ある日の事だった。 何やらTVでオススメの焼肉屋というのをやっている…。 (焼肉か…この頃食ってねえなあ…) などと言う事を考えながら見ていると… 「ぬぅっ!!あ、あれわあああああ!!!」 タン塩!!!! なんてこった!タン塩だ!! 「く、食いたい!!!!」 そこで俺は… 「おーい、マルチ〜」 マルチを呼んだ。 「は、は〜いですぅ」 2階からとたとたと階段を下ってくる音がする。 どうやら、俺の部屋を掃除してたのかな? ずでごごごごん!!! あ、こけた。 というより、落ちたな。5、6段くらいのとこから… そんな事を考えていると、 「な、何でしょうか…ご主人様…」 マルチがいつの間にか来ていて、ふらふらしながら聞いてきた。 う〜ん、3ヶ月前までなら泣いてたとこだが… 強くなったな、マルチ。 「何でしょうか、ご主人様?」 おっと、いかんいかん。 「マルチ!!お前に指令を与える!!」 マルチは、ぱっと目を輝かせて、 「は、はいっ!!」 と、元気良く返事した。 そんなに俺の役に立ちたいのか… いい子だ!! もう、なでなでしちゃう!! 俺は、マルチの頭に手をかけると、 なでなでなで。 なでた。 「ふぇ?」 もういっちょ! なでなでなで。 「あの…」 まだまだ!! なでなでなで。 「あの…ご主人様…」 なでなでなで。 「あの…指令とは…」 なでなでなで。 「一体…どういったものなんでしょうか…?」 はっ!!! しまったしまった、 何か変な方向に。 「すまんすまん、そうだったな。では改めて、指令を与える!!」 「はいっ!!」 俺は、ちょっと離れた場所のスーパーの地図を出した。 タン塩は一見どこにでも売っているが、 真に美味いタン塩は、このスーパーじゃあないと無いのだ。 「マルチ、このスーパーでタン塩を買ってきてくれ!!」 するとマルチは、 「はいっ!ご主人様のためなら頑張ります!」 と元気良く答えた。 つい、なでなでしたくなるところだが、 また脇道にそれると面倒なので止めておこう。 「あ、塩はあるから別に買ってこなくていいぞ」 「はい!わっかりましたぁ!」 分かったと言ってはいるがマルチなのでとりあえず復唱させてみよう。 「ではマルチ!今俺が買ってこいと言ったものをを言ってみろ!!」 「はい!え〜と、え〜と…」 あぶねえ…復唱させて良かった… 「あ!」 ん?思い出したか? 「…短小?」 …ぱこっ。 止めろマルチ!!君はそんな下ネタをいってはいけないんだ!! もう一度マルチにきつ〜く言い聞かせた俺は、居間でマルチの帰還を待っていた。 う〜… 遅い。 何かあったかな…? とか心配していると、 「ただいま〜ですぅ」 おぅ、帰ったか。 タン塩ちゃ〜ん、今食べてあげるよ〜。 とかなんとか変なことを考えつつ玄関にマルチを出迎えに行った。 「まるち〜〜」 「あ、ご主人様!遅くなってすみませぇん」 いいんだ、そんな事は。 タン塩が食えれば。 「では早速みせてもらおうか?タン塩を!」 「は、はいですぅ」 そう言って、マルチは袋からごそごそと花札を取り出した。 …花札ぁ? なんで花札なんだ? もしかして青タンとかと間違えた? まさかいくら何でもそんな… いや。 マルチなら有り得る。 しかし、悪いのはマルチじゃないんだ! 牛タンと言わなかった俺が悪いんだ!! くそう!!くそう!! とりあえず、なんで花札を買ってきたか聞いてみた。 「わざとですぅ」 …………? わざと? 「マルチ、今なんて…」 「何でも無いです…もしかしてコレ、違ってましたか?」 空耳だったのか? 「違ってたんですか…?」 「…ああ。」 「びえええええええええ!!!ずびばぜえええん!びろゆぎざあああん!!」 マルチの大音響泣き!! 近所迷惑度10UP!! ストレス8UP!! 恥ずかしさ26UP!! 「いいんだ、いいんだマルチ」 なんとか必死になだめようとする俺。 だが、 「びえええええええ!!!わ、わだじのぜいで、びろゆぎざんがああああ!!」 なんか、死んだみたいな言い方されてるな、おい。 その後マルチは延々と30分間泣きつづけた後、 「すみませんでした」 と、今更普通に謝った。 この30分のおかげで家はきっと近所から後ろ指差されたりするだろう。 くそう。 ちょっとだけ恨むぜ、マルチ。 さ〜て、食えないなら仕方ない、暇だし寝るとするか… 「あの…」 「ん?何だマルチ?」 マルチはにこやかに笑って、 「では、今からお作りしますね」 「……は?」 作る? 何を作るって…? もしかして、花札で作る? 何を…? 何をって… タン塩かあああああああ!!!!! 「やめろマルチ!やめてくれえええええええ!!!!」 じゅ〜、じゅ〜… 俺はがっくりと、膝をつき… 泣いた。 泣いて泣いて、泣きまくった。 そして、絶望を運ぶ声が俺に降り注いだ。 容赦なく。 「ご主人様〜、出来ました〜!」 来た。 来た来た来た来た。 「こちらへどうぞ〜」 俺はマルチに半ば引っ張られて、今のテーブルに座った。いや、座らされた。 「これですぅ〜」 俺の目の前の皿。 それには、花札が4枚と、そのうえに大量にのっかった…塩。 花札はいいぐあいに焼けている…というより、焦げてる。 ごくり。 俺は唾を飲み込み、なんとかこの料理から逃れる方法を考えた。 「なあマルチ…」 「早く食べてくださ〜い」 「………」 逃げられない。 食うしかない。 そしてコレを食ったとき、俺はどうなるんだろうか……? 「ええい!ままよ!!」 ぱくっ。 む!むむむ! も、もう一口… ぱくっ。 ぱくっ。 ぱくっ。 ………… 「う」 「う?う何ですか?」 「美味いいいいいいいいいいいい!!!!!」 「ほ、本当ですかああああああああああ!?」 「本当だああああああああああああああ!!」 「………ちっ」 マルチ、聞こえたぞ。