フラレ男矢島の調査日記 富士樹海奥地に幻の神岸村を見た!(後)  投稿者:闘魂秋吉


前回までのあらすじ!!

俺は漢の中の漢、矢島。
俺は今、富士樹海にいる。
何故こんな事になったかと言うと、

神岸さんの為。

これだけで充分でしょ?


俺は、進んだ。
神岸さんとの愛の成就の為だ。
決して、戻る道が分からないからではない。
愛の為である。

4日目、朝。
残り僅かの食料をなるべく節約しながら食う。
それでも3日もちそうにない。
だが、それよりも心配なのは…
水。

4日目、夜。
水が後500のペットボトル1本分のみ。
今すぐにでも飲んでしまいたい。

5日目、夜。
水は、もうペットボトルの底に僅かにある程度。
すぐにでも蒸発しそう。
本当の意味での生命の危機である。

6日目、夜。
遂に来るべきときが来た。
水が無くなったのだ。
覚悟を決めるときでもある。
明日一日以内に神岸村を探す。
それが俺の、生存条件。

7日目、朝。
朝が来た、だが俺の気分は優れない。
口の中がパサパサだ。
水が飲みたい…

7日目、昼。
水……
水をくれ……
目眩がしてきた…。
俺は、減量中のボクサーじゃねえんだ…

7日目、夜。
もう寝る訳にはいかない。
死にたくなければな。
俺は、徹夜で捜索するつもりだ。

8日目、朝。
結局、見つからなかった…
もう、歩く気力も無い…
俺は、ここで死ぬのか…?
ばたり、と俺は力なく倒れた。
折れた木の枝で腕を切ったが、
もうそんな『痛い』等と言ってられるような状況ではない。
何せ、俺は死ぬのだから。
……ふと、隣に目をやると、
白いものが木の葉に埋もれているのが分かった。
俺はその白い物が何なのかに、興味を持った。
下らない事だが、死ぬ前にどうしてもそれを見ておきたい気がした。
最後の気力を振り絞り、その白いものを隠す木の葉をどけた。
その白いものは…骨だった。
……成程。
恐らく、ここで自殺したのだろう。
俺もそのうち、こうなるのか…
絶望感とか、悲しみとか、恐怖とか、そんなものは感じなかった。
只、死ねば楽になるのではないか?
そんな感情だけが、頭の中を過ぎ去っていった…。
ふと、その中に神岸さんの顔が浮かんだ。
神岸さんは、藤田と手を繋ぎ、歩いている。
俺は、遠くでそれを見ているだけ。
……藤田め……
ふと、俺の頭の中に浮かんだ藤田が、俺のほうを向いた。
「あかりはもらったぜ」
藤田はそう言って、笑いを浮かべた。
嫌な笑いだ。
藤田と神岸さんが遠ざかる。
俺は、俺は…

……ちくしょう。


そして、俺は意識を失った。


………ここは……何処だ?
熱い。
体全体が煮え繰り返るようだ。
地獄…なのか?
俺は、人の役に立ってきたつもりなんだがな…
やっぱ、3人振ったのがいけなかったのか?
仕方ないだろ、だって神岸さんのほうが美人なんだから……
さて、じゃあ地獄ってどんな所か、見てみるとするか……
俺は、目を開けた。

信じ難い光景だった。
俺の周りを、数十人の人物が取り囲んでいる。
その人物は…皆、神岸さんの姿。
こりゃあ…夢だな…
人って、死ぬ前にも夢を見るのだろうか?
これが…神岸村…なんだろうか。
おっ、あれが熊石像なのか…ちっちぇえな。
夢だと思った俺は、自分の置かれている状況を冷静に観察してみる事にした。
ふんふん……
成程成程。
俺は、釜茹でされていた。
熱いわけだ。
待てよ…熱い?
何で熱いんだ?
これは夢の筈だぞ?
………………。
「ちょっと、そこの神岸さん」
一番近くの神岸さんが反応した。
名前も神岸でいいらしい。
流石、神岸村。
「ちょっと、俺をつねってみて?」
「……?」
その神岸さんは、恐る恐る、俺に近づいてきて…
ぎゅっ。
思いきりつねってきた。
「いってええええええええ!!!!」
痛い!痛い!夢じゃないんだ!!
これは、現実なんだ!!
俺は釜から跳びはね、その神岸さんにお礼を言った。
不思議そうな顔をするその神岸さんに事情を話してみたところ、
村長に話してみて下さい、という話になった。
でも、何で釜茹でされてたんだろう?

村長に事情を話したところ、
その村長(といっても神岸さん)は、この村にとどまる事を
快く承諾してくれた。
勿論、熊石像の事は伏せてある。

神岸村に滞在して、1週間が過ぎた。
俺は、この村にずっととどまっていてもいい、そんな気分になりつつあった。
この村の住民は、何故か全員神岸さんだし、
その神岸さんは、皆俺に優しいのだ。
ふふふ、今日なんかラブレター3通もらっちゃったぜ。

神岸村に滞在してから、1ヶ月。
その日、ある事件が起きた。
二人の神岸さんが、俺を巡ってケンカになったのである。
モテる男はツライ。
俺は外に出て、ケンカを止めようとした。
「お〜いそこの神岸さん、ケンカは止め……」
俺は、そこから先、喋れなくなった。
俺は、見た。
殴り合う神岸さん同士。
その体からは、機械が露出していた…。
「う…嘘だ。」
「嘘じゃないのよ?矢島君」
俺の後ろにいた、村長の神岸さんが口を開いた。
「この村には、人間はいない。皆ロボットよ。いや…一人いたわね。
見掛けに騙されて、のこのことやって来た、あなたが。」
「そ…そんな…」
俺はこの世の全てを否定したい気分になった。
「嘘じゃないって言ってるでしょう?」
「う、うわああああああ!!!!!!」
俺は、その神岸さんのカタチをしたロボットを突き飛ばすと、
一目散に熊石像を奪い、走り去った。
帰りは、樹海からすぐに出れた。
あちこちに、切り傷や擦り傷を作っている。
夜だった。
冷たい雨が、俺の傷に染みる。


俺は、懐かしいこの街へと帰ってきた。
神岸村、悪夢のようなところ…とさえ思ったが、
今思うと、現実、本物の神岸さんの所へ帰る手助けをしてくれたようにも感じる。
まあ、これは結果論だが。
それに…
熊石像もある。

がらららっ
俺は教室のドアを開けた。
懐かしき2−Bだ。
教室の窓際に目をやると、一人の女生徒が座っている。
神岸さんだ。
「…神岸さん。」
「え?あ、矢島さ…矢島君?」
なんか神岸さん、声変わりした?
「神岸さん!漢、矢島、あなたの為に身ひとつで
熊石像、取ってきましたあああああ!!!!」
「え…私の為…ですかぁ?」
なんか語尾が変だぞ、神岸さん?
「神岸さん、ほら」
俺は神岸さんの手の上に、熊石像を置いてやった。
「嬉しいです…」
うう!やはり美しい!!
語尾が変?声変わり?いいじゃないか!
俺は神岸さんが好きなんじゃああああ!!!!
がぽっ。
ぐわしゃーん!
「…え?」
はっとした俺が見たものは、
床にたたきつけられて割れた熊石像と、
神岸さんの…開いた左手首。
「ど、どういう…」
「見られては仕方ありません…」
ばちぃ。
俺は、また気を失った。

「……うぐ……」
視点がぼやけている。
何人かが、俺を見下ろしている……
へっ、また神岸さん…てか?
「しかし矢島もホント上手いぐあいにひっかかったよなぁ」
「恋は盲目、ってヤツじゃないの?」
「………」
「浩之さん、矢島さんを気絶させて私本当に良かったんでしょうか?」
「マルチ、こいつはストーカーと言ってな、このまま世にのさばらせておいては
非常に危険なんだ。だからこうして天罰が必要なのさ
……でもな〜、いくら髪赤く染めて、リボンつけたからって、
何でマルチってわかんないかな〜こいつ、なに考えてんだ」
「バカにしやがってえええええ!!!!」
「!!」
「食らえ!!藤田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は藤田の意表を着いて立ち上がり、無防備の藤田に鉄拳を……

食らった。
食らった?
俺がか……
あの黒髪のネーチャン、すげえ素早いな……
格闘技やってるんじゃねえのか……?
また、俺は地面に倒れこんだ。





愛の戦士矢島、その愛故に散る


                                           (完)
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闘魂「お、終わったーーー!!!」
影「やっと終わったか…」
闘魂「まさか3篇に分かれるとは…私の技術不足を痛感しました…」
影「そうやって人は大人になっていくのだよ。
ところで今回、質問がひとつ」
闘魂「ん?なに?」
影「神岸村のは、皆ロボットだよね。
ってことは来栖川が予算を出してたといっても間違いではない。
よく人一人つぶすのにそんな金かけられますね〜」
闘魂「あ、あれ?ホントのメイドロボは村長くらいで、
残りはバイトが変声機使って精巧な着ぐるみ来てただけ」
影「せこ〜」
闘魂「何かシリアスな矢島の話になってしまいました。中途半端で楽しめない事ったらありません。
こんな愚作を読ませてしまい、まことに済まない事です」
影「こいつ今なら全ての人に逆らわないだろうから、苦情とか書くなら今がチャンスですよ〜
いつまでこの状態が続くか、わかんないからね〜」