの数がありゃあジビルを…)

「…押されているな」
セバスチャンは、そう呟いた。
その声に反応したオペレーター(松本)が、
「はい、我が軍はヴァルキリー隊の展開を急いでおりますが、
なにしろ奇襲でしたので…すでに3隻落とされました」
「そうか…分かった。」
艦長セバスチャンは、今決断を迫られていた。

「そこっ!喰らえっ!!」
ガキッッ!!!
葵がそう言うと同時に敵のマシンに後ろ回しげりが炸裂し、吹っ飛んで行った。
「隊長、前方に敵増援です!」セリオのやや上ずった声が、葵のパイロットスーツに響いた。
(くっ…なんて数!こっちが押されているわ!)
だが葵とセリオはこの極限の状況の中、一つの共通の結論を見出した。
その結論とは。


「……で、この捕虜さんに俺の唄を聞かせれば良いんだな?」
「そうだ。…嫌かね?」
浩之は軽く首を横に振って見せ、「いんや、望むところだぜ」
と、言って見せた。
「有難う。じゃあ、早速準備を頼む」
「おう、分かった」


セバスチャンは顔を上げて、こう言った。
「…全艦に通達!トゥハートキャノンを発射する!射線上から退避せよ!!」
その声にオペレーターは一斉にセバスチャンの方を振り向き
「トゥハートキャノンでありますか!?」
と明らかに戸惑いと驚きを隠しきれない声で聞いた。
セバスチャンはふう、と一息ついて
「そうだ!トゥハートキャノン発射準備だと関係各位に通達!早くせんか!!」
オペレーターはそれだけ聞くと「了解!」と言い残し
再び自分たちの仕事へと戻った。
「関係各位に通達!これより本艦はトゥハートキャノンを使用します!射線上の戦艦は直ちに退避を…」

「マルチ!セリオ!バトル艦がトゥハートキャノンを使うわ!
それまでの時間稼ぎをするわよ!」
「了解ですぅ〜」
「了解しました、それとマルチさん―――――」
「?なんですかセリオさん?」
マルチは突然セリオが話し掛けてきた事にちょっと驚きながらも、応えた。
「――恐らく、敵はまだシティを手に入れてはいません。…この攻めを見れば分かります」
「え?そ、それって…」
マルチの声のトーンが明らかに上がった。
「つまり、この戦闘を切り抜ければ、藤田先輩のライブを見に行けるって事よ!」
セリオのセリフの続きを葵が話した。
マルチはいつも以上にかしこまった口調で、
「は、はい!了解しましたぁ!」と言った。
しかし、これが悲劇の引金となる事を、3人はまだ知る由も無かった。

「いよいよ本領発揮かい、親父」
何時の間にか来ていた長瀬が、隣のセバスチャンに言った。
セバスチャンはじっ、と前を見たまま、何も話そうとはしない。
もっとも、彼はそれを予想していたらしく、別段うろたえるでもなく話しを続けた。
「でさ、あとどれくらいでチャージが完了するんだ?親父」
その言葉には、確かにセバスチャンは反応した。
「そうだな…あと60秒くらいか…?」
「1分か。それくらいなら何とかヴァルキリー隊で…」
「待ってください!」
長瀬の安堵の声を掻き消すように、オペレーター(内藤)が口を開いた。
「エネルギーチャージシステムに異常発生!発射まで更に180秒必要です!」
長瀬はぴいっ、と口笛を吹き、「うわぁ〜お、4倍?」なんて呑気に口走っていたりもしたが、
セバスチャンはそれどころではない。
「なんじゃと!くぁーーーーっ、奴らチェックを怠りおったな!この戦闘が終わったら謹慎2週間じゃ!
システム班に伝えろ!120秒でやれとな!さもなくば首」
「りょ、了解しました!」


浩之達は捕虜の前に立ち、唄っていた。
無気力に座る捕虜。その外見はなんの変化もない。
…あくまでも、外見上はだが。
「来た!」研究者が叫びともとれる声を上げた。
「脳波反応増大!これはいけるぞ!!」
モニターでは、波線が上下に激しく揺れていた。

「「あきらめのSAD SONG 嘘つきは歌う
NO THANKS! お呼びじゃないぜ…」」
この曲は、浩之とあかりのデュエットで、結成当時からあった由緒ある曲である。
だから、新しく入ってきた綾香とレミィはともかく、浩之とあかりにとって、この曲は非常に思いで深い。
だからこの二人のデュエット曲と言う事も、暗黙の了解といったカタチであった。
しかし、3人目が聞こえてくるのだ。
歌っているのは、そう―――――
捕虜だ。

「右前方に敵2機!撃破します!」
マルチはいつになくはっきりとした口調で敵へミサイルを放った。
刹那、火球が二つ、轟音を立てて上がる。
「やったわねマルチ!撃墜4機目よ!」
葵はマルチの変貌振りに驚嘆していた。
「あと47秒。そろそろ退避をしなければなりませんが―――」
セリオがタイムリミットを示した。
「分かったわセリオ、マルチ!退避するわよ!」
し…ん。
「?」
マルチは応えない。
「マルチ?退避するわよ!トゥハートキャノンの発射が迫っているわ!」
「あ、あとこの1機を…!」
今度は通じた。
マルチは一つの敵の影を追っているようだ。
「マルチ!早く!」
葵は正直、恐怖を覚えた。
戦場において、油断、慢心というものはあってはならないのだ。
だが、今のマルチには、それが……あった。
「?」
葵機のモニターが、何かを捕らえた。
――――――マルチの後ろを取った…敵だった。


「「「変わり続ける星座と 見えない汗と涙が
INTO MY HEART 勇気をくれる…」」」
捕虜の男が歌に加わっても、浩之達は歌を続ける。
なぜなら、一緒に歌って欲しかったからである。


「マルチ!!!後ろ!!!!!!」
葵が叫んだ。
マルチは葵の言葉に我に帰り、回避運動を取ろうとした。
………が、もう、遅かった。
敵の銃口からは、運命を決める銃弾が、既に発射されていた。
それは、マルチの機体へと、寸分の狂いも無く、一直線に…


直撃した。


「マルチぃぃぃぃぃ!!!!!」
葵の絶叫は、むなしくコクピット内に響くばかりであった。
爆炎に吹き荒らされるコクピット。
そのなかのオルゴールは、宙に浮き、蓋が開き…
音を奏でた。
だがその音は、ひどく寂しげな音に…聞こえた。


「「NO MORE WASTIN’ LOVE!愛を無駄にするな…
お前だけを誰かが見つめてるはず…」」


「うおおおおおおお!!!!」
葵は鬼神の如く叫び狂った。
そしてマルチを殺った敵目掛け、鋼鉄―ヴァルキリーの拳―を放つ。
敵は何かに袖を掴まれたかのように一歩も動けず、宇宙の藻屑と化した。
「隊長!発射10秒前です!退避してください!」
葵は、それを聞き入れなかった。

「トゥハートキャノン発射準備完了!」
それを聞いたセバスチャンは微かに笑みをもらし、
「よし!トゥハートキャノンはっしゃ…」
「待ってください!射線上にまだアメジストフォースの松原機が!」
「なんだと!!」
セバスチャンは悩んだ。悩んだが…
「あの娘ならきっと回避するわい!発射!!」
そう言うとセバスチャンは目の前に置かれたトリガーを引いた。

「…な、何!?キャノンが発射されたの!?」
間一髪それを避けた葵は、閃光の彼方に沈んで行く敵を見つめた。

また離れたところでそのキャノンの光をみたキギルは、唖然とした。
「なんだあのビームは!味方の40%がやられただと!
…えぇーい!撤退だっ!!」


「「HEY!EVERYBODY! 心のままに! 
叫ぼうぜ!JUNPIN!ON THE PLANET DANCE!」」
「う、うおおおおおっ!」
捕虜はそう叫ぶと、ばったりと倒れこんでしまった。
流石に浩之達も驚いたのか、演奏を止める。
すかさず研究者と芹香が入ってくる。
研究者は捕虜を抱き起こし、頬を叩いた。
「う…こ、ここは?」
「い、意識が戻った!?」
すると綾香が前に出て、
「ここは第37次超長距離移民船団、トゥハート7よ。まずは貴方の名前を教えて頂戴」
と、捕虜に語り掛けた。
すると捕虜はゆっくりと口を開き、
「…私は、イリーナ・山川…認識番号、3・0・6・0・8・9、階級は、少尉…」
それだけ聞くと、綾香は研究者の方へ向き直り、「つまり…これって?」と聞いた。
研究者は眼鏡を直し、咳払いを一つし、こう言った。
「…どうやら、地球人だったようですね」と。


葵は、艦に戻るなり自分の部屋に直行し、ベッドに突っ伏した。
その傍らには、帰還途中に見つけたマルチのオルゴールもあった。
だが、その持ち主は既に居ない。
今日の出来事を全て受け止めるには、まだ暫くの時間が必要だろう。
彼女はベッドを涙で濡らすと、そのまま深い眠りに落ちたのだった――――。
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それから、何時間経ったろうか?
部屋をノックする音で、葵は目覚めた。
顔には涙の痕が、まだはっきりと残っている。
居留守を使おう…彼女はそう考えた。
こんな顔、他人に見せられるものではない。
とんとんとん。
…まだノックしてる。
とんとんとん。
しつこいわね。
とんとんとん。
…ちょっと、まだノックするの?
とんとんとん。
…はいはい、分かったわよ。出れば良いんでしょ?出れば
遂に根負けした葵は、かちゃり、とドアを開けた。
すると、そこには…
「命令違反してすいませんでした!葵さん!」
「…マルチ?」
マルチが、居た。
「はい、マルチですけど、それが何か?」
「いや、だってさっきの戦闘で…」
「あ、はい。確かにさっきの戦闘では私は撃破されてしまいました。
でも、データは戦闘中も常に取りつづけていて、逐一研究科にコピーされて保管されているんです。
その為に簡易サテライトシステムをつけたんですけど、って、前にもお話しませんでしたか?この話」
そう言えば…そんな話し、された気がする…
だが葵にはそんな事はどうでも良かった。
いまマルチがここに立っている、それだけで充分だった。
そんな事を考えていると、不意に涙が再び葵の頬を伝った。
「え?え?なんで泣いてるんですか?す、すいません!私が命令違反を犯したばっかりに…」
「そうじゃない…そうじゃないの、マルチ」
「そ、そうなんですかぁ?良かった…じゃあなんで泣いていらっしゃるんですか?」
葵は泣き顔のまま、クスッ、と笑い、
「嬉しいからよ」
とマルチに言った。
「はぁ〜、そうなんですかぁ〜。」
マルチはただ不思議そうにしている。
そこでふと葵は思い出した。
「マルチ、ちょっと待ってて」
「え?あ、ハイ。」
葵は何時の間にかベッドの下に潜り込んだオルゴールを手に取り、
それをマルチに手渡した。
「あ、これ…」
マルチの顔がぱあっ、と明るくなる。
「必死で探したんだから、感謝してね」
そう言って、葵はちょっと悪戯っぽく笑った。どうやら少し綾香に影響を受けたらしい。
マルチは暫くオルゴールをまじまじと見ていたが、
「あ、ありがとうございまふ…」
と言い、遂には泣き出してしまった。
葵はそんなマルチをそっと抱き寄せ、自分も静かに頬を濡らすのだった。

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次回予告!
忘れてた事が一つあった!
そう!彼らはまだアマ!インディーズ!!
と言うわけで次回さぁプロデビュー…出来るか?
    
          次回『遥かなる栄光への道(仮)』

        快感フレーズなんて、絶対認めねぇ(決めゼリフ)!
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影「えー、影です。この話については、本人が一切ノーコメントの一点張りでありまして、
どうやら柄にもないの書いてしまったと今更後悔している様です。
あ、本人からのコメントが届きました。なになに…『葵ちゃんとマルチは別にレズじゃないです』…?
もしかしたら1000人に一人くらいは感動するかもしれない話に思いっきり水を差すコメントでしたね。
コイツはわたくしが後で責任を持って半殺しにさせて頂きますんで。
では、また次回〜♪」