愛のカタチ  投稿者:闘魂秋吉


今日も、俺は神岸さんに告白した。
「かみぎしサ〜ン、好きでぇ〜ぃすぅ!」
「しつこいね、君」
「愛がアリマスから!」
「……矢島君の場合、それだけじゃないと思うんだけど…
とにかく、貴方はい・や。」
「そんな事言わないで〜神岸さぁ〜ん」
めきっ。

結局本日の告白も空振り。
俺は重い気持ちで、家への帰路へと着こうとした。
下駄箱へ行こうと、階段を降りた1階の廊下で、俺は奴を見た。
藤田だ。
ちょっとした憎悪が沸いた。
ふと俺は、藤田の隣に女が居る事に気付く。
素早く物陰に身を隠す俺。
伊達にいつも神岸さんをストークしてる訳じゃない。
あの女…誰だ?
俺は藤田に気付かれない様、こっそりとその女を見た。
確かアレは…今試験中でウチの学校に通っている…メイドロボ。
名前は…マルチ…って言ったか?
何で藤田がメイドロボと接点を持っているのか知らない俺は、
奴らの会話を一言たりとも逃さぬよう、聞き耳を立てた。
「…マルチ。」
「何ですか?浩之さん」
浩之さんだとぉ〜!?
藤田め、なんかよく分からんがゆるせん!!
「マルチ、聞いてくれ…」
おっと、聞かなければ。
「マルチ…俺は、お前が好きだ。愛してる!」
な、何だとぉぉぉ〜〜〜!
「え…?そんな、いけません!第一浩之さんにはあかりさんが…」
「あかりなんてどうでもいい!俺はマルチ、お前が好きなんだ!」
俺は、目の前が暗くなった気がした。
俺は神岸さんが好きだ。
だが神岸さんは藤田に惚れている。これは間違い無いだろう。
その藤田が、今他の女性…いやロボットに告白しているのだ。
それを神岸さんが知ったら、果たしてどう思うだろうか?
失恋の痛手で、俺に心を許してくれるかもしれない。
だが、それは俺が藤田の代わりという事になる。
それは嫌だ。
あんな最低男の代わりは嫌だ。
そもそも、あんな最低男のどこに神岸さんは惚れたのだろうか?
分からない…
分からないな…

翌日、俺は藤田を屋上へ呼び出した。
「なんだよ矢島、話って。あかりを譲れって言うならお断りだぜ」
二股かけている男が言う事か。
「藤田…」
俺は、ゆっくりと口を開いた。
「だから、なんだよ矢島?」
「お前…メイドロボと付き合っているそうじゃないか…」
「!?……な、何のことだ?」
奴は今、明らかにうろたえた。
「とぼけるな!俺は見たんだ!貴様が神岸さんというものがありながら
メイドロボごときに愛してる!とか言うところをな!」
「……メイドロボごとき…って言ったか?」
藤田から殺気が放たれる。
だが俺は引かない。
「ああ言った!言って悪いか!!」
「てめえ…許さねえ」
「許さないならどうするっていうんだ?」
「殴る」
やばい…目がマジだ。
今から謝ろうかな…なんて考えが俺の頭の端をよぎる。
だが俺の口は、こう勝手に喋った。
「おう殴れ!殴って見やがれ!この(自主規制)野郎!!」
「言ったなぁーー!!」
藤田の拳が目の前に迫る。
そういえば、奴はエクストリーム同好会の部員だっけ…
当たったら…痛いだろうな…
藤田の拳が俺の顔面に炸裂しそうになった瞬間、
扉がバン、と音を立てて開いた。
驚いた俺は扉のほうを見る。
藤田の例外ではないようで、その拳が止まっていた。
俺達の視線の先には、神岸さんがいた。
「やめて浩之ちゃん!矢島君!」
「か、神岸さん…」
「あかり…」
俺達は殆ど同時に口を開いていた。
「浩之ちゃん…何でこんなコトしたの…?」
「えっと…それはだな…その…」
藤田は目に見えて動揺している。
沈黙。
俺が口を挟める状況で無いのは明らかだった。
沈黙を破ったのは、神岸さんだった。
「浩之ちゃん…私、知ってたよ」
「!!……そう…だったのか…」
藤田が沈痛な面持ちになる。
そして、口を開いた。
「分かっているなら仕方ない。全部話そう。俺は、マルチの事を愛している。お前の事は嫌いじゃない。
むしろ、好きだ…だけど、それは恋愛感情じゃない…」
「浩之ちゃん…」
俺は、何も喋れない。
再び沈黙が訪れる。
長い、長い沈黙。
藤田が、足早に扉のほうに歩き出した。
「あ、浩之ちゃん!」
神岸さんは後を追った。
だが…
「来るなっ!!」
藤田は追いかける神岸さんをその気迫で立ち止まらせた。
「俺は…お前の事…愛せねぇんだよ…」
トドメだ。
神岸さんからの瞳から、涙が零れ落ちる。
俺は、激しい怒りを感じた。
感情を抑えきれない。
拳を握る。
「藤田ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そう言うや否や、俺の拳は藤田の顔面を直撃した。
「ぐっ!!」
吹っ飛んだ藤田が、壁に叩きつけられる。
俺は倒れている藤田に、こう言い放った。
「お前、最低だよ…」
そこへ、我に返った神岸さんが藤田へ駆け寄る。
「浩之ちゃん!!浩之ちゃん、大丈夫!?」
何故だ。
何故そんな男をかばう?
「矢島君!浩之ちゃんを殴ったりしないで!!」
俺は、納得できない。
「何でなんだ神岸さん!その男は貴方を捨てて、メイドロボなんかに走ったんですよ!
何で…何でそんな男をかばうんだ!!」
神岸さんは、俯いたままだ。
だがやがて顔を上げると、ゆっくりと話し始めた。
「……確かに浩之ちゃんに、私は振られたわ…。でも、
それでも私は浩之ちゃんのそばに居たいの。たとえ浩之ちゃんが私の事なんか眼中に無いとしても……」
「………あかり。」
藤田が、弱々しく口を開いた。
「あかり……お前って奴は………」
「いいの浩之ちゃん。私は浩之ちゃんのそばに居られれば……ひゃっ!?」
神岸さんの言葉は、途中で遮られた。
藤田が、神岸さんを抱き寄せたから。
「あかり…すまねえ…俺が間違っていた…許してくれ…」
藤田はぶつぶつと、うわ言の様に喋る。
「浩之ちゃん…」
神岸さんの頬は、紅く染まっっている。
「ごめんな、あかり…俺が、俺がバカだった…」
「ううん、いいの浩之ちゃん…」
「あかり…愛してるぜ。」
な、何でやね〜〜ん!!
何でこうなるのっ!?
俺は只、この場に呆然と立ち尽くすしかなかった。
と、
「は〜〜〜い、カット、ですぅ〜!」
何とも間の抜けた声が後ろのほうでした。
俺が後ろを振り向くと、
「浩之さん、あかりさん、あ、あと矢島…さんでしたっけ?お疲れ様でした〜」
え?お疲れ?
どーいう事?
と、
「ふぅ〜、恥ずかしかった」
あかりが藤田の懐から、むくりと顔を出した。
「いいじゃねえかあかり。俺は好きだぜ、こういうの」
「もう、浩之ちゃんったら〜」
………
「あの………」
「ん?何だ、矢島?」
「これは一体、どういった事でしょうか?」
混乱している俺は、何故か敬語で話している。
「ああ、矢島には言ってなかったかっけ?」
「浩之ちゃんが言わないほうが迫真の演技を期待できる、っていったんでしょう」
「ん〜、そうだっけ?」
いいから早く説明してくれ…
「まあいいや。とりあえず俺とあかりは付き合っている。お前にゃ悪いが。
だが近頃、あかりが『困っている』と俺に言ってきた。
何故か、と聞くと、お前からの告白があまりにしつこいから、だそうだ。」
「………」
そんなにしつこくしたかなあ……
「そこで俺らは、貴様にあかりの事を諦めさせる為に、策を練った。
それが今回のコレだ。昨日、お前は俺のマルチへの告白を隠れてみていたつもりだったろうが、
全て計算し尽くされた事だったんだ。」
「………と、言いますと?」
「お前に見られるようにやった、と言うわけだ。
俺らの策にハマッたお前は、今日予想通り
俺を呼び出した。あとは、今の通りだ。
これで俺とあかりの愛の結晶とも言えるビデオが完成した訳だな。分かったか?」
「………うっすらと。」
「それにしてもお前は凄いと思うね。なんせ地でこんなクサイセリフ吐く事が出来るんだからな。」
「違うよ浩之ちゃん、地だから吐けるんだよ。」
「そうだな。ハハハハハハ。」
「ふふふ。」
俺は、再び抑えきれない怒りが湧き上がり……
「くらえ、藤田!!」
「甘い」
ばきょ。
クロスカウンターが、俺の頬を打った。
床に突っ伏す俺。
薄れゆく意識のなか、俺は藤田の声を聞いた。
「完成したビデオは、後日送ってやるからな〜」
……がくっ。


それで後日、ビデオが送られてきたわけだが……
いい!いいよコレ!!
素晴らしい作品だ!!
涙が!
感動の涙が!!
涙が止まらん!!
止めてくれぇ〜〜!!
うおおおおお〜〜〜〜ん…(涙)
よし!明日も告白だ!!


次の日、当然振られた。    


                                                   (完)
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闘魂「………恥ずかしい」
影「………俺も」
闘魂「………これ以上は語るまい」
影「………いや、一つある」
闘魂「………何だ?」
影「………TH7第2部が始まったから、矢島は暫くやらないんじゃなかったのか…?」
闘魂「………そうだっけ?」
影「………お前な………」
闘魂「………どうでもいい………」
影「………そうだな………」
闘魂「………それにしてもネタバラシに無理がありすぎだ………」
影「………そう思うんなら何とかしろ………」
闘魂「………俺には無理だ………」