To Heart DASH7 第3話  投稿者:闘魂秋吉


突然だが、浩之は山に登っていた。
別に山登りが好きなわけではない。
ちょっとした、噂を聞きつけたのだ。
『あの山には、巨人が棲んでいる』
こういったのを、この星の住民から聞き取った。
さて、すぐに何でも首を突っ込みたがる浩之。
勿論、ここも突っ込む。
何故かと言うと、他にやる事が思い浮かばないからだ。

第3話 巨人の山

その山の中腹。
「ふぅ〜、ここらで休憩するか…」
そう言って浩之は、どさっと腰を下ろした。
こんなに歩くのは久し振りだ。
良くある表現を使えば、
足が、鉛のように重い。
ここに来て浩之は、巨人がこの山の何処にいるか知らない、という事実に気がついた。
(しまったなぁ…もうちょっと聞いておくべきだったかな…?)
そんな事を浩之は考えたが、あれ以上街で聞きこみしても無駄だろう、
と言う事は容易に想像できた。
あとは、その事実かどうかもわからない巨人を、手探りで探していく他無い。
だが浩之は、それを苦とは受け止めていなかった。
彼にはこの巨人を探す事が、自分の『歌う理由』を気付かせる事になるのではないか、と、考えたからだ。
無論、確証など無い。
彼にとっての、これは『休暇』だとも言える。

さて、なんだかんだで既に三日は過ぎていた。
「あかり〜、情報がはいったわよ〜」
「ホント?綾香。」
「本当よ。来栖川の情報網を甘く見ちゃあいけないわね。」
何か綾香、志保入ってる気がするが。
「で?浩之ちゃんはどこにいるの?」
綾香のセリフを聞き流し、あかりが聞いた。
「浩之の居場所自体はわかんないけど、足取りはつかめたわ。この先3000宇宙キロの
ステーションに、浩之のヴァルキリーが置いてあったって。」
綾香の言いまわしに、あかりは軽い疑問を覚えた。
「…置いて…あ・っ・た?」
「そう、置いてあった。パーキング代滞納によって、昨日銀河警察にレッカーされたわ。」
「………。」
そりゃそうだ。
「とりあえずあのパーキングでレッカーされたヴァルキリーは、一番近場の船団…つまり、
ここトゥハート7ね。に運ばれるはずだから、それを使って探しに行きましょう。」
「……滞納分の料金は誰が払うの?」
「私が払うけど…とりあえず浩之見つけたら返してもらわなきゃね。トイチ(注)で。」
「せこっ…」
(しまった!)
あかりがそう思ったときには、もう遅い。
綾香の後ろ回し蹴りがあかりの眼前に…
とりあえず、出発はあと3日延びた。
「ケンカはイケナイネ〜…」
レミィのそのセリフも、今となってはもう遅い。

「野宿か…」
野宿だ。野宿である。
浩之は、とりあえず今日は登山道から外れないところで広場を見つけ、
そこのベンチに根っころがった。
「うー…寒っ」
山は寒い。
この星は、そろそろ本格的に秋に突入するようなので、まだ残暑のトゥハート7より
5〜6度は寒い。更に山だ。より寒い。
だが浩之はとても疲れていたので、すぐ寝れそうだった。
寝ようとした。
意識がまどろんでくる。
その時、浩之は聞いた。
『……………』
「!?」
それは耳を済ましても聞こえるかどうかわからないような微かな声だったが、浩之には
はっきり聞こえた気がする。いや、聞こえた。
浩之は飛び起き、あたりを見まわした。
だがその時には、すでに虫の鳴く音が聞こえるだけであった。
「……今のが巨人の…声か?」
浩之は、自分で今の出来事を整理するようにぼそり、と呟いた。
「いい…唄じゃねえか。」
あの巨人の声が、浩之には唄に聞こえたのだった。

翌朝、浩之は登山道から外れ、巨人を探した。
登山道を外れるという事は、一歩間違えれば『死』を意味する事になるが、
今の浩之にはその緊迫感は無い。
なぜなら浩之は、巨人にどうしても会いたい、その衝動だけで動いているから。
魔窟山。
その山は、どうやらそう呼ばれていたらしいが。



                                               (続く)

(注)十日で一割の利子、と言う事。う〜ん、皆知ってるか。

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次回予告ぅ〜!
綾香「ほうほう…順番制か」
浩之「ん?分かってんじゃねえか」
綾香「じゃあ次回はだれかな?」
浩之「……う〜ん……矢島?」
綾香「今そのネタは危険よ!浩之」
浩之「すいませ〜ん」
綾香「いつもながら予告になってないわね…」
 
              次回 『嵐の夜』
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闘魂「ん〜、すっかりいつものペースに戻りましたねぇ〜」
影「さてさて…」
闘魂「ん?何か悩みでも?」
影「話す事が無いのが悩みで…」
闘魂「なるほど……」
影「何かある?」
闘魂「あと2回です」
影「…ふ〜ん…」